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ハッピーツリータウンは怖い人でいっぱいだ。
うっかり誰かを殺しちゃうランピーも。ちょっとした引き金で殺人鬼になるフリッピーも。正義の暴走で町をめちゃくちゃにするスプレンディドも、カブくんが絡むと我を忘れて暴れ回るポップさんも、お菓子のためなら命を犠牲にするのも厭わないナッティも、お金を盗むつもりが命まで盗んでいるシフティとリフティも、みんなみんな怖くて、そんな人達に殺されちゃうのがワタシは怖くてたまらなかった。
怖い人がいつ暴走して、いつそれに巻き込まれて、いつ殺されちゃうのかは、時計の針がどこを指しても分からない。それがハッピーツリータウンの日常なのだ。たとえ地球が反対に回っても覆せないその摂理は、臆病なワタシに綱渡りのような毎日を強いていた。
だけどいちばん怖いのは、ワタシが殺されることじゃない。ワタシが何よりも怖いのは──
甲高い悲鳴。大きな笑い声。肉が裂け、血潮が舞い、誰かが次々と倒れていく。どこまでも重なって層を成す音が惨劇の大きさを物語っていた。
「フレイキーちゃん、生きてる⁉︎」
「う、うん、だいじょぶっ……!」
繋いだ手だけが頼りだった。走っても走っても恐怖はぴったり追いかけてくる。フリッピーは他を狙うのに夢中で、まだこっちに矛先を向けていない。それで安心できるわけもなくて、ワタシはナナシの手を痛いほど握った。
殺されちゃう。きっとまた殺されちゃうんだ。怖くて怖くて息もまともにできない。涙で視界がぼやけていく。
「フレイキーちゃん、あそこ!」
途中見つけた小屋に滑り込み、物陰に詰めて身を寄せ合う。二人分の荒い息が狭い空間に響いた。
「このまま隠れていればきっと助かるから……それまでの辛抱だからね……」
必死に言い聞かせるナナシに、ワタシは嗚咽混じりに頷く。だけどワタシを抱き締めるその身体は、今にも壊れそうなほど震えていた。
ナナシも本当はわかってるんだ。現実が味方をしてくれないのはわかっていて、それでも微かな希望を信じて、こうしてワタシを励ましてくれる。ナナシの優しさが嬉しくて、それ以上に辛かった。
そうだよね。ナナシも怖いよね。ワタシだって怖いよ。怖い人に命を握られ、ズタズタにされて、あらゆる苦痛に溺れて死んじゃう姿を想像すると、絶望で頭がおかしくなっちゃいそう。
だからやらなきゃ。それを実行するのは考えるだけで眩暈がするほどに苦しいけど、今は臆病なワタシを捨てなきゃダメだ。ワタシは決意が崩れるより前にナナシの腕を解いた。
「フレイキーちゃん、どうしたの──」
ナナシにとっては呆気ない瞬間だろう。信じられないような顔でワタシを見上げている。びっくりして力が抜けたのか、コンクリートに押し倒した身体に震えはない。それでいい。ナナシが少しでも怖がらずに済むならワタシも安心だから。
フリッピーの声が近づいてきた。普段の爽やかな声じゃない。獲物を求めて唸りを上げている。加速する恐怖がワタシを急き立てた。
「ごめん……ごめんねっ、ナナシ!」
懐から出したナイフを力いっぱい振り上げ、無防備な喉に突き立てた。口からごぼっと溢れた血がワタシの手を汚し、灰色のコンクリートを赤に染めていく。見開いた両目は真っ直ぐにワタシを見ていた。ワタシも目が離せなかった。
殺しちゃった。
いつも優しくて、誰よりもワタシを見てくれていたナナシをワタシは殺しちゃったんだ。ナイフを沈めた感触がこびりついて離れない。吐き気と涙が止まらないほど怖くて辛くて苦しくて、何度謝っても足りそうにないのに、それでも後悔は訪れなかった。
怖い人に殺されるぐらいなら、ワタシが殺しちゃえばいいから。
不思議な安堵を覚えていると、ナナシの身体がぴくりと跳ねた。血を吐く音に混じり、声にならない呻きが聞こえる。ワタシは焦った。苦しまないよう一瞬でやったつもりなのに、まだ息があったなんて。どうしようどうしようと慌てていると、青白い手がガッと動き、喉に刺さったナイフを抜き取る。あっと思った時には身体が入れ替わっていた。
血に塗れた切っ先が同じ箇所を貫く。真っ赤に染まる視界の中で、ナナシがいつものように笑っていた。おひさまのように優しくて安心する、ワタシの大好きな笑顔だった。
流れる二つの血が交わる。冷たくて温かい海に沈んでいく。
ナナシと一緒なら何も怖くない。お揃いの痛みの中でワタシも笑った。
やっぱり両想いなんだね、ワタシたち。
うっかり誰かを殺しちゃうランピーも。ちょっとした引き金で殺人鬼になるフリッピーも。正義の暴走で町をめちゃくちゃにするスプレンディドも、カブくんが絡むと我を忘れて暴れ回るポップさんも、お菓子のためなら命を犠牲にするのも厭わないナッティも、お金を盗むつもりが命まで盗んでいるシフティとリフティも、みんなみんな怖くて、そんな人達に殺されちゃうのがワタシは怖くてたまらなかった。
怖い人がいつ暴走して、いつそれに巻き込まれて、いつ殺されちゃうのかは、時計の針がどこを指しても分からない。それがハッピーツリータウンの日常なのだ。たとえ地球が反対に回っても覆せないその摂理は、臆病なワタシに綱渡りのような毎日を強いていた。
だけどいちばん怖いのは、ワタシが殺されることじゃない。ワタシが何よりも怖いのは──
甲高い悲鳴。大きな笑い声。肉が裂け、血潮が舞い、誰かが次々と倒れていく。どこまでも重なって層を成す音が惨劇の大きさを物語っていた。
「フレイキーちゃん、生きてる⁉︎」
「う、うん、だいじょぶっ……!」
繋いだ手だけが頼りだった。走っても走っても恐怖はぴったり追いかけてくる。フリッピーは他を狙うのに夢中で、まだこっちに矛先を向けていない。それで安心できるわけもなくて、ワタシはナナシの手を痛いほど握った。
殺されちゃう。きっとまた殺されちゃうんだ。怖くて怖くて息もまともにできない。涙で視界がぼやけていく。
「フレイキーちゃん、あそこ!」
途中見つけた小屋に滑り込み、物陰に詰めて身を寄せ合う。二人分の荒い息が狭い空間に響いた。
「このまま隠れていればきっと助かるから……それまでの辛抱だからね……」
必死に言い聞かせるナナシに、ワタシは嗚咽混じりに頷く。だけどワタシを抱き締めるその身体は、今にも壊れそうなほど震えていた。
ナナシも本当はわかってるんだ。現実が味方をしてくれないのはわかっていて、それでも微かな希望を信じて、こうしてワタシを励ましてくれる。ナナシの優しさが嬉しくて、それ以上に辛かった。
そうだよね。ナナシも怖いよね。ワタシだって怖いよ。怖い人に命を握られ、ズタズタにされて、あらゆる苦痛に溺れて死んじゃう姿を想像すると、絶望で頭がおかしくなっちゃいそう。
だからやらなきゃ。それを実行するのは考えるだけで眩暈がするほどに苦しいけど、今は臆病なワタシを捨てなきゃダメだ。ワタシは決意が崩れるより前にナナシの腕を解いた。
「フレイキーちゃん、どうしたの──」
ナナシにとっては呆気ない瞬間だろう。信じられないような顔でワタシを見上げている。びっくりして力が抜けたのか、コンクリートに押し倒した身体に震えはない。それでいい。ナナシが少しでも怖がらずに済むならワタシも安心だから。
フリッピーの声が近づいてきた。普段の爽やかな声じゃない。獲物を求めて唸りを上げている。加速する恐怖がワタシを急き立てた。
「ごめん……ごめんねっ、ナナシ!」
懐から出したナイフを力いっぱい振り上げ、無防備な喉に突き立てた。口からごぼっと溢れた血がワタシの手を汚し、灰色のコンクリートを赤に染めていく。見開いた両目は真っ直ぐにワタシを見ていた。ワタシも目が離せなかった。
殺しちゃった。
いつも優しくて、誰よりもワタシを見てくれていたナナシをワタシは殺しちゃったんだ。ナイフを沈めた感触がこびりついて離れない。吐き気と涙が止まらないほど怖くて辛くて苦しくて、何度謝っても足りそうにないのに、それでも後悔は訪れなかった。
怖い人に殺されるぐらいなら、ワタシが殺しちゃえばいいから。
不思議な安堵を覚えていると、ナナシの身体がぴくりと跳ねた。血を吐く音に混じり、声にならない呻きが聞こえる。ワタシは焦った。苦しまないよう一瞬でやったつもりなのに、まだ息があったなんて。どうしようどうしようと慌てていると、青白い手がガッと動き、喉に刺さったナイフを抜き取る。あっと思った時には身体が入れ替わっていた。
血に塗れた切っ先が同じ箇所を貫く。真っ赤に染まる視界の中で、ナナシがいつものように笑っていた。おひさまのように優しくて安心する、ワタシの大好きな笑顔だった。
流れる二つの血が交わる。冷たくて温かい海に沈んでいく。
ナナシと一緒なら何も怖くない。お揃いの痛みの中でワタシも笑った。
やっぱり両想いなんだね、ワタシたち。
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