毒の少女
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私の一族は薬学に精通し、その技術を代々受け継いできた一族だ。忍び里でもその力を必要とされ、依頼されれば何でも調合した。
私も幼い頃からその知識と技術を教え込まれた。
しかし私は皆と違うことに気がついた。
幼い頃、誤って猛毒を摂取してしまった。解毒剤もなく助からないだろうと思われた。しかし散々苦しんだ末、何故か一命を取り留めた。それをきっかけに私の体はどんな毒でも自己にて分解・中和できる体質であることがわかった。しかもその過程で体内で作られた副産物は、摂取したその毒の解毒剤になることもわかった。
一族は薬師の家柄にこのような特異体質が生まれたことを、神からの贈り物だと喜んだ。
両親は絶望した。
解毒が困難な猛毒も私が飲めば解毒剤を作ることができる。そうなれば高額な依頼を受けることができるだろう。しかし、死ぬことは恐らくないにしろ苦痛は伴う。体内で有毒成分を完全に分解、もしくは中和できるまでは相当苦しむ羽目になる。
両親は私をこの森に隠した。
この特異体質を狙った忍び里の者に連れ去られたことになっている。
だから誰にもバレてはいけない。
父と母が今も懸命に私を隠してくれているのだ。年に一度か二度しか会えず、この森で1人きりはとても寂しいが…守ってくれている2人のためにも、私はこれからもずっとここで1人生きていく。
「さて、薬草とりに行こうかな」
私はこの森で薬草を栽培して、そこから薬を作って近くの小さな人里に売りにいっている。作るのは咳止めとか、解熱剤といったありふれたものだ。
あとは薬草の品種改良をしたりして毎日を過ごしていた。これは人に渡すつもりはなく、私の趣味だ。
「いってきまーす」
誰も返事をしない家を後に薬草を採りに向かった。
歩いて10分程の場所に川が流れている。
水が豊富なそこで薬草を作っている。
「そろそろ風邪が流行る季節だから、感冒症状に効く薬草たくさん採っておこう」
足元の育てた薬草たちを丁寧に摘み、籠の中に入れた。段々と作業に没頭してきたところだった。
「この辺の薬草は、お前が育ててるのか?」
「ぎゃっ?!」
突然頭上から声が降ってきた。
驚いて足元を見ていた顔を上げる。
そこには黒地に赤い雲模様をあしらったコートを着た大柄な男の人が立っていた。本当に大柄だった。奇抜な髪型にやたら猫背。かなりの強面だ。
その風貌にも驚いて一瞬息が止まった。
「おい。聞こえてんだろ」
「え!?は、はい!あ、そ、そうです。私が育てて、ます。はい」
返事をするので精一杯だった。この人は誰?もしかして一族から依頼されて私を連れ戻しにきた忍…?
森で暮らすようになってからずっとこんな風に他人を疑って生きてきた。初めて会う人はもちろん、笑顔で私の薬を買ってくれている顔見知りの人達も、私がなんでこんな森の中で1人で暮らしてるのか理由を知ったら…。一族に私が生きていることが知られてしまうのではといつも恐れながら生きてきた。
「あれは少し…変わっているな。見たことない。お前が作ったのか?」
「え?」
大男さんの視線の先には私が品種改良中の升麻が育ててある。解熱効果を高められないか研究中だが、見た目はどこにでも生育している升麻と大差ない。この人も薬草に詳しいのかな?
「わ、わかりますか?あっちにあるのは私が効能を高められないか実験中の薬草ばかりです」
「ほー、他には何がある」
「あ!どうぞ見てください!他にも今何種類か試しに作ってて…」
この人は私のことなんかほとんど見ずに足元の草本ばかり見ていた。それに額当てもしていないからきっと忍ではないのだろう。それに純粋な好奇心を感じた。そう思った私は勝手に親近感を覚えた。
私はそのうち聞かれてもいないのに薬草の説明をし出したり、とにかくはしゃいでいた。時折彼から聞かれる専門的な話から、彼が薬学、医学に精通した人物だというのがすぐにわかった。こんなに薬草について人と話せたのは初めてで、私は夢中で彼と話した。
「…お前、1人でこんなところに住んでるのか?」
「え?」
夢中で喋っていた私は現実に引き戻された。
こんな不便な森の中、1人で暮らしていたら誰だってそう思うだろう。
「両親とここで薬草を育てて生活してましたが…2人は土砂崩れに巻き込まれて死にました。今は1人で薬を作ってます」
これは私の常套句だ。似たような類の質問には全てこれで通している。皆哀れみの目は向けるがそれ以上踏み込んではこなかった。
「…そうか」
彼も特に深くは詮索しようとしてこなかった。それがありがたかった。
「お前に一つ頼みたい」
「へ?」
突然、ボンっ!という音と共に大男さんは煙に包まれた。
「え?!なになになに?!」
1人狼狽えているうちに煙は消え、そこには目立つ赤い髪に美しい顔の少年が立っていた。歳は私と同じくらいだろうか…。
そして突然白い粉の入った瓶を私に突き出した。
「この中に入ってるのは神経毒だ。成分と調合比率はここに書いてある。これを出来れば液体にして使いたい。ついでに解毒剤も作れたら作っといてくれ。もちろん報酬は払う」
「へ?毒…あ、はい」
思わずその瓶を受け取ってしまった。
彼はその様子を見て口角を僅かに上げて、満足そうに笑った。
「‼︎」
美しすぎやしないだろうか…。こんなにお顔が整った人見たことない。なんだか心臓に悪い。
「じゃあな。また2週間後この時間に、ここに来る」
「え、あ!あの!」
気づけば彼は背を向けて歩き出そうとしていた。
咄嗟に呼び止めて聞いた。
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「…サソリだ。お前は?」
「あ!すみません!私は名前といいます」
自分も名乗っていなかったことに気付いて慌てて名乗る。彼はまた少し笑って「じゃあな。名前」と言って一瞬でその姿は消えた。
私はその場で1人しばらく突っ立っていた。
サソリ。
…忍者さんだったんだな。
不思議と警戒心は湧かなかった。
手の中にある瓶を見る。
「また、お話いっぱいできるかな…」
と言っても、今日は私がずっと薬草について喋りまくっていただけだが。次はサソリのことを教えてくれるかな。
それに彼の期待に添えるように解毒剤を作れたら、その次もまた依頼してくれるかもしれない。そう思って手の中にある瓶をそっと握りしめた。
そして私は集めた薬草とその瓶を籠の中に入れて家へと戻った。
「ただいまー」
またしても返事などない家の中に帰宅を告げる。
しかし今日は違った。
「名前だな」
「!!」
明かりもついていない暗闇の中、誰もいないはずの家の中から声がした。
咄嗟に今入ってきた玄関の扉を開けて外に出ようとした。
「無駄だ。お前の一族から依頼を受けた。探すのに苦労したぞ」
玄関の方を振り返ったら、もうそこには額当てをした男が立っていた。他にも家の中には何人かいるようで足音が複数聞こえた。そしてそれは私を既に取り囲んでいるようだった。
「な、なんのことか…!人違いじゃ…」
「大人しくついてこい。でなければお前の両親が一族からどんな目に合うかわからんぞ」
「!!」
そんな…。もうダメだ。言い逃れは出来ない。それに忍びでもない私がこの窮地を切り抜ける事はできない。
「だが…その前に」
「…え?」
「あの装束。先程一緒にいた男…暁の一員だな」
「あかつき?」
それは何なのだろう?初めて聞く言葉だった。
「お前がさっき話していた男は、暁というS級犯罪者組織のメンバーのうちの1人だ」
「え?!」
サソリが…犯罪者…。
「ちょうどいい。お前を利用させてもらうぞ。奴の信用を得て出来るだけ暁の情報を探れ。油断したところで奴を殺す」
「なっ、何で私がそんな事…!!」
「お前に拒否権はない。無傷な姿の両親に会いたいだろう?」
なんて奴らだろう…!こちらは一般人なのに何故そんなことに付き合わされなくてはならない!しかも何の罪もない私の両親を人質にとって…‼︎この男たちの方がよっぽど犯罪者らしい!
「妙な真似をしてみろ。親を1人ずつ殺す」
その威圧感のある声に、私はいうことを聞くより他なかった。
先ほどまで再びサソリに会えるのを楽しみにしていたというのに…。今では罪悪感で一杯だ。
こいつらの言いなりになっていれば、いずれ彼が殺されてしまう。しかし逆らえば両親が…。
私は男たちの言う通り、彼の信頼を得るために完璧な解毒剤を作った。
自ら被験者となり、自分の血清から採れた中和剤を解毒剤の調合に使った。
痛みや吐き気に蹲ることもあったが何とか耐えた。
そして約束の日。
解毒剤をサソリに渡す。
彼に言われた通り、毒は液体でも効果を発揮できるよう改良した。
サソリは満足したようで、面白そうに私がどうやって毒薬を液体に変えたか話を聞いてくれた。
私の体質や解毒剤の作り方はあの忍達に黙っておけと言われたので内緒だ。反対に暁の組織に利用されかねないと。どの口が…と言ってやりたかったが…。
サソリとこうして再び会って、初めはS級犯罪者と知ってしまった以上緊張した。何より人質を取られているからとは言え彼を騙している罪悪感でどんな顔をしていいかわからなかった。でも話しているうちに、そんな事すら忘れてしまいそうなくらい夢中で話していた。サソリは私の話に耳を傾けながら時折自分の話もしてくれた。
それがとても嬉しかった。
彼とは話が合う気がする。
こんなに楽しい時間は初めてかもしれない。
「じゃあそろそろ行く。…また解毒剤の調合を頼みたい。その時また来る」
サソリはヒルコ(あれは傀儡だったのね)の中に再び戻ろうとした。
…寂しいな。
もう行っちゃうのか…。
「…は?」
サソリが目をこれ以上ないくらい見開いてこちらを振り返った。え?!ここここ声に出ちゃってたかな?!
「な、何でもないよ!そ、その!また…来てね!」
サソリはまだ目を丸くしてこっちを見ていた。
それがもう恥ずかしくて!見ていられなくて俯いた。
すると吹き出すような、小さかったけど笑う声が聞こえた。
驚いてまた顔を上げる。
「あぁ、また来る。じゃあな名前」
目尻を下げて、面白そうに笑うその笑顔が…また心臓に悪かった。
またしても一瞬で姿を消したサソリ。
またしてもそのまま突っ立っている私。
頬が、体が熱くなるのを感じる。
私の、初めての恋だった。
私も幼い頃からその知識と技術を教え込まれた。
しかし私は皆と違うことに気がついた。
幼い頃、誤って猛毒を摂取してしまった。解毒剤もなく助からないだろうと思われた。しかし散々苦しんだ末、何故か一命を取り留めた。それをきっかけに私の体はどんな毒でも自己にて分解・中和できる体質であることがわかった。しかもその過程で体内で作られた副産物は、摂取したその毒の解毒剤になることもわかった。
一族は薬師の家柄にこのような特異体質が生まれたことを、神からの贈り物だと喜んだ。
両親は絶望した。
解毒が困難な猛毒も私が飲めば解毒剤を作ることができる。そうなれば高額な依頼を受けることができるだろう。しかし、死ぬことは恐らくないにしろ苦痛は伴う。体内で有毒成分を完全に分解、もしくは中和できるまでは相当苦しむ羽目になる。
両親は私をこの森に隠した。
この特異体質を狙った忍び里の者に連れ去られたことになっている。
だから誰にもバレてはいけない。
父と母が今も懸命に私を隠してくれているのだ。年に一度か二度しか会えず、この森で1人きりはとても寂しいが…守ってくれている2人のためにも、私はこれからもずっとここで1人生きていく。
「さて、薬草とりに行こうかな」
私はこの森で薬草を栽培して、そこから薬を作って近くの小さな人里に売りにいっている。作るのは咳止めとか、解熱剤といったありふれたものだ。
あとは薬草の品種改良をしたりして毎日を過ごしていた。これは人に渡すつもりはなく、私の趣味だ。
「いってきまーす」
誰も返事をしない家を後に薬草を採りに向かった。
歩いて10分程の場所に川が流れている。
水が豊富なそこで薬草を作っている。
「そろそろ風邪が流行る季節だから、感冒症状に効く薬草たくさん採っておこう」
足元の育てた薬草たちを丁寧に摘み、籠の中に入れた。段々と作業に没頭してきたところだった。
「この辺の薬草は、お前が育ててるのか?」
「ぎゃっ?!」
突然頭上から声が降ってきた。
驚いて足元を見ていた顔を上げる。
そこには黒地に赤い雲模様をあしらったコートを着た大柄な男の人が立っていた。本当に大柄だった。奇抜な髪型にやたら猫背。かなりの強面だ。
その風貌にも驚いて一瞬息が止まった。
「おい。聞こえてんだろ」
「え!?は、はい!あ、そ、そうです。私が育てて、ます。はい」
返事をするので精一杯だった。この人は誰?もしかして一族から依頼されて私を連れ戻しにきた忍…?
森で暮らすようになってからずっとこんな風に他人を疑って生きてきた。初めて会う人はもちろん、笑顔で私の薬を買ってくれている顔見知りの人達も、私がなんでこんな森の中で1人で暮らしてるのか理由を知ったら…。一族に私が生きていることが知られてしまうのではといつも恐れながら生きてきた。
「あれは少し…変わっているな。見たことない。お前が作ったのか?」
「え?」
大男さんの視線の先には私が品種改良中の升麻が育ててある。解熱効果を高められないか研究中だが、見た目はどこにでも生育している升麻と大差ない。この人も薬草に詳しいのかな?
「わ、わかりますか?あっちにあるのは私が効能を高められないか実験中の薬草ばかりです」
「ほー、他には何がある」
「あ!どうぞ見てください!他にも今何種類か試しに作ってて…」
この人は私のことなんかほとんど見ずに足元の草本ばかり見ていた。それに額当てもしていないからきっと忍ではないのだろう。それに純粋な好奇心を感じた。そう思った私は勝手に親近感を覚えた。
私はそのうち聞かれてもいないのに薬草の説明をし出したり、とにかくはしゃいでいた。時折彼から聞かれる専門的な話から、彼が薬学、医学に精通した人物だというのがすぐにわかった。こんなに薬草について人と話せたのは初めてで、私は夢中で彼と話した。
「…お前、1人でこんなところに住んでるのか?」
「え?」
夢中で喋っていた私は現実に引き戻された。
こんな不便な森の中、1人で暮らしていたら誰だってそう思うだろう。
「両親とここで薬草を育てて生活してましたが…2人は土砂崩れに巻き込まれて死にました。今は1人で薬を作ってます」
これは私の常套句だ。似たような類の質問には全てこれで通している。皆哀れみの目は向けるがそれ以上踏み込んではこなかった。
「…そうか」
彼も特に深くは詮索しようとしてこなかった。それがありがたかった。
「お前に一つ頼みたい」
「へ?」
突然、ボンっ!という音と共に大男さんは煙に包まれた。
「え?!なになになに?!」
1人狼狽えているうちに煙は消え、そこには目立つ赤い髪に美しい顔の少年が立っていた。歳は私と同じくらいだろうか…。
そして突然白い粉の入った瓶を私に突き出した。
「この中に入ってるのは神経毒だ。成分と調合比率はここに書いてある。これを出来れば液体にして使いたい。ついでに解毒剤も作れたら作っといてくれ。もちろん報酬は払う」
「へ?毒…あ、はい」
思わずその瓶を受け取ってしまった。
彼はその様子を見て口角を僅かに上げて、満足そうに笑った。
「‼︎」
美しすぎやしないだろうか…。こんなにお顔が整った人見たことない。なんだか心臓に悪い。
「じゃあな。また2週間後この時間に、ここに来る」
「え、あ!あの!」
気づけば彼は背を向けて歩き出そうとしていた。
咄嗟に呼び止めて聞いた。
「あの、お名前聞いてもいいですか?」
「…サソリだ。お前は?」
「あ!すみません!私は名前といいます」
自分も名乗っていなかったことに気付いて慌てて名乗る。彼はまた少し笑って「じゃあな。名前」と言って一瞬でその姿は消えた。
私はその場で1人しばらく突っ立っていた。
サソリ。
…忍者さんだったんだな。
不思議と警戒心は湧かなかった。
手の中にある瓶を見る。
「また、お話いっぱいできるかな…」
と言っても、今日は私がずっと薬草について喋りまくっていただけだが。次はサソリのことを教えてくれるかな。
それに彼の期待に添えるように解毒剤を作れたら、その次もまた依頼してくれるかもしれない。そう思って手の中にある瓶をそっと握りしめた。
そして私は集めた薬草とその瓶を籠の中に入れて家へと戻った。
「ただいまー」
またしても返事などない家の中に帰宅を告げる。
しかし今日は違った。
「名前だな」
「!!」
明かりもついていない暗闇の中、誰もいないはずの家の中から声がした。
咄嗟に今入ってきた玄関の扉を開けて外に出ようとした。
「無駄だ。お前の一族から依頼を受けた。探すのに苦労したぞ」
玄関の方を振り返ったら、もうそこには額当てをした男が立っていた。他にも家の中には何人かいるようで足音が複数聞こえた。そしてそれは私を既に取り囲んでいるようだった。
「な、なんのことか…!人違いじゃ…」
「大人しくついてこい。でなければお前の両親が一族からどんな目に合うかわからんぞ」
「!!」
そんな…。もうダメだ。言い逃れは出来ない。それに忍びでもない私がこの窮地を切り抜ける事はできない。
「だが…その前に」
「…え?」
「あの装束。先程一緒にいた男…暁の一員だな」
「あかつき?」
それは何なのだろう?初めて聞く言葉だった。
「お前がさっき話していた男は、暁というS級犯罪者組織のメンバーのうちの1人だ」
「え?!」
サソリが…犯罪者…。
「ちょうどいい。お前を利用させてもらうぞ。奴の信用を得て出来るだけ暁の情報を探れ。油断したところで奴を殺す」
「なっ、何で私がそんな事…!!」
「お前に拒否権はない。無傷な姿の両親に会いたいだろう?」
なんて奴らだろう…!こちらは一般人なのに何故そんなことに付き合わされなくてはならない!しかも何の罪もない私の両親を人質にとって…‼︎この男たちの方がよっぽど犯罪者らしい!
「妙な真似をしてみろ。親を1人ずつ殺す」
その威圧感のある声に、私はいうことを聞くより他なかった。
先ほどまで再びサソリに会えるのを楽しみにしていたというのに…。今では罪悪感で一杯だ。
こいつらの言いなりになっていれば、いずれ彼が殺されてしまう。しかし逆らえば両親が…。
私は男たちの言う通り、彼の信頼を得るために完璧な解毒剤を作った。
自ら被験者となり、自分の血清から採れた中和剤を解毒剤の調合に使った。
痛みや吐き気に蹲ることもあったが何とか耐えた。
そして約束の日。
解毒剤をサソリに渡す。
彼に言われた通り、毒は液体でも効果を発揮できるよう改良した。
サソリは満足したようで、面白そうに私がどうやって毒薬を液体に変えたか話を聞いてくれた。
私の体質や解毒剤の作り方はあの忍達に黙っておけと言われたので内緒だ。反対に暁の組織に利用されかねないと。どの口が…と言ってやりたかったが…。
サソリとこうして再び会って、初めはS級犯罪者と知ってしまった以上緊張した。何より人質を取られているからとは言え彼を騙している罪悪感でどんな顔をしていいかわからなかった。でも話しているうちに、そんな事すら忘れてしまいそうなくらい夢中で話していた。サソリは私の話に耳を傾けながら時折自分の話もしてくれた。
それがとても嬉しかった。
彼とは話が合う気がする。
こんなに楽しい時間は初めてかもしれない。
「じゃあそろそろ行く。…また解毒剤の調合を頼みたい。その時また来る」
サソリはヒルコ(あれは傀儡だったのね)の中に再び戻ろうとした。
…寂しいな。
もう行っちゃうのか…。
「…は?」
サソリが目をこれ以上ないくらい見開いてこちらを振り返った。え?!ここここ声に出ちゃってたかな?!
「な、何でもないよ!そ、その!また…来てね!」
サソリはまだ目を丸くしてこっちを見ていた。
それがもう恥ずかしくて!見ていられなくて俯いた。
すると吹き出すような、小さかったけど笑う声が聞こえた。
驚いてまた顔を上げる。
「あぁ、また来る。じゃあな名前」
目尻を下げて、面白そうに笑うその笑顔が…また心臓に悪かった。
またしても一瞬で姿を消したサソリ。
またしてもそのまま突っ立っている私。
頬が、体が熱くなるのを感じる。
私の、初めての恋だった。