Song bird (長編連載)
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圭と響の一件があった翌朝、雛子と嶺二は二人揃って早乙女直々に呼び出しをくらっていた。
眠い目を擦りながら事務所に着くと、早乙女は一つの封筒を取り出して説明をしだした。
それは圭からの企画書であった。
要約すると、次の“まいど!アイドルらすべがす”の企画のアイドル対抗歌合戦で、嶺二の曲を雛子が、藍の曲を圭が担当して披露するというものだった。
これは前日に台本を読ませてもらっていたので、分かってはいたが、問題はその後だった。
『勝利した方が歌謡祭の一般投票においてアドバンテージを取ることとなり、そして勝利した方の作曲家がクリスマスライブのユニット曲を担当する』
アドバンテージはまだいい。問題はユニット曲の方だ。
もうすでに、あとは歌詞入れをして微調整するくらいまで仕上がっていて、もし圭が勝つような事があれば、今までの苦労と努力は水の泡になってしまう。
「いやいや、シャイニーさん!クリスマスライブの話はもうすでに進んでるわけだし、ユニット曲だってほぼほぼ完成してるんだけど!」
嶺二が抗議の声を上げるが、早乙女は「実はもうOKしてしまいましたー!」となんの悪びれもなく言い放った。
「競争はより良いものを生み出しマース!その方が本気になるでショーウ!そうですよネ〜?Miss桜井!」
「…えっ?……えぇ?」
イエスともノーとも言えない雛子の返事を、早乙女は都合よくイエスと取ったようで、ニヤリと笑みを浮かべた。
「YOUたち、歌合戦やっちゃいなYO!!」
社長の高らかな声が部屋に響いた。
(……だよね)
雛子は自分の嫌な予感が的中したことに、大きな溜め息をついた。何だか頭まで痛くなってきた気がする。
「えー!どうして、そうなるのっっ!!」
隣りの嶺二もまた悲痛な声を上げた。
◆◇◆
未発表の新曲。
昨日あの台本をチラリと見た時から、ずっと引っ掛かってはいたのだ。その未発表の曲は一体どこから出てくるのだろうと。普通に考えれば、嶺二のパートナーである自分しかいないのだが、次の“まいど!アイドルらすべがす”の収録まで10日しかない。完全に1から作るのはなかなかの無理がある。
「……未発表の曲………未発表の曲……」
「ひなちゃ〜ん?」
嶺二の声でハッとする。頭でグルグル考えるあまり口に出してしまったようだ。
「曲のストックってあったりする?」
「あるにはあるんですけど、嶺二さんのイメージのものがなくて……」
元々誰かに曲を作る時は、その人のためだけに1から作る。今ある曲のストックは遊びで作ったものがほとんどだった。
「ひとつ、提案なんだけどさ……。クリスマスのユニット曲をソロ用にアレンジしたらどうかな?」
「あ、なるほど……確かに……」
それこそ、雛子は卒業オーディションの時にも似たようなことをして何とか切り抜けた実績もある。
このユニット曲は今までの3ヶ月を費やしてほとんど完成している。嶺二にもお墨付きを貰っているし、雛子にとっても自信のある一曲になっている。
「そうですよね。……それしか、ないですよね」
頭では理解しているが、歯切れの悪い言い方になってしまう。
「納得、できてない?」
「いえ、分かっています。とにかく、この歌合戦を乗り越えないと次に繋がらないですもんね」
「ごめんね。本来だったらしなくてもいい事なのに…。君のことまで巻き込んでしまって」
「そんなこと…。とにかく、やれる事から頑張りましょう!」
「そうだね!……とりあえずは、歌詞が問題だなぁ」
嶺二は、うーん。と顎に手を当てて何やら考えたかと思ったら、携帯電話を取り出して素早くメールを打ちだした。
◆◇◆
紙に鉛筆が走る音だけが静かに響く。
ふと顔を上げると、他の3人も時折手を止めながらも真剣な表情で歌詞を書いている。
あの後、龍也に連絡をしてQUARTET NIGHTのリーダー権限で他の3人を招集させて、きっちりスケジュールまで押さえておいた。
最初は思った通り反発されたが、嶺二の渾身の土下座の甲斐があったのか なかったのか、最終的には3人共こうやって歌詞入れに協力してくれることになった。
少し離れた所に座る雛子を見ると、先程からずっと何か考えているようで上の空だ。
(納得いってないのかもなぁ)
だが、ここは何とか飲み込んでもらうしかない。
1から新曲を作るなんてリスクが高すぎる。芸歴も人生経験も長い嶺二からすると、こちらの手段の方が効率的でリスクが低い。
(ごめんね、ひなちゃん)
こうなったのは完全に自分のせいだ。雛子はただとばっちりを受けただけだ。
とにかく今は最善のことをするだけ。嶺二は改めて譜面に向き合った。
「本当に素敵な歌詞……」
紆余曲折ありつつも何とか歌詞が完成して、あとの3人はもう用事はないとばかりに早々に去って行った。
それまで浮かない顔をしていた雛子だったが、歌詞が完成して目を通すとキラキラと輝いた笑顔になった。
それからずっと宝物のように譜面を抱きかかえ、何度も目を通しては嬉しそうにニコニコしている。
(ひなちゃん、本当に嬉しそうだな)
歌詞だけでこの喜びようなら、4人で歌ったらどれだけ喜んでくれるのか。その楽しみのためにも、まず先に自分が頑張らないといけない。
「よし!じゃあ、歌合戦の傾向と対策を立てるとしますか!」
◆◇◆
オケ用の音源の用意と、ソロ用に曲の尺やメロディを調整するのは雛子に任せてもらえることになった。
「あとは、セットと振付だよねぇ。とりあえず、セットはこんな感じかなぁ?」
そう言って、嶺二はノートにさらさらとセットの絵を描き始める。
「わっ、すごい!上手!すごく素敵だと思います」
「え〜、そう?そうかなぁ」
少し照れつつも得意げに嶺二は笑った。
「じゃあ、セットはこんな感じで、あとはスタッフさんと相談してみるとして…振付は難しいやつをサラッと……」
と、言いつつ嶺二は立ち上がり、その場でジャンプをしてクルッと回った。
「どう?」
雛子は目を輝かせてパチパチと拍手を送った。
カラオケの時もだったが、自分一人で見るのは勿体ないくらいの大サービスだ。
「嶺二さん、本当に何でもできますよね」
「ぼくに言わせれば、アイドルは総合芸術だからね。歌だけじゃなく、ダンスや表情や演出。その全てでお客さんを楽しませるのがアイドル!」
その言葉が雛子の胸にストンと落ちた。
自分もそんな事を思っていた時があったのだ。
「……ミュージカルと一緒、ですね」
「そうそう!ミュージカルも総合芸術だよね!ぼく、ひなちゃんの舞台を初めて観た時に本当にそう思って、だからこそすごく惹き込まれて大好きになったんだよね〜!」
すごく嬉しい言葉なのに、かすかな痛みがじわじわと胸を侵食していく。自分はもう二度とその舞台には戻れないのだ。
「嶺二さん、初めて会った時もそう言ってくれましたよね。あの時、すごく嬉しかった」
「ミュージカルって、どこか敬遠されがちな所があって、でもあの時、テレビに出た後に沢山の人が観に来てくれて、“観に来て良かった”“また観たい”って言ってくれて…私、これからもこうやってミュージカルを広めていけたらいいなって思ってたんですけど……」
雛子は、無意識のうちに右足をさする。
この足ではもう舞台に戻ることなんてできない。それどころか、行動にも制限がかかるので受けれない仕事もある。
「……言いたくなければいいんだけど、ひなちゃんの足って……」
嶺二がずっと雛子の足を気遣ってくれているのは分かっていた。雛子は直接その事について触れていないが、龍也か翔辺りが心配して言ったのだろう。
収録の見学も比較的撮影時間が短いものばかりだったし、立ちっぱなしだとイスに座るように促してくれる。
「もう、治ってはいるんです。でも、前みたいに動くことは、もう……。なるべく足に負担をかけないようにって運動も禁止されてるし、後遺症でたまに痛むこともあるし……」
今度なにか大きな怪我でもしたら二度と歩けなくなるよ、そう医者から忠告されていることは黙っておいた。
「ミュージカルはもう無理だけど、でも、今の私には音楽があるから……」
音楽がある。いや、音楽しかないのだ。
歌にダンスに演技、自分の体の全てを使って自由に表現できていたあの頃とは違う。
「今の私の夢は、嶺二さんと歌謡祭で優勝すること。
そして、その曲でお客さんに喜んでもらうことです」
自分でそう言って、今までモヤモヤしていたものの正体が分かってきた。
嶺二と歌謡祭で優勝する。その夢のためにここで妥協するのはやっぱり違う気がするのだ。ユニット曲はQUARTET NIGHTのための曲で、嶺二の曲ではない。嶺二の曲でちゃんと勝負をしたい。
「……あの!私、やっぱり歌合戦の曲を作りたいです!無茶なのは分かってるけど、ここで妥協したくないんです!」
お願いします。と、立ち上がって頭を下げる。
「ひなちゃん、顔上げて」ポンと頭を撫でられ、嶺二を見ると、仕方のなさそうな顔をしている。
「……3日。オケ録りに歌詞入れに振付……最低でも1週間は欲しいから、それを考えたら3日しかあげれないよ。もし間に合わなかったらユニット曲を使うこと。いいね?」
「……っ!ありがとうございます!!」
雛子は上げた頭をもう一度下げて深くお辞儀をした。
「納得してないなって思ってたんだよね〜。それでも、どうにか説得するつもりだったんだけど、さっきの君の目を見たらもう降参だよ」
嶺二は両手を上げて降参ポーズをとった。
「“闘志が宿る”って言うのかな?子供の時も絶対に成功させたいって時にそんな強い目をしてた」
「え…、そう、ですか……?」
自分ではそんな事分からなかったので、指摘されると何だか恥ずかしい。
「それに、翔たんも言ってたんだよね。“雛子はああ見えて、昔っから負けん気が強くて、こうと思ったら絶対に引かない”って」
「……もう!翔ちゃん、そんな恥ずかしい事を!」
嶺二は明るく笑っているが、身内からのリークに雛子はさらに恥ずかしくなって頬を赤らめた。