Song bird (長編連載)
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(やばい……かわいすぎない?)
シャツの袖口をちょこんと掴む指先。
身長差があるので自然と上目遣いになる瞳。
雛子がそんな仕草を見せるようになったのは、嶺二が戻ってきてからだった。
二人きりの時、何気なく袖口や服の裾を掴んでくる雛子に、「どうしたの?」と聞けば、「……なんでも、ないです」と小さく返ってくるのだが、きっとそれは、自分がまた居なくなるのではないかという不安の表れなのだろう。
そう思うと胸が痛む反面、その子供みたいな仕草が、どうしようもなく愛おしくて、可愛いらしいとも思ってしまうのだ。
この数週間、歌謡祭の歌とダンスの練習をした後はドライブがてら少しだけ遠回りをして、雛子を寮の部屋まで送り届けることが日課となっていた。
部屋の中までは上がらずに玄関で少しだけ話をして帰るのだが、今日もいつも通りに帰ろうとすると、雛子の手がまたしても嶺二の袖口を掴んだ。
「……ひなちゃん?」
「……あ、ごめんなさい」
すっと逸らされた視線。
ほんのり紅潮した頬。
今すぐ抱きしめて、キスをしたい。
そんな衝動が突き上げるが、嶺二はなんとか理性で押さえ込む。
(落ち着け落ち着け……ぼくちんは大人の男なんだから)
彼女の気持ちはもう分かっている。そして、自分の溢れそうなこの気持ちも。
でも、歌謡祭で優勝するまではその言葉は言わない。
それは、一度逃げ出した自分への戒めでありけじめだった。
「あの、……すこしだけ、上がっていきませんか?お茶くらいなら出せるので……」
「えっっ」
正直に言うと、今まで部屋に上がってもう少し一緒に過ごしたいと思ったことは何度もある。
だが、そこは大人の男としての分別をわきまえて、部屋まで送るとすぐに帰るようにしてきたのだ。
雛子からそう言われて、嬉しくないわけはなく。
(いやいや……でも、ぼくちんは大人の男だからね!)
「……だめ、ですか?」
ちらりと上目遣い。
袖口を掴む指先に、きゅっと力が入った。
『もう帰るよ』
そう言いかけた言葉を、嶺二は生唾と一緒にゴクリと飲み込んだ。
「……じゃあ、少しだけお邪魔しちゃおっかな〜」
「本当ですか!ちょうど、ともちゃんからお土産で貰った美味しいクッキーがあるんです」
ニコニコと嬉しそうにスリッパを出す様子はあまりに警戒心が無くて、嶺二は少し不安になる。
「ひなちゃん、ぼくだからいいけど!
ぜーーったいに!他の男は部屋に上げたらダメだからねっ!」
「……そんなの……分かって、ます。
…………嶺二さんだから、言ったんです」
「……っ!!」
その言葉に、柄にもなく耳がかあっと熱くなるのを感じた。
(ひなちゃん!それ、天然でやってるの?!それとも計算?!どっちにしろ、あざとすぎない?!)