*人間失格
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「いいのかい?放っておいて。」
棒付きのソーダアイスを片手に、曇天の映る窓辺でそう言ったのは与謝野さんだった。
問いかけられた太宰さんがひゅ~と口笛を吹くと、与謝野さんはわたしに向かって肩を竦める。
「ただいま戻りましたー。」
「お帰り賢治。降られちまったね。」
「はい、帽子の中に雨水が溜まりました!」
網目が崩れかけている麦わら帽子を背中に見やって賢治くんが言った。
外回りへ出かけた頃は晴天だったのに、今は土砂降り一歩手前の雨だ。
「あの人、大丈夫でしょうか。」
ハードカバーの本を抱きしめて、窓辺に向かったのは敦くん。
目線の先には、向かいのお店の日よけ下で佇む女性の姿があった。
思えば、七夕ってのはだいたい梅雨時期で、もしかして神様はそれを知っていてこの日を設定したんじゃないかと考えたことがある。
彼女も、あの雨の向こうに彼がいると信じているんだろうか。
太宰さんに心をとられる女性は少なくないけど、浮わついたところを感じさせない待ち姿に、密かな焦りを抱いてわたしは口ごもった。
「う……ん、どうだろう。」
敦くんにそう返したけど。
心の中はきたない思いばかりでとても言えたものじゃないから。
彼女の薄いワンピースが、遠目に見ても濡れていた。
日よけで防ぎきれない雨粒が風に乗って。
「僕、傘渡してきますっ、」
「敦くん…。」
敦くんが駆けてゆく。
しばらくすると、差し出された傘に彼女は驚いた反応を見せた。
あの子、きっといい子なんだろうな。
ビルのエントランスで密かに待つことも出来るのに、向かいの、今はちっとも開かない陶器店の軒下で静かに立っているのだ。
「………太宰さん。いいんですか。」
「うん?」
仕事が終わるまで、きっと彼女は待ち続けるだろう。
罪悪感を背負って生きるのは出来れば避けたい。
そんな自分勝手できたない理由で、本心なんて1ミリも含まない問いかけが出た。
今はソファにだらりとしている太宰さんの、閉じていた目がうっすら開く。
見ているのはわたしじゃない。
床の、どこか。
ううん、と体を伸ばして、
「中途半端な事はしたくないし、それに、」
そこまで言うと太宰さんはふわぁと欠伸をした。
涙の滲んだ瞳がくるんと揺れる。
「互いに逢いたいと思っていれば、天の川は自然と現れるものさ。」
「それって……。」
太宰さんにはもう…。
「戻りました!太宰さん、あの女性、帰りましたよ。」
「ふーん。」
え、と言いかけた声を飲んで窓辺に寄る。
確かにあのワンピースの女の子は日よけの下から消えていた。
「……太宰さんに届く星の川、か。」
誰なのだろう。
暇を持て余した太宰さんが敦くんにくすぐりを始めた。
わたしの呟きは敦くんの悲鳴にかき消される。
雨が上がり始め、灰色の雲が少し、まぶしく思えた。
*
棒付きのソーダアイスを片手に、曇天の映る窓辺でそう言ったのは与謝野さんだった。
問いかけられた太宰さんがひゅ~と口笛を吹くと、与謝野さんはわたしに向かって肩を竦める。
「ただいま戻りましたー。」
「お帰り賢治。降られちまったね。」
「はい、帽子の中に雨水が溜まりました!」
網目が崩れかけている麦わら帽子を背中に見やって賢治くんが言った。
外回りへ出かけた頃は晴天だったのに、今は土砂降り一歩手前の雨だ。
「あの人、大丈夫でしょうか。」
ハードカバーの本を抱きしめて、窓辺に向かったのは敦くん。
目線の先には、向かいのお店の日よけ下で佇む女性の姿があった。
思えば、七夕ってのはだいたい梅雨時期で、もしかして神様はそれを知っていてこの日を設定したんじゃないかと考えたことがある。
彼女も、あの雨の向こうに彼がいると信じているんだろうか。
太宰さんに心をとられる女性は少なくないけど、浮わついたところを感じさせない待ち姿に、密かな焦りを抱いてわたしは口ごもった。
「う……ん、どうだろう。」
敦くんにそう返したけど。
心の中はきたない思いばかりでとても言えたものじゃないから。
彼女の薄いワンピースが、遠目に見ても濡れていた。
日よけで防ぎきれない雨粒が風に乗って。
「僕、傘渡してきますっ、」
「敦くん…。」
敦くんが駆けてゆく。
しばらくすると、差し出された傘に彼女は驚いた反応を見せた。
あの子、きっといい子なんだろうな。
ビルのエントランスで密かに待つことも出来るのに、向かいの、今はちっとも開かない陶器店の軒下で静かに立っているのだ。
「………太宰さん。いいんですか。」
「うん?」
仕事が終わるまで、きっと彼女は待ち続けるだろう。
罪悪感を背負って生きるのは出来れば避けたい。
そんな自分勝手できたない理由で、本心なんて1ミリも含まない問いかけが出た。
今はソファにだらりとしている太宰さんの、閉じていた目がうっすら開く。
見ているのはわたしじゃない。
床の、どこか。
ううん、と体を伸ばして、
「中途半端な事はしたくないし、それに、」
そこまで言うと太宰さんはふわぁと欠伸をした。
涙の滲んだ瞳がくるんと揺れる。
「互いに逢いたいと思っていれば、天の川は自然と現れるものさ。」
「それって……。」
太宰さんにはもう…。
「戻りました!太宰さん、あの女性、帰りましたよ。」
「ふーん。」
え、と言いかけた声を飲んで窓辺に寄る。
確かにあのワンピースの女の子は日よけの下から消えていた。
「……太宰さんに届く星の川、か。」
誰なのだろう。
暇を持て余した太宰さんが敦くんにくすぐりを始めた。
わたしの呟きは敦くんの悲鳴にかき消される。
雨が上がり始め、灰色の雲が少し、まぶしく思えた。
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