粋な御仁は何を呼ぶ。


亜粋のお話は
「幸せになってください」という台詞で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わります。
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あなたは、あたしよりも絶対に



「幸せになってください」

粋呼が放った言葉にはなぜだか寂しさが含まれていた。
どうして、どうしてそんなにも切なく、心細く感じてしまう表情をするのだろう。

「今でも、十分幸せ、だろ?」

返す亜焔の声は震えていた。何か、何か彼女の意にそぐわないことがあったのだろうか。
お互いに好きだと伝え合って。一緒に生活するようになって。
時間を共にすることがぐっと増えて。二人で過ごす特に濃密なひと時だって、恥ずかしくもあったがようやく慣れてきて。なのに。

「なんで、そんな風に言うんだ……」

亜焔には分からなかった。

「……だって、そうでしょ?」

粋呼が俯く。亜焔の表情までも曇り、目には涙の膜が張る。

「本当なら、素敵な人を見つけて、その人と素敵な家庭を築いて、家族が増えて……。亜焔さんには、そんな未来があったかもしれないんですよ?」
「でも、現実はそうじゃない。あたしが亜焔さんを見つけて、亜焔さんがあたしを見つけて」
「一緒に住んで、一緒に出来なかったこといっぱいやって。それってすっごく、すっごく幸せで。だけどやっぱり、普通じゃないかな。この国ではまだ認められてないから」
「家族は増えない分、何が出来るかなって、ずっと……ずっと考えてたんです」

ゆっくり顔を上げて決意を見せる粋呼と、驚いて肩が跳ねる亜焔と。時が止まったように静まった空間はしんとして少々冷えていた。

「あたしがそばにいて幸せに出来ないなんて嫌だから」

跪いて恭しく亜焔の手を取る粋呼は、それはそれは寂しそうな言葉で、しかしとても嬉しそうな声色で。

「あたしのために、幸せになってください」

亜焔のしなやかな指にそっと、シルバーリングを通す。もちろん、自分とお揃いで左手の薬指に。

「こ、れは、とんだわがまま娘、だな」
「そんなあたしのこと、実は嫌いです?」
「まさか。……そんな粋呼だから、愛してるんだよ」

ぽろぽろと零れた涙は温かく、誓いのキスはいつもよりしょっぱい味がした。

銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。


21/03/15
*Thanks*
亜焔さん
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