Song bird (長編連載)
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(んー、人見知りさんなのかな?)
先程、“桜井雛子”と名乗った子は、やや不安そうに視線を左右に泳がせている。
最初にドアを開けた時に目が合って、すごく驚いた顔をしていたが、それから視線を合わせようにも一向に合う気配がない。
(この子が噂の“ひなちゃん”だよね)
実は“桜井雛子”という名前は結構前から知っていた。
マスターコースの後輩である音也やトキヤ、そして一緒に面倒を見ていた春歌からよく名前を聞いていたし、最近よくST☆RISHの面々とも仕事を一緒にすることが増えたので、その辺りからもよく名前が出ていたのだ。後輩達の話によると、作曲家でガンガンにエレキギターを弾く小柄な女の子ということだったので、どちらかといえば快活そうなイメージだったのだが、目の前のおとなしそうで儚げなこの子がガンガンにエレキを弾く姿はちょっと想像ができない。
「“ひなちゃん”って、呼んでもいーい?」
「あっ、はい!大丈夫です!」
「ぼくのことも、“れいちゃん”って呼んでいいよん☆」
と、少しおちゃらけて、わざとらしくウインクを一つ飛ばすと、雛子の視線がまたゆらりと泳いだ。
「あっ……、いえ、そんな、恐れ多いです」
(あれ、今の、なんか……)
何だろう、ふわっとした既視感を抱く。何だか前にもこんなことがあったような気がするのだが思い出せない。
一瞬思考が飛んだ、その時にガチャリとノックもなしに大胆にドアが開いた。
◆◇◆
「あん?…なんだ、このメンツは」
「ランラン!」「蘭丸さん!」
明らかに不機嫌モード全開で部屋に入って来たのは、黒崎蘭丸だった。ふぁっ、と大あくびをひとつして、近くのイスにどっかりと座り込んだ。
「つーか、何でちびっこまでいんだ?珍しい」
「ランラン!女の子にちびっこは無いでしょ〜!」
確かに雛子は小柄だが、ちびっこだなんて小学生じゃないんだから、だいぶ失礼だろう。
「あっ、社長にメールで呼ばれて……」
雛子本人は特段気にするわけでもなく答える。
「あんな早朝にメール送りつけるなんて信じられねぇよな。本っ当、あの親父は人の迷惑考えろって…」
朝の睡眠妨害を思い出したのか、ピキピキしている蘭丸はなかなかの迫力で、嶺二は雛子が怯えるんじゃないかと思って、ちらりとそちらを見ると、雛子はどうも蘭丸の言動に慣れているのか、あまり気にしてなさそうだ。何だったら嶺二と2人で居た時よりも緊張が取れているように見える。
「ねえ、2人って、顔見知りなんだ?」
どう考えても接点がなさそうなのだが。
「あ?ああ、こいつとは馴染みの楽器屋が一緒なんだよ」
そういえば、事務所の近くにギターとベースを専門的に扱うこだわりの楽器屋があると、前に蘭丸から聞いたことを思い出した。
うんうん、と小さく頷く雛子に、エレキギターが弾けるという話をもう一度思い出したが、やはりどうにも今の彼女のイメージとは繋がらなかった。
◆◇◆
「何なの、このメンバー」
今、ドア開いた?というくらい、音もなく静かにそこに立っていたのは美風藍だった。
「なんでキミまで居るのさ、ヒナコ」
「藍くん……私も社長に呼ばれて」
名前で呼び合うこの2人もどうやら顔見知りのようだ。
「アイアイまで雛子ちゃんと知り合いなの?」
「だって、こないだまで月2のペースで家に来てたからね」
「えっ?!」「はぁっ?!」
蘭丸と嶺二のが同じタイミングで声を上げる。
「えっ?ちょっとちょっと!どーいう事さ、それ〜!」
「あっ、えっ、違います!あれは、翔ちゃんに会いに行ってただけで……。翔ちゃんの従姉妹なんです。私」
2人の反応でなにかを察したのか、雛子は慌てて弁明する。
「従姉妹って言っても、兄妹みたいなものなんでしょ?だから、ナツキとショウと共同生活してた時にもよく家に来てたってワケ」
「小さい頃は一緒に暮らしていたので……つい……」
なるほど。あの藍が他人を家に招き入れるなんて、どういう事かと思えば、翔の家族なら仕方ないと思ったのだろうか。
そう言われて改めて雛子を見ると、雰囲気は違うが確かに顔つきが翔と似ている。
「あの時はお邪魔させてもらって……ありがとう藍くん」
「まあ、別にいいんだけどね」
雛子が深々とお辞儀をすると、藍はそうあっさりと返事をした。
◆◇◆
「…………なんだ、このメンバーは」
コンコン、と軽やかなノックをして入って来たのは、カミュだった。部屋にいる人物達を見渡すと、ぐっと眉間に皺が寄り、心底面倒くさそうな溜め息をついた。
「そして、なぜお前まで居る。小娘」
「あ、カミュさん。お久しぶりです」
あ、ここも面識あるんだ。どうやら面識がなかったのは自分だけのようだと知り、嶺二は何となくショックを受ける。
「なんで、ミューちゃんもひなちゃんと知り合いなのさ〜!絶対接点なさそうじゃーん!」
蘭丸と藍は話を聞いて納得だったが、カミュはどうしても繋がりが分からなかった。
「あの、カミュさんは以前に母とシルクパレスに行った時にお世話になりまして……」
「ふん、こやつら母娘が雪の中で埋もれていたのを拾ってやったのだ。我が国で他国の死人が出ては困るからな」
「それ、どういう状況??!!」
嶺二は思わず立ち上がって大声で叫んでいた。
色々と突っ込みどころが多すぎる。
「本当にその節はありがとうございました」
またしても深々とお辞儀をする雛子に、カミュは当然のように腕を組んで大きな態度で鼻を鳴らした。
◆◇◆
なんだかんだ、この3人が雛子と顔見知りなのが嶺二は不思議だった。
そして、何となく、他の3人に対して自分と話す時よりも緊張していない様子なことも気になっていた。
自分で言うのも何だが、この4人の中で一番とっつきやすいのは自分だと思っているのだが。
雛子は3人の会話を微笑ましそうにニコニコしながら聞いているが、どう見ても会話内容は微笑ましくない。知らない人間から見たら喧嘩してるかと思うくらい蘭丸とカミュはいがみ合ってるし、それを藍は鋭利な突っ込みで捌いていて、火に油を注いでいる。
(うーん、この子、結構大物……?)
なんの動揺もしていない雛子を見て、何となくだが、さっきよりはエレキギターを弾く姿が想像できたのであった。