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(マジか……)
カラスの行水の如く風呂から出て、いそいそと自分のベッドに着くと、そこには小さな寝息を立てて眠るさくらの姿があった。
その穏やかな寝顔を見て、嶺二はがっくりと肩を落とす。
正直、今夜はやる気満々だったのだ。
◆◇◆
お互いの仕事が忙しく、仕事でたまに顔を合わすことはあったが、こうやって彼女が嶺二の家に来るのは1ヶ月ぶりだった。
嶺二の方が仕事が終わるのが早かったので、先に家に帰って、ソワソワと少し浮かれた気分で部屋の掃除をして、ベッドのシーツまで替え、食事の準備をしてさくらが来るのを待っていた。
仕事が長引いたようで、少し疲れの滲んだ顔でさくらはやって来たが、大好物のオムライスを作ってあげると、キラキラと目を輝かせて喜んで食べてくれた。
食事が終わって、2人してソファでゆっくりと寛ぐ。
ちゃんと会えなかったこの1ヶ月の話をお互いにして笑い合う。そして、ふとした瞬間に沈黙が流れて、それをきっかけに嶺二はさくらの華奢な肩をそっと抱き寄せた。
「……寂しかった。この1ヶ月ずっと君に逢いたかった」
耳元で甘えるように囁く。
「……わたしも、です」
さくらはそっと嶺二の背中に腕を回す。
やわらかな頬にそっと手を沿わせて見つめると、熱っぽく潤んだ瞳が嶺二を見つめ返す。
頬にちゅっと軽く音を立ててキスをする。次は、おでこにキス。最後に唇にキスをしようとして、わざと唇の端っこに掠めるようなキスをすると、背中に回ったその手が抗議するように嶺二のシャツをぎゅっと握った。
「…………嶺二さん、いじわる」
そうボソッと言って、彼女は自分から嶺二の唇にやわらかくキスをした。
その意外な行動に嶺二がきょとんとしていると、さくらの頬と耳がみるみるうちに赤く染まってゆく。
「ねえ、もう一回して?」
「……や、はずかしい、です」
赤くなった頬を隠すようにさくらは両手で顔を覆う。
「じゃあ、ぼくがお返ししてあげる」
その手をそっと優しく引き剥がし、唇にキスを落とす。
軽くついばむようなキスから、食むようなキスへ変わり、きゅっと結ばれた唇から力が抜けると、嶺二はすかさずその隙間から舌を滑り込ませ、小さな舌を絡め取って優しく吸った。
静かな部屋にかすかな水音だけが鳴り響く。
「……んっ」
苦しそうな声が漏れて、嶺二はやっとその唇を解放する。
ほのかに色付いた唇の端からは唾液が溢れてテラテラと輝いていて、その瞳は泣きそうなくらい潤んでいる。その姿にぞわりと興奮を覚える。
「さくらちゃん、かわいい」
その細い首筋のラインに沿って這うように舌先で舐め上げると、なんとも言えないくぐもった声が漏れた。
右手でブラウスのボタンを上から順番に外していく。左手はブラウスの下から潜り込ませて柔らかな素肌に直接触れる。最後のボタンを外し終えようとした瞬間、小さな手が嶺二の手を強く掴みそれを阻止した。
「どうしたの?」
「……嶺二さん、シャワー、浴びたい、です」
「えーー、ぼくちんはこのままでもいいんだけど…」
「絶対、いやです」
断固拒否の姿勢に、嶺二は名残惜しげにブラウスの中に滑らせた手をそっと抜いた。
「冗談だよ☆ちゃんと湯船にお湯張ってあるから、ゆっくり浸かってきていいよ」
「えっ、本当ですか!」
パァァと彼女の表情が嬉しそうに輝く。
嶺二は普段はシャワーで済ますことが多いのだが、さくらはゆっくり湯船に浸かることが好きなので、それを知っていて来る前に風呂掃除もしてお湯も張っておいたのだった。
「一緒に入る?」
「だめです!」
だよねー。と分かりつつも、あからさまにがっくりする嶺二に悪く思ったのか、「あの……今は、まだ、恥ずかしいから……」と、顔を赤らめながら小声でコソッと言って足早にバスルームに去っていった。
(今は、って言ったよね!ね!)
ということは、もう少ししたら一緒に入ってもいいということだろうか。いや、そうに違いない。いや、むしろ、それしかない。
(今度、◯ッシュの入浴剤買っとこ)
泡風呂にするか、それとも花びらが出てくるようなのがいいか、暗くしてキャンドルを焚くのもいいかもしれない。まだ見ぬ可愛い彼女とのバスタイムに思いを馳せて、嶺二は顔がにやつくのを止められなかった。
◆◇◆
「おーい、さくらちゃーん」
一応、小声で名前を呼び、軽く頬をツンとつついてみるが、もちろん反応はなかった。
(そうだよね…疲れてたもんね)
家に来た時の少し疲れが滲んだ顔を思い出す。
さすがに起こすわけにはいかないので、諦めて嶺二はそっと布団をめくり、隣りに体を滑り込ませた。
すると、布団に冷たい空気が入ってきて寒かったのか、小さな体がもぞもぞと動き、温かい体温を求めて嶺二の体にすり寄ってきた。
(……かわいい)
そのまま抱きしめて、あやすように背中を撫でてやると、安心したように少しだけ口角が上がる。
(……かわいすぎない?)
全世界にアピールしたい可愛さである。
ちょっと予定とは違ったが、これはこれで悪くないか。と愛らしい寝顔を見つめる。
基本的にはいつも彼女の方が先に眠りにつくので、何度もその寝顔を見ているが、今のところは何度見ても飽きそうにない。
その規則正しい呼吸音に釣られて、嶺二にも穏やかな睡魔が襲ってくる。
(……気持ちいいな)
少し前まではこんな穏やかな気持ちで眠りにつく日が来るなんて思わなかった。
愛音が居なくなってから、だんだんうまく寝れない夜が増えた。元々睡眠時間が少なくても平気な方ではあったが、それがあまりに続くと電池が切れたように倒れ込んで眠るようなこともあった。
以前にも、こうやって誰かを抱きしめて眠ったことは何度もあったが、いつもどこかに仄暗いものが付きまとっていて、心底安心したことはなかった。
それなのに、彼女が隣りで寝ていると、それに釣られるのか不思議なくらいよく眠れた。
「おやすみ。愛してるよ、さくら」
その まなじりにそっとキスを落として、嶺二もまた眠りについた。
◆◇◆
やわらかな朝の光に誘われて、そっと目を開ける。
(……あれ、私、いつの間にか寝てた?)
寝起きの回らない頭で何とか昨日の夜のことを思い出す。
お風呂から出たら、嶺二が髪を乾かしてくれて、「じゃあ、ぼくも入ってくるからね。冷えちゃうといけないから、先にベッドでイイコして待ってて」と、甘ったるい声で囁かれ、言う通りにいい子にしてベッドで待っていた。
最初はベッドの背にもたれて、ソワソワした気分を落ち着かそうと、嶺二の載っている雑誌を読んでいたのだが、だんだん眠気が襲ってきて、少しだけのつもりで布団に入り込んだ。洗いたてのシーツの香りの中に、ほのかに嶺二の匂いを感じてドキリとした。
(嶺二さんの匂い…好きだな)
そんなことを思いながら、そのままそっと目を閉じた。
という所までしっかり思い出して、“やってしまった!”という気持ちでいっぱいになる。
どう考えてもあの流れは寝たらいけないやつである。
隣の温もりを気まずい気持ちでチラリと見る。
嶺二はやわらかな寝息を立ててぐっすりと眠っている。
(嶺二さん、まだ寝てるの珍しい)
いつもは自分が先に寝て、嶺二が先に起きることが多いので嶺二のぐっすり眠る姿は貴重だ。
ここぞとばかりにその寝顔をじっと見つめる。付き合いだしてだいぶ経つが、嶺二が起きている時だといまだに恥ずかしさが勝ってしっかり見れないのだ。
(…かわいい)
年上の男性にそんなことを思うのも失礼な気がしたが、可愛いものは可愛い。大好きなパッチリした大きな垂れ目は閉じられているが、どこか幼さを感じるその寝顔にキュンとする。
「嶺二さん、大好き」
そのおでこに、起こさないように小さくキスをして、そっと布団から抜け出した。
昨日の失態を何とか挽回したい。そう思いながらキッチンへ向かった。
◆◇◆
まどろみの中、無意識に隣りの温もりを探す。
そこにあるはずの温もりが見つからず、嶺二の手はやや冷たくなったシーツの感触を感じて、はっとして目を開けるが、やはりそこには誰も居なかった。
(…あれ?)
慌てて飛び起きると、サイドボードの時計が目に入る。もう午前9時を回っていて、そんなに寝ていたのかと嶺二は驚いた。
起きあがって寝室のドアを開けると、その瞬間に香ばしいパンの匂いが鼻をくすぐる。
「あ、嶺二さん。おはようございます」
キッチンからひょこっと出てきたその姿は、以前に嶺二が勝手に買ってきたピンクのフリフリのエプロンを着けている。
「……可愛いすぎる」
朝起きて、朝食のいい匂いがして、キッチンにはフリフリエプロンを着けた可愛い彼女が立っている。そんな夢のようなあまりに幸せすぎる光景に嶺二は悶絶してその場にしゃがみ込んだ。
「えっ、えっ?嶺二さん大丈夫ですか?」
心配して寄って来たさくらを立ち上がって強く抱きしめる。
「起きた時に君が居なくてちょっと慌てたんだけど、今は幸せすぎて悶絶してた」
「ごめんなさい。嶺二さんがまだ寝てたから、たまには私が朝ごはん作ろうと思って…」
テーブルの上を見ると、スクランブルエッグ、ソーセージ、サラダ、トースト。そして淹れたてのコーヒーまで添えてあり、素敵な朝食が出来上がっている。
「本当は嶺二さんみたいにオムレツが作りたかったんだけど、失敗しちゃって…」
しゅん、とうなだれる姿がいじらしくて、嶺二はちゅっと頬にキスをする。
「スクランブルエッグも美味しそうだよ。オムレツはまたぼくがコツを教えてあげるから一緒に作ろう?」
「はい!」
嬉しそうに返事をする姿が可愛くて、嶺二はもう一度ぎゅっと抱きしめた。
◆◇◆
朝食を食べ終え、2人してのんびりソファで寛ぐ。
睡眠欲も食欲も充分に満たされた。となると、もうひとつの欲求は……。
「ねえ、昨日の続きがまだだったよね?」
えっ?と声を出す前に、素早くその唇が塞がれていた。いつもより少し強引で急かすような口付けに翻弄される。粘膜が交わる音が耳の中にやけに響く。唇が離れて放心していると、いたずらっぽく微笑む嶺二と目が合った。その瞳にチラリと獣っぽさが見えたような気がした。
「ごめんね?ちょっと急ぎすぎちゃった」
嶺二はそのおでこに ちゅっと ひとつキスを落とすと、ひょいと軽々とさくらの体を抱き上げて寝室に向かう。
「えっ!嶺二さん!ちょっと…っ」
可愛らしい抗議の声は無視をして、ベッドの上にふわりと優しく体を横たえる。その上から体重を掛けないようにそっと跨がった。
「今日はいっぱい時間があるから、ゆっくりしようね」
おもむろにシャツを脱いで上半身があらわになる。
起きた時のやわらかな朝日はすでにもう燦々とした太陽の光になっていて、レースカーテンからこぼれる光が嶺二の身体をキラキラと照らしている。
見てはいけないようなものを見た気がして、さくらは思わず顔を背ける
「嶺二さんっ…!こんな明るいうちからダメです…。はずかしい……」
「……じゃあ、明るくなかったらいいのかな?」
嶺二はすっと立ち上がって窓際まで歩く。太陽の光が差し込むレースカーテンの上から、シャっと勢いよく厚手のカーテンを引くと、部屋がまるで夜のように真っ暗になった。
「このカーテン、完全遮光なんだよね☆」
目をぱちくりさせていると、ベッドがもう一人分の重さで軋んで、あっという間に嶺二に押し倒されていた。
カーテンの少しの隙間から光が漏れてお互いの表情だけが分かる。嶺二はしてやったりの顔だ。
「……嶺二さん、ずるい」
「そうだよ。…でも、君はそれを知っててぼくの事を好きになってくれたんでしょ?」
甘噛みするように耳元で囁かれて、ぞわりとする。
観念して、嶺二の首にそっと腕を回した。
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