裏僕小説その2
登場キャラクター
シンデレラ トオコ
王子 ツクモ
王子その2 マサムネ
姉 アシュレイ
母 エレジー
魔法使い タチバナ
アンサンブル ユキ
リア
ホツマ
その他
むかしむかしのお話です。
ある国の高級住宅地に、トオコという美少女が住んでいました。
トオコは近所に住んでいた、ツクモという男の子と出会い、二人は幼くして恋におちました。
けれど、ある日、トオコの両親が借金をつくり蒸発してしまいます。
トオコは、父方の姉、エレジー伯母の一家に預けられることになりました。
エレジーとその娘のアシュレイは、トオコの若さと美貌をねたみ、トオコはひどい扱いをうけました。
朝から晩まで働かせ、ぼろぼろの服を着せてはトオコを召使いのように扱います。
トオコはお菓子作りが趣味でしたか、腕前は超絶ど下手なので、いつも失敗をしてはかまどの灰をまき散らせ、灰かぶり姫『シンデレラ』と呼ばれていました。
トオコが二人に引き取られてから何年かが経ったある日、トオコは買い物の途中で一枚のチラシを拾いました。
『求む!王子様のお妃候補!
あなたの美貌と教養を生かして、王子様と婚活をしてみませんか?』
トオコはチラシを見て驚きました。
王子様のプロフィール写真にのっていたのは、昔、近所に住んで愛を誓い合った、ツクモだったからです。
トオコはさっそくエレジー一家に、婚活パーティに行きたいと申し出ました。
「青臭いガキが、なにを言っているんだい。王子のハートを射止めるのはうちのアシュレイさ。あんたは家で留守番だよ。おーっほっほっ!」
案の定、トオコの願いは却下されましたが、トオコはどうしてもツクモに会いたかったのです。
ですが婚活をするということは、王子はもう自分のことなど忘れて、妻を娶るということです。
「それでもいいわ。あたしはツクモに一目会えたら十分よ」
トオコは二人が出かけたあとに、こっそりと家をぬけ出してお城に行くことにしました。
そして、婚活パーティの日がやってきました。
アシュレイとエレジーは、思い思いにおしゃれをして、お城に出かけて行きました。
トオコも裏口からこっそりと出かけようとしましたが、そこではたと、着ていくドレスがないことに気が付きました。
「ああ、どうしよう。お城ってやっぱりドレスコードがあるわよね」
ピンポーン♪
トオコが困っていると、玄関のインターホンが鳴りました。
「こんばんは。ドレスレンタルサービスの『yuki』です」
「えっ、あたし、頼んでいないわよ」
「あれ?今日の午後に、こちらのお宅のトオコさんにドレスをレンタルしてほしいと、アシュレイさんからお電話があったのですが」
アシュレイはちょっとだけ優しかったので、トオコにドレスを手配していたのです。
アシュレイがレンタルしてくれたドレスは、少女趣味のトオコの嫌いなデザインでしたが、文句は言っていられません。
トオコはさっそくドレスを着て、お城に向かうことにしました。
お城に行くまでの交通費がないと言うと、優しい店主はトオコを軽トラックで送ってくれました。
「レンタルご利用期間は今夜12時までとなっています。その時刻を過ぎると延長料金が発生しますのでご注意ください」
「わかったわ、必ず帰る!ありがとう店主さん!」
トオコが出かけた後、魔法使いのタチバナが現れました。
「あっれー??トオコくんいないじゃん。せっかく素敵なドレスをもってきてあげたのにぃ~」
家の近くにいた、ドレスレンタルサービスの店主に聞くと、トオコはすでに出かけたと言いました。
「マジで!?ボク出遅れちゃったの?せっかく登場したのに意味ないじゃん!」
タチバナは魔法使いとしての役割を果たさずに、魔法の国に帰って行きました。
お城では、色とりどりに着飾った女性たちが、ツクモを取り囲んでいました。
皆、王子の御めがねにかなおうと、王子の好きなお菓子を貢いでは自分をアピールしています。
トオコはとても近づけませんでしたが、一目、ツクモの成長を見れただけでも満足でした。
「本当にカッコいい男になったわ。ツクモ…」
遠くからツクモをながめていたトオコを、これまた遠くから見つめる一人の男がいました。
彼の名前はマサムネ王子。
隣の隣の国の王子で、お菓子の材料である砂糖を輸出しているので、ツクモ王子とも親しく、このパーティに呼ばれました。
マサムネ王子は、トオコにひとめぼれしてしまいました。
マサムネは、トオコをダンスに誘うべく、勇気を出して声をかけました。
「こっこんばんは!そのドレスすっげー似合ってますね!」
「ありがとう、でもあたし、このデザイン好きじゃないの」
「そっ、そうなんすか…。すいません」
マサムネは初っ端からつまずきましたが、気を取り直し、勇気を出してトオコを誘いました。
「あの、よかったら俺と踊ってくれませんか?一曲だけでも!」
「うーん。そうね。いいわよ」
トオコはひとりで突っ立っていても退屈だと想い、暇つぶしに踊ってあげることにしました。
一曲だけと言いながら、マサムネはトオコに話しかけまくって、親交を深めようとしました。
ですがトオコの心は、どうしてもツクモを見つめてしまいます。
マサムネに付き合っているうちに、レンタル期限である12時が迫ってきていました。
「大変!そろそろ帰らないと、延長料金が!あたし、帰るわね」
「ええっ!?もう少し一緒にいられませんか?ドレスのレンタル料金なら、俺が払いますよ!」
「見ず知らずのあなたに、そんなことさせられないわ!じゃあね!」
トオコはドレスの裾を持ち上げて、お城の長い階段を全力疾走しました。
「ああっ!このハイヒール、歩きにくいわ!今時ガラス製とか、いやがらせよね!」
トオコはガラスのハイヒールを脱ぎ捨てて、裸足で階段を駆け下りました。
「あっ、そうだわ!靴の中に、あたしの名前と、携帯の番号を…」
トオコはツクモが見つけてくれることを願って、ハイヒールにメモ用紙を入れて階段に投げ捨てて置きました。
トオコは、なんとか12時に間に合うことができました。
数日後、トオコは、エレジーに呼び出されました。
「おまえにお客だよ。是非おまえを嫁にって、王子が訪ねてきたよ」
「王子…って、まさか…」
トオコは少しの期待を抱きましたが、待っていたのはツクモ王子ではありませんでした。
「とっ、トオコさん!俺、マサムネです。いやあ~、このメモ用紙に書いてある住所を探すのに手間取っちゃって。俺のために、わざと靴を置いておいてくれたんすよね!?」
「あんたのためじゃないわよ!結婚なんてしません。お帰りください!」
「ええっ?でも、叔母様の御許しも戴きましたし、是非俺と一緒に暮らしてください!俺の国にくれば、生活に不自由はさせませんよ」
「そうだよトオコ。この通り、結納金もたんまり戴いたことだ。玉の輿にのって、私達にせっせと貢物を送るんだね」
「あたしを売ったのね!最低よ!」
トオコはエレジーに売られる形で、マサムネとの結婚を決められてしまいました。
こうして、トオコは迎えに来た勘違い王子様のもとで、新たな生活をはじめました。
マサムネの国はとても豊かで、毎日きれいなドレスも着せられ、何不自由なく暮らすことができました。
マサムネも、トオコによく尽くすので、二人は喧嘩もせず、それなりに仲の良い夫婦を築けています。
ですが、マサムネは、トオコの心が自分にないことに気づいていました。
毎日トオコに好かれるために、マサムネはトオコを喜ばせようと様々に努力をしました。
マサムネは、トオコの笑顔が大好きです。
けれど、トオコはいつも悲しそうな顔をしていました。
トオコは、どうしてもツクモのことが忘れられませんでした。
そこで、今度はトオコから、ツクモ王子が会いに来てくれるようなパーティを計画しました。
近隣の国々に、
『世界各国から集めたお菓子の祭典、トオコ王女主催の全国お菓子会社新作発表会』
と書いたチラシをばらまきました。
マサムネは、趣味で学んでいる、悪魔を喚ぶ魔導書の研修会に行ってしまったので、チャンスは今しかありませんでした。
パーティ当日、トオコはついに、ツクモ王子との対面を果たしました。
「会いたかったよ、トオコちゃん。すごくきれいになった」
「わたしもよ、ツクモ。あたし、あなたの婚活パーティに行ったのだけど、あなたに話しかけられなかったの」
ツクモ王子は、トオコのことを忘れてはいませんでした。
ですが、二人はもう既婚者の身です。
ツクモも結婚をしていて、12時までに帰らないとお嫁さんがうるさいので、長くはいれないと言って、すぐに帰ってしまいました。
「おーい、王女。ツクモ王子が靴を落としていったぞ。あいつ王子なのに馬鹿だな」
門番のホツマが、トオコのもとに、王子が落としていった靴を届けにきました。
「これは…ツクモの電話番号と、アドレスだわ」
トオコとツクモは、これをきっかけに、お互いに伴侶がいる身でありながら逢引きを重ねました。
トオコには、信頼できる臣下のリアがいたので、いつも臣下に逢引きの場所を手配してもらいました。
二人は再び恋に落ちましたが、トオコは、いつも優しくしてくれるマサムネに罪悪感を感じていました。
ですが、好きという気持ちはどうしてもとめられないのです。
トオコの様子が少しずつ変わってきたことに、マサムネは気づきはじめていました。
そして、ある日とうとう、ツクモ王子と密会を重ねている現場を目撃してしまったのです。
「とっ、トオコさん!俺がありながらあんな優男と浮気だなんて!くっそー、絶対ツクモ王子と決着をつけてやる!」
マサムネは、トオコを取り戻すためには、ツクモ王子の国と戦争をして倒せばいいのだと考えましたが、それでは罪のない国民を巻き込むことになるので、個人的に決闘を申し込むことにしました。
場所と時間を指定すると、ツクモ王子はちょっと遅れてやってきました。
「ツクモ王子!ぼくはきみのことを信じていたのに。トオコさんの想い人は、ツクモ王子だったんだね」
ツクモ王子は、トオコと逢引きを重ねていたことも、お互いに惹かれ合っていることも認めました。
「だけど、俺とトオコちゃんが、この先結ばれることはないんだ。なぜなら、俺とトオコちゃんは血の繋がった姉弟だから」
「ええええっ!?ま、まじで!?」
トオコとツクモの両親は同じですが、両親は二人を生んですぐに離婚しました。
そして、お互いの両親が再婚をして引っ越しをしたときに、偶然二人はご近所さんになってしまったのです。
「トオコちゃんはもちろんこのことを知らない。俺も、自分が弟だとはこの先も言わないよ。それでもトオコちゃんが好き。ごめんねマサムネ」
マサムネは事実を知って、とても悩みました。
トオコにとって、なにが一番幸せなのかと考えた時、マサムネの胸に残ったのは、やっぱりトオコの笑顔だったのです。
そしてある日。
マサムネ王子はお城から姿を消しました。
マサムネは、トオコとツクモが結ばれることを願い、自分から姿を消したのです。
トオコはマサムネの優しさに、涙をながしました。
数年後。
トオコはツクモ王子と、ついに結ばれました。
トオコがツクモを追って、周りを巻き込んだ大恋愛の末に、トオコはツクモのもとにお嫁にいきました。
ツクモは姉弟だということを、生涯トオコに言いませんでした。
二人はとても末永く、とんでもないバカップルぶりを発揮しながら、幸せに暮らしました。
「ねえ、とおこちゃん。シンデレラは王子さまとしあわせになったあと、どうしたの?」
弟に絵本の読み聞かせをしていた十瑚は、めでたしめでたしの続きを訊かれ、目を瞬いた。
「どうって…ずーっとしあわせにくらすのよ」
「ずっとって?子どものはんこうきも、お姑とのかくしつもないの?王子さまとのけんたいきは?」
昨夜見たドラマの影響か、弟はませたことを言う。
しかし十瑚もシンデレラの後の人生など知る由もなく、どう答えてよいものかと困っていた。
「そういうのも全部ひっくるめて、しあわせなの。大好きなひととずっといっしょにいることが、シンデレラのしあわせなのよ」
我ながら良いことを言ったと十瑚は自慢げだが、九十九はふーんと聴いているような聴いていないような曖昧な返事をする。
「じゃあおれのすきなひとはとおこちゃんだから、ずっとしあわせなんだね」
「まあ、そうね。おとうととはけっこんできないけど」
「あ、おやつのじかんだ。おかあさんがケーキを焼いてくれるっていってたよ。いこ、とおこちゃん」
「あっ、ちょっとつくもってば。あなたにはまだまだ、あいのかたちがわからないのよ」
最後のページが捲れ、絵本は一番初めの表紙に戻る。
十瑚と九十九は手を繋いで、甘いケーキの匂いが漂うキッチンに駆けて行った。
シンデレラ トオコ
王子 ツクモ
王子その2 マサムネ
姉 アシュレイ
母 エレジー
魔法使い タチバナ
アンサンブル ユキ
リア
ホツマ
その他
むかしむかしのお話です。
ある国の高級住宅地に、トオコという美少女が住んでいました。
トオコは近所に住んでいた、ツクモという男の子と出会い、二人は幼くして恋におちました。
けれど、ある日、トオコの両親が借金をつくり蒸発してしまいます。
トオコは、父方の姉、エレジー伯母の一家に預けられることになりました。
エレジーとその娘のアシュレイは、トオコの若さと美貌をねたみ、トオコはひどい扱いをうけました。
朝から晩まで働かせ、ぼろぼろの服を着せてはトオコを召使いのように扱います。
トオコはお菓子作りが趣味でしたか、腕前は超絶ど下手なので、いつも失敗をしてはかまどの灰をまき散らせ、灰かぶり姫『シンデレラ』と呼ばれていました。
トオコが二人に引き取られてから何年かが経ったある日、トオコは買い物の途中で一枚のチラシを拾いました。
『求む!王子様のお妃候補!
あなたの美貌と教養を生かして、王子様と婚活をしてみませんか?』
トオコはチラシを見て驚きました。
王子様のプロフィール写真にのっていたのは、昔、近所に住んで愛を誓い合った、ツクモだったからです。
トオコはさっそくエレジー一家に、婚活パーティに行きたいと申し出ました。
「青臭いガキが、なにを言っているんだい。王子のハートを射止めるのはうちのアシュレイさ。あんたは家で留守番だよ。おーっほっほっ!」
案の定、トオコの願いは却下されましたが、トオコはどうしてもツクモに会いたかったのです。
ですが婚活をするということは、王子はもう自分のことなど忘れて、妻を娶るということです。
「それでもいいわ。あたしはツクモに一目会えたら十分よ」
トオコは二人が出かけたあとに、こっそりと家をぬけ出してお城に行くことにしました。
そして、婚活パーティの日がやってきました。
アシュレイとエレジーは、思い思いにおしゃれをして、お城に出かけて行きました。
トオコも裏口からこっそりと出かけようとしましたが、そこではたと、着ていくドレスがないことに気が付きました。
「ああ、どうしよう。お城ってやっぱりドレスコードがあるわよね」
ピンポーン♪
トオコが困っていると、玄関のインターホンが鳴りました。
「こんばんは。ドレスレンタルサービスの『yuki』です」
「えっ、あたし、頼んでいないわよ」
「あれ?今日の午後に、こちらのお宅のトオコさんにドレスをレンタルしてほしいと、アシュレイさんからお電話があったのですが」
アシュレイはちょっとだけ優しかったので、トオコにドレスを手配していたのです。
アシュレイがレンタルしてくれたドレスは、少女趣味のトオコの嫌いなデザインでしたが、文句は言っていられません。
トオコはさっそくドレスを着て、お城に向かうことにしました。
お城に行くまでの交通費がないと言うと、優しい店主はトオコを軽トラックで送ってくれました。
「レンタルご利用期間は今夜12時までとなっています。その時刻を過ぎると延長料金が発生しますのでご注意ください」
「わかったわ、必ず帰る!ありがとう店主さん!」
トオコが出かけた後、魔法使いのタチバナが現れました。
「あっれー??トオコくんいないじゃん。せっかく素敵なドレスをもってきてあげたのにぃ~」
家の近くにいた、ドレスレンタルサービスの店主に聞くと、トオコはすでに出かけたと言いました。
「マジで!?ボク出遅れちゃったの?せっかく登場したのに意味ないじゃん!」
タチバナは魔法使いとしての役割を果たさずに、魔法の国に帰って行きました。
お城では、色とりどりに着飾った女性たちが、ツクモを取り囲んでいました。
皆、王子の御めがねにかなおうと、王子の好きなお菓子を貢いでは自分をアピールしています。
トオコはとても近づけませんでしたが、一目、ツクモの成長を見れただけでも満足でした。
「本当にカッコいい男になったわ。ツクモ…」
遠くからツクモをながめていたトオコを、これまた遠くから見つめる一人の男がいました。
彼の名前はマサムネ王子。
隣の隣の国の王子で、お菓子の材料である砂糖を輸出しているので、ツクモ王子とも親しく、このパーティに呼ばれました。
マサムネ王子は、トオコにひとめぼれしてしまいました。
マサムネは、トオコをダンスに誘うべく、勇気を出して声をかけました。
「こっこんばんは!そのドレスすっげー似合ってますね!」
「ありがとう、でもあたし、このデザイン好きじゃないの」
「そっ、そうなんすか…。すいません」
マサムネは初っ端からつまずきましたが、気を取り直し、勇気を出してトオコを誘いました。
「あの、よかったら俺と踊ってくれませんか?一曲だけでも!」
「うーん。そうね。いいわよ」
トオコはひとりで突っ立っていても退屈だと想い、暇つぶしに踊ってあげることにしました。
一曲だけと言いながら、マサムネはトオコに話しかけまくって、親交を深めようとしました。
ですがトオコの心は、どうしてもツクモを見つめてしまいます。
マサムネに付き合っているうちに、レンタル期限である12時が迫ってきていました。
「大変!そろそろ帰らないと、延長料金が!あたし、帰るわね」
「ええっ!?もう少し一緒にいられませんか?ドレスのレンタル料金なら、俺が払いますよ!」
「見ず知らずのあなたに、そんなことさせられないわ!じゃあね!」
トオコはドレスの裾を持ち上げて、お城の長い階段を全力疾走しました。
「ああっ!このハイヒール、歩きにくいわ!今時ガラス製とか、いやがらせよね!」
トオコはガラスのハイヒールを脱ぎ捨てて、裸足で階段を駆け下りました。
「あっ、そうだわ!靴の中に、あたしの名前と、携帯の番号を…」
トオコはツクモが見つけてくれることを願って、ハイヒールにメモ用紙を入れて階段に投げ捨てて置きました。
トオコは、なんとか12時に間に合うことができました。
数日後、トオコは、エレジーに呼び出されました。
「おまえにお客だよ。是非おまえを嫁にって、王子が訪ねてきたよ」
「王子…って、まさか…」
トオコは少しの期待を抱きましたが、待っていたのはツクモ王子ではありませんでした。
「とっ、トオコさん!俺、マサムネです。いやあ~、このメモ用紙に書いてある住所を探すのに手間取っちゃって。俺のために、わざと靴を置いておいてくれたんすよね!?」
「あんたのためじゃないわよ!結婚なんてしません。お帰りください!」
「ええっ?でも、叔母様の御許しも戴きましたし、是非俺と一緒に暮らしてください!俺の国にくれば、生活に不自由はさせませんよ」
「そうだよトオコ。この通り、結納金もたんまり戴いたことだ。玉の輿にのって、私達にせっせと貢物を送るんだね」
「あたしを売ったのね!最低よ!」
トオコはエレジーに売られる形で、マサムネとの結婚を決められてしまいました。
こうして、トオコは迎えに来た勘違い王子様のもとで、新たな生活をはじめました。
マサムネの国はとても豊かで、毎日きれいなドレスも着せられ、何不自由なく暮らすことができました。
マサムネも、トオコによく尽くすので、二人は喧嘩もせず、それなりに仲の良い夫婦を築けています。
ですが、マサムネは、トオコの心が自分にないことに気づいていました。
毎日トオコに好かれるために、マサムネはトオコを喜ばせようと様々に努力をしました。
マサムネは、トオコの笑顔が大好きです。
けれど、トオコはいつも悲しそうな顔をしていました。
トオコは、どうしてもツクモのことが忘れられませんでした。
そこで、今度はトオコから、ツクモ王子が会いに来てくれるようなパーティを計画しました。
近隣の国々に、
『世界各国から集めたお菓子の祭典、トオコ王女主催の全国お菓子会社新作発表会』
と書いたチラシをばらまきました。
マサムネは、趣味で学んでいる、悪魔を喚ぶ魔導書の研修会に行ってしまったので、チャンスは今しかありませんでした。
パーティ当日、トオコはついに、ツクモ王子との対面を果たしました。
「会いたかったよ、トオコちゃん。すごくきれいになった」
「わたしもよ、ツクモ。あたし、あなたの婚活パーティに行ったのだけど、あなたに話しかけられなかったの」
ツクモ王子は、トオコのことを忘れてはいませんでした。
ですが、二人はもう既婚者の身です。
ツクモも結婚をしていて、12時までに帰らないとお嫁さんがうるさいので、長くはいれないと言って、すぐに帰ってしまいました。
「おーい、王女。ツクモ王子が靴を落としていったぞ。あいつ王子なのに馬鹿だな」
門番のホツマが、トオコのもとに、王子が落としていった靴を届けにきました。
「これは…ツクモの電話番号と、アドレスだわ」
トオコとツクモは、これをきっかけに、お互いに伴侶がいる身でありながら逢引きを重ねました。
トオコには、信頼できる臣下のリアがいたので、いつも臣下に逢引きの場所を手配してもらいました。
二人は再び恋に落ちましたが、トオコは、いつも優しくしてくれるマサムネに罪悪感を感じていました。
ですが、好きという気持ちはどうしてもとめられないのです。
トオコの様子が少しずつ変わってきたことに、マサムネは気づきはじめていました。
そして、ある日とうとう、ツクモ王子と密会を重ねている現場を目撃してしまったのです。
「とっ、トオコさん!俺がありながらあんな優男と浮気だなんて!くっそー、絶対ツクモ王子と決着をつけてやる!」
マサムネは、トオコを取り戻すためには、ツクモ王子の国と戦争をして倒せばいいのだと考えましたが、それでは罪のない国民を巻き込むことになるので、個人的に決闘を申し込むことにしました。
場所と時間を指定すると、ツクモ王子はちょっと遅れてやってきました。
「ツクモ王子!ぼくはきみのことを信じていたのに。トオコさんの想い人は、ツクモ王子だったんだね」
ツクモ王子は、トオコと逢引きを重ねていたことも、お互いに惹かれ合っていることも認めました。
「だけど、俺とトオコちゃんが、この先結ばれることはないんだ。なぜなら、俺とトオコちゃんは血の繋がった姉弟だから」
「ええええっ!?ま、まじで!?」
トオコとツクモの両親は同じですが、両親は二人を生んですぐに離婚しました。
そして、お互いの両親が再婚をして引っ越しをしたときに、偶然二人はご近所さんになってしまったのです。
「トオコちゃんはもちろんこのことを知らない。俺も、自分が弟だとはこの先も言わないよ。それでもトオコちゃんが好き。ごめんねマサムネ」
マサムネは事実を知って、とても悩みました。
トオコにとって、なにが一番幸せなのかと考えた時、マサムネの胸に残ったのは、やっぱりトオコの笑顔だったのです。
そしてある日。
マサムネ王子はお城から姿を消しました。
マサムネは、トオコとツクモが結ばれることを願い、自分から姿を消したのです。
トオコはマサムネの優しさに、涙をながしました。
数年後。
トオコはツクモ王子と、ついに結ばれました。
トオコがツクモを追って、周りを巻き込んだ大恋愛の末に、トオコはツクモのもとにお嫁にいきました。
ツクモは姉弟だということを、生涯トオコに言いませんでした。
二人はとても末永く、とんでもないバカップルぶりを発揮しながら、幸せに暮らしました。
「ねえ、とおこちゃん。シンデレラは王子さまとしあわせになったあと、どうしたの?」
弟に絵本の読み聞かせをしていた十瑚は、めでたしめでたしの続きを訊かれ、目を瞬いた。
「どうって…ずーっとしあわせにくらすのよ」
「ずっとって?子どものはんこうきも、お姑とのかくしつもないの?王子さまとのけんたいきは?」
昨夜見たドラマの影響か、弟はませたことを言う。
しかし十瑚もシンデレラの後の人生など知る由もなく、どう答えてよいものかと困っていた。
「そういうのも全部ひっくるめて、しあわせなの。大好きなひととずっといっしょにいることが、シンデレラのしあわせなのよ」
我ながら良いことを言ったと十瑚は自慢げだが、九十九はふーんと聴いているような聴いていないような曖昧な返事をする。
「じゃあおれのすきなひとはとおこちゃんだから、ずっとしあわせなんだね」
「まあ、そうね。おとうととはけっこんできないけど」
「あ、おやつのじかんだ。おかあさんがケーキを焼いてくれるっていってたよ。いこ、とおこちゃん」
「あっ、ちょっとつくもってば。あなたにはまだまだ、あいのかたちがわからないのよ」
最後のページが捲れ、絵本は一番初めの表紙に戻る。
十瑚と九十九は手を繋いで、甘いケーキの匂いが漂うキッチンに駆けて行った。