柳葉凪いで龍はなく。
お題「火花」
縛り「キャラを三人以上出す」
火花
江戸の夜は危険が多い、独り歩きは死出の旅。
行きはよいよい、帰りは怖い。
怖いのならば、さてどうしよう。
墨廼江柳吾は一人、手持ちの提灯を頼りに帰路を急ぐ。
時間は分からない、すでに陽はとっぷり暮れて静夜が耳に痛い。
先から背後、少し遠いところに何かの気配。歩けば動き、立ち止まれば同じく。
気味が悪い、その一言に尽きる。
一定の距離を保ちついてくるそれが一人なのか二人なのか。判断する術も勇気もなかった。
そろそろ墨廼江、と安堵したところで怖気が走る。生暖かい空気に混じって鈍い金属音。
思わず振り返る、振り返らないわけにはいかなかった。
一人は見覚えが嫌というほどある。店によく入り浸り甘味を貪る幼馴染み。
「す、い」
「おォっと旦那、今はその名で呼ぶんじゃねェぞ」
幼馴染み、粋呼は髪を結い上げ面頬をし、悪鬼討伐改組、雉組の
「ったくよォ、存外物好きも居やがるもんだ。こんな人気の多いとこで堂々と狩りに挑もうなんざなァ」
相手は問いかけ、もとい挑発には乗らなかった。粋と柳吾、それぞれに目を向け一歩踏み込む。
体格と怪力から鬼であることは想像に容易い。
音羽班の面々が到着するまでどう時間を稼ぐか。
重圧に耐えながら粋は思索を巡らす、前に眼前の鬼の言葉に思考が止まる。
「貴方は、誰かに愛されてますか?」
「……はァ?」
「僕は知りたいんです、愛されてる者の本当の味を」
ぐわり、開かれ見せつけられた白牙に目を見張る。
一気に飛び退き距離を取り、柳吾を背中に隠し立つ。
「こいつァ、やべェ奴に捕まったなァ……」
「逃げれんのか?」
「馬鹿言え、悪鬼は根絶すべきなんだよ」
雉と鬼は睨み合い、職人はただ見守るしかなかった。
江戸の夜はまだ長い。独り歩きはご用心。
18/06/18
登場人物(登場順) 墨廼江 柳吾/粋呼/如月 飛燕