毒の少女
名前変換
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「ん、なんだ旦那。また例の薬屋のところに行くのかい?うん?」
後ろから突然声をかけられ、アジトを出ようと進めていた足を止めた。
声がした方へ顔だけをゆっくりと向ける。声の主であるデイダラをヒルコ越しに睨んだ。
「…お前には関係ねえ。俺がどこに行こうと勝手だろう」
その反応が大層気に入ったのか、奴はニタニタといけ好かない笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。
「おー、こえーこえー。別に文句なんかねえよ。ただあの旦那が随分とご執心な様子だからよー。そんなに珍しい薬が置いてあるのかい?それともその薬屋にすごい美人でもいるのかい?」
よく喋る奴だ。
俺は任務の入っていない今日この日に一秒でも早く出発したいというのに…。
黙って睨みつけているのにも関わらずデイダラは「なあなあ!」と返答を催促してくる。
無視しても良かったが、また同じやりとりをするのも面倒だとも思い渋々口を開いた。
「…ただの好奇心だ。その薬師、俺が作った毒薬の解毒剤を完璧に調合しやがる」
「ほー」
「今までいくつか渡したが、今のところ全て解毒剤を作られた。奴が解毒できないような毒を作り上げれば、俺の毒の完成度は証明されるってわけだ」
それを聞いてデイダラは期待していたような話ではなかったようで、あからさまに肩を落とした。
「んだよ。結局そんな真面目な話かよー。つまんね。今日は解毒されないといいなー。うん」
そう言い捨てると早々に背を向け、片手をヒラヒラと振ると奥に引っ込んでいった。
人に尋ねといて礼儀のなってねえ奴だ。この組織どうなってやがる。指導がなってねえ。何処のどいつに指導されたらああなる。あ、俺か。
そこで俺は当初の予定より出発が遅れていることを思い出し、慌ててアジトを抜け出した。待つのも待たせるのも俺の流儀に反する。何より早くあいつの顔が見たい。
いつも落ち合うのは決まってこの森の中だった。
所々木漏れ日が降り注ぎ、地面を覆っている柔らかな苔を照らしている。
聞こえるのは鳥が囀る声と、流れる川のせせらぎだけだった。
穏やかな森だ。あいつによく似合う。
「サソリ!」
いつもの場所、ひときわ周囲の木より大きな木の根本。その根に腰掛けて今日もそいつはそこにいた。こちらに向かって一生懸命手を大きく降っている。木漏れ日が反射して柔らかそうな髪が煌めいた。
「すまない、名前。待たせたか?」
いつだったか、たまたま任務の帰りにこの場所で薬草を摘んでいる名前を見つけた。それが珍しい種類だったため興味本位に話しかけた。聞けば彼女自身が品種改良してここで育てているのだとか。
人里から離れた森で暮らし、忍びの世界に疎い彼女は俺のことを怖がる様子もなくその薬草について一生懸命説明してくれた。
腰掛けていた根から元気よく立ち上がると俺の方へ駆け寄ってくる。俺はすぐにヒルコから出て名前の前に立った。
「ううん!私も今きたところだよ!」
ほんのり頬を赤く染めたその顔が俺を見上げる。整ったその顔は普段大人びて見えるが、この屈託のない笑顔は幼さが残っていて愛らしい。
「そうか…」
フッと、その笑顔を見ていたらこちらも自然と笑みがこぼれた。すると名前が一瞬目を見開いたかと思ったらすぐさま俯いてしまった。
「何だ?どうした名前?」
少し屈んで顔を覗き込んだらやけに頬が赤い気がした。そういえば駆け寄ってきた時からいつもより顔が赤かった。
「なんだお前、熱でもあるのか?」
よく見ようと俯いた顔に手を添えて無理矢理上を向かせた。
驚いたように目を見開いた名前は逃げるように後退りし、俺の手から離れた。
「な!なんでもないの!」
触れていたその手が宙にとり残された。
俺には名前の体温なんてわからない。
だが、離れたその掌にはしばらく温もりが残っているような気がした。
しかしそんな思考は名前の次の言葉で吹き飛んだ。
「あっ…!ほら!この前渡された毒の解毒剤完成したよ!」
「は?!嘘だろ…?!」
俺は心底驚いた。
今回は今だに作用がよくわかっていない希少な毒草から抽出した成分が入っている。たまには名前が悔しがる顔も見てみたいと思っていたんだが…。
「俺でもまだコイツは解毒剤作れてなかったんだがな」
「え!あ、そ、そうなの?」
笑顔から一変して名前は何故か狼狽だした。
解毒剤がない毒薬を渡されて驚いたのだろうか。
「安心しろ。珍しい毒草を使ってはいるが、まだ改良途中だからちょっとした痺れ薬程度だ。そんな危ねえもん渡さねえよ」
今までだって万が一名前が誤って服毒しても、時間が経てば分解されるような毒しか渡してねえ。
それを聞いて安心したのか、名前はまたニコニコと笑顔で話しだした。
「次はどんな毒?次も絶対解毒剤作っちゃうよ!」
名前は得意そうに腕を組んでこちらを見上げている。表情がコロコロと変わるコイツといて本当に飽きないなと感じた。
「そんなすぐ次を用意できるわけねえだろ。いつも言ってるだろ。次はまた今度持ってくる」
嘘だ。本当は毒なんて選ばなければいくらでもある。だがつい小出しにしては名前に会うための口実にしている。
「はーい。サソリ忙しいもんね。ちゃんと休めてる?任務大変?」
近くの木の根に名前は腰掛けた。俺の真意なんて露ほども知らず、相変わらず人懐っこい笑顔で問いかけてくる。
そして名前は俺の外套の袖を摘んで引っ張った。どうやら俺にも隣に座れと言いたいらしい。
摘まれた外套からまた温もりが全身に伝わってくるような錯覚に陥る。
らしくない。
コイツの些細な行動や仕草の一つ一つが俺を振り回す。そしてそれが心地よいとすら感じている。本当にらしくない。
「…まあ、そうだな。優秀な助手がいれば少しは楽できるんだがな」
俺は誘われるように隣に腰を下ろすと、わざと含みのある言い方をした。もちろん傀儡のこの体は疲労なんか感じない。楽をしたいとか休みたいといった欲求もなければ必要もない。
必要なのは…
「助手?そっか、人傀儡ってサソリにしか作れないんだもんね。私がお手伝いできたらいいのにな…」
「あ?あ、いや…」
俺はお前が毒薬作るのを手伝ってくれたらって意味で言ったんだが…。いやこの際なんでもいい。何とかこのままうまく丸め込めないだろうか、そう思って「なら…」と切り出そうとしたとき。
「あ!ご、ごめんなさい。私傀儡のことだけじゃなくてそもそも忍の世界のこともよく知らないから、かえって邪魔しちゃうね。また解毒剤で良かったらいくらでも作るからね!私いつでもここで待ってるから!」
ハッとした様子の後、名前は慌てて訂正するように捲し立てた。口を挟む隙もなかった。ここで待っているという言葉に何故かフラれたような気持ちになる。
もどかしい。
言葉なんて音にして発するだけの簡単なもののはずなのに、どうして伝わらねえ。どうして、伝えられない。
「あ、ああ。…そうだな」
欲しいものは何だって手に入れてきた。
傀儡の体も、コレクションにしたい素材も、一つの国を落とす力も。
それがこんな少女1人を手に入れられずにこの様だ。情けねえ。
だがこいつは…名前だけは力尽くで手に入れたとしても俺は満たされない。この小さな花を傷つけないままにそばに置くには一体どうしたらいい?
隣で次はいつ会えるだろうかと、柔らかく笑う少女を見ながら想う。
俺に必要なのは名前、お前だ。
△
あれから数日後、俺はまた名前のもとに通っていた。
デイダラはまたかよー、とかほざいていたがもうさほど興味もない様子だったのでホッとした。あれこれ詮索されるのは御免だ。
今日も彼女の姿を森の中で探す。
いつものように木の根に腰掛けているのを見つけた。名前もこちらに気づいたようだ。
あの鈴の音のような声で俺の名を呼ぶだろうと思った。
「…?」
しかし彼女は動かない。
表情は固く、こちらを見たまま動かない。
何かおかしい。
俺は周囲を警戒した。
すると彼女の口がゆっくり開いた。
「…だ、ダメ!逃げて!こっちに来ないで!」
後ろから突然声をかけられ、アジトを出ようと進めていた足を止めた。
声がした方へ顔だけをゆっくりと向ける。声の主であるデイダラをヒルコ越しに睨んだ。
「…お前には関係ねえ。俺がどこに行こうと勝手だろう」
その反応が大層気に入ったのか、奴はニタニタといけ好かない笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。
「おー、こえーこえー。別に文句なんかねえよ。ただあの旦那が随分とご執心な様子だからよー。そんなに珍しい薬が置いてあるのかい?それともその薬屋にすごい美人でもいるのかい?」
よく喋る奴だ。
俺は任務の入っていない今日この日に一秒でも早く出発したいというのに…。
黙って睨みつけているのにも関わらずデイダラは「なあなあ!」と返答を催促してくる。
無視しても良かったが、また同じやりとりをするのも面倒だとも思い渋々口を開いた。
「…ただの好奇心だ。その薬師、俺が作った毒薬の解毒剤を完璧に調合しやがる」
「ほー」
「今までいくつか渡したが、今のところ全て解毒剤を作られた。奴が解毒できないような毒を作り上げれば、俺の毒の完成度は証明されるってわけだ」
それを聞いてデイダラは期待していたような話ではなかったようで、あからさまに肩を落とした。
「んだよ。結局そんな真面目な話かよー。つまんね。今日は解毒されないといいなー。うん」
そう言い捨てると早々に背を向け、片手をヒラヒラと振ると奥に引っ込んでいった。
人に尋ねといて礼儀のなってねえ奴だ。この組織どうなってやがる。指導がなってねえ。何処のどいつに指導されたらああなる。あ、俺か。
そこで俺は当初の予定より出発が遅れていることを思い出し、慌ててアジトを抜け出した。待つのも待たせるのも俺の流儀に反する。何より早くあいつの顔が見たい。
いつも落ち合うのは決まってこの森の中だった。
所々木漏れ日が降り注ぎ、地面を覆っている柔らかな苔を照らしている。
聞こえるのは鳥が囀る声と、流れる川のせせらぎだけだった。
穏やかな森だ。あいつによく似合う。
「サソリ!」
いつもの場所、ひときわ周囲の木より大きな木の根本。その根に腰掛けて今日もそいつはそこにいた。こちらに向かって一生懸命手を大きく降っている。木漏れ日が反射して柔らかそうな髪が煌めいた。
「すまない、名前。待たせたか?」
いつだったか、たまたま任務の帰りにこの場所で薬草を摘んでいる名前を見つけた。それが珍しい種類だったため興味本位に話しかけた。聞けば彼女自身が品種改良してここで育てているのだとか。
人里から離れた森で暮らし、忍びの世界に疎い彼女は俺のことを怖がる様子もなくその薬草について一生懸命説明してくれた。
腰掛けていた根から元気よく立ち上がると俺の方へ駆け寄ってくる。俺はすぐにヒルコから出て名前の前に立った。
「ううん!私も今きたところだよ!」
ほんのり頬を赤く染めたその顔が俺を見上げる。整ったその顔は普段大人びて見えるが、この屈託のない笑顔は幼さが残っていて愛らしい。
「そうか…」
フッと、その笑顔を見ていたらこちらも自然と笑みがこぼれた。すると名前が一瞬目を見開いたかと思ったらすぐさま俯いてしまった。
「何だ?どうした名前?」
少し屈んで顔を覗き込んだらやけに頬が赤い気がした。そういえば駆け寄ってきた時からいつもより顔が赤かった。
「なんだお前、熱でもあるのか?」
よく見ようと俯いた顔に手を添えて無理矢理上を向かせた。
驚いたように目を見開いた名前は逃げるように後退りし、俺の手から離れた。
「な!なんでもないの!」
触れていたその手が宙にとり残された。
俺には名前の体温なんてわからない。
だが、離れたその掌にはしばらく温もりが残っているような気がした。
しかしそんな思考は名前の次の言葉で吹き飛んだ。
「あっ…!ほら!この前渡された毒の解毒剤完成したよ!」
「は?!嘘だろ…?!」
俺は心底驚いた。
今回は今だに作用がよくわかっていない希少な毒草から抽出した成分が入っている。たまには名前が悔しがる顔も見てみたいと思っていたんだが…。
「俺でもまだコイツは解毒剤作れてなかったんだがな」
「え!あ、そ、そうなの?」
笑顔から一変して名前は何故か狼狽だした。
解毒剤がない毒薬を渡されて驚いたのだろうか。
「安心しろ。珍しい毒草を使ってはいるが、まだ改良途中だからちょっとした痺れ薬程度だ。そんな危ねえもん渡さねえよ」
今までだって万が一名前が誤って服毒しても、時間が経てば分解されるような毒しか渡してねえ。
それを聞いて安心したのか、名前はまたニコニコと笑顔で話しだした。
「次はどんな毒?次も絶対解毒剤作っちゃうよ!」
名前は得意そうに腕を組んでこちらを見上げている。表情がコロコロと変わるコイツといて本当に飽きないなと感じた。
「そんなすぐ次を用意できるわけねえだろ。いつも言ってるだろ。次はまた今度持ってくる」
嘘だ。本当は毒なんて選ばなければいくらでもある。だがつい小出しにしては名前に会うための口実にしている。
「はーい。サソリ忙しいもんね。ちゃんと休めてる?任務大変?」
近くの木の根に名前は腰掛けた。俺の真意なんて露ほども知らず、相変わらず人懐っこい笑顔で問いかけてくる。
そして名前は俺の外套の袖を摘んで引っ張った。どうやら俺にも隣に座れと言いたいらしい。
摘まれた外套からまた温もりが全身に伝わってくるような錯覚に陥る。
らしくない。
コイツの些細な行動や仕草の一つ一つが俺を振り回す。そしてそれが心地よいとすら感じている。本当にらしくない。
「…まあ、そうだな。優秀な助手がいれば少しは楽できるんだがな」
俺は誘われるように隣に腰を下ろすと、わざと含みのある言い方をした。もちろん傀儡のこの体は疲労なんか感じない。楽をしたいとか休みたいといった欲求もなければ必要もない。
必要なのは…
「助手?そっか、人傀儡ってサソリにしか作れないんだもんね。私がお手伝いできたらいいのにな…」
「あ?あ、いや…」
俺はお前が毒薬作るのを手伝ってくれたらって意味で言ったんだが…。いやこの際なんでもいい。何とかこのままうまく丸め込めないだろうか、そう思って「なら…」と切り出そうとしたとき。
「あ!ご、ごめんなさい。私傀儡のことだけじゃなくてそもそも忍の世界のこともよく知らないから、かえって邪魔しちゃうね。また解毒剤で良かったらいくらでも作るからね!私いつでもここで待ってるから!」
ハッとした様子の後、名前は慌てて訂正するように捲し立てた。口を挟む隙もなかった。ここで待っているという言葉に何故かフラれたような気持ちになる。
もどかしい。
言葉なんて音にして発するだけの簡単なもののはずなのに、どうして伝わらねえ。どうして、伝えられない。
「あ、ああ。…そうだな」
欲しいものは何だって手に入れてきた。
傀儡の体も、コレクションにしたい素材も、一つの国を落とす力も。
それがこんな少女1人を手に入れられずにこの様だ。情けねえ。
だがこいつは…名前だけは力尽くで手に入れたとしても俺は満たされない。この小さな花を傷つけないままにそばに置くには一体どうしたらいい?
隣で次はいつ会えるだろうかと、柔らかく笑う少女を見ながら想う。
俺に必要なのは名前、お前だ。
△
あれから数日後、俺はまた名前のもとに通っていた。
デイダラはまたかよー、とかほざいていたがもうさほど興味もない様子だったのでホッとした。あれこれ詮索されるのは御免だ。
今日も彼女の姿を森の中で探す。
いつものように木の根に腰掛けているのを見つけた。名前もこちらに気づいたようだ。
あの鈴の音のような声で俺の名を呼ぶだろうと思った。
「…?」
しかし彼女は動かない。
表情は固く、こちらを見たまま動かない。
何かおかしい。
俺は周囲を警戒した。
すると彼女の口がゆっくり開いた。
「…だ、ダメ!逃げて!こっちに来ないで!」
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