「さあ、今週も始まりました、元気いっぱい生放送でお届けしております“突撃！隣の朝ごはん”私、リポーターの『×××』と申します！この大きなしゃもじ…ならぬ、大きなお箸を持ってお宅の朝ごはんを覗きに参りますよ～！」

「今週は裏僕町祗王地区にお邪魔しております！祗王グループのお膝元だけあって高級住宅街が並んでいますね～。さあ、さっそく一軒目のお宅にお邪魔してみましょう！朝の忙しい時間帯ですが取材に応じて下さるのでしょうか！」

ぴんぽーん♪

「はーい、どちら様ですか？」

「おはようございます！“突撃！隣の朝ごはん”です！あなたのお家の朝ごはん、紹介してください！ちなみに取材拒否は出来ません！」

「えっ、わあーっ！テレビで観ているあの番組ですか？すごいなあ、家にも来るなんて」

「おーっと一軒目から好意的な反応です。なんていい子なんでしょう！取材ＯＫということですね、ね！あなたのお名前は？」

「あ、僕は祗王夕月と言います。職業は専業主婦です」

「お名前も可愛いですが容姿も可愛らしいですね！」

「そっ、そんなことないです」（カアーッ）

「ユキ、こんな朝早くに客か？」

「あっ、ルカおはよう」

「こちらはご主人でしょうか？なんと！テレビの前の奥様方、御覧になっておりますか？ものすごい美形の外人の方がいらっしゃいます！お国はどちらで？」

「…おい、なんだお前ら」

「この人達は“突撃！隣の朝ごはん”ていう番組の取材の方だよ。あ、彼はルカ＝クロスゼリアです。僕の‥だ、旦那さんです」（カーッ）

「照れる姿がなんとも初々しいですね！ひょっとして新婚さんですか？ご主人とは名字が違いますが入籍はまだなんでしょうか？」

「はい、もうすぐ籍を入れようかなって。式はもう済んでるんですけど」

「形式や紙切れは俺にとって意味などない。俺はユキを愛している。それだけだ」

「ルカ‥。でも僕はルカと本当の家族になりたいから入籍のタイミングも大事だって思ってるよ。その…祗王ルカって、同じ名字になるんだし」

「ユキ…」

「ルカ…」

「かーっ！あてられてしまいますな！お二人の新婚生活は後程たっぷりと伺うとして、時間もあれなので朝ごはんの紹介をして頂けますか？」

「あ、すみません！ではダイニングへどうぞ」


「今日の献立は、白いごはんとわかめとお豆腐のお味噌汁、鰺の開きとほうれん草のおひたし、玉子焼きとうさぎ林檎です」

「素晴らしいです！これぞ日本の完璧な朝食、主婦の鏡です！ご主人の為に毎朝早起きして作られているんですか？」

「はい、ルカの体が第一ですから。皆さんも良かったらどうぞ」

「私達もよろしいのですか？では、お言葉に甘えてご一緒させていただきます！」

プルルルルーッ。

「はい、もしもし。はい、お待ちください。ルカ、華殿津唖常務からお電話です」

「―俺だ。何？…ちっ、分かった」

ガチャリ。

「ユキ、すまない。急ぎの件ができた。もう出掛ける」

「そうなんですか‥お仕事なら仕方ないですね。あっ、おにぎり作りますから行きながらでも食べてください」

「ありがとう。夕食までには必ず戻る」

「はい、待ってます。あ、ネクタイ直しますね」

「ご主人、ここで慌ただしく会社に向かう様です。ここで新妻がご主人のネクタイを直すという、なんとも微笑ましい光景です！完全に取材陣は蚊帳の外！二人の世界が広がっております！」

「ウルサイぞ、お前」

「はい、出来ました。いってらっしゃいルカ。あ、お弁当も持ってくださいね」

「ありがとう、ユキ」

「…ん？ルカ？」

「ユキ、いってらっしゃいの“キス”がまだだが？」

「えっ！今するの！？恥ずかしいよ‥皆いるのに‥」

「い～え、私達にはお構いなく！新婚さんの特権です！ささっ、遠慮なくどうぞ！」

「ううっ…カメラに撮られてるのに‥いってらっしゃい、ルカ」

ちゅっ。

「なんとも可愛らしい！ご主人の頬に軽くキスをされています！これはご主人の仕事の効率も上がりますね～、おっと反対側にも！頬にちゅっと…ん？ちゅっと…」

「ユキっ！」

「ん‥ルカっ」

ちゅーっ！！

「わーっ！ちょっとちょっと、そんなディープなキスは止めてください！これ全国放送なんですよ！？お子さんも観ていらっしゃいますからー！」

ピーッ。

ザーッ。

“しばらくお待ちください”


「えー‥先程大変お見苦しい映像が流れてしまいました事、心よりお詫び申し上げます。さあ、気を取り直して二軒目のお宅にお邪魔したいと思います！一軒目は紹介だけで朝食を食べ損ねてしまいましたが、次はこちらのお宅にお邪魔したいと思います！」

ぴんぽーん♪

「こちらも随分大きなお宅ですが‥あ、おはようございます！“突撃！隣の朝ごはん”です、あなたのお家の朝ごはんを紹介してください！」

「あれ？さっきの」

「あっ、あなたは祗王夕月さん！？先程別れたばかりなのに何故こちらに？」

「騒がしいね、夕月。お客かい？」

「あ、天白さん」

「あーっ！あなたは世界に誇る大企業、祗王グループのトップ祗王天白さん！なんと、二軒目にして大物の方に当たってしまいました！」

「ん？テレビの取材か」

「はい、僕もさっき取材を受けたんです」

「あの、つかぬことを伺いますがお二人のご関係は？」

「夕月は私の妻だ。ちなみに新婚」

「えっ、えーっ！？ですが夕月さんのご主人はルカ=クロスゼリアさんだと先程取材したばかりなのですが」

「あ、はい。ルカも天白さんも僕の旦那さんです」

「一妻多夫制ということですか？ですがこの国の法律では‥」

「法律など私の権限でいくらでも変えられる。そんなことより私の可愛い新妻と私の可愛い新妻の作った朝食を早く紹介したまえ。私も忙しいのでね」

「そ、そうですね。色々とお伺いしたいことは山程あるのですが、まずは今日の朝ごはんを紹介して頂けますか？」

「はい。今日の献立は、白いごはんとなめこと大根のお味噌汁、鰤の照り焼きと高野豆腐と野菜の煮物、玉子焼きです」

「またまた完璧な日本の和食です！夕月さん、毎朝ご主人お二人分の朝食を作られるんですか？しかも献立を変えて‥大変だと思うのですが」

「そんなことないです。僕はルカと天白さんの健康の為にバランスの良い食事を作りたいですし、僕に出来ることはこれ位ですから」

「なんと健気な‥。テレビの前のあなた様、お聞きになりましたか！一家に一人、こんな可愛くて尽くしてくれるお嫁さんが欲しいものです！」

「はっはっはっ。羨ましいだろう、“私の”夕月だからね。さあ、夕月、冷めない内に食べようか」

「はい、みなさんもどうぞ」

「そりゃあもうお言葉に甘えて頂きます！」

「夕月、あーんって私に食べさせてくれるかい？」

「えっ、恥ずかしいです‥カメラに撮られていますし」

「いいじゃないか、新婚なんだし。君が食べさせてくれたら私のヤル気がとてもみなぎるんだが」

「‥はい、天白さん、あーん」

「天下の大企業のトップ、天白さんは意外にも甘える側のようです！良い絵面を頂きました！女性週刊誌のグラビア発掘です！」

プルルルルー。

「おっとここで電話が鳴っております！お仕事の呼び出しでしょうか、さすが社長は朝からお忙しいようです！」

「ああ、出なくていいよ夕月」

「えっ、でも」

「どうせ部下からの呼び出しだろう。雑務は全て秘書に任せている。私と夕月の朝の時間を誰にも邪魔されたくはない」

「おおっと天白さん、電話を無視する構えです！しかし相手も諦めません、携帯からも延々と着信音が鳴り響いております！」

プルルルルー。

プルルルルー！

ピピピピピピッー。

「あ、あの天白さん。電話に出てください。急ぎの用なのかもしれませんし」

「まったくしつこいな…はい、私だか。なに？ああ、『遠間食品』か。そこも買収して祗王の傘下に入らせる。法に触れない程度に…いや、一度徹底的に叩きのめした方がいいな。××＄＄に〇〇〇総会で×☆□＃」

「わーっわーっ！！これ放送出来ません！そんな社会の暗部に触れるようなことを平然と！」

「問題ない。この国で私の思い通りにならないことなどない。全て私の×××」

「駄目駄目！カット、カットして～！」

ピーッ。

“しばらくお待ちください”


「えー、先程不適切な発言がありましたこと、お詫び致します。大変申し訳ございませんでした。…思いがけず祗王グループの裏の顔を覗いてしまいました。…大丈夫なのでしょうか、この国は‥。それでは、三軒目のお宅にお邪魔したいと思います！」

ぴんぽーん♪

「はーい、ったく誰だよ朝っぱらから」

「おはようございます！“突撃！隣の朝ごはん”です！あなたのお家の朝ごはんを紹介してください！」

「ああ？んだよイキナリ。おっ、これカメラ？カメラか？」

「はい、バッチリ映しておりますよー！金髪の美男子さん、お名前は？独身ですか？」

「ぐいぐい来るなお前…えっと、蓮城焔椎真！新婚だ！」

「おーっとこちらも新婚さん！朝のお忙しい時間帯に失礼致します！さっそくお邪魔してもよろしいですか？よろしいですね！」

「おっ、おい！図々しいなお前」


「ん？お客さんか」

「おっと、リビングで優雅にモーニングコーヒーを飲まれているご麗人が！おはようございます！」

「…焔椎真、なんだこれは」

「愁生！“突撃！隣の朝ごはん”だってよ。カメラ回ってんだぜ！」

「お前な‥勝手に家に上げるなよ」

「すみません～基本取材拒否は出来ませんので。焔椎真さんがご主人ですか？」

「はあ‥旦那は俺です。こっちが俺の妻、焔椎真です」

「旦那は俺だって言ったのに。どう見たって俺の方が頼りがいあるだろ！」

「どこがた。年収も能力もその他も俺の方が上だ」

「なんと、こちらの佳人がご主人で、野性未溢れる方が奥様ということですか！お二人の新婚生活は後程たっぷりと伺うとして、まずは朝ごはんを紹介願います！」

「あー、それなら」

「お二人とも、朝ごはんが出来ました‥って、あれ？」

「あーっ！！ゆ、夕月さんんっ！？またまたお会いしてしまいました！何故こちらに？」

「夕月は俺の妻です」

「愁生さんの！？ですが愁生さんの奥様は焔椎真さんで…こちらに限っては一夫多妻制ということですか！」

「俺も焔椎真も祗王の社員なのでその辺の法律は○×○×…」

「あーっ！いいです、言わなくとも結構です！なんとなく解っていますので！…それにしても夕月さんの相関図がややこしいことになってきました。朝のさわやかな番組なのに、まさかの奥様釘付け昼メロ展開になってしまうのでしょうか！」

「んなドロドロした関係になるわけねーだろ、俺らちょー仲良いし」

「そうだな」

「はい、焔椎真くん」

「えーツッコミ所満載ですが時間も押しているので、さっそく朝ごはんの紹介をお願い致します！」

「はい、今日の献立はトマト、キュウリ、レタスのライ麦サンド、クレソンとセロリの豆乳ポタージュ、鶏肉ときのこのボリュームサラダです」

「こちらは洋風ですね！和食も洋食も完璧に作られる夕月さん！素晴らしいです、主婦の鏡、いえ、主婦の鉄人です！」

「そっ、そんなに褒められると照れてしまいます」

「トマトが入ってる…」

「焔椎真、好き嫌いするな。せっかく夕月が作ってくれたんだ」

「分かってるけどよー」

「焔椎真くんが食べやすいように糖度の高いフルーツトマトを取り寄せてみたんです。更に蜂蜜で少し味付けしてあるので試してみてください。皆さんもどうぞ」

「はい、もちろんいただきます！」

「夕月、俺の隣に。食べさせてあげる」

「あっズリー、じゃあ俺も愁生の隣～」

「ご主人の愁生さん、まさに両手に花状態です！新妻を二人もはべらす姿はアラブの石油王を思わせます！いやぁー羨ましい！」

「はい、夕月は紅茶でいい？」

「愁生～俺にも～」

「お前は妻なんだから俺に尽くせよ」

「夕月はいいのかよ」

「夕月は特別☆おいしい朝食のお礼に俺が尽くすの」

「なんだよ夕月ばっかり～俺を甘やかしてくれよ！」

「子供みたいな駄々をこねるな。まったく、お前が尽くすのはベッドの中だけだな」

「夜だっていっつも愁生がリードしてるじゃねえか、俺だってお前に献身的に尽くしたい！でもって、時々甘やかして欲しい！」

「だったらもっと自分を磨けよ。昨日だって×××の時に×××ー」

「あのー！何度も言いますが、全国放送ですから！朝のさわやかな番組コーナーですからー！」

「あ、あの愁生くんも焔椎真くんも落ち着いて」

「ああ、ごめん。下世話なことを言うものじゃないね。…申し訳ありませんがレポーターとその他の皆さん、お引き取り願えませんか？」

「えっ？でもまだお話が…朝食も頂いてませんし」

「お引き取りください」

にっこり。

「あ、あの。ご主人の笑顔が怖いのですが」

「俺はこれから出勤前に二人に“尽くさないと”いけないので。では」

ばたんっ。

がちゃり。


「えー‥三軒目のお宅から締め出されてしまいました。予想外の出来事も生放送の醍醐味ということで、ご容赦くださいませ。それでは四軒目のお宅訪問に参りたいと思います」

ぴんぽーん♪

「はーい、どちら様？」

　
「おはようございます！“突撃！隣の朝ごはん”です！あなたのお家の朝ごはん紹介してください！」

「きゃー☆いつも観てるー。まさか家に来るなんて！さあ、上がって上がって！」

「ありがとうございます！なんとも好意的なロングへアの美少女です！あなたのお名前は？」

「私、十瑚って言います。新婚でーす！」

「おーっと、こちらも新婚さん！なんと四軒連続新婚さんです！ご主人はどんな方なんですか？」

「やだー、旦那は私。奥さんは‥」

「十瑚ちゃん、少し遅くなってすみません。もうすぐ朝ごはん出来ますから」

「いいのよ夕月ちゃん、急がなくて。まだ出勤まで時間あるし」

「えっ…夕月ちゃんってまさか」

「あ、あれ？よくお会いしますね」

「やっぱり夕月さんだったー！！えっ、どういうことですか？この方の通い妻をしてらっしゃるんですか？」

「紹介します、私の最愛の奥さん、夕月ちゃんでーす！」

「ええ、よく知っております。もう聞かなくても大体分かりますが、十瑚さんの職業を教えて頂けますか？」

「私？祗王本社の受付嬢です！」

「そうでしたかー。もう詳しくはツッコミませんが、さっそく朝ごはんの紹介をお願い致します！」

「えー、それだけ？私話したいことたくさんあるのに～」

「それはおいおい伺いますので」

「あ、ごめんなさい。もう少しで出来るので待っててもらえますか？」

「私も手伝うよ！一緒にしよ、夕月ちゃん」

「ありがとう十瑚ちゃん。じゃあ、スムージーに飾る果物を切ってくれますか？包丁は危ないので気を付けてくださいね」

「任せて夕月ちゃん！」

「彩りが綺麗ですね！今日の献立は？」

「はい、今日の献立はキャラメル林檎ソースとメープルのフレンチトースト、ブロッコリーとレタスのサラダ、にんじんのクリームスープと新鮮採れたて野菜と果物のスムージーです。十瑚ちゃんは甘い物が好きなので栄養バランスが偏らないように気を付けています」

「ありがとう夕月ちゃん！夕月ちゃんのごはんのおかげで元気百倍、お肌ツルッツルッだよ！今日もすごくおいしそう！」

ぎゅーっ！！

「さすが新婚さんは密着度も高いですねー！では用意が整うまでの間、お二人の新婚生活についてお聞きしたいと思います！」

「もうなんでも聞いて、全国の皆に私の可愛い奥さんを自慢しちゃうんだから！」

「ご主人張り切ってますね！夕月さんには、他にご主人が三人もいらっしゃいますが、嫉妬なさったりしないんですか？」

「そりゃ夕月ちゃんを独り占め出来ないのは淋しいけど、夕月ちゃんは皆の夕月ちゃんだし…って、きゃー！！」

「十瑚ちゃん！？どうしたんですか！」

「いやーっ！私の嫌いなあれが、ゴキブリがーっ！」

「えっ？ああ、あれはゴキブリじゃなくてコオロギですね。都会にもいるんですね、めずらし‥」

「いやーっ！！」

ブンッ！

「と、十瑚ちゃん落ち着いて。包丁振り回したら危ないです！」

「ご主人、意外にも虫が苦手という可愛らしい弱点が！って、そんな場合じゃない！あーっ！ご主人の手から包丁が！」

ヒューン。

グサッ！

「あ゛ーっ！！」

ピーポーピーポー。

“しばらくお待ちください”


「えー。度々お見苦しい映像を放送してしまいまして申し訳ございません。次が最後のお宅訪問になります。今度こそまともなお宅…いえ、一般的な家庭に当たればいいなと、いえ！当たってください！それでは五軒目に行ってみたいと思います！四軒回って一度も朝ごはんを食べられていませんのでお腹ぺこぺこです！」

「あっ、こちらはお子様のいらっしゃるご家庭ですね、お庭に遊具があります！」

ぴんぽーん。

「はいはーい。どちら様なのー」

「おはようございます！“突撃！隣の朝ごはん”です！わあー、可愛いお子さんですねー。そのネコ耳カチューシャと飾りのしっぽがとってもキュートです！」

「むー。ソドム子供じゃないのー」

「そどむくんですか！そどむくん、お父さまかお母さまはいらっしゃいますか？」

「いるよー。ゆっきー！てれびの人だよー」

「…えっ…」

「ソドム？ああっ、またお会いしましたね。すごい偶然！」

「なっ、なんと。またまたまたまた夕月さんです！一体この方の朝の時間感覚はどうなっているのでしょうか！いえ、それよりも夕月さんにはもうお子さんがいらっしゃったんですね！下世話ですがどなたとの間のお子さんで！？」

「あ、いえ。この子はルカの前の奥さんの子です」

「なんと！一軒目の美形外国人の方は再婚ということですか！？なんと複雑な人間関係なのでしょう！驚愕の事実です、夕月さんとご主人でひとつのワイドショー、ひいては奥様中毒者続出昼ドラが出来上がってしまいます！」

「ねえねえゆっきー。ボクお腹空いたの」

「あ、ごめんねソドム。一緒に食べよっか。皆さんもどうぞ」

「ありがとうございます！あーやっと朝ごはんにありつけます。今日は全て夕月さんのお料理しか紹介していませんが、中身の濃さでカバーしております！それでは夕月さん、献立をどうぞ！」

「はい。今日の献立は、かぼちゃと林檎のパンケーキ、キャベツと玉葱のコールスローサラダ、にんじんとトマトのスープ、バナナとミルクのココアです」

「こちらはお子さま向けですね、栄養バランス満点、とってもおいしそうです！」

「むー、ソドム子供じゃないったら。ソドムはドラゴンだもん」

「お母さまと恐竜ごっこですか？楽しそうですね～」

「ごっこじゃないのー。今戻るからね」

「あーっ！ソドム駄目だよ、人前だから！」

「いえいえ～、では私に変身シーンを見せて頂けますか？」

「わかったの！‥うおおぉーー！」

「おーっと可愛い見た目に反して雄々しいおたけびですね！一体どんな恐竜の真似を……って、ええーっ！？」

バリバリバリー！！

「がおーっ！」

「わーソドム！戻って戻って！お家が壊れちゃうからーっ！」

「なっ、なんとテレビの前のあなた様、御覧頂けておりますでしょうか！奇跡です、特撮ではありません、本物のドラゴンが私の目の前に！」

「ソドムーっ！」

「ドラゴンが口から炎を吐き出しています！ってリポートしてる場合じゃない！こっちに来っ‥」

ビュオオオー！

「ぎゃーーっ！」

ピーッ。

ぷつん。

“しばらくお待ちください”


「黒刀～、朝ごはん出来たよ～」

「ああ、千紫郎。いつもの番組は今日はないのか」

「“突撃！隣の朝ごはん”？あれ、前回の放送で打ち切りになっちゃったんだって。すごかったよね、最後の映像。作り物にしてはよく出来てたし。いつも低視聴率なのにあの日だけ歴代二位の記録だったんでしょ」

「まあ当然だな。ろくにリポートもせずに特撮映像も混ぜ込むとは‥なにがしたいのか分からん」

「そんなこと言って～、黒刀いつも観てたじゃない。家にも来てくれればよかったのになあ」

「たまたまだ。あんな低俗な番組に興味などない」

「はいはい、そういうことにしておくよ。あ、あのリポーターの人もクビになっちゃったんだって。なんでも、世の無常を感じて出家して尼になるって言ってたよ」

「どうでもいい。それより千紫郎、今日の朝食はなんだ」

「んー、今日はねえ…」


おわり。