笛!
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一歩居酒屋から出て扉が閉まると、あれだけ騒々しかった声が遠くなった。ため息をひとつ吐いてから、火をつけた煙草を咥える。
「おい」
「いたの?」
吸い込んだ煙が肺に落ちるのを待ってから、三歩分の距離を空けて立っている先客を見た。眉間に皺を寄せて気だるそうに白煙を吐き出す姿がやけに色っぽくて腹が立つ。
「チッ、気づいてんだろ」
「自惚れないでよね。こういうとき男と目が合うと面倒なこともあんの」
「そうかよ」
言葉を交わしても一歩も縮まらない距離は、まるで私たちのようだ。二週間前には三上の裸まで見たというのに、今着ている服を見たのも初めてで、そんな些細なことに傷ついている自分が嫌だ。絶対に好きにならないと決めて流されたのに、最近は自分で引いた線を無意識のうちに超えてしまいそうで怖かった。
――だって、口も態度も悪いくせに誰より努力する三上の背中を知っていた。知らなかったのは口調とは裏腹に優しく触れる指先と、いつの間にか冷蔵庫で冷えていた私好みのビール。それから三上の一言で簡単に背中を押されてしまう自分だ。学生の時に抱いた淡い恋心なんか簡単に仕舞い込めると思い込んで、あと少しだけなら誤魔化せると思ったのが間違いだった。
もったいないけど仕方がない。つけたばかりの火を消そうと腕を伸ばした瞬間に、三上が真っ直ぐ私を見た。目を逸らすことも動くこともできずにいると三歩分の距離はあっという間に近づいて、それだけで速くなった鼓動を隠すように俯く。
「なに?」
「どこ行くんだよ」
「え?」
「まだ残ってるだろ」
「あー、トイレ」
咄嗟に誤魔化してから火を消して、吸い殻を携帯灰皿に差し込む。背を向けて歩き出そうとした私の腕を三上が掴んで引き止めた。後一秒でもそばにいたら、きっとダメになってしまう。だからもう会いたくない。二人でなんて話したくない。そう思って避けていたのに、触れられた場所がジンと痺れて、久しぶりの熱に胸が勝手に震えた。
「戻るから離して」
「……お前、最近俺からの連絡無視してるだろ」
「忙しかっただけだって」
「チッ、すぐ分かる嘘つくんじゃねえよ」
「……別に嘘ってわけじゃない」
「……あのな」
数秒の沈黙の後、掴まれた腕を強く引かれる。思わずよろけた背中を三上が抱きよせた。何回もセックスしたのに、これだけの触れ合いにどうしていいか分からずに体が緊張で固まる。
「ちょっと、なに……」
「聞けよ」
耳のすぐ後ろ、いつになく余裕のない声に緊張が高まっていく。抱き寄せられて近づいた三上の心臓の音が、夜の喧騒に混じって聞こえる。いつもより速い鼓動にもしかしたらって期待と、そんなわけがないって不安がないまぜになって足元がぐらぐらと揺れた。
「三上、ねえ」
いつまでも続かない言葉に名前を呼ぶのと同時に、居酒屋の扉が勢いよく開く。
「あーっ! ようやくくっついたんっスね!? もう三上センパイ時間かかりすぎ!」
「は?」
雰囲気をぶち壊すテンションで大声が夜空に抜けていく。社会人数年目、体力が衰え始めてピクリとも動けずにいる私たちの間にスキップで割り込んだ藤代が片手ずつを掴んで、そのまま空に掲げた。
「三上センパイの中学時代からの片思いが実った記念! バンザーイ!」
「おい」
「いたの?」
吸い込んだ煙が肺に落ちるのを待ってから、三歩分の距離を空けて立っている先客を見た。眉間に皺を寄せて気だるそうに白煙を吐き出す姿がやけに色っぽくて腹が立つ。
「チッ、気づいてんだろ」
「自惚れないでよね。こういうとき男と目が合うと面倒なこともあんの」
「そうかよ」
言葉を交わしても一歩も縮まらない距離は、まるで私たちのようだ。二週間前には三上の裸まで見たというのに、今着ている服を見たのも初めてで、そんな些細なことに傷ついている自分が嫌だ。絶対に好きにならないと決めて流されたのに、最近は自分で引いた線を無意識のうちに超えてしまいそうで怖かった。
――だって、口も態度も悪いくせに誰より努力する三上の背中を知っていた。知らなかったのは口調とは裏腹に優しく触れる指先と、いつの間にか冷蔵庫で冷えていた私好みのビール。それから三上の一言で簡単に背中を押されてしまう自分だ。学生の時に抱いた淡い恋心なんか簡単に仕舞い込めると思い込んで、あと少しだけなら誤魔化せると思ったのが間違いだった。
もったいないけど仕方がない。つけたばかりの火を消そうと腕を伸ばした瞬間に、三上が真っ直ぐ私を見た。目を逸らすことも動くこともできずにいると三歩分の距離はあっという間に近づいて、それだけで速くなった鼓動を隠すように俯く。
「なに?」
「どこ行くんだよ」
「え?」
「まだ残ってるだろ」
「あー、トイレ」
咄嗟に誤魔化してから火を消して、吸い殻を携帯灰皿に差し込む。背を向けて歩き出そうとした私の腕を三上が掴んで引き止めた。後一秒でもそばにいたら、きっとダメになってしまう。だからもう会いたくない。二人でなんて話したくない。そう思って避けていたのに、触れられた場所がジンと痺れて、久しぶりの熱に胸が勝手に震えた。
「戻るから離して」
「……お前、最近俺からの連絡無視してるだろ」
「忙しかっただけだって」
「チッ、すぐ分かる嘘つくんじゃねえよ」
「……別に嘘ってわけじゃない」
「……あのな」
数秒の沈黙の後、掴まれた腕を強く引かれる。思わずよろけた背中を三上が抱きよせた。何回もセックスしたのに、これだけの触れ合いにどうしていいか分からずに体が緊張で固まる。
「ちょっと、なに……」
「聞けよ」
耳のすぐ後ろ、いつになく余裕のない声に緊張が高まっていく。抱き寄せられて近づいた三上の心臓の音が、夜の喧騒に混じって聞こえる。いつもより速い鼓動にもしかしたらって期待と、そんなわけがないって不安がないまぜになって足元がぐらぐらと揺れた。
「三上、ねえ」
いつまでも続かない言葉に名前を呼ぶのと同時に、居酒屋の扉が勢いよく開く。
「あーっ! ようやくくっついたんっスね!? もう三上センパイ時間かかりすぎ!」
「は?」
雰囲気をぶち壊すテンションで大声が夜空に抜けていく。社会人数年目、体力が衰え始めてピクリとも動けずにいる私たちの間にスキップで割り込んだ藤代が片手ずつを掴んで、そのまま空に掲げた。
「三上センパイの中学時代からの片思いが実った記念! バンザーイ!」
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