四章
貴女のなまえは?
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「~~い、おいっ!」
「?!え?・・・あ~、はい」
「と、とりあえずダイアゴン横丁へ行こう。僕のマントじゃ大きすぎるだろう」
「でも、買ってもらうなんて悪いし」
断ろうとしてマントを脱ごうと前を広げたシオンの手を掴んで、ドラコはもう一度合わせるように彼女の胸元に押し付けた。
「いい。父上からの申し出だ。行かなかったら僕が叱られる」
そう言うと、ついてこいといってさっさと後ろを向いて歩き出した。
「まっ、待って」
話を聞いてもらえないので、とりあえずシオンも慌てて後を追うことにした。
しばらく歩くと、さほど遠くない路地を進んで、開けた明るい通りに出た。
見慣れた魔法使いが行き交う景色に、シオンはほっと胸を撫でおろした。
「盛れ鍋はどっち?」
「右だな。その前にこっちだ」
すぐさまそちらに右に向かおうとしたシオンの手を掴み、ドラコは反対の左へ進みはじめた。
「ちょっとドラコ!」
「黙ってついてこいっ!」
慌てる間もなく、目的の店はすぐそこだった。
そこはホグワーツの制服を仕立てるマダム・マルキンの店ではなかった。
もっと大人向けの、いかにも上質なものがそろっていると、イギリスの衣類は見慣れないシオンでもわかった。
黒や白などのシックなものから、派手な色のマントやローブ、ドレスにシャツ、店中が洗礼されたデザインで、お客もごった返していることもなく落ち着いた雰囲気だ。
「こっちだ」
固まるシオンを、マントが掛けてある棚まで連れていく。
「ここで好きなのを選べ。・・・それは返せよ?」
「どうして?あなたのお父さんも、グリフィンドールの私に親切にしてくれるのよ」
シオンの問いにドラコは一瞬虚をつかれたように固まり、ゆっくりシオンから視線を逸らした。
「僕も不思議さ。あんな父上は見たことがない。お前の母親は、スリザリンだったのか?」
「そんなわけないでしょう?グリフィンドールだったって聞いてるわ!」
「だろうな。お前みたいなどんくさい奴が、スリザリンに選ばれる訳がない。」
「どんくさくなんてないでしょ?集中力が必要な魔法薬は、学年で一番のはずよっ!」
「それだけじゃないか。箒にも乗れないし、よく石段に躓いて転びかかっているのはだれだ?」
「え?どうして知ってるのよ」
「・・・・・・」
「ドラコ?ねえ「これがいいんじゃないか?」
言い募ろうとするシオンの前に、深いダークブルーのマントが渡された。
触り心地がよく上品なデザインで、明るい色の浴衣を着ている今のシオンにはちょうどいい色だった。
「素敵ね。でも、本当にいいの?」
「くどいぞ。僕に恥をかかせる気か」
有無を言わさず、マントを渡され、断るのも申し訳なくなり、シオンは今着ているドラコのマントを脱いで渡し、代わりに新しいマントを受け取った。
「それじゃあ、今度なにかお礼をさせてよ」
「そんなもの、必要ない。」
「いやだ!私が嫌なの。貴方こそわたしに恥かかせないでよね。約束よ!」
「礼と言っても・・・何をする気だ?」
「え~っと・・・何か頼み事、一つ聞いてあげる!だから決まったら、裏庭に来て?」
「え?」
「ね?約束よ!」
「・・・・・・わかったよ。イズミ」
渡されたマントはシオンによく似合っていて、ドラコは自然と口元が緩む自分に気が付かなかった。
「その頼みごとが決まらないと、裏庭には行ってはダメなのか?」
「え?あ・・・そういうことじゃないけど・・・」
「じゃあ、また行く。そのうち・・・」
「うん。あ、これ一つあげる」
「?」
シオンは思い出したように、今まで大事に持っていた紙袋から、小さなりんご飴を取り出してドラコに差し出した。
「キャンディーか?」
「りんご飴っていうのよ。中に本物のりんごが入っているの。夏の屋台でしか食べられないんだけど、美味しいから食べてみて?じゃあね!」
「あ、ああ」
こうして二人は店の前で別れた。
シオンは新しい上質なマントを着て、盛れ鍋へと足取り軽く向かっていった。
ドラコも、シオンの後ろ姿が見えなくなるまで見つめ続け、盛れ鍋に入るのを確認すると、踵を返して父親の元へ帰っていくのだった。
片手に握っているりんご飴を、なんとなく傷つけたくなくて傾けないように真っすぐに持ちながら。
新学期が待ち遠しい、三年生への期待に胸を膨らませる夏休みだった。
