柳葉凪いで龍はなく。
お題「運命」
縛り「外国語を文中に入れる(カタカナ×)」
運命
近頃、図書館に通う癖がついた。
一つ上の高遠先輩からのご厚意により、少しずつ母国語に親しみを持てるようになった今日。近代文学には派閥があることを知った。
まだまだ作品には手をつけられていないが、それでも興味が湧いたのは事実である。
墨廼江柳吾は放課後の度、図書館に。
足は迷うことなく文学の棚、を通りすぎて芸術関連の棚へ。
通うきっかけを余所に、気まぐれに歩くうち見つけてしまった自分の得意分野。焦がれる美術絵画の部門、その中でも際立って目につく画集を手に取る。
これを目当てに敬遠していた空間に留まろうとするから欲とは罪深い。
テストが近いといつも時間を割いて熱心に教鞭を振るってくれる先輩には心の中でひっそりと謝り、柳吾は最近の定位置に陣取る。
刺青に魅せられたのはいつだったか。
進路が決まらずに何となく進学して、将来について頭を悩ませたのが今では懐かしい。
開くと雄々しき生き物の姿ばかりでなく、梵字や仏像、花や自然物に至るまで美しく象られた図柄や和彫りの技法がどんどん飛び込んでくる。
古風な龍や現代のタトゥーに近い金魚や蓮、それらを彩り豊かに表現されたページの一角。柳吾のお気に入りだった。
いつか自分も、こんな風に。
「Do I make a craftsman like you, too?」
どこの誰の出展なのか分からない、憧憬に対して言葉があふれる。
「After all you do not need to answer」
問いに対して答えはいらない。切り開くのはいつだって自分自身。
下校を告げるチャイムが鳴る。貸出厳禁のシールを恨めしげに睨み、丁重に元の場所に戻し。
柳吾は他の生徒に混じり後ろ髪を引かれながら生徒玄関に足を向ける。
18/06/24
*Thanks*
高遠 敬久さん