Song bird (長編連載)
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あれから、何度か嶺二に誘われ、テレビの番組収録の見学に行ったが、前のような突発的なトラブルがない限りは大丈夫そうだったので雛子はほっとしていた。
そして、今日はソングステーションの収録であった。
相変わらず嶺二はマメに雛子の事をスタッフ達に紹介してくれ、クリスマスライブと歌謡祭の宣伝もしてくれていた。
「嶺二さん、いつも顔つなぎして下さってありがとうございます」
収録が終わり楽屋に戻る廊下で改めてお礼を言うと、「いいのいいの!ぼくちん、顔が広いのだけが取り柄だからさ〜☆」と軽く言うが、それがこの業界でどれだけ大事なことか雛子よくも分かっている。
楽屋にもう着くという所で、反対側から歩いて来る人影がふと目に付く。つい先日顔を合わせたばかりの圭と響だった。
「おっと、何だか最近よく会うねぇ。もしかして、ぼくのこと付けてる〜?」
「あ、……お疲れさまです」
嶺二は冗談めいた笑いを浮かべ、雛子は律儀にお辞儀をして挨拶をしたが、二人からの返事は何もない。
圭がじっと雛子を見つめ、口を開いた。
「……あの後、貴方の事を調べさせてもらったんです」
「……え?」
心臓がドキリと跳ねる。“桜井雛子”から“天使ことり”に繋がる情報は調べても簡単には出てこないはずだが、もしかしてバレたのだろうか。
「早乙女学園作曲家コースをパートナー無しで卒業。いまだにデビューできずに一年半…。今度のクリスマスライブと歌謡祭で結果が出せなければ解雇だそうですね」
「……はい」
ことりの事じゃなくて少しほっとする。
確かにこれなら少し調べたら出てくるような情報だった。
「その割には、随分とのんきな様子ですね。まるで危機感がない」
その刺すような棘のある言い方に、理由は分からないが確実に敵意を感じる。
(……この感じ)
今までにも何度か覚えがある。子役の頃も、学生時代も。
「ちょっと!ぼくのパートナーをいじめないでくれる?」
「いじめてない。事実を伝えたまで」
庇うように間に割って入ろうとした嶺二を雛子は手で制してすっと圭の前に立った。
「そうですね、本当のことです。ご心配して頂きありがとうございます」
にっこりと、嫌味なくらいに綺麗に微笑んだ。
悪意や敵意こそ笑顔で返せ、というのは劇団でお世話になった先輩に教わったことだ。
3人が呆気にとられた顔になって、一瞬の間のあとに、響がぷっと吹き出して笑いだした。
「……くくっ、この子、なかなかの大物だな。
ところで、嶺二。お前、次の“まいど!アイドルらすべがす”の台本ちゃんと見たか?」
「えっ?」
嶺二は自分のバッグから台本を取り出す。それは今日、雛子が事務所で預かって来て渡したものだった。
嶺二はパラパラと台本を捲る。
「何これ?“アイドル対抗歌合戦シャイニング事務所対決、寿嶺二VS美風藍”」
横から雛子も台本を覗くと、未発表の曲をお互いに用意して対決する旨が書いてあった。そして、スタッフクレジットには響と圭の名前が記されている。
(これって……)
「なに、ぼくに対する嫌がらせかな?これは」
「何って、お前だって気になってるだろ?美風藍と愛音に関係があるって」
「………」
嶺二は俯いて黙っている。
雛子はこの間の藍を見てまるで幽霊を見たかのような2人の顔を思い出す。
確かに雛子も初めて藍に会った時に「お兄ちゃん?」と思わず言ってしまったくらいだった。
でも、それから何度も接するうちに、藍と愛音は全然違う人間だということが分かって、藍は藍として雛子の中では受け入れていたので、最近は何も気にしていなかったが、まだ会ったばかりのこの2人は納得できていないようだ。
藍と愛音は別人だと、だからそんな不毛な対決は止めてほしいと訴えたいが、どう説明したら分かってもらえるのかが分からない。グルグルと頭で考えていると、圭が冷たいまなざしで嶺二を見つめながら口を開いた。
「寿君、ちゃんと彼女に説明しましたか?貴方がどんな人間で、どうやってこの世界で生き残ってきたか。
……何も言わないのは騙すことと一緒ですよ」
この間から、この人は一体何のことを言っているんだろう。まるで嶺二がなにか罪でも犯したかのような口ぶりだ。
困惑して、ちらりと隣りの嶺二を見るが、俯いた顔からは表情が読み取れない。
「彼みたいな卑怯な男をパートナーに選ばないほうがいい。これは忠告です」
その言葉に、カチンときた。
自分で怒っているという自覚をする前に、もうすでに口が開いていた。
「嶺二くんはそんな人じゃありません!!」
自分でも驚くくらい怒気を含んだ声が出てきた。
3人も驚いた顔で雛子を見ているが、そんなことには構っていられない。あんな事を言われて、どうしても黙ってはいられなかった。
「なんで、そんな事言うんですか…!学生時代からのお友達ですよね?親友だったんですよね……」
3人の話をする愛音の顔を思い出す。
その時の自分は嶺二の話を聞きたかったのもあるが、それよりも愛音が本当に楽しそうに嬉しそうに3人の話をするので、その顔を見るのが好きだった。
「なんで…。そんなの聞いたら……お兄ちゃんが悲しむ……」
最後はもう独り言のようなかすかな呟きだったが、口に出した後にハッとして思わず自分の口を塞ぐ。
「……お兄ちゃん?」
圭と響が訝しげに雛子を見つめるその視線から庇うように、嶺二は雛子を自分の背に隠す。
「……天使ことり、ですか」
ボソリと圭が言うと、響もピンときたようで、
「あっ、ことりちゃんか!確かに、愛音のことそう呼ぶのあの子くらいだったな。はー、随分と大きくなってたから気付かなかったわ」
そう言って、まじまじと雛子を見つめた。
「……なんの因果ですかね。寿君と、あの、天使ことりがパートナーだなんて」
嫌悪、とも言えそうなくらいの、冷たい目でじっとりと見られて、雛子は少したじろいだ。
「でも、それなら、尚更知っておいた方がいい…。この男が何をして、貴方の“お兄ちゃん”がなぜ居なくなったか…」
「え?」
「………それに、そもそも愛音がああなった原因は、」
「「圭!!」」
嶺二と響の荒げた声が重なり、雛子はビクリとする。
響は圭の肩を掴み「……冷静になれ。らしくないぞ」と諭すように言った。
「……この子にはちゃんとぼくから話をする。今まで黙っていたのは、ぼくの勝手な都合だよ。全部ぼくが悪い」
嶺二がそう言うと、圭は黙ったまま冷たい視線で一瞥して、そのまま歩いて去って行く。
「ちょっと、圭!待てよ!」
響も慌ててその後を追いかけようとして、もう一度振り返る。
「ことりちゃん、悪かったな!でも、元気な姿が見れてよかったよ!嶺二も、とりあえず収録は頼むぜ!また愛音と戦えるチャンスだ」
そう言って、ひらひらと手を振って走り去って行った。
「……ごめんね、ひなちゃん。こんな事に巻き込んじゃって」
ぽんと雛子の肩を軽く叩くその手にはいつもの元気はない。顔を見ると疲労感が滲んでいる。
「とりあえず、車に戻ろっか。少しだけドライブに付き合ってもらってもいい?」
「はい」
嶺二に促されて一緒に駐車場へ向かう。
その足取りは何となく重く感じた。
(さっき、圭くん、なんて言おうとしたんだろう……)