夜の淵に咲く
名前変換
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「…名前が、世話になったようだ」
なかなか泣き止まない私を、サソリはただ抱きしめていてくれた。
私が落ち着いてきた頃を見計らってふと、私の後方に向かってそう話しかけた。
土を踏み締める足音が聞こえた。
「いや…」
その声を聞いて、私は涙を泥だらけの隊服の袖で乱暴に拭った。
そして慌ててその人の方へ振り返った。
「…師範」
師範の顔を見る。
どこか師範は困惑したような顔をしていた、しかし振り返った私の顔を見て言った。
「けっ、何てツラしてやがる。泥だらけになってんぞォ」
「えっ」
いつもの、少し馬鹿にしたように口角をあげて笑った。
私は何だか色んなことが恥ずかしくなって顔をもう一度隊服で乱暴に拭った。
「よかったな…名前」
絶体絶命からの奇跡。
まさに降って湧いたように望みの全てが今、叶ったのだ。
師範はどこか何とも言えない複雑な表情をしながら、それでいて満足そうに目尻を下げて笑っていた。
「師範…」
私はまだ頭の中が混乱していた。
何を、話そう。
沢山、話したい。
サソリに師範のことを、鬼殺隊の皆のことを。
師範にもサソリの事を知ってもらいたい。
私は堰を切ったように話し出した。
「あ…サ、サソリ!この方がこの世界で私を助けてくれましたっ。私の師です。他にも沢山の方に助けてもらって…」
私は話したいことがありすぎて、言葉も上手くまとまらないまま話し出した。
振り返って見たサソリは優しく微笑んで、私の話を静かに頷いて聞いてくれている。
でも気のせいだろうか。
どこか切なそうに見えて…。
私はサソリの手を掴む。
「一緒に皆に、会ってくださいっ。沢山話したいことがあるんです!今まで話せなかった分…」
「名前」
「え?」
サソリがふと真剣な表情になる。
私はそれに嫌な予感がした。
「すまない…」
サソリの口がゆっくり動くのをただ見つめた。
「それは出来ない」
続きを、聞きたくない。
「今、すぐに戻らなければ…もう二度と砂隠れには帰れなくなる」
私は目を見開いて立ち尽くすか出来なかった。
ーーー夜明けが近い。