毒の少女
名前変換
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激しい揺れ、金属同士がぶつかり合う甲高い音、叫び声。
それら全てを名前は遠くで感じた。
「…?」
今は何も聞こえず、静まり返っていた。
聞こえていた叫び声が思い出された。悍しい断末魔だった。
人を騙した罪で地獄にでも落ちたのだろうか。そんなことを考えていると、名前の意識は徐々に覚醒してきた。
「あったかい…」
名前は何かに包まれているような心地よさを感じた。地獄にしては居心地が良いななど、呑気なことを考えていた。しかしサソリがどうなってしまったのか考えるとまた涙が溢れてきた。
「サソリ…」
「なんだ、起きたか」
「っえ?!」
名前のすぐ真上から声がした。勢いよく体を起こす。
「ぐっ…!…っ危ねえな。いきなり起き上がるな」
「さ、サソリ!」
突然起き上がってきた名前の頭頂部とサソリの顎がぶつかった。痛みを感じないサソリも多少驚いたようで名前に苦言を呈す。一方名前は驚きのあまり痛みを忘れているようであたふたとしている。
「え!?何で?!もしかして…っ!サソリも死んじゃったの…!?」
「あぁ?」
サソリはぶっきらぼうに返事をしながらも、ぶつけたであろう名前の頭頂部を優しく撫ぜた。
「てめぇ、何勘違いしてやがる。あんな雑魚共に俺が殺られるとでも思ってたのか」
「え?」
「全員始末した」
「え?!」
「まだヒルコの外には出るな。広範囲の毒霧を使った」
それにその辺には死体がゴロゴロと転がっているので、サソリはそれも名前には見せたくなかった。
名前はそこでようやくここがヒルコの中だということがわかった。移動しているのか、一定の感覚で揺れていた。そしてヒルコの尾が迫ってきたとき、自分は殺されると思ったが…どうやらその逆だったようだと気づいた。
それに気がつくと名前は少し肩の力を抜き、静かになった。そして1番先に言わなくてはいけない事があると思い出し、ゆっくり口を開いた。
「サソリ…大丈夫。私に毒は効かないから…嘘をついててごめんなさい」
「…何があった」
名前は懺悔でもしているかのように、ポツリポツリと話し出した。一族の話から自分の体質の事、今までの経緯の全てをサソリに話した。
「何故俺に早く言わなかった」
「ごめんなさい…父と母を人質に取られて…」
「そうじゃねぇ」
少し怒気を含んだサソリの声に、名前はビクリと肩を縮み上がらせた。そうだ、家族が人質に取られていたからと言って許せる事ではないだろう。危うくサソリは殺されるところだったのだ。そう思った名前は次にサソリから紡がれる言葉が怖くて聞きたくなかった。そして同時にこの恋は終わってしまったんだと確信した。
「それも含めて何故俺に相談しなかった。ったく、こんなに窶れるまで1人で思いつめやがって…」
「え?」
サソリは少し痩せてしまった名前の頬に手を添えた。そのまま親指でその隈のある目元をゆっくりなぞった。
サソリは名前が嘘をついていたことに対して憤っている訳ではなかった。こんな風になるまで思い詰めていたのに、自分を頼ってもらえなかったことが悔しかった。なにより気付いてやれなかった自分が情けなかった。
「こんな奴らに殺されるような腑抜けだと思われてたとはな…心外だ」
「そ、そういうわけじゃ…」
名前はサソリが騙されたことに当然怒っているだろうと思っていたが、どうやら別の部分に怒っているようだとわかった。しかしその一方で目元を撫ぜるその指先は繊細でとても優しくて戸惑った。
「なぁ、名前。俺を頼れ。俺だけを」
「さ…っサソリ」
ヒルコの中という狭い空間の中にいるため、名前はサソリが胡座をかいた脚の間に横抱きの状態だった。そんな密着した状態なのにも関わらずサソリは名前に顔を近づけた。
琥珀色の双眸。熱を孕んだその視線が薄暗い空間の中にも関わらず名前にははっきりと見えた。
コクリ、と名前が喉を鳴らした。
「名前」
「はっ…はい!そ、その…」
名を呼ばれ我に帰った名前が返事をする。しかしこの距離感を意識してしまったら心臓が、呼吸が苦しくなって辿々しくなってしまう。
続きを催促するようにサソリは瞬きも必要としないその目で名前を見つめる。
名前は勇気を振り絞って、口を開く。
「わ、私、サソリを…信じてるよ。次からは…その、頼ってもいい…かな?」
その返事に満足したサソリは目を細め、笑った。
そして近づけていた顔を少し離して考え込むような仕草をした。
「じゃあまずはお前の一族を何とかしねぇとな。どうする?俺が全員消してやってもいいが…」
「えぇ!?そ、それはちょっと!」
今までの雰囲気から一変して戦慄が走った。確かに名前が生きていると知った以上、一族は何とかして彼女を連れ戻そうとするだろう。だからと言ってそれはあまりに横暴に感じた。しかし名前にはいい案も思いつかない。
目を白黒させたり、悩み込んでしまったり忙しそうな名前を見てサソリは笑う。相変わらず見ていておもしろいと。
「フッ…冗談だ。安心しろ。そんな事しなくてももっといい方法がある」
「え?」
「簡単なことだ。俺と共に来い。名前」
「えっ」
「暁に連れて行かれたとなれば、もう諦めざるをえないだろ。だが、お前の両親にはちゃんと説明してやれ。…会いに行きたい時は、俺が連れてってやる」
「…」
名前の鼻の奥がツンとして目頭が熱くなったのを感じた。そしてすぐに目から溢れたものがポロポロと頬を伝った。
今まで、毒を飲んだその日から、1人きりで生きていくと決めたその日から、ずっとずっと抱えていた孤独が溢れて頬を濡らす。
それを愛おしそうにサソリの指が拭う。
「ほ、本当…?」
「あぁ」
「私、もう…怯えて生きなくていいの?」
「あぁ」
「またお父さんとお母さんに会えるの?」
「いつでも」
サソリは安心させるように名前の背中を優しく上下に摩った。そして名前は1番聞きたかったことを尋ねた。
「…私、サソリと一緒にいていいの?」
「そう言っている…いや…」
サソリが背中を摩るその手を一度止める。
何か考え込むその様子に名前は一抹の不安を感じたが、すぐに打ち消すようにサソリは続けた。
「俺が…そう望んだ。…お前が必要だ」
名前は驚いて目を見開く。視線を斜め下に落とし、少し言いにくそうに話すサソリを見つめた。
初めて見るその表情を目に焼き付けるように。
「な、なんだ」
その視線に気付いたサソリは居心地が悪くなり、照れ隠しに眉間にシワを寄せ、軽く睨んだ。
「ありがとう…。私、サソリと一緒にいたい」
涙は止まらないまま、ふわりと柔らかく笑う名前にサソリは小さく安堵のため息をついた。
「もうこの辺ならヒルコから出ていいだろう」
そして思い出したようにそう言った。ヒルコの動きが止まり、ガコッという音と共に頭上から光が差した。
ヒルコの背中のパーツが大きく開き、そこから雲一つない空が見えた。
突然の眩しさに名前は目を細める。
そんな名前の手を引き、サソリはヒルコの外に出た。
そこは名前が住んでいた森の外れだった。高台のここからは眼下に広がる草原と丘、遠くに海が見えた。
初めて見るその景色に名前はしばし見入った。サソリはそんな名前の横顔を見て静かに言った。
「…間接的にとは言え、俺が渡した毒で苦しめたな。悪かった」
「!」
彼女の特異体質の話を聞いてからずっと思っていた。今思えば少し体調が悪かった日もあったのだろうと。そしてそれは解毒剤を作るために自ら毒を飲んでいたためだと。
驚いて名前が自分より身長の高いサソリを見上げた。そして慌てて訂正しようと口を開いた。
「ち、違うの!確かに完璧な解毒剤を作るためにそうしろってアイツらに命令はされたけど…!私が、そうしたかったのもあったの」
「…どういことだ?」
彼女の言いたいことがいまひとつわからないサソリは首を傾げた。何とか言葉を続けようと口を開いては閉じる名前が話し出すのをおとなしく待った。
名前は意を決してサソリの外套を掴み、震える声で言った。
「…っサソリに認めてもらえるような解毒剤を作り続けられれば、次も会いに来てくれると思ってたから…!絶対に失敗したくなかったの!」
「!」
サソリは頭を鈍器で殴られるような衝撃が走った。
まさかそんな事のために自ら毒を飲むなんて…。常識的にはかなりぶっ飛んだ発想だが、彼女の今までの孤独を思えば納得できる気がした。
しかしサソリにとってはそれよりも、自分と同じように次の約束を取り付けるために必死だったと言う事実が、名前の存在をより一層愛おしく感じさせた。
すぐにその華奢な体をチャクラ糸で巻いて、ヒルコの中に閉じ込めて自分だけのものにしたい衝動に駆られる。しかしそんなことをすれば、この可愛い花は枯れてしまうと葛藤した。
「?」
なにも言ってこないサソリを不思議に思った名前は不安そうにその顔を見上げる。
その表情は目を見開いたまま遠くを見ているようで感情が正確に読み取れなかった。
そしてサソリの指先がワナワナと動いているのに気がついた。
「あ、その…。ごめんなさい。こんな事言ったら引いちゃうよね」
勘違いした名前は顔を青くして、ゆっくりと掴んでいた外套を離そうとした。
しかしすかさずその手をサソリが掴む。
「わっ」
「引くわけねぇだろ。当然、名前にはこれからも俺のために毒の調合を手伝ってもらう。だが、毒はもう飲むな。お前は優秀だからその必要はねぇ」
何とか邪な衝動を抑え込むことに成功したサソリが真剣な表情で言う。そんな葛藤があったとは知らず、名前はこれ以上ない多幸感を感じていた。好意を寄せる相手に認められ、必要としてもらえた。
「それに、俺はこの体だ。解毒剤は必要ねぇ。暁の連中もどいつもこいつも毒じゃ死にそうにもねぇバカ…化け物ばかりだしな」
メンバーの顔ぶれを思い出しながらサソリは呟く。
そして続ける。
「必要なのは名前、お前だけだ」
名前は嬉しさでまた視界が滲んでいくのを感じた。
「私も…、サソリが必要だよ。そばに、いさせて…」
頬を赤く染め、潤む瞳で見上げてくる名前をサソリは美しいと思った。
サソリはずっと花を乱暴に手折ることなくそばに置く方法を探していた。
そしてその花は今、自分の腕の中にあると確かめるように、名前のその華奢な体をそっと抱き寄せた。
それら全てを名前は遠くで感じた。
「…?」
今は何も聞こえず、静まり返っていた。
聞こえていた叫び声が思い出された。悍しい断末魔だった。
人を騙した罪で地獄にでも落ちたのだろうか。そんなことを考えていると、名前の意識は徐々に覚醒してきた。
「あったかい…」
名前は何かに包まれているような心地よさを感じた。地獄にしては居心地が良いななど、呑気なことを考えていた。しかしサソリがどうなってしまったのか考えるとまた涙が溢れてきた。
「サソリ…」
「なんだ、起きたか」
「っえ?!」
名前のすぐ真上から声がした。勢いよく体を起こす。
「ぐっ…!…っ危ねえな。いきなり起き上がるな」
「さ、サソリ!」
突然起き上がってきた名前の頭頂部とサソリの顎がぶつかった。痛みを感じないサソリも多少驚いたようで名前に苦言を呈す。一方名前は驚きのあまり痛みを忘れているようであたふたとしている。
「え!?何で?!もしかして…っ!サソリも死んじゃったの…!?」
「あぁ?」
サソリはぶっきらぼうに返事をしながらも、ぶつけたであろう名前の頭頂部を優しく撫ぜた。
「てめぇ、何勘違いしてやがる。あんな雑魚共に俺が殺られるとでも思ってたのか」
「え?」
「全員始末した」
「え?!」
「まだヒルコの外には出るな。広範囲の毒霧を使った」
それにその辺には死体がゴロゴロと転がっているので、サソリはそれも名前には見せたくなかった。
名前はそこでようやくここがヒルコの中だということがわかった。移動しているのか、一定の感覚で揺れていた。そしてヒルコの尾が迫ってきたとき、自分は殺されると思ったが…どうやらその逆だったようだと気づいた。
それに気がつくと名前は少し肩の力を抜き、静かになった。そして1番先に言わなくてはいけない事があると思い出し、ゆっくり口を開いた。
「サソリ…大丈夫。私に毒は効かないから…嘘をついててごめんなさい」
「…何があった」
名前は懺悔でもしているかのように、ポツリポツリと話し出した。一族の話から自分の体質の事、今までの経緯の全てをサソリに話した。
「何故俺に早く言わなかった」
「ごめんなさい…父と母を人質に取られて…」
「そうじゃねぇ」
少し怒気を含んだサソリの声に、名前はビクリと肩を縮み上がらせた。そうだ、家族が人質に取られていたからと言って許せる事ではないだろう。危うくサソリは殺されるところだったのだ。そう思った名前は次にサソリから紡がれる言葉が怖くて聞きたくなかった。そして同時にこの恋は終わってしまったんだと確信した。
「それも含めて何故俺に相談しなかった。ったく、こんなに窶れるまで1人で思いつめやがって…」
「え?」
サソリは少し痩せてしまった名前の頬に手を添えた。そのまま親指でその隈のある目元をゆっくりなぞった。
サソリは名前が嘘をついていたことに対して憤っている訳ではなかった。こんな風になるまで思い詰めていたのに、自分を頼ってもらえなかったことが悔しかった。なにより気付いてやれなかった自分が情けなかった。
「こんな奴らに殺されるような腑抜けだと思われてたとはな…心外だ」
「そ、そういうわけじゃ…」
名前はサソリが騙されたことに当然怒っているだろうと思っていたが、どうやら別の部分に怒っているようだとわかった。しかしその一方で目元を撫ぜるその指先は繊細でとても優しくて戸惑った。
「なぁ、名前。俺を頼れ。俺だけを」
「さ…っサソリ」
ヒルコの中という狭い空間の中にいるため、名前はサソリが胡座をかいた脚の間に横抱きの状態だった。そんな密着した状態なのにも関わらずサソリは名前に顔を近づけた。
琥珀色の双眸。熱を孕んだその視線が薄暗い空間の中にも関わらず名前にははっきりと見えた。
コクリ、と名前が喉を鳴らした。
「名前」
「はっ…はい!そ、その…」
名を呼ばれ我に帰った名前が返事をする。しかしこの距離感を意識してしまったら心臓が、呼吸が苦しくなって辿々しくなってしまう。
続きを催促するようにサソリは瞬きも必要としないその目で名前を見つめる。
名前は勇気を振り絞って、口を開く。
「わ、私、サソリを…信じてるよ。次からは…その、頼ってもいい…かな?」
その返事に満足したサソリは目を細め、笑った。
そして近づけていた顔を少し離して考え込むような仕草をした。
「じゃあまずはお前の一族を何とかしねぇとな。どうする?俺が全員消してやってもいいが…」
「えぇ!?そ、それはちょっと!」
今までの雰囲気から一変して戦慄が走った。確かに名前が生きていると知った以上、一族は何とかして彼女を連れ戻そうとするだろう。だからと言ってそれはあまりに横暴に感じた。しかし名前にはいい案も思いつかない。
目を白黒させたり、悩み込んでしまったり忙しそうな名前を見てサソリは笑う。相変わらず見ていておもしろいと。
「フッ…冗談だ。安心しろ。そんな事しなくてももっといい方法がある」
「え?」
「簡単なことだ。俺と共に来い。名前」
「えっ」
「暁に連れて行かれたとなれば、もう諦めざるをえないだろ。だが、お前の両親にはちゃんと説明してやれ。…会いに行きたい時は、俺が連れてってやる」
「…」
名前の鼻の奥がツンとして目頭が熱くなったのを感じた。そしてすぐに目から溢れたものがポロポロと頬を伝った。
今まで、毒を飲んだその日から、1人きりで生きていくと決めたその日から、ずっとずっと抱えていた孤独が溢れて頬を濡らす。
それを愛おしそうにサソリの指が拭う。
「ほ、本当…?」
「あぁ」
「私、もう…怯えて生きなくていいの?」
「あぁ」
「またお父さんとお母さんに会えるの?」
「いつでも」
サソリは安心させるように名前の背中を優しく上下に摩った。そして名前は1番聞きたかったことを尋ねた。
「…私、サソリと一緒にいていいの?」
「そう言っている…いや…」
サソリが背中を摩るその手を一度止める。
何か考え込むその様子に名前は一抹の不安を感じたが、すぐに打ち消すようにサソリは続けた。
「俺が…そう望んだ。…お前が必要だ」
名前は驚いて目を見開く。視線を斜め下に落とし、少し言いにくそうに話すサソリを見つめた。
初めて見るその表情を目に焼き付けるように。
「な、なんだ」
その視線に気付いたサソリは居心地が悪くなり、照れ隠しに眉間にシワを寄せ、軽く睨んだ。
「ありがとう…。私、サソリと一緒にいたい」
涙は止まらないまま、ふわりと柔らかく笑う名前にサソリは小さく安堵のため息をついた。
「もうこの辺ならヒルコから出ていいだろう」
そして思い出したようにそう言った。ヒルコの動きが止まり、ガコッという音と共に頭上から光が差した。
ヒルコの背中のパーツが大きく開き、そこから雲一つない空が見えた。
突然の眩しさに名前は目を細める。
そんな名前の手を引き、サソリはヒルコの外に出た。
そこは名前が住んでいた森の外れだった。高台のここからは眼下に広がる草原と丘、遠くに海が見えた。
初めて見るその景色に名前はしばし見入った。サソリはそんな名前の横顔を見て静かに言った。
「…間接的にとは言え、俺が渡した毒で苦しめたな。悪かった」
「!」
彼女の特異体質の話を聞いてからずっと思っていた。今思えば少し体調が悪かった日もあったのだろうと。そしてそれは解毒剤を作るために自ら毒を飲んでいたためだと。
驚いて名前が自分より身長の高いサソリを見上げた。そして慌てて訂正しようと口を開いた。
「ち、違うの!確かに完璧な解毒剤を作るためにそうしろってアイツらに命令はされたけど…!私が、そうしたかったのもあったの」
「…どういことだ?」
彼女の言いたいことがいまひとつわからないサソリは首を傾げた。何とか言葉を続けようと口を開いては閉じる名前が話し出すのをおとなしく待った。
名前は意を決してサソリの外套を掴み、震える声で言った。
「…っサソリに認めてもらえるような解毒剤を作り続けられれば、次も会いに来てくれると思ってたから…!絶対に失敗したくなかったの!」
「!」
サソリは頭を鈍器で殴られるような衝撃が走った。
まさかそんな事のために自ら毒を飲むなんて…。常識的にはかなりぶっ飛んだ発想だが、彼女の今までの孤独を思えば納得できる気がした。
しかしサソリにとってはそれよりも、自分と同じように次の約束を取り付けるために必死だったと言う事実が、名前の存在をより一層愛おしく感じさせた。
すぐにその華奢な体をチャクラ糸で巻いて、ヒルコの中に閉じ込めて自分だけのものにしたい衝動に駆られる。しかしそんなことをすれば、この可愛い花は枯れてしまうと葛藤した。
「?」
なにも言ってこないサソリを不思議に思った名前は不安そうにその顔を見上げる。
その表情は目を見開いたまま遠くを見ているようで感情が正確に読み取れなかった。
そしてサソリの指先がワナワナと動いているのに気がついた。
「あ、その…。ごめんなさい。こんな事言ったら引いちゃうよね」
勘違いした名前は顔を青くして、ゆっくりと掴んでいた外套を離そうとした。
しかしすかさずその手をサソリが掴む。
「わっ」
「引くわけねぇだろ。当然、名前にはこれからも俺のために毒の調合を手伝ってもらう。だが、毒はもう飲むな。お前は優秀だからその必要はねぇ」
何とか邪な衝動を抑え込むことに成功したサソリが真剣な表情で言う。そんな葛藤があったとは知らず、名前はこれ以上ない多幸感を感じていた。好意を寄せる相手に認められ、必要としてもらえた。
「それに、俺はこの体だ。解毒剤は必要ねぇ。暁の連中もどいつもこいつも毒じゃ死にそうにもねぇバカ…化け物ばかりだしな」
メンバーの顔ぶれを思い出しながらサソリは呟く。
そして続ける。
「必要なのは名前、お前だけだ」
名前は嬉しさでまた視界が滲んでいくのを感じた。
「私も…、サソリが必要だよ。そばに、いさせて…」
頬を赤く染め、潤む瞳で見上げてくる名前をサソリは美しいと思った。
サソリはずっと花を乱暴に手折ることなくそばに置く方法を探していた。
そしてその花は今、自分の腕の中にあると確かめるように、名前のその華奢な体をそっと抱き寄せた。