第二章 月と奇人

『死者の舟』

在りし日の、死者の舟のことを考えている。
手を合わせて、あなたは幼い祝祭にまぎれこんだ。
沈みゆく隙間に手を滑らせ、傷みを拡げ、あなたは身体を捩じ込んでいた。

青い鳥の羽根を背に根づかせても、ここに何があるのか、あなたはわかっていなかった。
ただ青い鳥にふさわしい、宝玉の瞳をいっぱいに煌めかせて、ここで飛べないことには、気づきもしない。

戻りなさい。
私の言葉はあなたにとって記号でしかなかった。

戻りなさい。
もう引き返すには遅すぎる。

取り零した青を、私だけが抱いた夜のこと。
零れ落ちた紫を、初めて摘んだあの日のこと。

在りし日の、死者の舟のことを考えている。
それはもう、ぽっかりと円を描いて、舟とは呼べなくなっていた。


それでもまた、死者の舟は巡るのだろう。
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