Song bird (長編連載)
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寮のマンションまであと少しで着くという所で時計を見ると、思った以上に時間が進んでいて、七海春歌は小さく溜め息をついた。随分と打ち合わせが長引いてしまった。
(あれ、あの車……)
寮の前に、緑色の丸いフォルムの車が停まっている。
その車には見覚えがあり、通り過ぎる時に車内を覗くと、やはり思った通りの人物と目が合った。
「寿先輩!」
呼びかけると運転席のウィンドウが開き、「後輩ちゃん!ちょうどいいところに!悪いんだけど、ちょーっち手伝ってくれないかな?」と嶺二が少し困り顔で助手席を指す。
「あっ、ひなちゃん」
助手席にはぐっすり眠る親友の姿があった。
「あまりにぐっすり寝てるから、起こすの可哀想でさぁ。部屋に連れてってあげようと思ったんだけど、勝手にバッグから鍵出して部屋に入ってもちょっと問題かなって思って……。でも、仲良しの後輩ちゃんが一緒なら大丈夫だよね☆」
「あっ、はい!私でよければお手伝いします!」
嶺二のこういった気遣いが、親友が大事に扱われているように思えて春歌は何となく嬉しくなった。
(うわぁ……少女漫画みたい)
嶺二はまるで王子様のように優しく雛子を抱きかかえている。
いつも誰にでも隔てなく優しい嶺二だが、雛子を見つめる眼差しは、いつものそれとは少し違うように春歌は感じた。
「後輩ちゃん、ひなちゃんのバッグと、あと杖もあるから持って来てもらってもいーい?」
「あっ、はい!」
何だか、先輩と親友の見てはいけないシーンを見てしまったようで春歌は妙にドギマギしながら助手席の荷物を取る。
(ひなちゃん、杖使ったんだ…)
雛子が杖を使いたがらない事はよく知っている。
事故の後、退院して杖をついて学校に行ったら、からかわれたり、変に同情や哀れみの目で見られてすごく嫌だった。と前にぽつりと漏らしたことがある。
なので、雛子が杖を使う時は本当にかなり足の調子が悪い時だ。
「ひなちゃん、すごく頑張ったんですね」
部屋に向かって歩き出しても嶺二の腕の中の雛子が起きる様子はない。春歌がそっと頭を撫でても身じろぎもせず、電池が切れてしまったかのようだ。
「うん、すごく頑張ってた。無理させちゃったよ。……ぼくのせいで」
嶺二のぼそりと呟いたその声は春歌があまり聞いたことのない憂いを帯びたものだった。
「寿先輩……?」
「あっ!そういえば、後輩ちゃんもオケ録りにピアノで参加してくれたんだって?ありがとね☆」
「あっ、はい!私も良い経験になったのでよかったです。一発録りなんて初めてだったので……」
「それ、後で聞いてビックリしたよ!しかも、ギターはひなちゃんが弾いたんでしょ?大胆なことするよね〜!」
「そういう所、翔くんと似てるなって思います」
「確かに、漢気!やっぱり、一緒に育つと似ちゃうのかなぁ」
明るく話す嶺二はもうすっかりいつもの調子に戻っていて春歌は安心した。
◆◇◆
「よいしょっと……」
嶺二は雛子をベッドに寝かせ、寒くないように肩までしっかり布団をかけてやる。
本当に驚くくらい起きない上に、身じろぎもしないので、少し心配になって口元に耳を近付けると、微かな寝息が聞こえた。
「本当に、お疲れ様だったね」
頭を優しくポンポンと撫でると、雛子の唇の端が少しだけ上がって嶺二も釣られて微笑む。
子供みたいにあどけないその寝顔をもう少しだけ見ていたいと思う気持ちは庇護欲だろうか。それとも、
「おやすみ、マイガール」
正体の分からない感情にきっちり綺麗に蓋をして、嶺二はそっと寝室を後にした。