Song bird (長編連載)
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夢のようだと思った。
4人のパフォーマンスでキラキラとステージが輝く。
途中で蘭丸とカミュがセンターを奪い合ったり、嶺二がバク宙を2回転した勢いで一音入り損ねて、それを藍がフォローしたりと、ややハプニングがあったものの逆にそれがスパイスとなって観客をより一層盛り上げていた。
ぶつかり合うけど、重なり合う。
雛子が最初に思った通りだった。
大勢の観客の声。弾けるような笑顔。鳴り止まない拍手。
自分の作った曲が歌となりパフォーマンスとなり観客へ広がっていく。その瞬間を目の当たりにして胸が震えた。
(やっぱり、音楽ってすごい……)
この胸が打ち震えるような光景を何度だって見てみたい。
雛子は新たな決意をそっと心の中に収めた。
◆◇◆
クリスマスライブは大成功のうちに幕を下ろした。
ライブの後はひとしきり打ち上げで盛り上がって、各々解散していった。
「ひなちゃん、ちょっとだけドライブしない?
せっかくのクリスマスだし、ぼく、2人だけの打ち上げもしたいな〜♪」
「えっ、いいんですか?」
打ち上げの時は人数が多かったので、嶺二と2人だけで話すことができなかった。嶺二にライブの感想を話したかったので、それは雛子にとって嬉しいお誘いだった。
それに、なんとなく、今日はもう少し嶺二と一緒に居たいと思っていたのだ。
雛子が喜んで返事をすると、嶺二は「断られたらどうしようかと思ってたよ〜!」と、少し冗談めいた口調で笑った。
そして、車は郊外へ向かい、到着した先は誰もいない夜の砂浜だった。
砂浜のちょっとした石垣に嶺二はハンカチを敷き、雛子を座らせる。そして、自分は砂が付くのも気にせずに、そのまま隣りに座り込む。
ひなちゃんと一緒に飲もうと思って。そう言って、嶺二はクーラーボックスからノンアルコールシャンパンとグラスを取り出し、うやうやしく雛子に渡す。
「「メリークリスマス」」
合わせたグラスが小さく音を立てた。
一口飲むと甘い香りが鼻を抜ける。乾いた喉に炭酸が心地よく弾ける。冷たい海風も今の火照った体にはちょうどよかった。
シャンパンを飲みながら、お互いにライブについてまた語り合う。打ち上げの時は、二人ともライブの熱が冷めやらぬままに少しはしゃいでいたが、今は夜の砂浜の静かな空気ですっかり落ち着いた様子だった。
シャンパンを飲み干して、お互いに自然と無言になる。
海の向こうには街中のクリスマスイルミネーションがキラキラとしていて、その遠くの輝きをこのままずっと見ていたいような気持ちになった。
ふと嶺二の方を見ると、その横顔は海の向こうよりももっと遠くを見つめているようだった。その表情は読み取れない。嶺二は一体どんな気持ちでこの海を見ているのだろうか。そんなことを考えていると、嶺二が雛子の方を振り向いた。そして、そっと口を開く。
「……ねえ、この間の件で失望しちゃった?親友を裏切った人でなし〜って」
「え?」
嶺二のその瞳が少しだけ不安そうに揺れていた。
「ひなちゃんにはさ、知られたくなかったんだ。
……だって、君は小さい頃いつもキラキラした目でぼくの事を追いかけてくれてたからさ。ぼくは今でも君にとっての“格好良いお兄さん”で居たかったんだよね」
「嶺二さん…」
「本当は汚い大人なんだよ。ぼくは」
「そんなこと、ないです。嶺二さんは今でも私にとって憧れの素敵なアイドルです」
どうしてこの人はこんな事を言うのだろう。嶺二が自分の言葉で自分を卑下して、あえて傷付けているような気がして雛子は悲しくなる。
「君は優しいから、そうやって庇ってくれるけど、愛音はもうここには居ない。この場所はね、愛音が最後に目撃された場所なんだ。一体、どんな気持ちだったんだろうね……親友に裏切られて」
「裏切るなんて、そんな……。愛音くんはそんなこと思う人じゃないですよね!誰かのせいとか、誰が悪いとか、そんな事を思うような人じゃなかった……」
それは親友である嶺二が誰よりも分かっていることなんじゃないだろうか。
雛子には愛音が居なくなった原因を、嶺二自身が自分のせいにしたいんじゃないかと思えた。
「……それに、絶望の淵にいる人には、誰の、どんな言葉だって届かないことがあるんです…」
雛子には愛音の気持ちがほんの少しだけ分かるような気がした。
自分もまた絶望の淵にいる時に、誰のどんな慰めの言葉も響かなかった。愛する家族の優しい言葉も、敬愛する劇団の人の励ましの言葉も、すべて自分に届くことなく消えていった。
今考えたらバカバカしく思うが、舞台に戻るためなら悪魔に魂を売ってもいいとさえ思っていたし、それができないならもう消えてしまいたいとまで思った事がある。その時はそれほど追い詰められたのだ。
「……愛音くんが、姿を消す前に、この海で、何を考えていたかなんて分かりません…。でも!…それでも、こんな風に嶺二くんが今の今までずっとそんな風に思う事なんて、絶対に望んでいないはず……」
「だって、愛音くん、嶺二くんの話をする時はいつも優しい顔してた…。ひとつひとつを宝物みたいに大事に話をしてくれてたんです……」
愛音のことを思い出す時に、いつもその時のやさしい表情を思い出すのだ。嶺二のことも、圭と響のことも、すごく大事に想っているのだと思った。
それなのに、なにが、どこで掛け違ってしまったのだろうか。
「……だから…だから、誰も、なにも、悪くなんてない、です……ぜったいに」
関係のない自分の言葉が慰めになるなんて、おこがましい事は思わない。それでも、ほんの少しだけでもいいから嶺二の心が軽くなればいいと思った。
「ひなちゃん……」
嶺二の手が雛子の頬を包み、親指でそっと目尻を拭う。
その時、初めて自分が涙を流していたことに気付いた。
「あ……、ごめんなさい。感情的になってしまって」
「ううん。…ぼくの方こそ、ごめんね。
……冷え込んできたね。……そろそろ帰ろう」
嶺二が差し出したその手を掴む。
そして自然とその手を握られたまま、車までの短い距離を歩いた。
刺すような冷たさの海風が頬を撫でる。
繋いだその手のやさしい温かさに、どうしてだか、雛子はまた泣きたいような気持ちになった。
この手をずっと離したくない。車までもっと距離があればいいのに。そう思いながら、指先にきゅっと力を込めた。