イタチ夢
名前変換
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それは美しい満月の夜だった。
その男の足元には血溜まりが広がり、冷たい月光で照らされている。
何人もの紅に染まった亡骸がそこらで横たわっていた。
最も守りたかった実の弟が、己を人ならざるものを見るような目で見ていた。
恐怖し、憎悪し、お互いに絶望した。
夢の中でもそれは繰り返し、何度も何度も現れては自分を蝕んでいった。
「…帰ろう、イタチ」
突然柔らかい声に呼ばれた。
「…名前…」
夢の中のその男は、むせ返るような血の匂いを振り払うように駆け出した。
△
「どうして名前は暁にきたんだ…?」
「え?」
俺が任務を終えて戻ってくると、アジトには名前だけであった。
名前は自分と齢も、暁に入った時期も同じくらいで自然と話をすることが多かった。
それに…名前は不思議と一緒にいて楽だった。
静かに過ごしたい時も、何か言いたいことがあるときにもこちらの気持ちがわかるのだろうか。そのように振る舞ってくれる。
ただ気づくとそっと優しさを置いてってくれるようなやつだ。自然と心惹かれていった。
心なしか他のメンバーも名前には心を開いている気がする。
とてもS級犯罪者とは思えないような人間だった。
今2人、月が見える窓際に座り他愛もない話をしていた。今日は満月か…。
「…私は、皆さんみたいに志のようなものや、信念はありません。ただ行くところがなかっただけです」
「そうか…」
名前が暁にきてまだ間もない頃、自分は抜忍になったたった1人の兄をその手で殺したと言っていた。追忍としての使命を優先し、里に忠誠を尽くしたのだ。
だが兄を殺した事実は彼女を蝕んでいったのだろう。結局自分が里に忠誠を誓う意義が分からなくなり、兄のように抜忍となった。
名前は話を続けた。
「最初はここが死に場所になるだけだろうと思いました。でも、何故でしょうね。今ではここにいたいとすら思うのです」
「?」
名前が何を言いたいのかがよくわからず続きを待った。
「ーー暁に入ってからは、あなたの横にいるのが心地よくなってしまって…」
驚いた。
まさかそんな風に思ってくれているとは思っていなかった。名前はメンバーの誰にでも分け隔てなく優しかったから。
「…今日みたいな満月を見ると、一族を抹殺した日を思い出す」
「…はい」
「だが、お前がいてくれればこの月もようやく美しいと思える」
「イタチ…」
たった1人の弟を守るために大勢を殺した俺。
里のためにたった1人の兄を殺したお前。
どちらも暁光を拝む日は、この先永遠にないのだろう。
だがお前といる時だけはーーー。
俺は隣に座る名前の手を握った。
「?、イタチ?」
「今日はこうしていてくれ…」
そういうと名前は目を丸くして驚いた顔をした。
「珍しいですね。イタチからそんなこと言ってくれるなんて、嬉しいです」
頬をほんのり赤く染めて笑う名前を見て、俺はこんな時だけは人間でいられる気がした。
最後の時までお前が側にいてくれたら。
ーーそれ以上は望まない。
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