サソリ夢
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眼前に広がる白い光に眩暈すら覚える。
咲乱れる梢の雪は陽の光を反射して白く眩い。
特殊な結界を解いて進んだ先にそれは突然見える。
寝殿造りの屋敷が一つ。
今の季節は桜がそれを守るように囲んでいた。
音は何一つ聞こえない。
常世、幽世、常夜ーー。
とでも言うのだろうか。
まるで浮世離れしたその風景に死後の世界を想像させる。
そこに市女笠のようなものを深く被り、黒い外套に身を包んだ男が1人訪れた。
まっすぐに屋敷の中心である寝殿へと進んでいった。
「まぁ。昼間にいらっしゃるなんて珍しい」
屋敷の中から美しい女が姿を現した。
男の姿を見つけたその女は形の良い唇を薄く開くとそう言った。
男は返事もせず寝殿に正面から上がり込むと笠を脱いだ。
晒される若く美しい顔。
さらりと鮮やかな赤髪が揺れた。
「こちらへ」
女は返事のない男に気分を害すこともなく、着物を翻すと奥へと誘った。
庭園のよく見渡せる場所へと進み、2人は隣り合って腰を下ろした。
桜が見事に咲き誇るその庭を目にすると、男は小さくため息を溢した。
「サソリ、今日いらしたのは任務?それとも…?」
「…なんだ」
女のどこか含みのある言い方にサソリは僅かに眉を顰める。
女はそれを見る。
着物の袖で口元を隠しているが、笑っているのが目元からわかった。
「誤解しないでください。昼間に来てくださるなんて珍しいので…嬉しいだけです」
「…今日は任務じゃねぇ、ただの暇潰しだ」
「ふふ。ただ私に会いに来たとは言ってくださらないのですね」
素直じゃない人。
そう言った女の顔をサソリは見る。
相変わらず楽しそうに笑っている。
見目好い女。
仕草の一つ一つが妖艶さを放った女。
「…そういう言葉を言えって意味か?名前」
その新雪のように輝く頬に手を添える。
それはサソリが惚れたただ1人の女。
「ええ。常に」
情報屋を生業としている彼女は、忍びとして相当の手練れ。
難攻不落の城を思わせる高貴な女。
自分にだけ素直に甘える可愛い女。
「それならいつも言ってやってるだろ」
「閨にいるときだけでなくという意味で、」
名前が言い終わる前に、その後頭部に手を回したサソリが噛み付くように口付けた。
名前は一瞬驚いて体を硬くしたが、すぐに目を閉じるとサソリの背中に手を回した。
「…今日来たのはお前と花を見るのも悪くねぇと思ったからだ」
名残惜しそうに離れた唇から静かに言葉が紡がれる。
名前はそれを愛おしそうに聞く。
「…では私、桜を年中咲かせられる術でも探しに行きましょう」
そうすればサソリ、あなた私に会いに来ますでしょう?
そう儚げに笑う名前にサソリはもう一度口づけようと顔を近づける。
しかしその前に耳元で静かに、はっきりと言う。
「ダメだ」
肩がピクリと僅かに動いた。
名前は少し眉を下げてサソリの顔を見る。
「…何故?」
サソリは絹のような髪をその手に掬う。
「俺は待つのも待たせるのも嫌いだ」
「?、知っていますわ」
掬った髪はサラサラと手からこぼれ落ちる。
「お前は常にその必要がない距離にいろ」
目を丸くした名前に構わずまた口付けた。
今度は触れるだけの、優しいものだった。
「…えぇ。そうします」
満足そうに笑った名前を見てサソリもふと笑う。
風もない世界で、桜の花弁がひとつ、ひとつ。
音もなく静かに散って、時が止まったようだった。
「永久に生きると言うのは、どんな気分なんでしょうね?」
鈴のような声はただ冷たい岩に反響した。
「でも貴方、どちらかと言うと桜のように美しくて…儚い人だったわ。そうでしょ?」
返事はなかった。
名前が見つめる先には愛おしい男の最後の姿があった。
核を貫かれ、倒れたサソリの両隣には2体の傀儡が倒れていた。
この2体に打たれたのだろうとわかったが、何故かサソリを守るように倒れている気がした。
彼の体を形見にとも思ったが…とても持って帰れそうにない。
「待つことも待たせることも…許されない距離に行ってしまいましたね」
だって私、天国なんて信じてませんもの。
大好きな赤い髪をその指で梳きながら呟いた。
「死んだらそれだけ。ただ、何も無くなる」
そこまで言って髪を梳くその手が震えて止まった。
「…」
忘れていた涙が次から次へと溢れては頬を濡らした。
忘れてしまった。その止め方は。
愛していた。
この世の何よりも。
「…どうか生きることも忘れさせて」
手向けにと、一輪の花をそばに置いた。
もう花を共に愛でる人のいない世界は冷たく、永遠に感じた。
咲乱れる梢の雪は陽の光を反射して白く眩い。
特殊な結界を解いて進んだ先にそれは突然見える。
寝殿造りの屋敷が一つ。
今の季節は桜がそれを守るように囲んでいた。
音は何一つ聞こえない。
常世、幽世、常夜ーー。
とでも言うのだろうか。
まるで浮世離れしたその風景に死後の世界を想像させる。
そこに市女笠のようなものを深く被り、黒い外套に身を包んだ男が1人訪れた。
まっすぐに屋敷の中心である寝殿へと進んでいった。
「まぁ。昼間にいらっしゃるなんて珍しい」
屋敷の中から美しい女が姿を現した。
男の姿を見つけたその女は形の良い唇を薄く開くとそう言った。
男は返事もせず寝殿に正面から上がり込むと笠を脱いだ。
晒される若く美しい顔。
さらりと鮮やかな赤髪が揺れた。
「こちらへ」
女は返事のない男に気分を害すこともなく、着物を翻すと奥へと誘った。
庭園のよく見渡せる場所へと進み、2人は隣り合って腰を下ろした。
桜が見事に咲き誇るその庭を目にすると、男は小さくため息を溢した。
「サソリ、今日いらしたのは任務?それとも…?」
「…なんだ」
女のどこか含みのある言い方にサソリは僅かに眉を顰める。
女はそれを見る。
着物の袖で口元を隠しているが、笑っているのが目元からわかった。
「誤解しないでください。昼間に来てくださるなんて珍しいので…嬉しいだけです」
「…今日は任務じゃねぇ、ただの暇潰しだ」
「ふふ。ただ私に会いに来たとは言ってくださらないのですね」
素直じゃない人。
そう言った女の顔をサソリは見る。
相変わらず楽しそうに笑っている。
見目好い女。
仕草の一つ一つが妖艶さを放った女。
「…そういう言葉を言えって意味か?名前」
その新雪のように輝く頬に手を添える。
それはサソリが惚れたただ1人の女。
「ええ。常に」
情報屋を生業としている彼女は、忍びとして相当の手練れ。
難攻不落の城を思わせる高貴な女。
自分にだけ素直に甘える可愛い女。
「それならいつも言ってやってるだろ」
「閨にいるときだけでなくという意味で、」
名前が言い終わる前に、その後頭部に手を回したサソリが噛み付くように口付けた。
名前は一瞬驚いて体を硬くしたが、すぐに目を閉じるとサソリの背中に手を回した。
「…今日来たのはお前と花を見るのも悪くねぇと思ったからだ」
名残惜しそうに離れた唇から静かに言葉が紡がれる。
名前はそれを愛おしそうに聞く。
「…では私、桜を年中咲かせられる術でも探しに行きましょう」
そうすればサソリ、あなた私に会いに来ますでしょう?
そう儚げに笑う名前にサソリはもう一度口づけようと顔を近づける。
しかしその前に耳元で静かに、はっきりと言う。
「ダメだ」
肩がピクリと僅かに動いた。
名前は少し眉を下げてサソリの顔を見る。
「…何故?」
サソリは絹のような髪をその手に掬う。
「俺は待つのも待たせるのも嫌いだ」
「?、知っていますわ」
掬った髪はサラサラと手からこぼれ落ちる。
「お前は常にその必要がない距離にいろ」
目を丸くした名前に構わずまた口付けた。
今度は触れるだけの、優しいものだった。
「…えぇ。そうします」
満足そうに笑った名前を見てサソリもふと笑う。
風もない世界で、桜の花弁がひとつ、ひとつ。
音もなく静かに散って、時が止まったようだった。
「永久に生きると言うのは、どんな気分なんでしょうね?」
鈴のような声はただ冷たい岩に反響した。
「でも貴方、どちらかと言うと桜のように美しくて…儚い人だったわ。そうでしょ?」
返事はなかった。
名前が見つめる先には愛おしい男の最後の姿があった。
核を貫かれ、倒れたサソリの両隣には2体の傀儡が倒れていた。
この2体に打たれたのだろうとわかったが、何故かサソリを守るように倒れている気がした。
彼の体を形見にとも思ったが…とても持って帰れそうにない。
「待つことも待たせることも…許されない距離に行ってしまいましたね」
だって私、天国なんて信じてませんもの。
大好きな赤い髪をその指で梳きながら呟いた。
「死んだらそれだけ。ただ、何も無くなる」
そこまで言って髪を梳くその手が震えて止まった。
「…」
忘れていた涙が次から次へと溢れては頬を濡らした。
忘れてしまった。その止め方は。
愛していた。
この世の何よりも。
「…どうか生きることも忘れさせて」
手向けにと、一輪の花をそばに置いた。
もう花を共に愛でる人のいない世界は冷たく、永遠に感じた。