夜の淵に咲く
名前変換
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名前がいなくなった。
「隊長…。名前副隊長は抜忍として扱われ、今日より我々の部隊が追跡することになりました…」
世界は急速に色を失っていった。
「儂が何としても名前を見つける。じゃからお主はそれまで上に従っている振りをしろ。風影になれサソリ。必ず名前を里に連れ戻せるよう」
名前は、
「サソリ。明日月隠れから使者が来る。次期風影のお前にも当然会ってもらうぞ」
こんな砂だらけの憐れで悲しい里でも、世界でも、愛していた。
「わかった」
俺の見る世界は、お前だけが美しくしていた。
夕日が地平線に溶けるように沈んでいた。
空に薄く残っている雲がその光を受けて燃えているようだった。
この城壁の上。
俺の横でそれを愛おしそうに見つめていた彼女のことを思い出していた。
あの時はこの景色が戦を忘れさせ、少しだけこの世界も美しく思えた。それが今ではどうだ。夕陽の色はまるで血のようにその砂を染め上げ、大地を、空を、焦がしているようだった。
こんな世界に何の意味がある。
あれから半年、名前の足取りは一向に掴めなかった。正直なところ砂の追忍が一切の痕跡を掴めないのは安心した反面、不可解にも思った。
彼女ほどの忍びならあり得るかもしれないと思いながらも、何の準備も無しに唐突に里を抜ける状況になった彼女がそこまでできるだろうか?
既に月隠れの忍の手に落ちたのかとも想像したが、奴らも執拗に彼女の情報を得ようとしている様子にその可能性は棄却された。
「どこにいる」
彼女がいつ戻ってもいいようにと、里に従順な振りをしてきた。上もそれを敢えて良しと思っているのか、相変わらず次期風影には俺を推すつもりでいるようだ。
しかし万が一にも彼女を始末するというのなら、その時は里を裏切れるよう人傀儡の禁術にも密かに手を出していた。
もう既に何体も作った。
記念すべき一体目は月隠れで俺の右腕を切った男だった。その大柄な体は操者の体を隠すにはちょうど良いと思った。
骨格だけ盗み出し、後は外殻を作れば簡単だった。サンプルとなる血肉がなかったせいか、奴の血継限界までは傀儡に移すことが出来なかった。
そう。
俺はあの血継限界を手に入れようとしていた。
彼女と同じ術を使い、同じところに行くことが出来れば…。
名前を見つけるため、考えられる手段はそれしかなかった。
そのため近々砂隠れを訪れると言う月影に、俺は会って探りを入れるつもりだった。
砂を被った城壁の塀に、両腕をついて顔を埋めた。
「もう、待つのも待たせるのも御免だ…」
お前に会いたい。
「隊長‼︎奇襲です‼︎雲隠れの忍です!!」
「‼︎」
月影が来訪した日の夜。何処からか雲隠れの忍が入り込んでいた。
風影邸はあっという間に血の海と化した。
初めは月影を目当てに入り込んだのかと思ったが、そうではなかった。
月隠れは裏で雲隠れと結託し、砂を落とすつもりだったようだ。どうやらこの忍達は月隠れが手引きしたようだ。
「はっ、こんな事だろうと思った」
やはり最初から月隠れは砂と手を組むつもりはなかった。あくまで三代目の血継限界、そして初代風影の禁術が目当てか。
「里外に出していた傀儡部隊を呼び戻してある。もうすぐ着く。何とか今いる部隊で持ち堪えろ。俺が指揮を取る」
「ほ、本当ですか?!助かった‼︎」
月隠れの忍が使う血継限界は確かに厄介ではあったが、三代目の広範囲を同時に攻撃と防御をやってのける血継限界とは相性が悪かったようだ。
加えて傀儡部隊のチャクラ糸で作った網を張り巡らせておけば敵はすぐに感知され、死角は限りなく0に近くなり戦いは有利になった。
徐々に相手側が劣勢になり、奴らは日の出と共に蜘蛛の子を散らすように撤退していった。
「…サソリ、やはり里の未来はお前に託すしかないようだな」
「嫌なら無理に託さなくていいんだぜ」
もうすぐ死にそうとは思えないほどの顔色で三代目は病床から苦笑いを溢した。
しかし、里の長として堂々たる威厳を放っていたその体は少し小さくなったようにも見えた。
病が進行していた三代目は、受けた傷が原因でさらに寿命を縮めていた。
「不老不死など、馬鹿な夢を見た…。すまなかった。名前を、里に連れ戻してきてくれ」
どの口が言えたものかとも思ったが、名前が月隠に連れて行かれた時、彼女と自分を救ってくれたのは紛れもなくこの三代目風影であった。
それまでにも上役に疎まれていた彼女をチヨと共に擁護し続けてくれていたのも風影であった。
「言われなくてもそうする。そのためにあんたの仇も…とってやる」
「まだ死んでないぞ」
サソリは風影に一つの巻物を広げてみせた。
中には“蠍”と書いてある。
「…これは」
「人傀儡は完成した。今度は自分を…俺の全てを傀儡に変える」
「まさか…」
三代目はとんでもない物を見るような目で俺の顔を見た。
「正気か?自分の体を傀儡にする気か?」
「これで月隠れの里を落とす。もうこれしかない」
「…名前のためか」
三代目は何か思い詰めるように、ベッドに広げられた巻物を見つめた。
「ならば、頼みがある」
「頼み?」
このタイミングで頼み事とは予想外だった上に、内容は更に想像し難い物であった。
「俺が死んだら人傀儡にして、お前に使って欲しい」
「は?!」
初めは笑えない冗談かとも思ったが、風影の目を見て俺は何も言えなくなった。
何かが決壊したように三代目は話し出した。
「こんな戦乱の時代に、このまま死ぬなど…!俺は…!全てを民やお前に押しつけて死ぬのか?!…俺はまだ死ぬわけにはいかない!」
「…」
それは叫び声のようにも祈りの様にも聞こえた。
息を荒くしながら言うこの男を前に、彼が何故不老不死などと言う幻想に惑わされたのか、少しわかった気がした。
そうだ。
この男もまた、この里を、世界を愛している。
それは美しい世界であると、そうなれるはずだと信じている者の1人であった。
「頼む、サソリ」
「…」
俺がこの男のために叶えてやれる事は…一つしかなかった。
「…俺は傀儡使いが荒いが、文句言うなよ」
「はは。壊すなよ」
それが三代目とは最後の会話だった。
月隠れの里。
いつか三代目が破壊した実験施設からかなり離れたところにその里はあった。
俺は三代目の血継限界を引き継いだ人傀儡と、その技術をちらつかせて月影に近づいた。
里を抜け、名前を見つけた暁には彼女と共に月隠れで匿ってほしいと言う虚言を奴らは信じた。
俺は奴らから時空間移動の忍術について全て情報を聞き出したのち、その血継限界を手に入れるため朔夜一族を抹殺し、人傀儡に作り替えるつもりだ。
彼女の敵は全て俺が破壊する。
名前を取り戻すためなら何だってする。
そうとも知らずにこの里の忍は俺を招き入れた。
「行くぞ三代目」
里の門を潜る。
ここでは雪が降っているのに、薄い雲を透かしてぼんやりと赤い月が頭上に見えた。
幻想的で不気味な里。
頬に当たっているはずの雪の温度も分からず、俺は里の中へと足を進めた。
「名前。もうすぐだ。必ず取り戻す」
△
「ばっ…何故、こんな数の傀儡を同時に…」
鬼の体は崩れ出していた。
それはいつか殲滅した里でも聞いたことのある台詞だった。
サソリが周囲に張り巡らせた100体もの傀儡から、血鬼術でも逃げる事は出来なかった。
逃れるために血鬼術を使おうと、その先には常に傀儡が待ち構えていた。
壊しても壊しても次から次へと周りを取り囲むそれらに、ついには捕らえられた。
最後は名前の折れた刃をいつの間にかその手に握った傀儡に首を斬られて、鬼は動くことができなくなった。
その間操者であるサソリは一歩もその場から動く事はなかった。
凄まじい速さで、名前と不死川が手こずっていた鬼を1人で討伐してしまった。その圧倒的な力に、不死川はしばらく放心していた。
「…里を、私が…五大国に思い知らせて…」
鬼が灰となって消えていく。
「…?」
最後に鬼が誰かの名前を呟いたのをサソリは聞いた。
しかしそれは、当然知らない名であった。
鬼が塵となって、風にふかれる音だけが少しの間聞こえた。
「隊長…。名前副隊長は抜忍として扱われ、今日より我々の部隊が追跡することになりました…」
世界は急速に色を失っていった。
「儂が何としても名前を見つける。じゃからお主はそれまで上に従っている振りをしろ。風影になれサソリ。必ず名前を里に連れ戻せるよう」
名前は、
「サソリ。明日月隠れから使者が来る。次期風影のお前にも当然会ってもらうぞ」
こんな砂だらけの憐れで悲しい里でも、世界でも、愛していた。
「わかった」
俺の見る世界は、お前だけが美しくしていた。
夕日が地平線に溶けるように沈んでいた。
空に薄く残っている雲がその光を受けて燃えているようだった。
この城壁の上。
俺の横でそれを愛おしそうに見つめていた彼女のことを思い出していた。
あの時はこの景色が戦を忘れさせ、少しだけこの世界も美しく思えた。それが今ではどうだ。夕陽の色はまるで血のようにその砂を染め上げ、大地を、空を、焦がしているようだった。
こんな世界に何の意味がある。
あれから半年、名前の足取りは一向に掴めなかった。正直なところ砂の追忍が一切の痕跡を掴めないのは安心した反面、不可解にも思った。
彼女ほどの忍びならあり得るかもしれないと思いながらも、何の準備も無しに唐突に里を抜ける状況になった彼女がそこまでできるだろうか?
既に月隠れの忍の手に落ちたのかとも想像したが、奴らも執拗に彼女の情報を得ようとしている様子にその可能性は棄却された。
「どこにいる」
彼女がいつ戻ってもいいようにと、里に従順な振りをしてきた。上もそれを敢えて良しと思っているのか、相変わらず次期風影には俺を推すつもりでいるようだ。
しかし万が一にも彼女を始末するというのなら、その時は里を裏切れるよう人傀儡の禁術にも密かに手を出していた。
もう既に何体も作った。
記念すべき一体目は月隠れで俺の右腕を切った男だった。その大柄な体は操者の体を隠すにはちょうど良いと思った。
骨格だけ盗み出し、後は外殻を作れば簡単だった。サンプルとなる血肉がなかったせいか、奴の血継限界までは傀儡に移すことが出来なかった。
そう。
俺はあの血継限界を手に入れようとしていた。
彼女と同じ術を使い、同じところに行くことが出来れば…。
名前を見つけるため、考えられる手段はそれしかなかった。
そのため近々砂隠れを訪れると言う月影に、俺は会って探りを入れるつもりだった。
砂を被った城壁の塀に、両腕をついて顔を埋めた。
「もう、待つのも待たせるのも御免だ…」
お前に会いたい。
「隊長‼︎奇襲です‼︎雲隠れの忍です!!」
「‼︎」
月影が来訪した日の夜。何処からか雲隠れの忍が入り込んでいた。
風影邸はあっという間に血の海と化した。
初めは月影を目当てに入り込んだのかと思ったが、そうではなかった。
月隠れは裏で雲隠れと結託し、砂を落とすつもりだったようだ。どうやらこの忍達は月隠れが手引きしたようだ。
「はっ、こんな事だろうと思った」
やはり最初から月隠れは砂と手を組むつもりはなかった。あくまで三代目の血継限界、そして初代風影の禁術が目当てか。
「里外に出していた傀儡部隊を呼び戻してある。もうすぐ着く。何とか今いる部隊で持ち堪えろ。俺が指揮を取る」
「ほ、本当ですか?!助かった‼︎」
月隠れの忍が使う血継限界は確かに厄介ではあったが、三代目の広範囲を同時に攻撃と防御をやってのける血継限界とは相性が悪かったようだ。
加えて傀儡部隊のチャクラ糸で作った網を張り巡らせておけば敵はすぐに感知され、死角は限りなく0に近くなり戦いは有利になった。
徐々に相手側が劣勢になり、奴らは日の出と共に蜘蛛の子を散らすように撤退していった。
「…サソリ、やはり里の未来はお前に託すしかないようだな」
「嫌なら無理に託さなくていいんだぜ」
もうすぐ死にそうとは思えないほどの顔色で三代目は病床から苦笑いを溢した。
しかし、里の長として堂々たる威厳を放っていたその体は少し小さくなったようにも見えた。
病が進行していた三代目は、受けた傷が原因でさらに寿命を縮めていた。
「不老不死など、馬鹿な夢を見た…。すまなかった。名前を、里に連れ戻してきてくれ」
どの口が言えたものかとも思ったが、名前が月隠に連れて行かれた時、彼女と自分を救ってくれたのは紛れもなくこの三代目風影であった。
それまでにも上役に疎まれていた彼女をチヨと共に擁護し続けてくれていたのも風影であった。
「言われなくてもそうする。そのためにあんたの仇も…とってやる」
「まだ死んでないぞ」
サソリは風影に一つの巻物を広げてみせた。
中には“蠍”と書いてある。
「…これは」
「人傀儡は完成した。今度は自分を…俺の全てを傀儡に変える」
「まさか…」
三代目はとんでもない物を見るような目で俺の顔を見た。
「正気か?自分の体を傀儡にする気か?」
「これで月隠れの里を落とす。もうこれしかない」
「…名前のためか」
三代目は何か思い詰めるように、ベッドに広げられた巻物を見つめた。
「ならば、頼みがある」
「頼み?」
このタイミングで頼み事とは予想外だった上に、内容は更に想像し難い物であった。
「俺が死んだら人傀儡にして、お前に使って欲しい」
「は?!」
初めは笑えない冗談かとも思ったが、風影の目を見て俺は何も言えなくなった。
何かが決壊したように三代目は話し出した。
「こんな戦乱の時代に、このまま死ぬなど…!俺は…!全てを民やお前に押しつけて死ぬのか?!…俺はまだ死ぬわけにはいかない!」
「…」
それは叫び声のようにも祈りの様にも聞こえた。
息を荒くしながら言うこの男を前に、彼が何故不老不死などと言う幻想に惑わされたのか、少しわかった気がした。
そうだ。
この男もまた、この里を、世界を愛している。
それは美しい世界であると、そうなれるはずだと信じている者の1人であった。
「頼む、サソリ」
「…」
俺がこの男のために叶えてやれる事は…一つしかなかった。
「…俺は傀儡使いが荒いが、文句言うなよ」
「はは。壊すなよ」
それが三代目とは最後の会話だった。
月隠れの里。
いつか三代目が破壊した実験施設からかなり離れたところにその里はあった。
俺は三代目の血継限界を引き継いだ人傀儡と、その技術をちらつかせて月影に近づいた。
里を抜け、名前を見つけた暁には彼女と共に月隠れで匿ってほしいと言う虚言を奴らは信じた。
俺は奴らから時空間移動の忍術について全て情報を聞き出したのち、その血継限界を手に入れるため朔夜一族を抹殺し、人傀儡に作り替えるつもりだ。
彼女の敵は全て俺が破壊する。
名前を取り戻すためなら何だってする。
そうとも知らずにこの里の忍は俺を招き入れた。
「行くぞ三代目」
里の門を潜る。
ここでは雪が降っているのに、薄い雲を透かしてぼんやりと赤い月が頭上に見えた。
幻想的で不気味な里。
頬に当たっているはずの雪の温度も分からず、俺は里の中へと足を進めた。
「名前。もうすぐだ。必ず取り戻す」
△
「ばっ…何故、こんな数の傀儡を同時に…」
鬼の体は崩れ出していた。
それはいつか殲滅した里でも聞いたことのある台詞だった。
サソリが周囲に張り巡らせた100体もの傀儡から、血鬼術でも逃げる事は出来なかった。
逃れるために血鬼術を使おうと、その先には常に傀儡が待ち構えていた。
壊しても壊しても次から次へと周りを取り囲むそれらに、ついには捕らえられた。
最後は名前の折れた刃をいつの間にかその手に握った傀儡に首を斬られて、鬼は動くことができなくなった。
その間操者であるサソリは一歩もその場から動く事はなかった。
凄まじい速さで、名前と不死川が手こずっていた鬼を1人で討伐してしまった。その圧倒的な力に、不死川はしばらく放心していた。
「…里を、私が…五大国に思い知らせて…」
鬼が灰となって消えていく。
「…?」
最後に鬼が誰かの名前を呟いたのをサソリは聞いた。
しかしそれは、当然知らない名であった。
鬼が塵となって、風にふかれる音だけが少しの間聞こえた。