●プロローグ パン工場のみんなと。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
……と、そんなわけで。今はここでお世話になっているのです。
アンパンマンも、ジャムおじさんも、バタコさんも、み〜んな優しいし。
チーズはやんちゃだけど、とってもいい子だし。
毎日おいしいご飯が食べられて、あったかい布団で寝られるし。
家族がいなくても、ぜーんぜん寂しくありません。むしろ今のわたしにとっては、パン工場のみんなが家族のようなもの。
だから、毎日が幸せなのです。
「はぁ〜、満足満足〜」
朝ごはんを食べ終え、すっきり片付いたテーブルにぐでーっと突っ伏します。
「ナナシちゃんは今日、何をして過ごすの?」
バタコさんが洗い物をしながら尋ねます。釜戸ではジャムおじさんが町の人達に配るパンを焼いていました。
「う〜ん、そうですね〜……今日も一日中ここでダラダラしてようかと」
「もう、ナナシちゃん。昨日もおとといもそう言ってずっとダラダラしてなかったかしら」
「アーン」
バタコさんは苦笑し、チーズも呆れたように半目になります。
「あはは、ナナシちゃんは相変わらずマイペースだね」
笑うアンパンマンに、わたしは「えっへん」とドヤ顔。
「何事にも縛られないのがナナシちゃんの生き方ですから〜」
「だけどナナシちゃん、今日はそうは言ってられないかもしれないよ」
どこかイタズラっぽい調子でジャムおじさんが言い、釜戸をオープンしました。
取り出された鉄板の上には、きつね色のバターロールが整然と並んでいます。ふわふわと押し寄せる湯気が、焼き立ての香ばしい匂いを運んできました。
「おお〜、いい匂いですね〜。ところでジャムおじさん、さっきの意味って──」
わたしが尋ねかけた時でした。
「ごめんくださーい!」
快活な声と共に、玄関のドアが開く音。
振り返ると、そこに立っていたのは──
「げげっ……」
訪問者の顔を見た瞬間、思わず苦い声が漏れます。
「おいおい。げげっとはなんだ、げげっとは。おれが来ちゃ悪いのかよ?」
不服そうにつかつかと歩み寄るのは──黄色いマントのカレーパンマン。
「わたしも来てますよー!」
「やっほー、ナナシちゃーん!」
「ナナシちゃん、さっそくカレーパンマンに怒られてるー」
しょくぱんまん、メロンパンナ、クリームパンダ。他のパンも続々と顔を出し、工房はあっという間にぎゅうぎゅう詰めです。
急な展開についていけず、おろおろするわたし。
「ひえぇ……ジャムおじさん、これはどういうことですか〜」
「今日は彼らが手伝いに来てくれる日なんだよ。パンの配達をね」
「そ、そんなの聞いてません〜……」
「あっはは、確か朝ごはんを食べてる時に伝えたんだけどねぇ」
「どーせ話聞いてなかったんだろ、ったく」
カレーパンマンはうんざりと腕を組み、畳み掛けるように詰め寄ってきます。
「まさかおまえ、今日も手伝いをサボる気じゃねえだろうな? ジャムおじさんやバタコさんが優しいからって、いつまでも甘ったれてんじゃねーぞ!」
「うぅ……」
相変わらず容赦のない辛口攻撃に、わたしは縮こまりました。
カレーパンマンは悪い人じゃないけど、厳しいからちょっと苦手です。
「助けてバタコさ〜ん。こわいお兄さんがいたいけな女の子をいぢめるんです〜……」
涙目で縋るわたしに、バタコさんは「あらあら」と困り笑い。
「いじめるとは人聞きわりぃな。おまえがやる気なさそうにダラ〜っとしてるから、こうしてピリッと活を入れてやってんだろ!」
「まあまあ、そこまでにしましょうよ。カレーパンマン」
そう宥めるのはしょくぱんまん。
「あまり言い過ぎるとナナシちゃんが可哀想ですよ。女の子にはもっと優しい言葉をかけてあげないと」
「しょくぱんまんはナナシちゃんを甘やかし過ぎなんだっつーの!」
「いえいえ、しょくぱんまんはなーんにも間違ってませんよ。もっと言ってやってくださ〜い」
わたしは白いヒーローにふれふれとエールを送りました。紳士的なしょくぱんまんは、いつだって女の子の味方だから安心です。
「ほらな。女だからって甘やかすと、すぐこうやってつけ上がるんだからよぉ、こいつァ」
呆れ果てたように両手を上げるカレーパンマン。
「もぉー、ナナシちゃんは相変わらずだらしないんだなぁ。これならぼくの方がずーっとしっかりしてるもんねー!」
クリームパンダに勝ち誇った顔で言われ、わたしはムッと眉を寄せます。
「そんなことないですよ〜。わたしだって本気を出せば、それなりに人の役に立つことだって〜」
「そうかそうか、なら今から本気出せ。せっかく居候させてもらってんだから、ちったぁパン工場のために働けっつーの」
「わたしのやる気には波があるんです。今はまだその時じゃないんですよ〜」
「だー、ああ言えばこう言う!」
カレーパンマンとやいやい言い合っていると、ふわりと甘い風が頬をくすぐりました。
「ナナシちゃん、ファイト」
とろけるメロンのような声が、頭の芯に響きます。
それは、寄り添うようにわたしの傍に来た彼女のものでした。
「メロンパンナ……」
目を合わせると、メロンパンナはにっこりと笑います。
「今日はあたしもついてるから、一緒にがんばろ!」
背中に触れるのは、あたたかくて小さな手。
「あたしはナナシちゃんと一緒がいいな! その方がもっと楽しいし、せっかく会えたのにすぐお別れなんてイヤだもの。だから、ねっ、行きましょーよ!」
あたたかい眼差しに、あたたかい言葉。
それは、わたしの心を動かす魔法でした。
「……メロンパンナがそう言うなら、今日はナナシちゃん、頑張ってみます〜」
ガッツポーズで応えると、メロンパンナは「わーい!」とわたしに抱き着きました。
「昨日ね、すっごくきれいなお花畑を見つけたの。ナナシちゃんにも見せたいから、パンの配達が終わったら案内してあげる!」
「おお、いいですね〜。お花畑に着いたら一緒にお昼寝しましょう〜」
「うん、楽しみにしてて!」
お花畑に囲まれて、メロンパンナとのんびりお昼寝。
想像するだけで、心が陽だまりのようにほんわかします。
……うん。なんだかやる気が出てきました。
「すげえ……あのナナシちゃんにこうも簡単に火をつけるなんてよぉ」
「ナナシちゃんってメロンパンナおねえちゃんには弱いんだあ……」
カレーパンマンとクリームパンダが感心したように目を見張ります。
「おお、お二人の間には、まるで宝石のように固く、誰にも割って入れない絆があるのですね。なんと美しい!」
天井を仰いで賛美するしょくぱんまん。
「ふふ、ナナシちゃんがやる気になったならよかった」
微笑ましそうにアンパンマンが笑い。
「それじゃあバタコ、チーズ。わたし達も出発の準備をしよう」
「ええ」
「アン!」
ジャムおじさん、バタコさん、チーズがアンパンマン号の準備に入り。
こうして今日も、一日が始まるのでした──。
いつだって、雲のように、気まぐれに。
これは、そんなマイペースなわたしの日常です。
アンパンマンも、ジャムおじさんも、バタコさんも、み〜んな優しいし。
チーズはやんちゃだけど、とってもいい子だし。
毎日おいしいご飯が食べられて、あったかい布団で寝られるし。
家族がいなくても、ぜーんぜん寂しくありません。むしろ今のわたしにとっては、パン工場のみんなが家族のようなもの。
だから、毎日が幸せなのです。
「はぁ〜、満足満足〜」
朝ごはんを食べ終え、すっきり片付いたテーブルにぐでーっと突っ伏します。
「ナナシちゃんは今日、何をして過ごすの?」
バタコさんが洗い物をしながら尋ねます。釜戸ではジャムおじさんが町の人達に配るパンを焼いていました。
「う〜ん、そうですね〜……今日も一日中ここでダラダラしてようかと」
「もう、ナナシちゃん。昨日もおとといもそう言ってずっとダラダラしてなかったかしら」
「アーン」
バタコさんは苦笑し、チーズも呆れたように半目になります。
「あはは、ナナシちゃんは相変わらずマイペースだね」
笑うアンパンマンに、わたしは「えっへん」とドヤ顔。
「何事にも縛られないのがナナシちゃんの生き方ですから〜」
「だけどナナシちゃん、今日はそうは言ってられないかもしれないよ」
どこかイタズラっぽい調子でジャムおじさんが言い、釜戸をオープンしました。
取り出された鉄板の上には、きつね色のバターロールが整然と並んでいます。ふわふわと押し寄せる湯気が、焼き立ての香ばしい匂いを運んできました。
「おお〜、いい匂いですね〜。ところでジャムおじさん、さっきの意味って──」
わたしが尋ねかけた時でした。
「ごめんくださーい!」
快活な声と共に、玄関のドアが開く音。
振り返ると、そこに立っていたのは──
「げげっ……」
訪問者の顔を見た瞬間、思わず苦い声が漏れます。
「おいおい。げげっとはなんだ、げげっとは。おれが来ちゃ悪いのかよ?」
不服そうにつかつかと歩み寄るのは──黄色いマントのカレーパンマン。
「わたしも来てますよー!」
「やっほー、ナナシちゃーん!」
「ナナシちゃん、さっそくカレーパンマンに怒られてるー」
しょくぱんまん、メロンパンナ、クリームパンダ。他のパンも続々と顔を出し、工房はあっという間にぎゅうぎゅう詰めです。
急な展開についていけず、おろおろするわたし。
「ひえぇ……ジャムおじさん、これはどういうことですか〜」
「今日は彼らが手伝いに来てくれる日なんだよ。パンの配達をね」
「そ、そんなの聞いてません〜……」
「あっはは、確か朝ごはんを食べてる時に伝えたんだけどねぇ」
「どーせ話聞いてなかったんだろ、ったく」
カレーパンマンはうんざりと腕を組み、畳み掛けるように詰め寄ってきます。
「まさかおまえ、今日も手伝いをサボる気じゃねえだろうな? ジャムおじさんやバタコさんが優しいからって、いつまでも甘ったれてんじゃねーぞ!」
「うぅ……」
相変わらず容赦のない辛口攻撃に、わたしは縮こまりました。
カレーパンマンは悪い人じゃないけど、厳しいからちょっと苦手です。
「助けてバタコさ〜ん。こわいお兄さんがいたいけな女の子をいぢめるんです〜……」
涙目で縋るわたしに、バタコさんは「あらあら」と困り笑い。
「いじめるとは人聞きわりぃな。おまえがやる気なさそうにダラ〜っとしてるから、こうしてピリッと活を入れてやってんだろ!」
「まあまあ、そこまでにしましょうよ。カレーパンマン」
そう宥めるのはしょくぱんまん。
「あまり言い過ぎるとナナシちゃんが可哀想ですよ。女の子にはもっと優しい言葉をかけてあげないと」
「しょくぱんまんはナナシちゃんを甘やかし過ぎなんだっつーの!」
「いえいえ、しょくぱんまんはなーんにも間違ってませんよ。もっと言ってやってくださ〜い」
わたしは白いヒーローにふれふれとエールを送りました。紳士的なしょくぱんまんは、いつだって女の子の味方だから安心です。
「ほらな。女だからって甘やかすと、すぐこうやってつけ上がるんだからよぉ、こいつァ」
呆れ果てたように両手を上げるカレーパンマン。
「もぉー、ナナシちゃんは相変わらずだらしないんだなぁ。これならぼくの方がずーっとしっかりしてるもんねー!」
クリームパンダに勝ち誇った顔で言われ、わたしはムッと眉を寄せます。
「そんなことないですよ〜。わたしだって本気を出せば、それなりに人の役に立つことだって〜」
「そうかそうか、なら今から本気出せ。せっかく居候させてもらってんだから、ちったぁパン工場のために働けっつーの」
「わたしのやる気には波があるんです。今はまだその時じゃないんですよ〜」
「だー、ああ言えばこう言う!」
カレーパンマンとやいやい言い合っていると、ふわりと甘い風が頬をくすぐりました。
「ナナシちゃん、ファイト」
とろけるメロンのような声が、頭の芯に響きます。
それは、寄り添うようにわたしの傍に来た彼女のものでした。
「メロンパンナ……」
目を合わせると、メロンパンナはにっこりと笑います。
「今日はあたしもついてるから、一緒にがんばろ!」
背中に触れるのは、あたたかくて小さな手。
「あたしはナナシちゃんと一緒がいいな! その方がもっと楽しいし、せっかく会えたのにすぐお別れなんてイヤだもの。だから、ねっ、行きましょーよ!」
あたたかい眼差しに、あたたかい言葉。
それは、わたしの心を動かす魔法でした。
「……メロンパンナがそう言うなら、今日はナナシちゃん、頑張ってみます〜」
ガッツポーズで応えると、メロンパンナは「わーい!」とわたしに抱き着きました。
「昨日ね、すっごくきれいなお花畑を見つけたの。ナナシちゃんにも見せたいから、パンの配達が終わったら案内してあげる!」
「おお、いいですね〜。お花畑に着いたら一緒にお昼寝しましょう〜」
「うん、楽しみにしてて!」
お花畑に囲まれて、メロンパンナとのんびりお昼寝。
想像するだけで、心が陽だまりのようにほんわかします。
……うん。なんだかやる気が出てきました。
「すげえ……あのナナシちゃんにこうも簡単に火をつけるなんてよぉ」
「ナナシちゃんってメロンパンナおねえちゃんには弱いんだあ……」
カレーパンマンとクリームパンダが感心したように目を見張ります。
「おお、お二人の間には、まるで宝石のように固く、誰にも割って入れない絆があるのですね。なんと美しい!」
天井を仰いで賛美するしょくぱんまん。
「ふふ、ナナシちゃんがやる気になったならよかった」
微笑ましそうにアンパンマンが笑い。
「それじゃあバタコ、チーズ。わたし達も出発の準備をしよう」
「ええ」
「アン!」
ジャムおじさん、バタコさん、チーズがアンパンマン号の準備に入り。
こうして今日も、一日が始まるのでした──。
いつだって、雲のように、気まぐれに。
これは、そんなマイペースなわたしの日常です。