裏僕小説その2

とうじょうじんぶつ

おおかみ   いすず

母やぎ    ユキ

こやぎ  1 サイリ
     2 センシロウ
     3 シュウセイ
     4 リア
     5 クロト
     6 ホツマ
     7 トオコ
     8 ツクモ

父やぎ    ルカ

友人のおおかみ  タカシロ

むかし あるところに おかあさんやぎと 七・・八ひきの こやぎが しあわせに くらしていました。

ある日 おかあさんが いいました。

「ぼくは これから たんしんふにん から かえってくる おとうさんを むかえに いってきます しらないひとが きても ぜったいに ドアを あけないでくださいね わるいおおかみが みなさんを たべに くるかも しれません」

六ばんめの こやぎが とくいげに いいました。

「おおかみ なんて こわくねーぜ!もしきても かえりうちに して やるぜ!」

七ばんめの かみの ながい おんなのこの こやぎが しんぱいそうに いいました。

「そうよ! わたしたち よりも おかあさんの ほうが しんぱい だわ!」

八ばんめの ぎんいろの かみの こやぎも いいました。

「だれかに ついていって もらって おかあさん」

みんなは おかあさんが だいすき だったので くちぐち にしんぱい しました。

おかあさんは じーんと むねが あつく なりました。

「ありがとう みんな でも おかあさんは だいじょうぶ いいこで まっていて くださいね」

「みんな おかあさんを こまらせるな ひさしぶりに おとうさんが かえってくるのに こどもが いたら じゃま だろうが」

一ばんめの こやぎは 大人びていて 気を つかう 子でした。

こやぎたちは しぶしぶ へんじを して おかあさんを みおくりました。
この ようすを しげみの 中から みていた おおかみは、

「ふははは ははやぎが でかけたぞ さあ 今のうちに じっけん・・・じゃない 子やぎを みんな くってやる」

と ふくみわらいを しました。

おおかみは さっそく 子やぎの いえの ドアを たたいて あかあさんやぎの こえを まねして いいました。

「ただいま おかあさん ですよ ドアを あけて くれますか」

「おっ、もう おかあさんが かえって きたぜ!」

六ばんめの こやぎが ドアをあけようと しました。

「おまえは ばかか こんなに はやく かえって くるわけ ないだろう」

五ばんめの かみの くろい こやぎ が あきれた ように いいました。

「だまされるな ホツマ おかあさんの 声はもっと かわいいだろう あんな へんたい じみた おっさん みたいな こえじゃない」

三ばんめの こやぎが れいせいに いいました。

「そうよ!あなたは おおかみ でしょう!ぜったいに ドアを あけないわよ!」

四ばんめの おんなのこの こやぎが さけびました。

「そうだね、おおかみ だったら ようしゃしないよ」

二ばんめの めがねを かけた こやぎが ひくい こえで いいました。

「あーあ くそう ばれてしまったか なにか いい かんがえは ないものか おっ そうだ アイツに そうだん してみよう」

おおかみは ゆうじんの おおかみの もとへ むかいました 
「ふうん こやぎをねえ ・・・」

ゆうじんの おおかみは とても ながく 生きていて いろいろな ことを しっていいます。

おおかみが そうだん すると ゆうじんは チョークを さしだしました。

「あん? なんだこれ 」

「これを たべれば かわいい こえに へんしん するよ」

おおかみは さっそく チョークをたべました。

すると たちまち おかあさんやぎに そっくりの こえが でました。

おおかみは もういちど こやぎたちの 家に いきました。

「おかあさんですよ あけてくれますか かわいい こやぎたち」

「おい!こんどは ほんもの だぜ!」

六ばんめの こやぎが ドアを あけようとしました。

「おまえの あたまは やぎじゃ なくて さるだな ドアの したを みろ あしが まっくろで どうみても おおかみ だろうが」

五ばんめの こやぎが そういうと みんなも、

「わたしたちは だまされないわよ かえれおおかみ!」

と くちぐちに いいました。

「ちっ しっぱいか!」

おおかみは もういちど ゆうじんの ところに いきました。


「おい タカシロ ぜんぜん だめだったじゃ ねえか」

「きみの やりかたが わるいんだ こんどは この しろいこなを つけて まっ黒な あしを かくすんだ」

いわれた とおりに こなを ふりかけ おかあさんやぎの ような まっ白な あしにしてしまいました。

かわいいこえと しろいあしに なった おおかみは こやぎたちの 家に むかいました。

「おかあさんですよ あけてくださいな」

「おっ!こんどこそ ほんものの おかあさんだぜ! みろよ あしも まっしろだ!」

六ばんめの こやぎが ドアをあけようと しました。

「がくしゅうしろ ホツマ おまえは ほんとうに ばかだな ・・・いや もういい」

しばらく 家の なかが しーんと しずまりかえりました。

ふしぎに おもった おおかみは もういちど こえを かけます。

「もしもーし おかあさん ですよ? あけてくれないのかなー」

「いま あけます おかあさん」

こやぎたちは ドアを あけました。

おおかみは ニヤリと わらい ドアがあいた しゅんかんに こやぎたちに とびかかろうとしました。

「ウオーッ! ふははは! おまえたちを たべてしまうぞ ・・・って あれ?」

こやぎたちは ぶきを かまえて おおかみを まちかまえていました。

「しつこいんだよ おまえ ぼくたちが おまえの ばかな さくに ひっかかる わけないだろう」

こやぎたちは おおかみの しょうたいを ひとりを のぞいて みぬいて いました

「えっ? これ ちょっと おかしくない?かわいい こやぎが ぶきなんて もってちゃ だめだろう」

「もんどう むようだ! よくも おかあさんの まねなんか しやがって  マスターストローク!」

「ちょっ! まった! ぎゃあーー!!」

こやぎたちは おおかみを ぼこぼこに してしまいました。

こやぎたちは とっても つよかったのです。


そのころ ゆうじんの おおかみは おかあさんやぎの ところに むかっていました。

こやぎたちの 家に いった おおかみは おとりで ゆうじんは おかあさんやぎを ねらっていたのです。

「まあ あいつが やくに たつとは おもって いないが すこしの あいだ こやぎたちと あそんで もらえば それで いい もんだいは・・・ちちおやのやぎだな」

おとうさんやぎは とても つよいので どうやって おかあさんやぎを てに いれるか あたまを なやませて いました。



またそのころ おかあさんやぎは たんしんふにんから かえってきた おとうさんやぎと 家に むかって いました。

「ルカ おしごと どうでした?」

「もんだいない あいつらは きちんと るすばん しているか?」

「うん、みんな いいこ だからね でも おおかみが しんぱい だから はやく かえらないと」

「あいつらは ほうっておいても だいじょうぶだ それよりも・・・あいたかった ユキ」

「えっ?・・・ルカ・・」

おとうさんやぎと おかあさんやぎが よりみちを している あいだに ゆうじんの おおかみは こやぎたちの 家に むかいました。


しばらくして ながい よりみちから 二ひきが かえると 家のなかは めちゃくちゃでした。

かわいい こやぎたちの すがたも きえてなくなっています。

「ああ どうしよう おおかみに たべられたんだ」

おかあさんやぎが なきながら こやぎたちの なまえを よんでいると ソファの かげから 六ばんめの こやぎが きずだらけで でてきました。

「しっかり してください ホツマくん!」

「あいつらが・・つれていかれた・・おおかみに」

「そこに たおれている おおかみは なんだ」

「そいつじゃ ねえ・・とてつもなく つよい おおかみだ・・たすけに いかねえと」

「だめです ホツマくん!」

「まだ ちかくに いるかも しれない おれが みてくるから おまえは ホツマを たのむ」

「はい ルカ! きを つけて」

おとうさんやぎは おおかみをたいじしに 家を ででいきました。

のこされた おかあさんやぎは こやぎの てあてを します。

そのとき どこから あらわれたのか おおかみが すがたを あらわしました。

「ふふ・・まっていたよ ユキ」 


「お オオカミ! みんなを かえして ください!」

おおかみは おかあさんやぎに じりじりとせまって きました。

「ああ かえすとも そのかわり ユキが わたしに たべられたらね・・・いろんな いみで」

「おかあさん にげろ!」

せんとうのうりょくの ない おかあさんやぎは にげずに ひっしに こやぎを まもろうと します。

「にげないのかい? きみの そんなところも かわいいね」

「にげません ぼくは みんなの おかあさんだから」

おかあさんやぎは つよい ひとみで おおかみを にらみました。

「たまらないよ ユキ ますます きみが ほしくなった」

おおかみの てが すぐ そばまで せまったとき おおきな しょうげきはが おおかみを おそいました。

おおかみは かるく こうげきを かわし ドアの ほうに めを むけます。

「やれやれ じかんかせぎにも ならなかったな」

「おおかみ てめえは おれが たおす」

おかあさんやぎに てを だされ もどってきた おとうさんやぎが さついを むけていました。

「た~か~し~ろ~」

こやぎたちに たおされた おおかみが うらめしそうに ゆうじんの あしを つかんで いました。

「おれ たおされた いみ なかったじゃ ねえか」

「はあ まったく やくたたずめ しかたない きょうの ところは ひきあげるよ また くるからね ユキ」

そういって おおかみは たおれた おおかみを ひきずって あっさり かえって いきました。

「なんなんだ あいつは・・」

さらわれた こやぎ たちも ぶじに もどりました。

けがを した 六ばんめの こやぎは しばらくの あいだ おかあさんを ひとりじめして みんなの はんかんを かっていました。

「ぼくは もっと つよく なります ルカも こどもたちも まもれる ように」

「おかあさんは ぼくたちが まもります」

「でも、この おはなしでは おかあさんが おおかみを たいじする・・はずなんですが」

「こういう けつまつも いいんじゃない?おかあさんは いつも ぼくたちを まもってくれてるよ」

けついを あらたに した おかあさんに こやぎたちは いいました。

わるい おおかみは ひとまず いなくなり へいおんが おとずれました。

おかあさんの つよさと やさしさで こどもたちを すくう ことが できたのです。

八ひきのこやぎと おかあさんやぎと おとうさんやぎは きずなを ふかめ いつまでも しあわせに くらしました

          

「・・・キ・・ユキ・・」

誰かに肩を揺さぶられ、夕月は意識を覚醒させた。

「・・・う・・ん・・ルカ?」

ぼんやりと瞼を上げれば、ルカが夕月を覗き込むようにして見下ろしている。

眠っていたベッドから身を起こすと、服に汗がじっとりと張り付いていた。

「大丈夫か、少しうなされていたようだが」

「そう・・なの?」

確かに、今まで夢を視ていた気がするのだが、よく思い出せない。

「悪い夢でも視たのか?」

「ううん、そうじゃないけど。起こしてくれてありがとう、ルカ」

「いや・・大丈夫なら良かった」

笑顔を見せる夕月に、ルカも安堵の表情を見せる。

「ゆっきー!」

ふと、自室に向かってくる足音と共に、ソドムの明るい声が聞こえた。

すぐに扉が開き、ソドムが勢いよく自室に飛び込んでくる。

「ゆっきー、昨日の続きー!ご本読んでー!」

「ソドム、夕月は疲れている。もう夜も遅いから明日にしろ」

夕月の体調を気遣ってか、ルカがソドムを窘めた。

「僕は平気だよ、目も覚めちゃったしね。おいで、ソドム」

夕月が手招きすると、ソドムは嬉しそうに夕月のベッドへと潜り込む。

「悪いな、夕月」

「ううん、ルカも良かったら聞いていく?」

ルカもベッドの端に腰掛け、夕月の声に耳を傾ける。

夕月は絵本のページを捲り、昨日の続きから読み始めた。

「七匹の子ヤギは、狼の・・・」

夕月の穏やかな声音が辺りを包む。

読み進める内に、夕月の夢への違和感は取り払われ、静かに夜は更けていった。
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