Song bird (長編連載)
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社長から直々に呼び出されて、社長室のドアを開けると、ソファには蘭丸、藍、カミュの3人が座っており、デスクには早乙女、横には龍也も腕を組んで立っている。
「Miss桜井、よく来ましたネー!」
「あの、今日は一体……?」
「これを見てくだサーイ!」
早乙女から1枚の封筒を渡される。
表書きには見覚えのある字で『辞表』と書かれており、慌てて裏を見ると『寿嶺二』と書かれてあった。
さっと全身から血の気が引くような感覚がして、封筒を持つ手がかすかに震える。
「これ……」
何かの冗談であって欲しい。
縋るように早乙女を見つめるが首を横に振られる。
「今朝、事務所に届いた。これ以上ここにいると迷惑が掛けるから辞めさせてほしいと……」
早乙女のいつもと違う真面目な口調で、これが嘘ではないということが分かる。
雛子は絶句して封筒を見つめる。
「残念ですが、本人が望む以上は仕方ありまセーン」
早乙女は雛子から封筒を取り上げて、デスクにしまい込む。
そして、雛子に向かってピシッの指を突き出し、
「と、いうわけなのでー、Miss桜井!
YOUはまた新たなパートナーをこの3人から決めて下サーイ!!」
「………えっ?」
雛子は呆然と早乙女を見つめる。
一体なにを言っているのだろうか。この人は。
「今回はこんなものを用意してマース!」
そう言って取り出したのは、床に着くくらいの長ーい紙であった。よく見ると線が何本も書かれてある。最初にパートナーを決めた時と同様に、またしてもあみだくじだった。
雛子の中でなにかが音を立てた気がした。
「…………ふ、っっざけないで下さい!!!!」
部屋の空気が震えるほどの怒声だった。
ミュージカルで鍛えた発声はいまだに健在で、その場の全員が驚いた表情で雛子を見つめる。
「そんなの、絶対に嫌です!私のパートナーは嶺二くんだけです!他の人と組む気なんてありません!」
睨みつけるように言い切った雛子に、早乙女はふっと一瞬だけ笑った。
「だが、このまま戻って来なければ、お前はデビューする事は出来ない。それでもいいのか?
お前にとって、デビューとはその程度のことなのか?」
サングラス越しでも分かる、鋭い視線で問いかけられる。
「……そんなこと、ない、です。
……でも!私にとっては嶺二くんと一緒じゃなきゃ、意味がないんです。自分一人でデビューしても、他の人とデビューしても、それじゃダメなんです……」
「私は、あの事故から、沢山のことを諦めてきました……。大好きなダンスも、あの主演舞台に戻ることも、自分の演技でミュージカルを世間に広めることも……でも…、」
過去に描いたキラキラとした夢が思い浮かぶ。
あの頃は自分の歌と演技とダンスがあれば、何にだってなれるような気がしていた。
でも、その夢はもう二度と叶えることはできない。
夢の続きを探して、作曲と出会った。
パートナーが去って行って、作曲家としての道に迷っている時期もあった。
でも、嶺二と再会して、自分の曲を誰かに歌ってもらえる喜びをもう一度知った。その曲がどんどん広がって皆が笑顔になっていく感動を知った。
そして、新しい夢ができた。
嶺二と一緒に歌謡祭で優勝したい。
でも、それよりも前に、自分の曲でアイドルとしての寿嶺二を、誰よりもキラキラに輝かせたい。そして、それを見た人達を笑顔にしたい。
「今の、この夢だけは諦めたくないんです!絶対に、諦めない!!」
ボロボロと涙が溢れ出すのを自分で乱暴に拭う。
「私が、必ず嶺二くんを見つけ出して、説得して連れ戻します!なので、もう少しだけ待って下さい……。お願いします!」
頭を90度以上下げて深く深くお辞儀をする。
軽く肩を叩かれて顔を上げると、真剣な表情の早乙女と目が合った。
「……もし、奴を連れ戻すことができなければ、YOUはデビューできず、2人揃って事務所はクビデース!それでも構いませんか?!」
「……上等です!!」
雛子の強い意志を持った瞳に、早乙女はニヤリと笑みを浮かべる。
「分かりました!では、あの辞表は一旦保留ということにしまショウ!」
「……っ!!あっ、ありがとうございます!」
もう一度深く頭を下げた。
そうと決まれば行動あるのみである。雛子はカツカツと杖を鳴らして、振り返ることなく社長室を後にした。
◆◇◆
バタンと扉が閉まり、部屋には妙な静けさが残った。
すると、くくっと笑いを堪える声が小さく響く。蘭丸だった。
「……やるじゃねーか、あのちびっこ。親父にあんな啖呵切る女なんて初めて見たぜ」
ニヤリと楽しそうな目で早乙女の方を見る。
「……あの図太さ、寿に似てきたのではないか?」
カミュはそう言いながらも口元が楽しげに綻んでいる。
「やっぱり、ミュージカル出身だと発声方法が違うのかな」
藍は不思議そうに首を傾げている。
「……いや、ツッコミ所そこかよ」
龍也は冷静に突っ込んだ。
先程はかなりヒヤヒヤしたが、あの雛子のちらちらと炎の宿る強い瞳は、嶺二を無理やり引きずってでも連れて帰りそうな勢いである。
(ほんっと、良いパートナーになったよ。お前ら)
◆◇◆
社長室を出ると、そこには音也とトキヤが居た。
なぜだか2人とも少し気まずそうだ。
「音也くん、トキヤくん……!どうしたの?」
「あっ、いや!れいちゃんの事が心配で様子を聞きに来たんだけど……。ごめん、全部聞こえちゃった。……桜井って、すっごく大きな声出せるんだね」
「……音也。桜井さんはミュージカル出身なんですから、あのくらいの発声は当然でしょう。……いえ、問題はそこではなく……、寿さんを探すんですよね?私達も協力します」
「えっ……」
改めて2人からそう言われて、先程その扉の向こうで自分が何を言ったか思い出して、かぁっと耳が熱くなった。
「………やっちゃった」
火がついたら止まらないのは来栖家の血だろうか。
たまらなくなって両手で顔を覆うと、ポンと軽く肩を叩かれる。「桜井、格好良かったよ!」と音也はニカッと笑う。そして、反対側の肩もそっと叩かれ「雛子ちゃん、さすがです」のトキヤも微笑んだ。
「それ以上言わないで……はずかしい」
◆◇◆
それから、音也とトキヤも協力してくれて、手分けして嶺二の行方を探し続けた。
テレビ局で仕事がある時は、以前に嶺二が紹介してくれた仲の良いスタッフにそれとなく聞いてみたり、思い切って実家の寿弁当に電話をかけてみたりもしたが、相変わらず行方は分からないままだった。
そんなある日、事務所から出ると、そこには圭が居た。
「久しぶりですね」
「圭く…、音波さん」
「寿君が、いなくなったそうですね」
「……どうして、それを」
この話はまだ事務所の一部の人間にしか知られていないはずだ。不思議に思っていると、どうやら音也とトキヤが嶺二の旧友ということをどこからか聞き付けて圭に会いに行ったようだった。
「これを。寿君の実家の住所です。昔の手帳を調べたら出てきました」
「一応、ご実家には電話してみたんですけど……」
「彼のことなので口止めくらいしているでしょう。……まあ、行った所で、彼が出てくるかは分かりませんけどね」
「……ありがとうございます。でも、どうして?」
圭は嶺二を恨んでいるのではないか。
以前だったら音也とトキヤが行っても無視していたのではないかと思う。
雛子が問いかけると、圭はポツポツと話し出した。
自分も響も嶺二を恨んでいたこと。でも、それは自分達のせいで愛音がいなくなったわけじゃないと、ただ責任転嫁をしていただけだということ。
「美風藍の歌を聴いて、気付いたんです。こんなことをしても何も変わらないと。貴方の言った通り、彼は愛音じゃない。歌がそれを証明していた」
「貴方から愛音の気持ちを聞いて、私も思い出しました。愛音があの歌を歌う時に、ひとつひとつのフレーズを噛みしめるように大事に歌っていたことを。確かに愛音は私達のことを想ってくれていた。……そんな彼がこんなことを望むわけがない」
「……愛音くんは、嶺二くん圭くん響くんの事が大好きなんです。3人の話をする時、いつも楽しそうで幸せそうで、私はそんな愛音くんを見るのが好きでした」
ふっと圭の表情がやわらぐ。ほんの少しだけ目元にきらりと光るものが見えた。
「愛音は、貴方のことも大事に思ってましたよ」
「………あの、聞きたかったんですが、
愛音くんのことって……私の事故も、関係していますか……?」
うすうす気付いていた。以前に圭が言いかけていたことを。あれは“そもそも愛音がああなったのは貴方にも原因がある”と言いたかったんじゃないかと。だからあの時、嶺二も響も慌てて遮ったのだ。
あの頃は、幼くてただ愛音のその優しさに甘えていた。
でも、今だったら分かる。愛音がどれだけ自分のことを本当の“妹”のように大事に扱っていてくれたかということを。
そして、その“妹”があんな事故にあって、繊細な愛音はどんな思いをしたのだろう。
「……自惚れないでください。確かに、あのドラマの時は愛音は貴方を本当の妹のように思ってました。でも、あの時にはもう貴方の“兄”の役からは完全に抜けていましたよ」
その目を見て、心の奥でそれはやさしい嘘だと思った。
でも、鈍感なふりをしてその言葉を飲み込む。
自分がそれで傷ついたら、嶺二はその事できっとさらに傷つくのだろうと思ったのだ。
「そう、ですよね。……ごめんなさい、変なこと言って。
…ありがとうございます。明日、教えて頂いた住所に行ってみますね」
ペコリと頭を下げて、その場から去ろうとする雛子の背中に声が掛かる。
「貴方の曲を歌う寿君は本気でしたよ。もっと輝く彼を見てみたいと思った。愛音と私が叶えられなかった夢を見せて下さい」
その言葉に胸が熱くなる。雛子は振り返って大きく手を振った。
「見てて下さい!歌謡祭、絶対に来て下さいね!」