Song bird (長編連載)
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※学生時代のまだ少し斜に構えてるレンとヒロインのお話。
その日は来月のマラソン大会に向けた練習日だった。
まだ5月だというのに、うだるような暑さで、グラウンドを走る学生達はそれぞれ苦悶の表情を浮かべている。
神宮寺レンはその光景を保健室のレースカーテン越しに冷めた目で見つめていた。
午前中の授業は真面目に出たが、午後になって頭が痛いと訴えて保健室でサボっていたのだ。
ベッドで少しだけ目を瞑っていたが、どうにもグラウンドの喧騒が気になって落ち着かない。
これなら上の階にある教室の方がまだマシかもしれないと思い、ベッドから抜け出して教室に戻る。
教室のドアを開けようとした時に、ドアの窓から一人の少女の姿が見えた。
桜井雛子。
この学園の中でレンが興味を持つ、数少ない人物の中の一人である。
教室の窓のサッシに手を置いて、じっとグランドを見つめている彼女の横顔は、先程のレンの煩わしいような気持ちとは違って、どこか寂しそうな憂いをおびた瞳であった。
「やあ、レディ」
扉を開けて声を掛けると、雛子は少し驚いた表情でレンを見つめる。
どうしてここに?という感じで首を傾げる雛子に「少し保健室で休んでいたんだ」と軽い調子でレンは答えた。
「……ふふっ、サボりだ」
その、否定でも肯定でもない声色が心地いいとレンは思った。
きっと、トキヤや翔なら本気で怒るだろうし、取り巻きの女子なら一緒にサボろうとするだろう。
少しだけイタズラっぽく目を細めた彼女の表情が妙に大人びて見えて、ますます興味をそそられる。
雛子の隣りに立って、自分も同じように窓のサッシに手をかけてグラウンドを見る。相変わらずの暑苦しい光景だ。
そんな光景からは目を逸らして、隣りの彼女をじっと見つめる。
グラウンドに視線を落とす、その長いまつ毛は、やはりどこか寂しそうだ。その視線をこちらに向けたくて、レンはそっと雛子の頬に手を伸ばす。
(うーん、なかなか手強いな……)
レンの周りの女子なら、ここで頬を赤らめて恥ずかしがるか、喜んで微笑むかなのだが、当の雛子は不思議そうにじっと目を逸らすことなくレンのことを真っ直ぐに見つめてくる。
野暮ったい眼鏡の奥に隠れた大きな瞳をレンも負けじっと見つめていると、ふと既視感を覚えた。
(……もしかして、あのミュージカルの、)
執事のジョージに連れられて初めて観に行ったミュージカルの舞台で、ひときわ楽しそうに歌っていた子役の女の子。そのキラキラ輝く瞳にレンも惹きつけられた。
その時に初めて舞台というものに興味を持って、その後も何度か観に行った覚えがある。
「ねえ、レディ。もしかして…………「レン!!!お前っ、雛子に何やってんだーーー!!!」
その眼鏡の縁に手を掛けようとした瞬間に、グラウンドから翔のとんでもなく大きな怒声が飛んできた。
「レン!!あなた、桜井さんになにをっっ!!」
そして、その後ろからも珍しくトキヤが声を荒げている。そういえば、トキヤは雛子と昔なじみであった。
「やれやれ……見つかっちゃったね」
レンがイタズラっぽくウインクすると、雛子はふっと目を細めて笑った。レンが落とすつもりで見つめた熱っぽい視線は何も効いてはいないようだった。
「レディ、またね」
レンはひらりと手を振って教室を出た。
半ば強制的に入れられたこの学園だったが、思わぬところで長らく仕舞い込んでいた昔の宝物を見つけてしまった。
自然と綻ぶ口元を隠すように手で覆う。
そして、廊下の遠くからドタドタと聞こえてくる足音から逃げるように、レンは長い足を大きく踏み出して軽やかに走り出した。
その日は来月のマラソン大会に向けた練習日だった。
まだ5月だというのに、うだるような暑さで、グラウンドを走る学生達はそれぞれ苦悶の表情を浮かべている。
神宮寺レンはその光景を保健室のレースカーテン越しに冷めた目で見つめていた。
午前中の授業は真面目に出たが、午後になって頭が痛いと訴えて保健室でサボっていたのだ。
ベッドで少しだけ目を瞑っていたが、どうにもグラウンドの喧騒が気になって落ち着かない。
これなら上の階にある教室の方がまだマシかもしれないと思い、ベッドから抜け出して教室に戻る。
教室のドアを開けようとした時に、ドアの窓から一人の少女の姿が見えた。
桜井雛子。
この学園の中でレンが興味を持つ、数少ない人物の中の一人である。
教室の窓のサッシに手を置いて、じっとグランドを見つめている彼女の横顔は、先程のレンの煩わしいような気持ちとは違って、どこか寂しそうな憂いをおびた瞳であった。
「やあ、レディ」
扉を開けて声を掛けると、雛子は少し驚いた表情でレンを見つめる。
どうしてここに?という感じで首を傾げる雛子に「少し保健室で休んでいたんだ」と軽い調子でレンは答えた。
「……ふふっ、サボりだ」
その、否定でも肯定でもない声色が心地いいとレンは思った。
きっと、トキヤや翔なら本気で怒るだろうし、取り巻きの女子なら一緒にサボろうとするだろう。
少しだけイタズラっぽく目を細めた彼女の表情が妙に大人びて見えて、ますます興味をそそられる。
雛子の隣りに立って、自分も同じように窓のサッシに手をかけてグラウンドを見る。相変わらずの暑苦しい光景だ。
そんな光景からは目を逸らして、隣りの彼女をじっと見つめる。
グラウンドに視線を落とす、その長いまつ毛は、やはりどこか寂しそうだ。その視線をこちらに向けたくて、レンはそっと雛子の頬に手を伸ばす。
(うーん、なかなか手強いな……)
レンの周りの女子なら、ここで頬を赤らめて恥ずかしがるか、喜んで微笑むかなのだが、当の雛子は不思議そうにじっと目を逸らすことなくレンのことを真っ直ぐに見つめてくる。
野暮ったい眼鏡の奥に隠れた大きな瞳をレンも負けじっと見つめていると、ふと既視感を覚えた。
(……もしかして、あのミュージカルの、)
執事のジョージに連れられて初めて観に行ったミュージカルの舞台で、ひときわ楽しそうに歌っていた子役の女の子。そのキラキラ輝く瞳にレンも惹きつけられた。
その時に初めて舞台というものに興味を持って、その後も何度か観に行った覚えがある。
「ねえ、レディ。もしかして…………「レン!!!お前っ、雛子に何やってんだーーー!!!」
その眼鏡の縁に手を掛けようとした瞬間に、グラウンドから翔のとんでもなく大きな怒声が飛んできた。
「レン!!あなた、桜井さんになにをっっ!!」
そして、その後ろからも珍しくトキヤが声を荒げている。そういえば、トキヤは雛子と昔なじみであった。
「やれやれ……見つかっちゃったね」
レンがイタズラっぽくウインクすると、雛子はふっと目を細めて笑った。レンが落とすつもりで見つめた熱っぽい視線は何も効いてはいないようだった。
「レディ、またね」
レンはひらりと手を振って教室を出た。
半ば強制的に入れられたこの学園だったが、思わぬところで長らく仕舞い込んでいた昔の宝物を見つけてしまった。
自然と綻ぶ口元を隠すように手で覆う。
そして、廊下の遠くからドタドタと聞こえてくる足音から逃げるように、レンは長い足を大きく踏み出して軽やかに走り出した。
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