Song bird (長編連載)
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※トキヤ→ヒロインのお話
どうして人は『好き』だという気持ちをカテゴライズしたがるのか。
恋愛、友愛、敬愛、親愛、情愛、
その区別など、どうだっていいのではないだろうか。
◆◇◆
『トキヤくんの歌声って、わたし、だいすき!』
面と向かって真っ直ぐにそう言われて、トキヤは一瞬きょとんとして、そしてすぐにその丸い頬を赤く染めた。
そう言って、ニコニコ笑ったのは、最近この児童劇団に入ってきた女の子だった。
人見知りをしない彼女は、誰にでも気さくに話し掛けて、もうすっかりこの劇団に馴染んでいる様子だった。
「そんなこと言うの、雛子ちゃんだけだよ。
……おれ、歌もダンスもじょうずじゃないし……」
その頃の幼いトキヤは少し太っていて、引っ込み思案な所もあったので、雛子のその言葉を素直に受け取れなかった。
「雛子ちゃんのほうが、すごいよ」
実際に、入団してからの彼女は飲み込みは早く、大人達からも期待されている存在だった。
元々、身体能力が高いのか、特にダンスはこの劇団で一番上手いくらいだった。
「そんなことないよ。わたし、トキヤくんみたいなきれいな歌声がうらやましいもん」
彼女がそう言ってくれたことで、ほんの少しだけトキヤは自分の歌声に自信が持てるようになった。
憧れと、ほんの少しの嫉妬心。
それは、初恋だったのかもしれない。
◆◇◆
その後、児童劇団を去って行ったあとの彼女の活躍を、誇らしいような、寂しいような、羨ましいような、そんな複雑な気持ちでトキヤは見ていた。
ミュージカルも一度だけ観に行った。
話題になっていたピアノの弾き語りのシーンは勿論素晴らしかったが、一番好きだと思ったのはダンスだった。
足のつま先や手の指先まで、体中のすべてに感情が乗っているようなダンスは、児童劇団の頃よりもさらに上手くなっていて、さすがだと思った。
あんな風に、自分も表現してみたい。
その頃、なかなか子役として芽が出なくて、少し諦めかけていたトキヤの心に火をつけたのは彼女だった。
だから、追い付きたかった。
そして、いつかまた同じ舞台に立てることを願っていた。
◆◇◆
もう一度、雛子と再会できたのは、トキヤがシャイニング早乙女と共演したドラマが話題になって、少しずつ子役の仕事が増えてきた時だった。
そして、その頃は雛子もミュージカルの宣伝のために珍しくテレビに出ていた時期だった。
「雛子ちゃん!」
「……え?……トキヤくん!久しぶり!」
そう言って、嬉しそうにニコニコ笑う姿は、児童劇団にいた時となにも変わっていなかった。
すこしの間、近況報告し合う時間は、楽しくてあっという間に過ぎていった。
「トキヤくん、よかったら、今度の舞台観に来てくれる?」
「勿論だよ!絶対に行こうと思ってたんだ。楽しみにしてる!」
「ありがとう。頑張るね!」
そう言って、その時はお互いに笑いながら手を振って別れた。
だが、その数日後に雛子は事故にあって、そのしばらく後に引退が発表されることとなった。
いつか、追い付きたかった。
でも、それはもう叶うことはない。
◆◇◆
「おっ、トキヤ!こっちこっち!
紹介するな!こいつ、俺の従姉妹の雛子!」
「桜井、雛子、です」
早乙女学園の入学式の後、
そう言って、翔の背中の後ろから遠慮がちに出てきたのは、幼い日の面影を携えた彼女だった。
「…………雛子、ちゃん」
「あ、やっぱり……、トキヤくん、だよね?
翔ちゃんから話を聞いた時に、もしかしてって思ったんだけど……」
嬉しそうにニコニコと笑う顔は、一番最初に出会った幼い頃からあまり変わっていなくて、トキヤは胸から込み上げる衝動を抑えることが出来なかった。目頭が熱くなって、グッと押さえる。
「……無事でいてくれて、よかった……」
だが、そのすぐ後に、その言葉を後悔することになる。
雛子の体は、決して“無事”とは言い難い怪我を負っていたのだ。
それから、何度か、雛子がアイドル科の生徒のダンスレッスンを見つめる姿を見た。
寂しいような悔しいような、どこか遠い目で見つめるその横顔を、トキヤもまた同じような気持ちで見つめていた。
世間から評価されたのは雛子の“歌”だった。
でも、トキヤは雛子の真価は“ダンス”にあると思っていた。
自分が惚れた才能が日の目を見ることなく消えていった、やり場のない感情はずっと宙に浮いたままだった。
◆◇◆
クリスマスの日、雛子の作ったQUARTET NIGHTの曲を聞いた時に、宙に浮いたままの感情が、どこかにすっと収まったような気がした。
今思えば、学生の頃の雛子の曲はどこか迷いがあったように思う。でも、あの曲はひとつの迷いもない真っ直ぐな本来の雛子らしい曲だと思った。
そして、初詣の日の、階段の上から見たあの光景。
嶺二と手を取り合って、ゆっくりと階段を上る2人の姿は、何も知らない人から見たら、仲睦まじい恋人同士に見えるだろう。花がほころぶように微笑む雛子を見たときに、ようやくその心境の変化の理由がわかった。
(どうして、寿さんなんでしょうね……)
あの時に、一瞬過ぎった感情は嫉妬だった。
でも、その感情はすぐに消えていった。
彼女のことは“好き”だ。
でも、それは恋愛感情などではない。かといって、どこにカテゴライズすればいいのかも、本当のところ自分ではよく分かってはいない。
ただ、彼女には幸せになって欲しい。
あの、花がほころぶような笑顔のままでいて欲しい。
その想いだけは確実だ。
だから、まだこの想いはそのままで。
※簡単に言うと『推し』ってことです。
どうして人は『好き』だという気持ちをカテゴライズしたがるのか。
恋愛、友愛、敬愛、親愛、情愛、
その区別など、どうだっていいのではないだろうか。
◆◇◆
『トキヤくんの歌声って、わたし、だいすき!』
面と向かって真っ直ぐにそう言われて、トキヤは一瞬きょとんとして、そしてすぐにその丸い頬を赤く染めた。
そう言って、ニコニコ笑ったのは、最近この児童劇団に入ってきた女の子だった。
人見知りをしない彼女は、誰にでも気さくに話し掛けて、もうすっかりこの劇団に馴染んでいる様子だった。
「そんなこと言うの、雛子ちゃんだけだよ。
……おれ、歌もダンスもじょうずじゃないし……」
その頃の幼いトキヤは少し太っていて、引っ込み思案な所もあったので、雛子のその言葉を素直に受け取れなかった。
「雛子ちゃんのほうが、すごいよ」
実際に、入団してからの彼女は飲み込みは早く、大人達からも期待されている存在だった。
元々、身体能力が高いのか、特にダンスはこの劇団で一番上手いくらいだった。
「そんなことないよ。わたし、トキヤくんみたいなきれいな歌声がうらやましいもん」
彼女がそう言ってくれたことで、ほんの少しだけトキヤは自分の歌声に自信が持てるようになった。
憧れと、ほんの少しの嫉妬心。
それは、初恋だったのかもしれない。
◆◇◆
その後、児童劇団を去って行ったあとの彼女の活躍を、誇らしいような、寂しいような、羨ましいような、そんな複雑な気持ちでトキヤは見ていた。
ミュージカルも一度だけ観に行った。
話題になっていたピアノの弾き語りのシーンは勿論素晴らしかったが、一番好きだと思ったのはダンスだった。
足のつま先や手の指先まで、体中のすべてに感情が乗っているようなダンスは、児童劇団の頃よりもさらに上手くなっていて、さすがだと思った。
あんな風に、自分も表現してみたい。
その頃、なかなか子役として芽が出なくて、少し諦めかけていたトキヤの心に火をつけたのは彼女だった。
だから、追い付きたかった。
そして、いつかまた同じ舞台に立てることを願っていた。
◆◇◆
もう一度、雛子と再会できたのは、トキヤがシャイニング早乙女と共演したドラマが話題になって、少しずつ子役の仕事が増えてきた時だった。
そして、その頃は雛子もミュージカルの宣伝のために珍しくテレビに出ていた時期だった。
「雛子ちゃん!」
「……え?……トキヤくん!久しぶり!」
そう言って、嬉しそうにニコニコ笑う姿は、児童劇団にいた時となにも変わっていなかった。
すこしの間、近況報告し合う時間は、楽しくてあっという間に過ぎていった。
「トキヤくん、よかったら、今度の舞台観に来てくれる?」
「勿論だよ!絶対に行こうと思ってたんだ。楽しみにしてる!」
「ありがとう。頑張るね!」
そう言って、その時はお互いに笑いながら手を振って別れた。
だが、その数日後に雛子は事故にあって、そのしばらく後に引退が発表されることとなった。
いつか、追い付きたかった。
でも、それはもう叶うことはない。
◆◇◆
「おっ、トキヤ!こっちこっち!
紹介するな!こいつ、俺の従姉妹の雛子!」
「桜井、雛子、です」
早乙女学園の入学式の後、
そう言って、翔の背中の後ろから遠慮がちに出てきたのは、幼い日の面影を携えた彼女だった。
「…………雛子、ちゃん」
「あ、やっぱり……、トキヤくん、だよね?
翔ちゃんから話を聞いた時に、もしかしてって思ったんだけど……」
嬉しそうにニコニコと笑う顔は、一番最初に出会った幼い頃からあまり変わっていなくて、トキヤは胸から込み上げる衝動を抑えることが出来なかった。目頭が熱くなって、グッと押さえる。
「……無事でいてくれて、よかった……」
だが、そのすぐ後に、その言葉を後悔することになる。
雛子の体は、決して“無事”とは言い難い怪我を負っていたのだ。
それから、何度か、雛子がアイドル科の生徒のダンスレッスンを見つめる姿を見た。
寂しいような悔しいような、どこか遠い目で見つめるその横顔を、トキヤもまた同じような気持ちで見つめていた。
世間から評価されたのは雛子の“歌”だった。
でも、トキヤは雛子の真価は“ダンス”にあると思っていた。
自分が惚れた才能が日の目を見ることなく消えていった、やり場のない感情はずっと宙に浮いたままだった。
◆◇◆
クリスマスの日、雛子の作ったQUARTET NIGHTの曲を聞いた時に、宙に浮いたままの感情が、どこかにすっと収まったような気がした。
今思えば、学生の頃の雛子の曲はどこか迷いがあったように思う。でも、あの曲はひとつの迷いもない真っ直ぐな本来の雛子らしい曲だと思った。
そして、初詣の日の、階段の上から見たあの光景。
嶺二と手を取り合って、ゆっくりと階段を上る2人の姿は、何も知らない人から見たら、仲睦まじい恋人同士に見えるだろう。花がほころぶように微笑む雛子を見たときに、ようやくその心境の変化の理由がわかった。
(どうして、寿さんなんでしょうね……)
あの時に、一瞬過ぎった感情は嫉妬だった。
でも、その感情はすぐに消えていった。
彼女のことは“好き”だ。
でも、それは恋愛感情などではない。かといって、どこにカテゴライズすればいいのかも、本当のところ自分ではよく分かってはいない。
ただ、彼女には幸せになって欲しい。
あの、花がほころぶような笑顔のままでいて欲しい。
その想いだけは確実だ。
だから、まだこの想いはそのままで。
※簡単に言うと『推し』ってことです。