Song bird (長編連載)
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雛子は事務所のミーティングルームに居た。
(嶺二くん、どうしたんだろ……)
今日は久しぶりに嶺二と歌謡祭の曲についての打ち合わせをする予定だった。
年が明けて、嶺二は番組の収録やドラマのオーディションなどで忙しく、雛子もクリスマスライブを見たという各所から仕事のオファーが来ていて忙しくしていた。
お互いにあまり連絡が取れないまま、1週間前にたまたま事務所で会った時に、この日ならお互いに空いているという事で今日の約束だったのだが、嶺二が珍しく約束の時間になっても来ないのである。
(時間、間違ってたかな……?)
口頭で約束したので、なにか間違った可能性もある。
一応、“今日の打ち合わせのお約束、大丈夫ですか?”と遠慮がちにメールを送って返事を待つが、10分20分経っても返事は来なかった。
(大丈夫かな……嶺二くん)
本格的に心配になってきた。
もしかしたら、前の収録が長引いてるのかもしれない。確か、音也とトキヤが一緒の番組だったはずだ。事務室に確認しに行こうと、ミーティングルームから出ると、見慣れた2人の背中が廊下の向こうに居た。
「音也くん!トキヤくん!
今日って、嶺二さんと収録じゃなかった?その後に打ち合わせの約束してたんだけど来なくって……」
「えっ?そうなの?れいちゃん、風邪こじらせちゃったみたいで、今日の収録も休みになったんだよ」
「桜井さんの方には連絡なかったんですか?まったく、あの人は……」
2人の話によると、どうも新年会で水浸しになった後から少し調子を崩していたらしく、それでもその後のハードな仕事をこなしていたら体調が悪化したようで、今日も休みの連絡があったのはギリギリだったらしい。
おそらく仕事に穴を開けたくない嶺二は、本当に直前までは収録に来るつもりだったのだろう。
そう言われてみれば、こないだ嶺二と少し会った時に、いつもより元気がなかった気がする。
「多分、私にまで連絡する余裕なかったんだと思う。大丈夫かなぁ。……ちょっと私、嶺二さんの所に行ってみるね。倒れてないか心配だし……」
「桜井が行ってくれるなら良かったよ!俺達もずっと心配してたんだよね」
「私達も行こうかと思ったんですが、次の収録があって……。桜井さんが行ってくれるなら安心です」
「2人も心配してたって伝えておくね」
手を振って2人と別れる。
事務室で顔見知りのスタッフに話を聞くと、やはり嶺二の風邪は酷いようで午前中に休むと連絡があったきり、連絡が取れないようだった。
様子を見に行ってみる。と告げた雛子に、スタッフは快く嶺二の住所を教えてくれて、ちょうどよかったとばかりに溜まっていた資料を渡された。
(これは……歩きは無理かな)
紙袋いっぱいの資料と、先程 事務所の隣りのコンビニで飲み物やら色々と買い込んだのでだいぶ重たい。
重いものを持ったまま歩くのは足に負担がかかるので、タクシーを拾おうと事務所の前の大きな通りに出た時に、ふと見知った顔が目に入った。
「片桐さん……??」
「……ああ、君か。久しぶりだね」
響と会うのは歌合戦ぶりだった。
その隣りには雛子の知らない男が立っている。どうして事務所の近くに居るのだろう。
「なにか、事務所に用事でしたか?」
「……いや、ちょっと、たまたま、ね。君こそ、どうしたの?その大荷物は」
「あっ、何か、嶺二さんが風邪こじらせてしまったみたいで、ちょっとお見舞いに行こうかと思って……」
「へぇ、あの嶺二が!バカは風邪引かないって言うのにな」
くくっと響はからかい気味に笑った。
「へぇ……。君、シャイニング事務所の子だよね?新人アイドルかな?」
それまで黙っていた隣りの男が急に口を挟む。その話し方に雛子は何となく嫌な感じを覚える。
「……いえ、作曲家、です」
「作曲家!それにしては随分と可愛い子だね。アイドルでもいけそうだ」
不躾にジロジロと顔を見られて、雛子はキュッと眉根を寄せて不快感をあらわにする。
「武田さん!この子は寿嶺二の歌謡祭のパートナーですよ」
庇うように響が間に入って遮る。
「君、もう行きな」
「はい。……失礼しますね」
雛子も早々にこの場を去りたくなっていたので、軽く会釈をして、ちょうど目の前を通ったタクシーを止めて乗り込んだ。
「………やっぱり、あの子、どこかで見たことが……」
男がボソリと呟いた声は雛子にはもう届かなかった。