Song bird (長編連載)
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「ひなちゃん、大丈夫?帰れそう?」
「すみません……。もう大丈夫です。ありがとうございます」
「しんどかったら、車で寝ててもいいからね」
あれから何とか落ち着きを取り戻した雛子だったが、まだ少し顔色が悪い。トラウマのある場所からなるべく離れた方がいいような気がして、嶺二は手早く荷物をまとめ、楽屋から出る準備をした。
何となくまだ足元がおぼつかない雛子の肩を支えるようにして楽屋を出ると、そのタイミングで向かいの部屋のドアが開き、中から出てきた人物と目が合う。
「「……え?」」
「けーちゃん」「……寿君」
同じタイミングで声が重なる。
もう何年も会っていなかった、旧友の音波圭だった。
すると、圭の後ろからもう一人の男が顔を覗かせる。
「圭?どうした?……って、嶺二!」
「ひびきん……」
なんの因果か、これまた旧友の片桐響だった。
愛音のことがあってから、もう何年も連絡すら取っていなかった旧友たちが、雛子もいる今このタイミングで再会するなんて、今日はなんていう日なんだと心の中で深く溜め息をついた。
◆◇◆
「……つーか、嶺二。お前、なに楽屋に女の子連れこんでんだよ」
響がからかうようにニヤニヤと笑うと、雛子の肩から嶺二の手がそっと離れた。
「……って、連れ込んでないし!この子、ぼくのパートナーなんだからね!今度のクリスマスライブと歌謡祭の曲はこの子が作るんだ。よかったら、ひびきんとけーちゃんも聴きに来てよ♪」
「その子が?へぇ……」
物珍しげな目でジロジロ見られて少し居心地が悪い。
「……あの、はじめまして。シャイニング事務所所属の桜井雛子と申します」
実を言うと、この2人もはじめましてではなかった。
2人とも、愛音とのドラマの撮影中に一度だけ来てくれて会ったことがある。
「……あなたも、とんだ貧乏くじを引かされましたね」
「……え?」
「けーちゃん、言い方〜!」
はは、と嶺二の乾いた笑いが小さく響く。
「貴方は、彼の過去を知っているのですか?」
「過去……?」
一体なんの話だろうか。子役の頃からある程度は知っているが、そんな風に言われる話は見当たらない。
「余計なお世話かもしれませんが、ちゃんと人は見て選んだ方がいいですよ。本当の彼がどんな人間なのか……」
どうも言葉に棘がある。
友人とはいえ、さっきから嶺二に対してとても失礼な事ばかり言われている気がして、雛子は先程までの体調の悪さを忘れ、少しムカッときていた。
「おい、圭。その子には関係ないだろ」
窘めるように響が圭の肩を軽く叩くと、それを払い、圭はこちらを見向きもせずに出口に向かう。
その時、隣の楽屋のドアがガチャリと開いた。
「ねぇ、君達、廊下で喋らないでくれる?楽屋まで聞こえてきて、うるさくて集中できないんだけど」
部屋から出てきたのは藍だった。
「あ、藍くん。ごめんなさい!」
「アイアイも居たんだ!メンゴメンゴ〜!」
雛子と嶺二は2人してとっさに謝るが、あとの2人はまるで幽霊でも見たかのような驚いた表情で藍を見つめている。
「ヒナコ、ちゃんとレイジの面倒見ててよね。パートナーなんだから」
「あ、うん。分かりました……」
なんか違うような気がする、と思いながらも素直にそう返事をすると、納得したのか藍はそのまま楽屋へ戻って行った。
「……愛音?」
「いや、美風藍だろう。俺も会ったのは初めてだが……」
響と圭が小声でゴソゴソと話しているのが聞こえる。
2人が言いたいことは雛子にもよく分かっていた。自分が初めて藍に会った時も、同じようなことを思ったからだ。
そして、2人はもうこちらには一瞥もせずに足早に去って行った。
ふぅ、と隣りから大きな溜め息がこぼれる。嶺二は少し疲れたような表情で「ぼく達も帰ろっか」と雛子の背中を促した。
◆◇◆
「……あの、響くんと圭くん、ですよね?」
嶺二の車の中で雛子は一応尋ねてみた。
「そうそう!ひなちゃん、あの2人は会ったことあるんだっけ?」
「愛音くんとのドラマの撮影の時に2人とも来てくださって、その時に一度だけお会いしました」
「そっか〜。一度だけならことりちゃんだって気付かないかな。まあ、このまま黙ってた方がいいかもね」
「……実はさ、愛音のことがあってから何となくギクシャクしちゃって、ぼくもあの2人とは本当に久しぶりに会ったんだよね。2人とも、ひなちゃんにちょっと失礼な態度だったよね。ごめんね」
「いえ、私は全然大丈夫です……」
むしろ失礼だったのは嶺二に対してじゃなかろうかと思ったが、余計なことは言わないでおく。
愛音から撮影中にいつも聞いていた仲の良い学生時代の話とは随分と3人の様子が違っていて、何となく寂しいような切ないような気持ちになる。
「今日は色々あったから疲れちゃったよね。ひなちゃんも」
「あ…、あの、今日はご迷惑かけて、本当にごめんなさい」
「迷惑だなんて思ってないよ!だから、謝らないで?」
「……ありがとうございます」
「それでね、ひなちゃんさえ良ければなんだけど、これからも少しずつでいいから収録の見学に来てみない?」
「えっ、でも、またご迷惑かけてしまうかも……」
「だーかーらー!そーいうのは迷惑なんて言わないの!ぼくはひなちゃんのパートナーなんだから、そのくらい頼ってよ」
「嶺二さん……」
「ぼくの目の届く範囲なら何とかしてあげられるし、それに、ぼくの知らない所でひなちゃんが苦しい思いをしてると思ったら怖いんだ……」
「……え?」
その時、ちょうど寮の前まで着いて車が止まる。
少し不安の滲んだ瞳と目が合って、雛子はドキリとする。
「ひなちゃんの自分を追い詰めすぎるところ、愛音とすこし似てるんだよ」
嶺二の手がすっと伸びてきて、雛子の頭をポンポンと優しく撫でる。それはかつて、ことりの時にしてくれたような、子供をあやすようなものだった。
嶺二の優しさは、自分に愛音の影を見ているからなのだろうか。雛子はその優しい手つきに、ほんの少しの寂しさを感じて胸がきゅっと痛くなった。