裏僕小説その2

登場キャラクター

シンデレラ トオコ

王子 ツクモ

王子その2 マサムネ

姉 アシュレイ

母 エレジー

魔法使い タチバナ

アンサンブル ユキ
       リア
       ホツマ
       その他
むかしむかしのお話です。

ある国の高級住宅地に、トオコという美少女が住んでいました。

トオコは近所に住んでいた、ツクモという男の子と出会い、二人は幼くして恋におちました。

けれど、ある日、トオコの両親が借金をつくり蒸発してしまいます。

トオコは、父方の姉、エレジー伯母の一家に預けられることになりました。

エレジーとその娘のアシュレイは、トオコの若さと美貌をねたみ、トオコはひどい扱いをうけました。

朝から晩まで働かせ、ぼろぼろの服を着せてはトオコを召使いのように扱います。

トオコはお菓子作りが趣味でしたか、腕前は超絶ど下手なので、いつも失敗をしてはかまどの灰をまき散らせ、灰かぶり姫『シンデレラ』と呼ばれていました。

トオコが二人に引き取られてから何年かが経ったある日、トオコは買い物の途中で一枚のチラシを拾いました。

『求む!王子様のお妃候補!
あなたの美貌と教養を生かして、王子様と婚活をしてみませんか?』

トオコはチラシを見て驚きました。

王子様のプロフィール写真にのっていたのは、昔、近所に住んで愛を誓い合った、ツクモだったからです。

トオコはさっそくエレジー一家に、婚活パーティに行きたいと申し出ました。

「青臭いガキが、なにを言っているんだい。王子のハートを射止めるのはうちのアシュレイさ。あんたは家で留守番だよ。おーっほっほっ!」

案の定、トオコの願いは却下されましたが、トオコはどうしてもツクモに会いたかったのです。

ですが婚活をするということは、王子はもう自分のことなど忘れて、妻を娶るということです。

「それでもいいわ。あたしはツクモに一目会えたら十分よ」

トオコは二人が出かけたあとに、こっそりと家をぬけ出してお城に行くことにしました。

そして、婚活パーティの日がやってきました。

アシュレイとエレジーは、思い思いにおしゃれをして、お城に出かけて行きました。

トオコも裏口からこっそりと出かけようとしましたが、そこではたと、着ていくドレスがないことに気が付きました。

「ああ、どうしよう。お城ってやっぱりドレスコードがあるわよね」

ピンポーン♪

トオコが困っていると、玄関のインターホンが鳴りました。

「こんばんは。ドレスレンタルサービスの『yuki』です」

「えっ、あたし、頼んでいないわよ」

「あれ?今日の午後に、こちらのお宅のトオコさんにドレスをレンタルしてほしいと、アシュレイさんからお電話があったのですが」

アシュレイはちょっとだけ優しかったので、トオコにドレスを手配していたのです。

アシュレイがレンタルしてくれたドレスは、少女趣味のトオコの嫌いなデザインでしたが、文句は言っていられません。

トオコはさっそくドレスを着て、お城に向かうことにしました。

お城に行くまでの交通費がないと言うと、優しい店主はトオコを軽トラックで送ってくれました。

「レンタルご利用期間は今夜12時までとなっています。その時刻を過ぎると延長料金が発生しますのでご注意ください」

「わかったわ、必ず帰る!ありがとう店主さん!」

トオコが出かけた後、魔法使いのタチバナが現れました。

「あっれー??トオコくんいないじゃん。せっかく素敵なドレスをもってきてあげたのにぃ~」

家の近くにいた、ドレスレンタルサービスの店主に聞くと、トオコはすでに出かけたと言いました。

「マジで!?ボク出遅れちゃったの?せっかく登場したのに意味ないじゃん!」

タチバナは魔法使いとしての役割を果たさずに、魔法の国に帰って行きました。





お城では、色とりどりに着飾った女性たちが、ツクモを取り囲んでいました。

皆、王子の御めがねにかなおうと、王子の好きなお菓子を貢いでは自分をアピールしています。

トオコはとても近づけませんでしたが、一目、ツクモの成長を見れただけでも満足でした。

「本当にカッコいい男になったわ。ツクモ…」

遠くからツクモをながめていたトオコを、これまた遠くから見つめる一人の男がいました。

彼の名前はマサムネ王子。

隣の隣の国の王子で、お菓子の材料である砂糖を輸出しているので、ツクモ王子とも親しく、このパーティに呼ばれました。

マサムネ王子は、トオコにひとめぼれしてしまいました。

マサムネは、トオコをダンスに誘うべく、勇気を出して声をかけました。


「こっこんばんは!そのドレスすっげー似合ってますね!」

「ありがとう、でもあたし、このデザイン好きじゃないの」

「そっ、そうなんすか…。すいません」

マサムネは初っ端からつまずきましたが、気を取り直し、勇気を出してトオコを誘いました。

「あの、よかったら俺と踊ってくれませんか?一曲だけでも!」

「うーん。そうね。いいわよ」

トオコはひとりで突っ立っていても退屈だと想い、暇つぶしに踊ってあげることにしました。

一曲だけと言いながら、マサムネはトオコに話しかけまくって、親交を深めようとしました。

ですがトオコの心は、どうしてもツクモを見つめてしまいます。

マサムネに付き合っているうちに、レンタル期限である12時が迫ってきていました。

「大変!そろそろ帰らないと、延長料金が!あたし、帰るわね」

「ええっ!?もう少し一緒にいられませんか?ドレスのレンタル料金なら、俺が払いますよ!」

「見ず知らずのあなたに、そんなことさせられないわ!じゃあね!」

トオコはドレスの裾を持ち上げて、お城の長い階段を全力疾走しました。

「ああっ!このハイヒール、歩きにくいわ!今時ガラス製とか、いやがらせよね!」

トオコはガラスのハイヒールを脱ぎ捨てて、裸足で階段を駆け下りました。

「あっ、そうだわ!靴の中に、あたしの名前と、携帯の番号を…」

トオコはツクモが見つけてくれることを願って、ハイヒールにメモ用紙を入れて階段に投げ捨てて置きました。


トオコは、なんとか12時に間に合うことができました。


数日後、トオコは、エレジーに呼び出されました。

「おまえにお客だよ。是非おまえを嫁にって、王子が訪ねてきたよ」

「王子…って、まさか…」

トオコは少しの期待を抱きましたが、待っていたのはツクモ王子ではありませんでした。

「とっ、トオコさん!俺、マサムネです。いやあ~、このメモ用紙に書いてある住所を探すのに手間取っちゃって。俺のために、わざと靴を置いておいてくれたんすよね!?」

「あんたのためじゃないわよ!結婚なんてしません。お帰りください!」

「ええっ?でも、叔母様の御許しも戴きましたし、是非俺と一緒に暮らしてください!俺の国にくれば、生活に不自由はさせませんよ」

「そうだよトオコ。この通り、結納金もたんまり戴いたことだ。玉の輿にのって、私達にせっせと貢物を送るんだね」

「あたしを売ったのね!最低よ!」

トオコはエレジーに売られる形で、マサムネとの結婚を決められてしまいました。





こうして、トオコは迎えに来た勘違い王子様のもとで、新たな生活をはじめました。

マサムネの国はとても豊かで、毎日きれいなドレスも着せられ、何不自由なく暮らすことができました。

マサムネも、トオコによく尽くすので、二人は喧嘩もせず、それなりに仲の良い夫婦を築けています。

ですが、マサムネは、トオコの心が自分にないことに気づいていました。

毎日トオコに好かれるために、マサムネはトオコを喜ばせようと様々に努力をしました。

マサムネは、トオコの笑顔が大好きです。

けれど、トオコはいつも悲しそうな顔をしていました。


トオコは、どうしてもツクモのことが忘れられませんでした。

そこで、今度はトオコから、ツクモ王子が会いに来てくれるようなパーティを計画しました。

近隣の国々に、

『世界各国から集めたお菓子の祭典、トオコ王女主催の全国お菓子会社新作発表会』

と書いたチラシをばらまきました。

マサムネは、趣味で学んでいる、悪魔を喚ぶ魔導書の研修会に行ってしまったので、チャンスは今しかありませんでした。


パーティ当日、トオコはついに、ツクモ王子との対面を果たしました。

「会いたかったよ、トオコちゃん。すごくきれいになった」

「わたしもよ、ツクモ。あたし、あなたの婚活パーティに行ったのだけど、あなたに話しかけられなかったの」

ツクモ王子は、トオコのことを忘れてはいませんでした。

ですが、二人はもう既婚者の身です。

ツクモも結婚をしていて、12時までに帰らないとお嫁さんがうるさいので、長くはいれないと言って、すぐに帰ってしまいました。

「おーい、王女。ツクモ王子が靴を落としていったぞ。あいつ王子なのに馬鹿だな」

門番のホツマが、トオコのもとに、王子が落としていった靴を届けにきました。

「これは…ツクモの電話番号と、アドレスだわ」


トオコとツクモは、これをきっかけに、お互いに伴侶がいる身でありながら逢引きを重ねました。

トオコには、信頼できる臣下のリアがいたので、いつも臣下に逢引きの場所を手配してもらいました。

二人は再び恋に落ちましたが、トオコは、いつも優しくしてくれるマサムネに罪悪感を感じていました。

ですが、好きという気持ちはどうしてもとめられないのです。

トオコの様子が少しずつ変わってきたことに、マサムネは気づきはじめていました。

そして、ある日とうとう、ツクモ王子と密会を重ねている現場を目撃してしまったのです。

「とっ、トオコさん!俺がありながらあんな優男と浮気だなんて!くっそー、絶対ツクモ王子と決着をつけてやる!」

マサムネは、トオコを取り戻すためには、ツクモ王子の国と戦争をして倒せばいいのだと考えましたが、それでは罪のない国民を巻き込むことになるので、個人的に決闘を申し込むことにしました。

場所と時間を指定すると、ツクモ王子はちょっと遅れてやってきました。

「ツクモ王子!ぼくはきみのことを信じていたのに。トオコさんの想い人は、ツクモ王子だったんだね」

ツクモ王子は、トオコと逢引きを重ねていたことも、お互いに惹かれ合っていることも認めました。

「だけど、俺とトオコちゃんが、この先結ばれることはないんだ。なぜなら、俺とトオコちゃんは血の繋がった姉弟だから」

「ええええっ!?ま、まじで!?」

トオコとツクモの両親は同じですが、両親は二人を生んですぐに離婚しました。

そして、お互いの両親が再婚をして引っ越しをしたときに、偶然二人はご近所さんになってしまったのです。

「トオコちゃんはもちろんこのことを知らない。俺も、自分が弟だとはこの先も言わないよ。それでもトオコちゃんが好き。ごめんねマサムネ」

マサムネは事実を知って、とても悩みました。

トオコにとって、なにが一番幸せなのかと考えた時、マサムネの胸に残ったのは、やっぱりトオコの笑顔だったのです。

そしてある日。

マサムネ王子はお城から姿を消しました。

マサムネは、トオコとツクモが結ばれることを願い、自分から姿を消したのです。

トオコはマサムネの優しさに、涙をながしました。





数年後。

トオコはツクモ王子と、ついに結ばれました。

トオコがツクモを追って、周りを巻き込んだ大恋愛の末に、トオコはツクモのもとにお嫁にいきました。

ツクモは姉弟だということを、生涯トオコに言いませんでした。

二人はとても末永く、とんでもないバカップルぶりを発揮しながら、幸せに暮らしました。

「ねえ、とおこちゃん。シンデレラは王子さまとしあわせになったあと、どうしたの?」

弟に絵本の読み聞かせをしていた十瑚は、めでたしめでたしの続きを訊かれ、目を瞬いた。

「どうって…ずーっとしあわせにくらすのよ」

「ずっとって?子どものはんこうきも、お姑とのかくしつもないの?王子さまとのけんたいきは?」

昨夜見たドラマの影響か、弟はませたことを言う。

しかし十瑚もシンデレラの後の人生など知る由もなく、どう答えてよいものかと困っていた。

「そういうのも全部ひっくるめて、しあわせなの。大好きなひととずっといっしょにいることが、シンデレラのしあわせなのよ」

我ながら良いことを言ったと十瑚は自慢げだが、九十九はふーんと聴いているような聴いていないような曖昧な返事をする。

「じゃあおれのすきなひとはとおこちゃんだから、ずっとしあわせなんだね」

「まあ、そうね。おとうととはけっこんできないけど」

「あ、おやつのじかんだ。おかあさんがケーキを焼いてくれるっていってたよ。いこ、とおこちゃん」

「あっ、ちょっとつくもってば。あなたにはまだまだ、あいのかたちがわからないのよ」

最後のページが捲れ、絵本は一番初めの表紙に戻る。

十瑚と九十九は手を繋いで、甘いケーキの匂いが漂うキッチンに駆けて行った。
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