サソリ夢
名前変換
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*社会人パロ
「先輩!金曜日の夜空いてますか?」
「ねぇ、サソリ、今日飲みに行かない?」
「ねぇねぇ、昨日一緒に女の子と歩いてたよね?彼女なの?」
正直生まれてこの方女に困ったことはない。
どれも無難な返事をして笑顔でやり過ごす。
もう慣れたもんだった。
ちょっと笑いかければすぐに親切にされたり、あからさまな好意を向けられた。
ーーコイツ以外は。
「なぁ、連絡先くらいそろそろ教えろよ」
「無理です。先輩には教えません」
「なぁ名前ちゃん、今日こそは飲みに行こうぜ」
「いえ、残業していくので無理です」
「会議の助手やってくれよ」
「忙しいので無理です」
「おい」
「無理です」
「…まだ何も言ってねぇよ」
この一切靡く様子のない女が名前だ。
同じ部署の後輩。
真っ黒な髪をきちんと後ろでまとめて、黒縁のメガネ。スーツは黒か紺。ブラウスはいっつも白のみ。
なんの飾り気もない真面目を具現化したような女だ。
おまけに口数も少ないし人付き合いも苦手そうだ。
華やかな女子社員達に影で“お葬式”って言われてるのを聞いた。
だが俺は知ってしまった。
実は長い前髪と眼鏡の下にあるその目は意外に大きく、切れ長で睫毛が長い事を。肌なんて子供の肌みたいに艶々してる事を。爪先まで手入れがされた細長くしなやかな指が、ペンを持つ所作が綺麗だとか。姿勢いいなとか。他にも…
いつの間にか気になり出したらキリがなかった。
「サソリ、この前手伝ってくれてありがとうな!部署のみんながお礼言ってたよ」
「おー、気にすんな」
「栗原さんがサソリの連絡先知りたがってたぞー」
「そりゃどうも」
つい気のない返事をしてしまった。
後ろで同期があの美人の栗原さんだぞ!?とか何か叫んでいたけど、今はあの堅物がどうしたらYESと言うかに俺は闘志を燃やしていた。
昼休憩が終わる前にもう一度名前のところにいってまた飯でも誘ってみようかと思った。
だが、残念ながらデスクにその姿はなかった。
「あ!サソリ先輩!ちょっと聞きたいんですけどこの書類の…」
目的の人物とは違う人間に声をかけられる。
ーーって…。
「おい、この書類なんでここにある?とっくに経理に出してあるはずだろ」
「え?!そうなんですか?!え?!まだ書けてもないーー」
見る見るうちに顔を青くしている女性社員に溜息を吐く。経理のお局は期限に厳しいので有名だ。
「あー、もういい。俺がやって持ってく。お前代わりに明日の会議の書類人数分コピーしといて」
△
結局お局には怒られた。
だが思ったより怒られなかった。一言、気を付けろと言われただけ。
我ながら罪作りな顔面だ、なんて考えて今日の疲労を誤魔化した。
業務を終えて帰る前に一服しようと屋上に上がる。
先客が1人いた。
「あ…」
名前だった。
「珍しいな…お前煙草吸うの?」
「いいえ…ちょっと疲れたので外の空気吸いに出ただけです」
「また残業かよ…お前優秀だからって他人の仕事までやり過ぎなんだよ」
「そう言う先輩こそ…経理の松田さんは私も怖いんで…私なら断りました」
どっから見てたんだよ。
どうやら昼のやり取りを何処からか見ていたようだ。
「そうかねぇー。お前もなんだかんだやってそうだけどな…」
「先輩ほどでも」
「なぁ…そんな他人の仕事なんか引き受けずに、たまには俺の頼みを一個は聞いてくれよ」
返事はわかってる。無理なんだろ?
「…」
「…?」
予想外に黙り込んでしまった名前に不安になって顔を覗き込んだ。
何か…すんげー難しい顔してる。
あれ?もしかして俺、もう失恋??
「先輩は女好きだから私が靡かないのが面白くなくて、ムキになってるんだと思ってました」
「…そんなんじゃねぇ」
そんなふうに思われてたのかよ。
「それがだんだん…そういう態度を取ってないと、もうつまらなくなって、話しかけてもらえなくなるかと思いました」
「そんなわけっ…ん?」
名前がゆっくりこちらに顔を向けて目を合わせる。
風が名前の前髪を梳く。
睫毛が揺れてた。
初めてこんなに近くで顔を見たななんて呑気な考えが頭をよぎった。
顔がほんのり赤く染まってるのも気のせいなんかじゃない。
「だから…素っ気なくしてたって言ったら…笑いますか?」
なんて女なんだろうーー。
あぁ、完全に俺はこの女に堕ちた。と、思った。
いや、既に堕ちていたのか…。
お望みとあらば、
「ああ、一生笑ってやるよーー」
「先輩!金曜日の夜空いてますか?」
「ねぇ、サソリ、今日飲みに行かない?」
「ねぇねぇ、昨日一緒に女の子と歩いてたよね?彼女なの?」
正直生まれてこの方女に困ったことはない。
どれも無難な返事をして笑顔でやり過ごす。
もう慣れたもんだった。
ちょっと笑いかければすぐに親切にされたり、あからさまな好意を向けられた。
ーーコイツ以外は。
「なぁ、連絡先くらいそろそろ教えろよ」
「無理です。先輩には教えません」
「なぁ名前ちゃん、今日こそは飲みに行こうぜ」
「いえ、残業していくので無理です」
「会議の助手やってくれよ」
「忙しいので無理です」
「おい」
「無理です」
「…まだ何も言ってねぇよ」
この一切靡く様子のない女が名前だ。
同じ部署の後輩。
真っ黒な髪をきちんと後ろでまとめて、黒縁のメガネ。スーツは黒か紺。ブラウスはいっつも白のみ。
なんの飾り気もない真面目を具現化したような女だ。
おまけに口数も少ないし人付き合いも苦手そうだ。
華やかな女子社員達に影で“お葬式”って言われてるのを聞いた。
だが俺は知ってしまった。
実は長い前髪と眼鏡の下にあるその目は意外に大きく、切れ長で睫毛が長い事を。肌なんて子供の肌みたいに艶々してる事を。爪先まで手入れがされた細長くしなやかな指が、ペンを持つ所作が綺麗だとか。姿勢いいなとか。他にも…
いつの間にか気になり出したらキリがなかった。
「サソリ、この前手伝ってくれてありがとうな!部署のみんながお礼言ってたよ」
「おー、気にすんな」
「栗原さんがサソリの連絡先知りたがってたぞー」
「そりゃどうも」
つい気のない返事をしてしまった。
後ろで同期があの美人の栗原さんだぞ!?とか何か叫んでいたけど、今はあの堅物がどうしたらYESと言うかに俺は闘志を燃やしていた。
昼休憩が終わる前にもう一度名前のところにいってまた飯でも誘ってみようかと思った。
だが、残念ながらデスクにその姿はなかった。
「あ!サソリ先輩!ちょっと聞きたいんですけどこの書類の…」
目的の人物とは違う人間に声をかけられる。
ーーって…。
「おい、この書類なんでここにある?とっくに経理に出してあるはずだろ」
「え?!そうなんですか?!え?!まだ書けてもないーー」
見る見るうちに顔を青くしている女性社員に溜息を吐く。経理のお局は期限に厳しいので有名だ。
「あー、もういい。俺がやって持ってく。お前代わりに明日の会議の書類人数分コピーしといて」
△
結局お局には怒られた。
だが思ったより怒られなかった。一言、気を付けろと言われただけ。
我ながら罪作りな顔面だ、なんて考えて今日の疲労を誤魔化した。
業務を終えて帰る前に一服しようと屋上に上がる。
先客が1人いた。
「あ…」
名前だった。
「珍しいな…お前煙草吸うの?」
「いいえ…ちょっと疲れたので外の空気吸いに出ただけです」
「また残業かよ…お前優秀だからって他人の仕事までやり過ぎなんだよ」
「そう言う先輩こそ…経理の松田さんは私も怖いんで…私なら断りました」
どっから見てたんだよ。
どうやら昼のやり取りを何処からか見ていたようだ。
「そうかねぇー。お前もなんだかんだやってそうだけどな…」
「先輩ほどでも」
「なぁ…そんな他人の仕事なんか引き受けずに、たまには俺の頼みを一個は聞いてくれよ」
返事はわかってる。無理なんだろ?
「…」
「…?」
予想外に黙り込んでしまった名前に不安になって顔を覗き込んだ。
何か…すんげー難しい顔してる。
あれ?もしかして俺、もう失恋??
「先輩は女好きだから私が靡かないのが面白くなくて、ムキになってるんだと思ってました」
「…そんなんじゃねぇ」
そんなふうに思われてたのかよ。
「それがだんだん…そういう態度を取ってないと、もうつまらなくなって、話しかけてもらえなくなるかと思いました」
「そんなわけっ…ん?」
名前がゆっくりこちらに顔を向けて目を合わせる。
風が名前の前髪を梳く。
睫毛が揺れてた。
初めてこんなに近くで顔を見たななんて呑気な考えが頭をよぎった。
顔がほんのり赤く染まってるのも気のせいなんかじゃない。
「だから…素っ気なくしてたって言ったら…笑いますか?」
なんて女なんだろうーー。
あぁ、完全に俺はこの女に堕ちた。と、思った。
いや、既に堕ちていたのか…。
お望みとあらば、
「ああ、一生笑ってやるよーー」
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