裏僕小説その2

とうじょうじんぶつ

姫  シュウセイ

王子  ルカ

妖精  1 ツクモ
    2 トオコ
    3 センシロウ

魔女  エレジー

魔女の手下 ソドム

王さま  正宗

お妃さま 椿姫


むかし、あるお城に王さまと王妃さまがおりました。

王さまは長らくしゅぎょうの旅に行っていたので、二人のあいだにこどもはいませんでした。

じっしつ王妃さまが、お城の権げんをにぎっていたのです。

二人は色いろありましたが、なんやかんやで子どもをさずかりました。

王子の名前はシュウセイ姫。

男の子でしたが、あまりの美しさに国民とうひょうで姫と呼ばれることになりました。

王妃さまは王子のたんじょうを大そうよろこばれ、せいだいなパーティをもよおしました。

国中の人びとが王子さまのたんじょうをお祝いしています。

国民だけではありません。

ようせいたちも、シュウセイ姫をしゅくふくにやってきました。

「おれはお菓子のようせいツクモ。おれからのお祝いは、どんな鳥にも負けない美しいうた声をシュウセイ姫にあげる」

ようせいツクモはまほうのステッキ・・ではなく、じゅうをかざしてシュウセイ姫にまほうをかけました。

「私はおしゃれのようせいトオコ!わたしからのお祝いは、スキンケアようぐ一式とファッションセンスをあげるね」

ようせいトオコはまほうの大けんをかざして、シュウセイ姫にまほうをかけました。

「おれは調味料のようせいせんしろうです。おれからのお祝いは・・・」

そのときです。

かん高い笑い声とともに、とてもけしょうの濃いまじょが現れました。

「おーっほっほっ!たのしそうなことをしているじゃないの?でもこの私にしょうたい状をわたさないとはどういうことかしら?」

「あんたみたいなまじょをしょうたいするわけないでしょうが!」

「ええーっ!まずいっすよつばきさん、あの人めっちゃ怒ってるじゃないすか!」

「あんたはだまってなさいマサムネ」

王さまと王妃さまが言い合いをはじめたので、むしされたまじょはおこりました。

「ゆるさないわよ!イイ男がいると思ってきてみれば、あおくさいガキと女ばっかり!わたしから呪いをかけてあげるわ!」

まじょはむちをふりかざし、さけびました。

「シュウセイ姫、あんたは十七才のたんじょうびに糸ぐるまのはりにゆびをさして死ぬわよ。そして、えいえんの眠りについたシュウセイ姫を私のものにしてあげる」

まじょは高らかにわらってさって行きました。

のこされたものたちは大こんらんです。

ですが、調味料のようせいがやさしくいいました。

「まだ俺のおくりものがのこっています。ほんとうは姫に調味料いっしょうぶんと、りょうりのうでをあげるつもりだったけど、へんこうします。シュウセイ姫は十七才のたんじょうびによげん通り糸ぐるまにゆびをさします。でも死にはしません。眠るだけです。シュウセイ姫はじゃあくな力をうちくだく者のくちづけで目をさますでしょう」

そう言って、ようせいセンシロウは大きなかまをふりあげ、まほうをかけました。

まじょの呪いをきいて、さっそく王妃さまは国中すべての糸ぐるまをもやすようにおふれを出しました。

国民たちはみなおふれにしたがい、この国から糸ぐるまはきえました。


それから月日はながれ、シュウセイ姫は美しくせいちょうしました。

そして、今日は姫の十七才のたんじょうびです。

「きょうは、あんたの十七才のたんじょうびね。なにかほしいものはないの?」

「特にありませんね」

「ええーっ!クールすぎっすよ。なにかないんすか?」

「じゃあ俺のことを姫というのはやめてください」

「それはムリ」

シュウセイ姫はわがままをいわず、多少クールにせいちょうしていました。

「まあとにかく、パーティは夜からだから、あんたはそれまでに仕事を終わらせなさい」

シュウセイ姫は召使いけん世話役のホツマをつれて、さっそく仕事にむかいました。

姫はその美しい声をいかして、せいゆうの仕事をしていたのです。

「あーあ。たんじょうびだってのにしごとかよ」

小さいころからいっしょだった召使いのホツマは、姫とあそびに行けなくてふまんそうです。

「しかたないだろ。さいきんいそがしいからな」

「まあお前の声が売れるのは俺もうれしいけどさ・・・あーよし!きめた!シュウセイ!きょうはしごとサボって俺とあそぼうぜ」

「はあ?いきなりなにを言い出すんだ」

あきれる姫にかまわず、ホツマはシュウセイ姫の手をとって走り出しました。

「たまにはいいだろ?今日はおまえのたんじょうびなんだからよ」

「まったく、あいかわらずごういんだな」

あきれながらも、姫はうれしそうでした。

召使いのごういんさは、きらいではなかったのです。

シュウセイ姫は、召使いにだけは心をゆるしていました。

「お前はいつも俺に光をくれるよ」

「ああ?なんか言ったか、シュウセイ」

「べつになにも。それよりどこに行くつもりなんだ?」

「へへっ、ひみつの塔だ!なんでも、あかずの間があるらしいぜ!わくわくするな」

「へえ。知らなかったな。そんなばしょがあったのか」

二人はお城のはずれにあるという、ひみつの塔にやってきました。

塔のさいじょうかいにのぼると、そこには赤い色のとびらがありました。

召使いが手でおすと、とびらはかんたんにひらきます。

「なんだよ、あいてんじゃん」

「ここはなんのへやなんだ?」

そのへやには、国からなくなったはずの糸ぐるまがありました。

「なんだ?これ」

糸ぐるまをみたことがない召使いは、ずかずかと近づきました。

「・・っだめだ!ホツマ!」

じゃあくな力をかんじとったシュウセイ姫は、糸ぐるまにふれようとしている召使いをとめました。

「!シュウセイ?」


なんということでしょう。

シュウセイ姫は召使いをたすけようとして、じぶんのゆびを糸ぐるまのはりにさしてしまったのです。

シュウセイ姫は、そのままふかい眠りについてしまいました。


「シュウセーー!!」


知らせをうけたお城の皆々は、こんらんしています。

「シュウセイ姫が死んじゃいましたよ!どーするんすかつばきさん!」

「おちつきなさい。今、ようせいたちをよんだから」

悲しみにくれる王さまと王妃さまのまえに、ようせいがあらわれました。

「いいえ、姫は十七年まえのおれのおくりもののとおり、ねむっているだけです。・・おれたちには、どうすることもできません。あとは、姫を目ざめさせてくれる者をまちましょう」

調味料のようせいが言いました。

「それまで国中の者をすべてねむりにつかせます。姫が目ざめたときに、いっしょに目をさますように、まほうをかけます」

「悪いまじょにじゃまされないように、お城じゅうをいばらでかこむね。だいじょうぶ、ひめを目ざめさせる者はかならずあらわれるから」

ようせいたちがかけたまほうで、国じゅうすべてのひとがねむりにつきました。

シュウセイ姫といっしょにいた召使いは、ひどく自ぶんをせめました。

召使いは、シュウセイ姫のかたわらでねむることをえらびました。



そして・・・月日がながれました。

この国に、ひとりの王子がやってきたのです。

かれの名はルカ王子。とおい国の王子です。

勇かんで、ぜつ大なまりょくをもつルカ王子は、いばらにかこまれた、ふしぎなお城があるといううわさを聞いてやってきました。

「ここか。いばらの城というのは」

「王子、おまちしておりました」

王子のまえに、三にんのようせいがあらわれました。

「なんだ、おまえたちは」

「おれたちはそれぞれ調味料、お菓子、おしゃれのようせいです。この城に勇かんな者がやってくるのをまっていました」

ろくなようせいがいねえな、と思いましたが、王子は口にはしませんでした。

「このお城にはわるいまじょに呪いをかけられた、うつくしい姫がねむっているの。おねがい、たすけてあげて」

「言われなくてもそのつもりだ。もう行く」

王子はそっけなく言いはなち、お城へとすすみました。

難なくいばらをかきわけ、姫がねむっているという、塔のさいじょうかいにたどりつきました。

するとそこには、姫に呪いをかけたまじょ、エレジーがまちかまえていました。

「あらななた、うつくしいとひょうばんの王子、ルカ・クロスゼリアじゃない。ひょうばんどおりイイ男。シュウセイ姫のぼうやもイイけど、あなたもすてがたいわあ」

王子をひとめで気にいったまじょは、王子をゆうわくしようとしました。


しかし、王子はまじょのゆうわくになど、のりません。

「おれはお前などにきょうみはない。さっさとそこをどけ。お前のようなけしょうのこい安っぽい女は、このみじゃないんでな」

「なんですって!わたしのものにならないのなら、死になさい!ゆるさないわよ!」

いかりくるったまじょは、むちをふりあげますが、王子にあっけなくかわされてしまいます。

「でんせつのドラゴンソドム!出ていらっしゃい」

まじょはじゅもんをとなえ、手下のドラゴンをよびだしました。

「がおおーー!!」

大きなドラゴンがあらわれ、王子におそいかかろうとしました。

しかし王子はよゆうの笑みをうかべています。

「おいソドム。おれはおまえをきずつけない。おれのけんぞくになれば、好きなだけ外であそばせてやる」

「はーいマスター!ぼくけんぞくになるのー」

ソドムはあっさりねがえりました。

「ありえないわよ!おのれっ、すかるでうす!出ておいで」

「むだだ」

王子はまじょのこうげきにもひるまず、ついにまじょエレジーをたおしました。


まじょをたおした王子はとびらをあけて、ねむる姫のもとに行きました。

となりでねむる召使いはむししました。


「・・・・ちっ」

ところが王子は姫のかおを見たとたん、したうちをして、きびすをかえしました。

あろうことか、ルカ王子はたすける姫をまちがえてしまったのです。

「・・おい、おきろ」

「ぐふっ!!」

王子はとなりでねむる召使いをけっとばして、目ざめさせました。

「いってえ!なにしやがんだ!・・ってだれだお前?」

「まちがえた。おれはもう行く」

「あっ、お前呪いをとくっていう王子だな!シュウセイがまだ目ざめてねえじゃねえか!なんとかしろよ」

「知らん。こいつの呪いなどどうでもいい。あとはお前がなんとかしろ」

王子はまじょをたおしただけで、さっさとお城から出ていってしまいました。

「そんなのありかよ!おれにどうしろってんだ」

ひとりだけ目がさめてしまった召使いは、うろうろと動きまわります。

そして、あることを思い出しました。

「そういや、ようせいのやつが、くちづけで目をさますって言ってたな」

召使いはシュウセイ姫のかおを見て、ごくりとのどをならしました。

「いや、これはべつにやましいきもちがあるんじゃなくて、あくまできゅうめいそちだ!は、はやくシュウセイを目ざめさせねえと・・」

ひとしきりつぶやいたあと、召使いはシュウセイ姫にかおを近づけました。

かおをまっかにして、くちびるを近づけます。

そして、あと少しでくちびるが・・・。


・・かさなりませんでした。

いつまでたってもくちびるにとどかず、だれかが召使いのむねをおしています。

おそるおそる召使いが目をあけると、シュウセイ姫が召使いを見つめていました。

「うわわあっ!!シュ、シュウセイ!お前おきてたのか?!」

シュウセイ姫はむくりとおきあがり、あきれたように召使いを見ました。

「ついさっきね。なんだか知らないけど呪いはとけてるみたいだし。・・で、お前はおれにナニしようとしてたんだ?」

「こ、これはちげーぞ!呪いをとくにはくちづけがひつようだって、ようせいが言ってたような、なかったような」

「そうかんたんに、おれのくちびるをうばえるとおもうなよ」

「ご、ごめんシュウセイ!」

召使いはそのばにどげざしてあやまりました。

「みすいだったからゆるしてやる。それより目がさめてよかったよ」

「ああ!ほんとうにしんぱいしたんだぜ。おれのせいで、お前をきけんな目にあわせちまったから・・・」

落ちこむ召使いに、シュウセイ姫はやさしく言いました。

「お前のせいじゃないよ。おれのとなりにずっといてくれたんだろう?ねむっている間、ゆめの中でお前がいっしょにいてくれるような気がしていたから、さみしくなかったよ。ありがとうホツマ」

「シュウセイ・・」

「さ、みんなもじきに目をさますだろう。行こう、ホツマ」

「ああ!」

シュウセイ姫はぶじに目をさまし、国じゅうのみなも目ざめました。

わるいまじょのいなくなったこの国に、へいおんがおとずれたのです。

召使いのホツマは、姫をきけんな目にあわせたせきにんをとり、一生シュウセイ姫の召使いでいるけいやくをむすびました。

姫のしごとのまねーじゃーも兼にんし、シュウセイ姫は売れっ子せいゆうとして、生がいにわたり、かつやくしました。

たすける姫をまちがえてしまったルカ王子も、となりのとなりの国で、おなじようにねむっていた姫をすくい出し、けっこんしてしあわせにくらしていると、かぜのたよりで聞きました。

こうしてシュウセイ姫と召使いホツマは、いつまでもなかよくくらしました。

   
「う・・ん」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

ふわりと何かが体に掛けられる感触がした。

夕月が瞼を上げると、すぐ傍に愁生の姿が在る。

「愁生くん・・?」

またも自分は眠ってしまっていたらしい。

ソファーから身を起こすと、柔らかなタオルケットが肩からはらりと落ちた。

「ごめん、よく眠っていたみたいだったから。こんな所で眠っていたら風邪を引くよ?」

「すみません・・これ、ありがとうございます」

ふと、隣を見ればタオルケットに包まったソドムが穏やかな寝息を立てている。

「僕、絵本を読む途中で寝ちゃったんですね」

「夢でも視てた?寝言を言ってたみたいだけど」

「夢?そういえば・・」

記憶の底をたぐり寄せようとするが、曖昧にしか思い出せない。

「愁生くんが・・お姫さまで・・」

「俺が?夕月の夢に出てきたの?」

ぷっ、と吹き出す愁生を見て、夕月が慌てた様に首を振る。

「す、すみません!お姫さまだなんて失礼ですね」

「いや、いいよ。俺が姫だったら、夕月が王子さまだったのかな。君の夢に俺も入ってみたかったな」

「それは分かりませんが・・。きっと眠る前に読んでいた絵本のせいですね」

二人はソドムが大切そうに抱えている絵本を見やった。

「眠れる森の美女か。懐かしいな」

「絵本まだ途中だったから、ソドムが起きたら続きを読んであげないと」

「優しいね、夕月は。・・あ、よだれ」

「えっ?あっ!駄目だよソドム。絵本がくっついちゃうよ」

ソドムの口端からたらりとよだれが零れ、絵本を濡らした。

二人は慌てて絵本を引き離す。

その頃にはもう、さっき視た夢の内容など頭から消えていた。

「きらきらさがすのー」

ソドムの幸せそうな寝言を聞きながら、午後の穏やかな時間が過ぎていった。
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