●鉄火のマキちゃんとコマキちゃんと。
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まきすの上に黒いのり、そこに白いすし飯を均一に広げ、芯となる赤いマグロを乗せたら、くるりと一回転。
包丁で短く切り分けたら──あっという間に、おいしい鉄火巻きのできあがり。
ここまでなんと、たったの5秒。それでいて形から切り口まで一切の狂いなく、工芸品と見紛うほどの出来栄え。
これぞまさに、職人技です。
「いやぁ、相変わらず見事なお手前で〜」
脇から拍手を送ると、マキちゃんは「うわぁ⁉︎」と驚き、こっちを見ました。
「なんだナナシちゃんか。びっくりするじゃないか、もう」
「おっと、わたしとしたことが、不覚です〜」
バレないようにこっそり覗くつもりが、鮮やかな手際につい称賛を漏らしてしまいました。
「それはこっちのセリフだよ。いったいいつからそこにいたんだい?」
マキちゃんは呆れたように両手を腰に置き、調理台の隅にべったり張り付いたわたしを覗き込みます。
「さあ〜。適当にふらふらと散歩をしていたはずが、気がつくとここに吸い寄せられていたものでー」
「だからって屋台に侵入することはないだろう。まったく、アンタはネズミかい」
「ふっふっふ。あわよくばつまみ食いをしようと、こ〜っそりチャンスを窺ってましたから〜」
「こらっ、これはお客さんに食べてもらう大事な鉄火巻きなんだ!」
鉄火巻きを素早くわたしから遠ざけ、漆塗りの桶にささっと盛り。
「このマキちゃんの目の黒いうちは、つまみ食いなんてさせないよ!」
積み上がった桶を片手に掲げ、不敵にウィンクするマキちゃん。
「……うー、確かにマキちゃんの目はいつも真っ黒です。これは一分の隙もありません〜」
圧倒的な女傑の風格に、わたしは手も足も出ません。
「んじゃ、アンタはこれね」
大量の桶の4分の1が、どんっ、とこっちに渡されます。
「え──これは」
思わず目を見開きました。
積まれた一番上のをラップ越しに覗くと、中には活きのいい鉄火巻きが目白押し。珠のような銀シャリが漆黒の桶にピカピカと映えています。
「もしかしてこれ、全部わたしの分ですか〜⁉︎」
下に積まれたものも、きっと同じでしょう。まさかの大サービスに、わたしは目を輝かせました。
粒のように並んだマグロが、ルビーの煌めきを放って見えます。
マキちゃんってば、なんて太っ腹──
「いいや、これはお客さんに届けるやつだ」
「え」
顔を上げると、そこには晴れ晴れとした笑顔のマキちゃんが。
「これから出前に行くからね。アンタも配達を手伝ってもらうよ」
「そんなぁ、どうしてですか。男勝りの鉄火肌と言わしめるあのマキちゃんが、か弱い乙女のナナシちゃんに労働を強いるなんて〜」
期待をすっぱり断ち切られ、昇り詰めたテンションがへなへなと萎れます。
「あっははは! つまみ食いを企んでた悪い娘には、ちょいとばかし働いてもらわないとね。それまでアンタの分はお預けさ」
そう言って颯爽と屋台を飛び出し、振り返るマキちゃん。
「ほら、もたもたしてると置いてくよ。さあ、走った走った!」
「ま、待ってください〜」
風を切って走り出す黒い背中を、わたしは慌てて追いかけていったのでした。
包丁で短く切り分けたら──あっという間に、おいしい鉄火巻きのできあがり。
ここまでなんと、たったの5秒。それでいて形から切り口まで一切の狂いなく、工芸品と見紛うほどの出来栄え。
これぞまさに、職人技です。
「いやぁ、相変わらず見事なお手前で〜」
脇から拍手を送ると、マキちゃんは「うわぁ⁉︎」と驚き、こっちを見ました。
「なんだナナシちゃんか。びっくりするじゃないか、もう」
「おっと、わたしとしたことが、不覚です〜」
バレないようにこっそり覗くつもりが、鮮やかな手際につい称賛を漏らしてしまいました。
「それはこっちのセリフだよ。いったいいつからそこにいたんだい?」
マキちゃんは呆れたように両手を腰に置き、調理台の隅にべったり張り付いたわたしを覗き込みます。
「さあ〜。適当にふらふらと散歩をしていたはずが、気がつくとここに吸い寄せられていたものでー」
「だからって屋台に侵入することはないだろう。まったく、アンタはネズミかい」
「ふっふっふ。あわよくばつまみ食いをしようと、こ〜っそりチャンスを窺ってましたから〜」
「こらっ、これはお客さんに食べてもらう大事な鉄火巻きなんだ!」
鉄火巻きを素早くわたしから遠ざけ、漆塗りの桶にささっと盛り。
「このマキちゃんの目の黒いうちは、つまみ食いなんてさせないよ!」
積み上がった桶を片手に掲げ、不敵にウィンクするマキちゃん。
「……うー、確かにマキちゃんの目はいつも真っ黒です。これは一分の隙もありません〜」
圧倒的な女傑の風格に、わたしは手も足も出ません。
「んじゃ、アンタはこれね」
大量の桶の4分の1が、どんっ、とこっちに渡されます。
「え──これは」
思わず目を見開きました。
積まれた一番上のをラップ越しに覗くと、中には活きのいい鉄火巻きが目白押し。珠のような銀シャリが漆黒の桶にピカピカと映えています。
「もしかしてこれ、全部わたしの分ですか〜⁉︎」
下に積まれたものも、きっと同じでしょう。まさかの大サービスに、わたしは目を輝かせました。
粒のように並んだマグロが、ルビーの煌めきを放って見えます。
マキちゃんってば、なんて太っ腹──
「いいや、これはお客さんに届けるやつだ」
「え」
顔を上げると、そこには晴れ晴れとした笑顔のマキちゃんが。
「これから出前に行くからね。アンタも配達を手伝ってもらうよ」
「そんなぁ、どうしてですか。男勝りの鉄火肌と言わしめるあのマキちゃんが、か弱い乙女のナナシちゃんに労働を強いるなんて〜」
期待をすっぱり断ち切られ、昇り詰めたテンションがへなへなと萎れます。
「あっははは! つまみ食いを企んでた悪い娘には、ちょいとばかし働いてもらわないとね。それまでアンタの分はお預けさ」
そう言って颯爽と屋台を飛び出し、振り返るマキちゃん。
「ほら、もたもたしてると置いてくよ。さあ、走った走った!」
「ま、待ってください〜」
風を切って走り出す黒い背中を、わたしは慌てて追いかけていったのでした。