Song bird (長編連載)
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あれから数日して、嶺二からパートナー承諾の正式な返事を貰い、今日がパートナーとして初めての打ち合わせである。
本来なら多忙な嶺二に合わせてこちらが出向くべきなのだが、雛子の足のこともあって、嶺二が収録終わりに事務所に寄ってくれることになったのだ。
事務所のミーティングルームを借りて準備をしていると、しばらくしてドアが開き「お疲れちゃーん!」と、元気よく嶺二が入って来た。
「あっ!お疲れ様です!すみません、収録終わりにわざわざ寄って頂いて……ありがとうございます」
「も〜、いいのいいの!そんなの気にしないで!こっちだって大事なお仕事なんだからね!」
ペコリと頭を下げる雛子に、嶺二は朗らかに笑って答えた。
「あと、パートナーの件も承諾して頂きありがとうございます!」
「ひなちゃんこそ、本当にぼくでよかったのかな?」
「私は……寿さんが……、」
一瞬、困ったような表情を浮かべて口を結ぶ。
「……いえ、寿さんと一緒にお仕事できて嬉しいです。よろしくお願いします」
雛子はしっかりと嶺二の目を見て、もう一度深くお辞儀をした。
「ぼくちんも嬉しいよ!これからよろしくね☆」
◆◇◆
早速、仮でできた曲を流して聴いてもらう。
流し終えると、嶺二はうーんと少し唸って考えるような素振りをした。
「悪くはないと思うよ。……悪くは、ないんだけど、何か、ちょっと、遠慮してる?これ」
「え?」
「他の3人は分かんないけど、ぼくのパートの所はぼくが歌いやすい音域に合わせてあるよね。だから、もしかして、本来書きたかった曲とはちょっと違うのかなって思って……」
嶺二の言っていることは図星だった。
この曲はあの時降ってきたメロディからだいぶ違うものになっていた。それはQUARTET NIGHTの4人の音域データに基づいて、それぞれ得意な音で歌えるように調整したせいだった。
「一応、皆さんの音域データを分析して合わせてみたんですけど……ダメでしたか?」
「それが悪いってわけじゃないんだよ。でも、そこに気を使って本来の曲の方向性から離れていったら、それはちょっと違うんじゃないかな?」
「そう、ですよね……。学生の時に私の曲難しいってよく言われてたので……つい」
「ひなちゃんに一つ教えてあげよう〜!本当のプロはその曲に合わせて歌うんだよ。曲がぼく達に合わせる必要なんてない」
「それに、ぼく達は先輩なんだからね☆ひなちゃんが遠慮する必要なんてないよ!ランランやミューちゃんだったら“舐めてんのか!”ってキレちゃうよ〜」
嶺二の言葉を聞いているうちに、だんだんと雛子の視界がクリアになっていった。
「私の、思うように……」
目から鱗が落ちるような思いだった。
作曲の授業でも歌う人の音域に合わせて作ることが多かったし、雛子のパートナーは歌があまり得意ではなかったので、そこに合わせて直すことはしょっちゅうだったのだ。
「あの、寿さん。もう一曲聴いてもらってもいいですか?本当はこっちが最初にできた曲で、勢いのまま自分で仮歌まで入れてしまったので、お聞き苦しいかもしれませんが……」
パソコンを操作して、音源を流す。
最初にインスピレーションを受けてそのままの勢いで作り上げたので、荒さも目立つし、雛子が歌を入れているので音域も彼らに合ってないはずだ。
『〜〜♪〜〜♫〜〜〜♪』
曲が終わっても、嶺二はそのままの姿勢で何やら考え込んでいる。
「……あの、やっぱり、ダメ、でしょうか?」
雛子が、不安そうにおずおず尋ねると、嶺二はパッと顔を上げた。その表情はキラキラと輝いている。
「いや!さっきより断然こっちのがいいよ!ちょっと荒い所もあるけど、そんなの後で直していけばいいしね」
「あと、例えばなんだけど、サビの所をスローテンポにして曲の冒頭に持ってきたりしてもいいんじゃないかなぁ?」
「なるほど!えっと……、こんな感じですか?」
歌詞はついていないので、適当にラの音でサビのワンコーラスを即興でスローテンポで歌ってみる。
歌い終えると、あまりに真剣な眼差しで見つめる嶺二と目が合って雛子はドキリとする。
「……あの、違いましたか……?」
「あっ!メンゴメンゴ!ひなちゃんの歌が上手すぎて、聴き惚れちゃってた!さっきの仮歌も思ったけど、ひなちゃんは自分で歌えちゃうから、他の人からしたら難しい曲になっちゃうのかもね。まあ、れいちゃんくらいになると全っ然余裕で歌えるけどね☆」
パチリと一つウインクを送られて雛子は少し動揺してしまう。
そして、それからいくつかアドバイスを貰い、全てメモにまとめておく。やはり自分にはない視点からアドバイスを貰えるのはありがたかった。
「ありがとうございます!これなら2〜3日中には修正できると思います」
「うんうん。じゃあ、できたらまた連絡ちょうだいね♪」
「はい!」
そう返事してノートパソコンをしまい片付けをしていると、「あのさ、ひなちゃん………」と嶺二が真剣な眼差しで見つめている。
曲のことで他に何かとあるのだろうかと、雛子はその言葉の続きを待っていたのだが、「ううん!やっぱいいや!曲できるの楽しみにしてるね♪じゃあ、お疲れちゃんでした〜!」と足早に部屋から出て行ってしまった。
(なんだろう…?)
そう思いつつも、今はこの曲を作り上げるワクワク感で胸がいっぱいだったので、手早く片付けて雛子もまた家路を急いだ。