若燕焦がれる彼の大空。
お題「アリア」
縛り「キャラ名を出さない」
アリア
星がいっぱいで月のない夜、僕は私塾を出て川原にいました。
ここは昼間、よく町人の子どもたちが遊び場にしているところです。
実は僕も、夜になると時々こっそり出かける場所なんです。
今日もほら、酒に酔ってふらつく男を見つけました。本当はもっといい匂いのほうが好きだけど、わがままは言いません。
「こんばんは、」
夜の挨拶は決まってこれです。二言目には「さようなら」ですけど。
男の返事は待ちませんでした。だって酒臭くて鼻が曲がりそうだったし。
拳で顔面に一発、力加減を間違えて陥没させてしまいました。
短い悲鳴でしたが、やっぱり騒がれたので腰刀で喉仏を裂きました。
失敗した、と思いました。だってそうでしょ、急所を一突きすればよかったんですから。
そこが甘いんだ、って両親によく言われました。
経験したら自然と覚えていくものです、次は失敗しません。
切っ先を立てて一閃、男を簡単に絶命させました。
江戸の夜は意外と賑やかです。阿鼻叫喚、はこの場だけですが、あちこちでいろんな声が聞こえます。
僕は鬼だから、狩りをするなら静かな時間帯にやりたいものです。
それでも、聞こえる生き物たちの歌に耳を澄ませ、風流に感じる余裕が人々にあるのなら。
僕の声も、ちょっとだけでも聞いてほしいなって、そう思うんです。
わがままは、言いませんけどね。
18/06/24
登場人物 如月 飛燕