Song bird (長編連載)
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「嶺二せんぱーい!お疲れ様です!」
そう声を掛けられて、振り返ったら、元気よく駆け寄って来るともちんこと、渋谷友千香が居た。
「おー、ともちん!久しぶりだね!お疲れちゃーん」
ともちんは事務所の後輩で、ひなちゃんの同級生でもあり親友だ。何度か一緒に仕事もしたことがあり、そのサバサバとしてざっくばらんな性格には、ぼくも好感を持っている。
「雛子から聞きましたよ。本当に良かったです。うまくいって」
ともちんはキョロキョロして周りに人が居ないことを確認してから、ぼくにこそっと耳打ちしながら、グイグイと肘で小突いてきた。
ひなちゃんとは歌謡祭の後、正式にお付き合いすることになった。
立場上もちろん公にはできないけど、お互いに信頼のおける周りの人には話してもいいことにはしているので、ST☆RISHやQUARTET NIGHTの皆もその事は知っている。
まあ、あれだけ大騒ぎしたので、事務所の人間はほぼ察しているだろうけど。
「ありがとー!ともちんにも心配かけちゃったよね。ごめんね」
「本当ですよー!嶺二先輩がいなくなった時のあの子、もう本当に見てられなかったですもん……。
あのまま嶺二先輩が戻って来なかったら、私、寿弁当に殴り込みに行くところでしたよ〜!」
あははー!と豪快にともちんは笑っているけど、ぼくの背中には冷たい汗が一筋流れた。
絶対これ本気のやつだ。だって目が笑ってないもん!
そして、そんな事を言われるのは、これが初めてじゃなかった。
◆◇◆
「寿さん……帰って来てくれて、本当に良かったですよ。あのまま帰って来ないようなら、殴り込みに行こうかと思っていました」
ひなちゃんの後に、かわいいかわいい後輩達が出迎えてくれたけど、トッキーの顔は嬉しさよりも、どう見ても怒りの方が滲んでいる。
「というか、雛子ちゃ……、桜井さんにあんな思いをさせておいて、正直許せません。……ちょっと殴ってもいいですか」
「ちょっ!ちょっ、ちょっと!トキヤ!?それ、冗談だよね??!」
いつものトッキーらしからぬ粗暴な発言に、隣りのおとやんが慌てて止める。
いつもとは逆の珍しい光景だ。
「煮るなり焼くなり好きにして下さい……」
トッキーの気持ちはよーく分かる。
なので、両手を上げて降参ポーズをとると、はぁ…っと大きな溜め息をつかれた。
「……冗談ですよ。桜井さんが許しているのに、こちらが口を出すことじゃありませんし」
「もう、トキヤってばー!本気かと思って、ちょっとビックリしちゃったよ〜!」
あはは、と、おとやんは笑っているけど、トッキーの目はまったく笑っていない。
ねぇ、絶対本気だったよね。トッキー。
◆◇◆
「おかえり、ブッキー。レディとうまくいったようで良かったよ。心配していたんだよ?」
数日後にそう声を掛けてきたのはレンレンだった。
レンレンはひなちゃんがぼくの実家まで探しに来てくれた時に車を出してくれたようなので、色々と事情は知っているみたいだ。
「あ、うん!レンレンにも心配かけてたよね。本当にごめんね!ひなちゃんのことも、うちの実家まで車出してくれたみたいでありがとね」
あの時、あのオレンジ色の車を見た時に、ちょっぴり(いや、かなり)嫉妬したなんてことは死んでも口に出せない。
「レディのあの時の姿……本当に見ていて胸が痛かったよ。イッチーが“このまま戻らないようなら殴り込みにでも行きましょうか”って言うから、それなら俺もお供するよって約束してたんだけど、本当にそうならなくて良かったよ」
って、レンレンもかーい!
あれ、レンレンってそんな感じだったっけ?!
他人には執着しないタイプだと思ってたんだけど。
「レディはSクラスのお姫様だからね。それに、実は俺、小さい頃に天使ことりちゃんのファンだったんだよね」
ここにも元ファンが……。恐るべしことりちゃん。
「だから、いくらブッキーでも、またレディを泣かすようなことがあったら許さないよ」
口元は薄く笑っているけど、目が笑ってない。
本気だこれ。
「もう二度とひなちゃんを泣かせるような事はしないよ。絶対に」
ぼくも一切ふざけずに本気で返すと、レンレンは満足そうに頷いた。
◆◇◆
「翔たん、ぼくのこと、一発殴ってもいいよ」
次に翔たんに会った時に、ぼくは自ら頬を差し出してみた。翔たんはひなちゃんの実質お兄ちゃんであり家族なので、正直他の人にはちょっと殴られたくないけど、翔たんなら致し方ない。
「えっ、どうしたんすか、嶺二先輩」
「いや、ひなちゃんのこと。翔たんも怒ってるかなーって」
「あー、なるほど!トキヤとレンに何か言われたんすか?」
「ぼくが戻って来なかったら、殴り込みに来る予定にされてたよ☆」
「そーいや、そんな事言ってたな。まあ、あいつら、なかなかのことりファンなんで……」
翔たんはちょっと呆れたように頬を掻く。
だよね。結構な強火ファンだよね。
でも、ぼくはその事を口に出さないでおく。
「俺は別に怒ってないっすよ。……むしろ、ちょっと安心したっつーか……」
翔たんが一瞬言い淀んで、また口を開く。
「あいつがあんなに感情爆発させて泣いたりしてるのって、すっげー久しぶりで。昔はけっこう喜怒哀楽が激しいタイプだったんすけど、事故に遭ってからはあんまり表に感情出さなくなって雛子らしくなくなったっていうか……」
「嶺二先輩と関わって、あいつ、元に戻ったつーか、元々の性格が出てきだしたというか。だから、俺は嶺二先輩に感謝してます。ありがとうございます!これからも雛子を宜しくお願いします」
翔たんがすっと頭を下げてきて、あわててそれを止める。頭を下げるのはこっちの方だよ。
「うん、大事にするよ。誰よりも」
そう言うと、翔たんはニカッと嬉しそうに笑った。
なんていい子なんだ。翔たんは。
◆◇◆
「ひなちゃんは皆に愛されてるよね〜」
ひなちゃんを膝に乗せて、その細い腰をぎゅっと抱き寄せて肩に顔を埋める。すうっと息を吸い込むと甘い匂いでクラクラしそうだ。“猫吸い”ならぬ“ひな吸い”かな。猫ちゃんもいいけど、ひなちゃんの方がぼく的には堪らないものがある。そのままスリスリと顔を擦り寄せると「嶺二さん……っ」とひなちゃんが戸惑った声を上げて、くすぐったそうに身を捩る。
「でもね、ひなちゃんを一番深く愛してるのは、ぼくだからね」
頬にちゅっとキスをすると、見る見るうちに頬から耳にかけてが赤く染まっていく。
「れいじ、くん…」
ぼくの名前を呼ぶ、その甘ったるい響き。
ぼくを見つめる、その熱っぽく潤んだ瞳。
ぼくは知ってるんだ。
君は沢山の人から愛されているけど、君がこうやって、頬を赤く染めて潤んだ瞳で見つめる相手は世界中にぼくしかいないってことを。
「愛してるよ、マイガール」
誰よりも君を愛してる。
だから、この手を二度と離したりはしないよ。
そう誓いを込めて、その柔らかな唇にキスをした。
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