五章
貴女のなまえは?
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面会が出来ないならと、フクロウ便が次から次へと届いて、封筒に入った大きな手紙から、小さなメモ、ちょっとしたお見舞いのお菓子までどっさりあったのだが、
「治療に差し支えます!明日になさい!!」
と、没収されてしまった。
「ふう、することが無いから疲れないし。夜も眠れないのかな・・・」
睡眠薬をもらうことにしようと、呑気に考えていたのは夕飯の後、寝る前の読書中だった。
ホーーーー・・・
静かな部屋にフクロウの声が、一筋の線のように届いてきた。
自分以外の患者は今夜は居ないようで、しんと静まり返っていたので、小さな声でもひどく鮮明にシオンの耳まで届いた。
夜の闇なので辺りは当然暗く、ろうそくと柔らかな魔法の明かりだけが部屋を照らすが、それもあと数分で消灯時間なので、ぱっと暗くなるだろう。
鳴き声のする方へ視線を送ると、入口の方から何か小さいものが飛んでくるのがぼんやり暗闇の中から浮かんで見えた。
徐々に大きくなって大きく羽ばたくのが見えて、見覚えのあるフクロウが驚くシオンのベッドの足元に着地した。
黒曜よりは大分の大きめの凛々しい耳をしたワシミミズクだった。
「あなた、ドラコのフクロウ・・・どうしたの?」
包帯で覆われているせいで、片目しか今は見えていないシオンだ。
片目からの情報を頼りにすると、フクロウが何かを咥えていることはわかった。
しかしそれが何かは暗いのも手伝ってわからない。
問いかけると、フクロウはじっとシオンを見つめた後、ふわりと一瞬で飛び上がった。
トサッ
ほんの微かな音と、手の中になにかが落ちる感覚。
見ると、茶色い紙でくるりとくるまれた何かが落ちている。
羊皮紙をクシャクシャにしたような紙だが、ホグワーツではサンドイッチやパンをくるむのによく使われているものだ。
少しだけ視線をあげると、フクロウがすぐそばに居て、まるで“撫でろ”とでも言うように胸を張って待っていた。
「・・・くすっ」
シオンは思わず出る笑いを我慢できず、ミミズクの首の下を優しく撫でた。
目を細めてされるがままの姿はとても可愛くて、シオンはもっと笑った。
「そういうところ、飼い主によく似てるのね、あなた」
意味を理解したのか、ミミズクはふいっと首を90度回転させてそっぽを向いた。
その仕草もシオンの笑いを誘った。
シオンは落とされた包みを拾い上げた。
ふわりとチョコレートの香りが、包みを動かすたびに漏れて漂ってくる。
「チョコレート??」
中を広げると、大きな板チョコを数枚折って食べやすくした欠片が3枚入っていた。
ハリーがディメンターに襲われたときに食べたチョコと似ている。
多分晩餐の席にあったチョコレートをその場にあったナフキンでくるんでくれたのだろう。
「・・・・・・・」
チョコをじっと見つめた後、シオンは包みを広げて左右裏表確認したが、何も書かれていない無地だった。
(チョコレート食べて・・・元気出せ・・・とか?)
この三つのチョコレートに彼なりのメッセージが、込められていることがシオンにはなんとなくわかった。
疲れている時にチョコレートを食べると元気になるのは、魔法界でも共通なのかと、シオンは一つ学んだ。
(チョコレートって、昔完成するのにずいぶん時間がかかったのよね。なんか、薬に似てるかも)
一つ持ち上げて、かじってみる。
「・・・おいしい」
不思議といつも食べているチョコレートより、何倍も美味しかった。
それだけ、自分は疲れているのかもしれないと、シオンは初めて気づいた。
パキッ パキッ
静かな医務室にチョコレートの小気味いい咀嚼音が聞こえる。
あっという間に食べきってしまった。
少しずつ、体が温まってくるような気がした。
「ありがとうって、ドラコに伝えてくれる?」
にこっとミミズクに話しかけると、食べるのを見届けて役目を終えたように、くるりと飛び立って医務室を出ていったのだった。
「・・・治ったら、何かおやつあげようかな」
もちろんあのワシミミズクに、である。
「・・・今日は疲れたから、よく眠れそう」
シオンはそのまま横になって、目を閉じるのだった。
一部始終を見ていた壁の絵たちが、一人残らず微笑みながら寝息を立て始めるシオンを見守っていた。
そして翌日、安静にするために一日中することのないシオンはひたすら届いた手紙と本を読み、見舞いの品として届いたお菓子やおもちゃ(主に双子より)を眺めながら、お茶とともにゆっくりと消費するのだった。
(一人じゃ食べきれないから、半分は日本に送っちゃおうかな)
