三章
貴女のなまえは?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
シオンは受取った紙袋を片手に小走りで自宅へ急いだ。
神社の敷地内に建つレンガ作りの三角屋根の家が、シオンの自宅だ。
住んでいるのはシオンと両親だけ。先代にあたる祖父母は存命だが、引退した後はクルーザーで世界一周の旅に出ていたりして、実質この家にはもう住んでいない。
財産も代々受け継いできたものがまだまだ使いきれないほどあるため、この期に思いきり豪遊してしまおう!というのが最後に顔を見た時の言葉だった。
まあ余談はいいとして、この神社の敷地には似つかわしくない洋館の建物は、もちろんシオンの両親が建てたものだった。
中に入って奥に進むと、下へ向かっている階段がある。
地下室が存在するのだ。
その先には落ち着いた暖炉のついた談話室のような場所があり、そこには人が入れるくらいの大きな暖炉がある。
滅多に人は入らず、暖炉して冬は重宝され、ここでよく温まりながらテレビを見たり本を読むのがシオンのお気に入りだった。
今は夏なので炭は無くきれいに掃除されている。
これなら入っても浴衣が汚れる心配はなさそうだと、シオンは安心して中に入った。
そしてくるりと振り向き、陰に隠れている小さな鉢の中の粉を一握り掴んだ。
フルーパウダーである。
あまり使った回数はないが、失敗したことはないので心配はしていなかった。
お使いの紙袋をしっかり持って、ふうっと深呼吸を一つ。
(えっと、盛れ鍋、盛れ鍋。)
心の中で移動する場所の名前を復唱する。
発音をしっかりすること。
母に言われた注意点はしっかりと覚えている。
「よしっ、漏れなっ・・ひゃっ!!」
思わず大きな声が出てしまった。
何故なら突然目の前に蜘蛛が下りてきたから。
+ + + + + + +
視界がぐるぐる回って、気付いたら何処かに投げ出されてしまった。
ドシンっ
「いったたぁ~‥」
埃の匂いがする空間に尻もちをついたせいで、お尻が汚れてしまったと思ったが、真っ逆さに落ちて浴衣が汚れなかっただけ良かったかもしれない。
フルーパウダーは行き先を正確に言わないと、何処に飛ばされるかわからない。
まず目的地にはよっぽどじゃないかぎりたどり着けないらしい。
去年、ハリーがロンの家からダイアゴン横丁へ行くのに失敗して、ノクターン横丁の何処かの店に飛ばされた話を聞いといてよかった。
初めてのことでも知識が有るか無いかで、不安も全然違う。
辺りは薄暗くて、何処かの家の暖炉に出てきたみたいだった。
暖炉の掃除がされていなくて炭があったおかげで、尻もちをついてもそこまで痛くなくて助かった、とシオンは冷静に考えることができていた。
「・・・ここは何処かしら」
辺りを見回すと薄暗い、埃っぽい部屋なのはわかった。
調度品が少し飾ってあるが、どれも黒くてなんだか不気味で。
家具も、まるで魔物の手足のような飾りが施されている。
シオンは正面に見える窓に近づいた。
どうやらここは2階らしく、下を疎らに黒尽くめのマントに身を包んだ人が足早に往来している。
魔法使いは皆ローブやマントを着ているから黒いのは不思議じゃないが、普段見る魔法使いより人相が険しく、外も薄暗い。
「ここは、ノクターン横丁?」
疑問で口にしてみたが、ほぼ間違っていないだろうと、シオンの感は告げていた。