運命の糸に巻かれ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は名前を失いたくないばかりに、彼女を人傀儡にしてこの世に留まらせた。
俺は彼女をこんな目に合わせた砂だけでない、いつか全てを壊して、全て最初から世界を作り直したらいいと思うようになった。
俺の目的の達成と、それまでの隠れ蓑にはちょうどいいと、里を抜けて少し経った頃小南に暁に勧誘された。
名前にも落ち着ける場所があった方が良いと思い、俺は了解した。
当てがわれた部屋で俺は名前の関節部分に塗る潤滑油の準備をしていた。
名前も過ごせるように天井を高くしたらどうだと言ってきたペインと小南に最初は驚いた。
コイツら本当に犯罪者になるつもりあるのかよ、と。
まぁ、その提案はありがたかったのだが。
『さそ、りぃ』
「どうした、名前」
「あたまぁぁ…いたぁい」
「っ大丈夫か?」
名前は傀儡ならば感じるはずのない痛みをごくたまに訴えた。
原因は分からなかった。
痛みを訴える部分のパーツを変えてみても結果は変わらない。傀儡と魂が中途半端に繋ぎ止められたせいなのか。
俺はゆっくりと蹲る名前の頭を撫ぜた。
『うぅぅ』
「…」
獣のように唸り続ける名前が不憫でならなかった。
それと同時にこんな風にした自分を責めずにはいられなかった。俺は名前を苦しめてまでそばに置こうとしている。
俺は、彼女を救いたかった。
けれど…その結果がこれだ。
彼女は記憶をほとんど失い、感情も曖昧だ。まるで途方に暮れた迷子の子供のようだ。
俺が繋ぎ止めた命は…“これ”は、本当に"名前"の魂なのか…?
そこまで考えた俺はハッとした。
俺は今なんて…惨いことを考えたのだ?
「う!ぐっ…ぅ…」
『さ、そりぃぃ?』
認めたくない。
名前の存在を疑う自分がいるなど。
こんな俺は認めない。
なのに、この感情はなんだ?
突然吐き気に襲われた俺を不思議そうに名前が見ていた。
「…大丈夫だ。何でもない…名前、外に出てみるか?この前それで痛みが落ち着いただろう?」
『うんー、いくぅぅ』
俺は自分のためにも外へ行こうと提案した。
名前を一旦巻物に戻して外へと向かう。
アジトの外はもう日も沈み出した夕刻であった。
地平線に太陽が半分沈んで、空は赤と青で染められている。
『あ、ぅぁぁ』
「痛むか?」
『ちがうぅ』
「?」
巻物から出してやった名前は夕日を見つめては小さく呻いていた。
俺は小さい頃、里のはずれで名前と見た夕日を思い出した。
名前も思い出してくれていたらなんて…都合のいいことを想う。
そうやって時折俺は彼女が紛うことなき名前
であると確信を得たがった。
『あたまぁなお、ったぁぁ』
「!、そうか。無理してないか?」
『だいじょおぶぅぅ』
俺を安心させるようにその大きな体は俺を後ろから包み込んだ。
「…無理はするなよ」
俺を守るように囲うその腕を撫ぜる。
間違いないんだ。
この魂は名前でしかない。
なのに何故俺はこうも不安になる。
『あかぁい。さそりぃ、ぃと、おんなじい、いろぉ』
「‼︎」
それは、夕日を見にいったその日、昔の名前も同じことを言っていた。
「……」
『な、なかない、でぇ…ぇ』
「…今日で、最後だ」
『なぁにぃ?』
俺は人傀儡になる。
もう、迷わない。
この大地の全てを血で染め上げて、ひっくり返して、いつか…いつか必ず名前の魂を完全に取り戻す方法を見つけてみせる。
そのためには力が必要だ。
それに…
「こんな弱い体じゃ、いつか名前を1人にしちまうだろ」
お前を1人にはしない。
永遠に。
△
「本当に久方振りだ…自分を使うのはな」
まさかこんなところでばばあと再会するとは。
まだ生きてやがったとはな…。隣の小娘もなかなかしぶとい。
さっさと片付けて、一尾をアジトに持ち帰って今日の任務は完了の予定だったというのに。
こんなやつに苦労して手に入れた三代目まで壊されて、久しぶりに憤りを感じた。
傀儡になってからというもの、感情なんて捨てきったつもりでいたのだが…。
結局は俺も完全な傀儡にも、人にもなれない紛い物でしかない。
名前を前にすればいつだって俺は15の時のままの、ただの人間だった。
散々手こずらされた小娘も致命傷を負わせた。ばばあは毒が回るまで放っておけば死ぬだろう。満身創痍の2人を前にもう終いにしようと刃を向けた。
もう全てがどうでもいい。
俺たちはもう後戻りできない。
ここまで来てしまったんだ。
「死ねぇぇぇ!!」
ーーーサソリ、この子が名前じゃ。うちで面倒を見ようと思ってな。仲良くしてやっておくれ…
チヨよ。
お前に…名前を、俺たちを、救えたか?
「…っ」
…?
体が…動かない?
核が燃えるように熱いのに…ひどく、寒い…。
右を見ると母が、左を見ると父が、俺を咎めるように見ていた。
「…」
胸の核を見れば、そこは刀に貫かれていた。
そうか。
俺はこの2体の傀儡に刺されたのか。
「何故…何故じゃ、サソリ…」
目の前には地面に這いつくばったままチヨばあが目を見開いてこちらを見ていた。
自分でトドメ刺しといて…なんてツラだよ。
「何故…儂を殺さなかった…」
知るか。
俺が聞きたい。
だがそうだな、強いて言えば…。
「…名前に感謝するんだな」
「?!」
チヨばあが苦しそうに顔を歪めた。
「名前に…合わせる顔がないわい…」
「それは…お互い様だな…」
1人にしないと、その手を離さないと約束した。
そのためにこの体を作ったと言うのに…なんて様だ。
チヨばあはよろよろ立ち上がると意識のない小娘の治療に取りかかる。
無駄だ。急所をついたんだ。もう助からない。
「…この術は、名前のために完成させた」
「は…?」
おかしい。小娘の顔色や呼吸が正常に戻っている。なんだこの医療忍術は…。
名前のためだと?
まさか、
「お前には…どんなに強い人傀儡よりも名前がいなくては意味などないからな。もう、何もかもが手遅れじゃが…」
命の、蘇生か…。
「…はっ、そうだな。今更だな」
こんなにも近くに名前を救う方法があったというのに…あまりの皮肉に鼻で笑うことしかできなかった。
それに、もう何もかもが遅い。
それを俺の核から流れる人工の血液が知らしめる。
ごめんな名前…。もう一緒にはいてやれそうにない。
「なら、代わりに…最後の頼みだ」
「…何じゃ?」
俺は背中のホルダーに手を伸ばし、1つの巻物を取るとチヨに差し出した。
中には名前が、俺の帰りを待って眠っている。
「名前だけでも救ってくれ」
チヨばあは…きっとこの後あの一尾のガキを蘇生させるつもりだろう。
助けられるのは、1人だけ。
どっちを選ぶ?チヨよ…。
チヨばあが巻物をあと少しで受け取ると言う時だった。
『さ、さぁそりぃぃいぃ』
「‼︎」
声が聞こえたと思ったら爆音とともに手に持っていた巻物から煙が立ち込めた。
何故。
俺のチャクラが尽きたせいか、巻物の封印が勝手に解かれた。
煙と共に現れた名前が、怯えた様子で俺の前に立った。
「名前、どうやって出てきた…?」
「何?名前…じゃと…?」
『あ、ぁぁ、う』
ひどく狼狽えて、俺に手を伸ばそうとしたり、引っ込めたりを繰り返していた。
「名前…」
許してくれ。
お前をこんな姿にして…一つの約束のために、長い時間お前を縛り付けていたというのに。
俺の方ががさっさとくたばっちまうなんて…。
『ご、めん、ねぇえ…くるしめてぇ、ごめん、なさいぃ』
「な、何言ってる…」
『さ、そりぃわたしのために、ずっとくるしい…しってたぁ』
「!」
『それでもぉいしょ、いっしょにぃいたかったぁ』
「…」
何も感じるはずのない俺の体が震えているような気がした。知らなかった。お前がそんなふうに想っていたなんて…。
「違う、名前。違う…!」
苦しめていたのは、俺だ。
名前は、俺の勝手に付き合わされて、俺を恨んでさえいるかもしれないと思っていたのに。
それなのに…。
どうすればよかったんだ?
俺がしてきたことは、何だったのだろう?
お互いがお互いの存在に苦しむ運命に俺がしてしまったのか?
お前をもっと早く壊してやればよかったのだろうか?
そして俺自身も、壊してしまえばよかったのだろうか?
『しあ、わせえぇだったのぉぉ』
「!、…お前は、本当に優しいな」
名前が笑っている。
「俺も…幸せだった」
『これからもぉ、ずっぅとぉいっしょおお』
名前が両腕を広げると父と母の傀儡ごと俺たちを抱きしめた。
俺にはこの後名前が何をするつもりなのか…何となくわかっていた。
だけど、もう十分だと思った。
今度こそ…あの世で一緒になろう、名前。
名前は右手を動かすとその辺に落ちている折れた刀を拾う。
「やめるんじゃ!名前‼︎」
チヨばあが叫ぶ声が聞こえて…それきり、俺たちの核は鼓動をやめた。
「…サソリ、サソリ」
「…」
目の前には赤い、朱い空が見えた。
いつか一緒に見た夕空の下に俺は立っていた。
立ちすくんだままの俺の右手を、誰かが握っている。
右を見ると、そこには美しい少女がいた。
「…名前」
「…」
彼女は何も言わないで微笑んだ。
風が頬を撫でる。
繋いだ手のひらから感じる暖かさに気がついて、思わずその手を強く握ってしまった。
「泣いてるんですか?」
「…泣いてるのはお前だろ」
「そうですね」
美しい瞳から溢れる涙を指先で拭う。
その涙も、暖かかった。
「もう…もういいんだ」
「はい」
「もう…お前が俺の分まで泣く必要ない」
「…一緒に泣いてくれますか?」
俺は笑った。
そうだな。
これからは…そうすればいい。
もう十分奪われてきた。
血を流して、その血を錆びつかせて…
奪われ、奪い合う運命は終わった。
もう、十分だろ。
生きることもやめたいのだ。
「行きましょう」
名前が俺の手を引く。
俺は迷いなくそれに従う。
夕日とは反対の、夜が広がりつつある方へと足を進める。
この世への憎しみも、後悔も、懺悔も、全て捨てて。
お前がいるなら、この先向かうのが天国だろうと地獄だろうとどちらでも構わない。
俺は彼女をこんな目に合わせた砂だけでない、いつか全てを壊して、全て最初から世界を作り直したらいいと思うようになった。
俺の目的の達成と、それまでの隠れ蓑にはちょうどいいと、里を抜けて少し経った頃小南に暁に勧誘された。
名前にも落ち着ける場所があった方が良いと思い、俺は了解した。
当てがわれた部屋で俺は名前の関節部分に塗る潤滑油の準備をしていた。
名前も過ごせるように天井を高くしたらどうだと言ってきたペインと小南に最初は驚いた。
コイツら本当に犯罪者になるつもりあるのかよ、と。
まぁ、その提案はありがたかったのだが。
『さそ、りぃ』
「どうした、名前」
「あたまぁぁ…いたぁい」
「っ大丈夫か?」
名前は傀儡ならば感じるはずのない痛みをごくたまに訴えた。
原因は分からなかった。
痛みを訴える部分のパーツを変えてみても結果は変わらない。傀儡と魂が中途半端に繋ぎ止められたせいなのか。
俺はゆっくりと蹲る名前の頭を撫ぜた。
『うぅぅ』
「…」
獣のように唸り続ける名前が不憫でならなかった。
それと同時にこんな風にした自分を責めずにはいられなかった。俺は名前を苦しめてまでそばに置こうとしている。
俺は、彼女を救いたかった。
けれど…その結果がこれだ。
彼女は記憶をほとんど失い、感情も曖昧だ。まるで途方に暮れた迷子の子供のようだ。
俺が繋ぎ止めた命は…“これ”は、本当に"名前"の魂なのか…?
そこまで考えた俺はハッとした。
俺は今なんて…惨いことを考えたのだ?
「う!ぐっ…ぅ…」
『さ、そりぃぃ?』
認めたくない。
名前の存在を疑う自分がいるなど。
こんな俺は認めない。
なのに、この感情はなんだ?
突然吐き気に襲われた俺を不思議そうに名前が見ていた。
「…大丈夫だ。何でもない…名前、外に出てみるか?この前それで痛みが落ち着いただろう?」
『うんー、いくぅぅ』
俺は自分のためにも外へ行こうと提案した。
名前を一旦巻物に戻して外へと向かう。
アジトの外はもう日も沈み出した夕刻であった。
地平線に太陽が半分沈んで、空は赤と青で染められている。
『あ、ぅぁぁ』
「痛むか?」
『ちがうぅ』
「?」
巻物から出してやった名前は夕日を見つめては小さく呻いていた。
俺は小さい頃、里のはずれで名前と見た夕日を思い出した。
名前も思い出してくれていたらなんて…都合のいいことを想う。
そうやって時折俺は彼女が紛うことなき名前
であると確信を得たがった。
『あたまぁなお、ったぁぁ』
「!、そうか。無理してないか?」
『だいじょおぶぅぅ』
俺を安心させるようにその大きな体は俺を後ろから包み込んだ。
「…無理はするなよ」
俺を守るように囲うその腕を撫ぜる。
間違いないんだ。
この魂は名前でしかない。
なのに何故俺はこうも不安になる。
『あかぁい。さそりぃ、ぃと、おんなじい、いろぉ』
「‼︎」
それは、夕日を見にいったその日、昔の名前も同じことを言っていた。
「……」
『な、なかない、でぇ…ぇ』
「…今日で、最後だ」
『なぁにぃ?』
俺は人傀儡になる。
もう、迷わない。
この大地の全てを血で染め上げて、ひっくり返して、いつか…いつか必ず名前の魂を完全に取り戻す方法を見つけてみせる。
そのためには力が必要だ。
それに…
「こんな弱い体じゃ、いつか名前を1人にしちまうだろ」
お前を1人にはしない。
永遠に。
△
「本当に久方振りだ…自分を使うのはな」
まさかこんなところでばばあと再会するとは。
まだ生きてやがったとはな…。隣の小娘もなかなかしぶとい。
さっさと片付けて、一尾をアジトに持ち帰って今日の任務は完了の予定だったというのに。
こんなやつに苦労して手に入れた三代目まで壊されて、久しぶりに憤りを感じた。
傀儡になってからというもの、感情なんて捨てきったつもりでいたのだが…。
結局は俺も完全な傀儡にも、人にもなれない紛い物でしかない。
名前を前にすればいつだって俺は15の時のままの、ただの人間だった。
散々手こずらされた小娘も致命傷を負わせた。ばばあは毒が回るまで放っておけば死ぬだろう。満身創痍の2人を前にもう終いにしようと刃を向けた。
もう全てがどうでもいい。
俺たちはもう後戻りできない。
ここまで来てしまったんだ。
「死ねぇぇぇ!!」
ーーーサソリ、この子が名前じゃ。うちで面倒を見ようと思ってな。仲良くしてやっておくれ…
チヨよ。
お前に…名前を、俺たちを、救えたか?
「…っ」
…?
体が…動かない?
核が燃えるように熱いのに…ひどく、寒い…。
右を見ると母が、左を見ると父が、俺を咎めるように見ていた。
「…」
胸の核を見れば、そこは刀に貫かれていた。
そうか。
俺はこの2体の傀儡に刺されたのか。
「何故…何故じゃ、サソリ…」
目の前には地面に這いつくばったままチヨばあが目を見開いてこちらを見ていた。
自分でトドメ刺しといて…なんてツラだよ。
「何故…儂を殺さなかった…」
知るか。
俺が聞きたい。
だがそうだな、強いて言えば…。
「…名前に感謝するんだな」
「?!」
チヨばあが苦しそうに顔を歪めた。
「名前に…合わせる顔がないわい…」
「それは…お互い様だな…」
1人にしないと、その手を離さないと約束した。
そのためにこの体を作ったと言うのに…なんて様だ。
チヨばあはよろよろ立ち上がると意識のない小娘の治療に取りかかる。
無駄だ。急所をついたんだ。もう助からない。
「…この術は、名前のために完成させた」
「は…?」
おかしい。小娘の顔色や呼吸が正常に戻っている。なんだこの医療忍術は…。
名前のためだと?
まさか、
「お前には…どんなに強い人傀儡よりも名前がいなくては意味などないからな。もう、何もかもが手遅れじゃが…」
命の、蘇生か…。
「…はっ、そうだな。今更だな」
こんなにも近くに名前を救う方法があったというのに…あまりの皮肉に鼻で笑うことしかできなかった。
それに、もう何もかもが遅い。
それを俺の核から流れる人工の血液が知らしめる。
ごめんな名前…。もう一緒にはいてやれそうにない。
「なら、代わりに…最後の頼みだ」
「…何じゃ?」
俺は背中のホルダーに手を伸ばし、1つの巻物を取るとチヨに差し出した。
中には名前が、俺の帰りを待って眠っている。
「名前だけでも救ってくれ」
チヨばあは…きっとこの後あの一尾のガキを蘇生させるつもりだろう。
助けられるのは、1人だけ。
どっちを選ぶ?チヨよ…。
チヨばあが巻物をあと少しで受け取ると言う時だった。
『さ、さぁそりぃぃいぃ』
「‼︎」
声が聞こえたと思ったら爆音とともに手に持っていた巻物から煙が立ち込めた。
何故。
俺のチャクラが尽きたせいか、巻物の封印が勝手に解かれた。
煙と共に現れた名前が、怯えた様子で俺の前に立った。
「名前、どうやって出てきた…?」
「何?名前…じゃと…?」
『あ、ぁぁ、う』
ひどく狼狽えて、俺に手を伸ばそうとしたり、引っ込めたりを繰り返していた。
「名前…」
許してくれ。
お前をこんな姿にして…一つの約束のために、長い時間お前を縛り付けていたというのに。
俺の方ががさっさとくたばっちまうなんて…。
『ご、めん、ねぇえ…くるしめてぇ、ごめん、なさいぃ』
「な、何言ってる…」
『さ、そりぃわたしのために、ずっとくるしい…しってたぁ』
「!」
『それでもぉいしょ、いっしょにぃいたかったぁ』
「…」
何も感じるはずのない俺の体が震えているような気がした。知らなかった。お前がそんなふうに想っていたなんて…。
「違う、名前。違う…!」
苦しめていたのは、俺だ。
名前は、俺の勝手に付き合わされて、俺を恨んでさえいるかもしれないと思っていたのに。
それなのに…。
どうすればよかったんだ?
俺がしてきたことは、何だったのだろう?
お互いがお互いの存在に苦しむ運命に俺がしてしまったのか?
お前をもっと早く壊してやればよかったのだろうか?
そして俺自身も、壊してしまえばよかったのだろうか?
『しあ、わせえぇだったのぉぉ』
「!、…お前は、本当に優しいな」
名前が笑っている。
「俺も…幸せだった」
『これからもぉ、ずっぅとぉいっしょおお』
名前が両腕を広げると父と母の傀儡ごと俺たちを抱きしめた。
俺にはこの後名前が何をするつもりなのか…何となくわかっていた。
だけど、もう十分だと思った。
今度こそ…あの世で一緒になろう、名前。
名前は右手を動かすとその辺に落ちている折れた刀を拾う。
「やめるんじゃ!名前‼︎」
チヨばあが叫ぶ声が聞こえて…それきり、俺たちの核は鼓動をやめた。
「…サソリ、サソリ」
「…」
目の前には赤い、朱い空が見えた。
いつか一緒に見た夕空の下に俺は立っていた。
立ちすくんだままの俺の右手を、誰かが握っている。
右を見ると、そこには美しい少女がいた。
「…名前」
「…」
彼女は何も言わないで微笑んだ。
風が頬を撫でる。
繋いだ手のひらから感じる暖かさに気がついて、思わずその手を強く握ってしまった。
「泣いてるんですか?」
「…泣いてるのはお前だろ」
「そうですね」
美しい瞳から溢れる涙を指先で拭う。
その涙も、暖かかった。
「もう…もういいんだ」
「はい」
「もう…お前が俺の分まで泣く必要ない」
「…一緒に泣いてくれますか?」
俺は笑った。
そうだな。
これからは…そうすればいい。
もう十分奪われてきた。
血を流して、その血を錆びつかせて…
奪われ、奪い合う運命は終わった。
もう、十分だろ。
生きることもやめたいのだ。
「行きましょう」
名前が俺の手を引く。
俺は迷いなくそれに従う。
夕日とは反対の、夜が広がりつつある方へと足を進める。
この世への憎しみも、後悔も、懺悔も、全て捨てて。
お前がいるなら、この先向かうのが天国だろうと地獄だろうとどちらでも構わない。