夜の淵に咲く
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「まず女…お前を鬼にする。そしてその男を喰え」
「…ぇ」
鬼になる…?
私が?
食べるとは…どう言う事だ?
「稀血を喰らったお前を、この俺が喰う。そうすればこの俺の血鬼術はより強大な力となる。もう朔夜一族の禁術も…人形の貴様の血などもう必要ない!」
私の血は…必要ない?
混乱する私を無視して、鬼は1人楽しそうに話していた。
「はは、はははっ、見つけた…見つけたぞ」
鬼は未だに地面に手をついたまま浅い呼吸を繰り返していたが、その表情は興奮と愉悦で歪んでいる。笑いながら意味のわからない独り言を言っていた。
その顔を見て、私はやっとこの鬼を信じようとした愚かさに気付いた。
「あぁ、そうだ。貴様はもう二度と忍としては生きられないぞ」
「は、」
未だに思考がついていかない中、更に予想外な男の言葉に思わず小さな声が出た。
「当然だ。禁術の発動にはそれなりの対価が必要だ。お前がこの世界に来る時、その術の契約者となり術は発動した。別の者に契約を移さぬ限りチャクラは奪われ続ける。しかしお前はその前に契約を破棄した。一生お前はチャクラを使うことはできない」
そんな。
「そ、それでは…」
「そもそも俺がその巻物を修復したとしてもチャクラのない貴様など、どう足掻いても時空間移動は叶わぬ」
頭を誰かに殴られたようだった。
しかしその頭も体も石のように動けなかった。
己に絶望する。
愚かにもこの鬼に縋ろうとした。
そして何よりそうしたところで私は里には帰れない。
二度と…彼の元には帰れない。
月の光が、流れてきた雲に遮られる。
目の前の夜がどんどん濃くなって、自分も飲み込まれそうだった。
「…あ、」
言葉が、出てこない。
…これが絶望というのか。
これが。
私の死なのか?
「てめェ!!!ぶっ殺してやる‼︎」
師範が刀を構えて鬼に向かって行った。
型を繰り出して斬撃が風の刃となり地面を抉る。
鬼は何とか立ち上がると血鬼術を使い、また師範の技を避けた。今度はさらに私達から距離をとった後方にまた姿を現した。
先ほどまで鬼がいた場所には大きな猛獣の爪痕のように、地面を抉った跡だけが残った。
鬼はゆらりと伸びる影のように立ち上がって話を続けた。
「俺が正常じゃいられないほどの稀血…。これ程の稀血に出会えたのは過去に一度だけだ」
その顔には先程のような興奮状態はもう見られなかった。私とは状況が反転して、鬼は表情や動きに理性が戻ってきていた。
しかし、師範はそんな鬼の話には構わず鬼に背を向けると私の方へ突き進んできた。
「?」
背を見せた師範の意外なその行動に、鬼は呆気に取られていた。一方私はそれを他人事のようにみていた。
師範が目の前まできたーーー。
バシッーーー
「っ?」
急に視界が乱暴に揺れて、右頬に熱が集まった。
あ、痛い。
私はようやく師範に頬を平手打ちされたのだと気づいた。
「馬鹿がァ!相手の挑発にまんまと乗るな!呼吸を乱すな!」
「師範…」
私は右頬を押さえる。
「あっさり諦めてんじゃねェ!悩むんならアイツを切り刻んで日光で炙って全部吐かせれるだけ吐かせてからにしやがれェ!」
「…」
私はその声と、頬の痛みに少しずつ呼吸が正常に戻ってきたのを感じた。
「その刀に誓ったことを忘れるな…」
私は師範に打たれたのは初めてだ、など呑気なことを考えていた。
しかしそれが今、絶望の中でも私をこの現実に繋ぎ止めてくれている気がした。
「どんな時も忘れるな。お前がやるべき事はひとつだ」
私は絶望している。
でも、何故。
貴方は何故諦めないのか。
どうして私以上に信じてくださるのか。
私がやるべき事は…。
私は刀の柄を握った。
師範は今度は私の後ろに回り、背中を合わせるようにして立ち、刀を構えた。
「やつの能力…わかる事全部教えろォ」
「…師範は直感でお気づきのようですが、奴は空間を歪めて移動できますーー」
気づくと私は早口で奴の血鬼術について師範に話していた。今までにも何度も一緒に鬼を狩ってきたのだ。その師が今もこうして私の背に立ってくれるのがとてもありがたかった。
「しかし奴が移動できる距離には限りがあります。姿を消せばその後瞬時に姿を現します。こうして死角をなるべく少なくしていれば…油断はできませんが奴も下手には動けません」
私も刀を構える。
「へっ、通りで宇髄のやつらが派手にやってる遊郭から離れたわけだな。複数相手じゃこいつも大したことねぇみたいだな」
師範の言う通りこの鬼は増援が来るのを懸念している節がある。増援がくるそれまでに私達がこの鬼の首を斬るか、持ち堪えるか、その前に奴が逃げ出すか。
目の前の鬼は愉快そうにその口元を歪めていた。
その表情からは余裕が見て取れた。
「おしゃべりはもうよいか?こちらとしても時間制限があるのでな。そろそろ、鬼になってもらうぞ」
「…ぇ」
鬼になる…?
私が?
食べるとは…どう言う事だ?
「稀血を喰らったお前を、この俺が喰う。そうすればこの俺の血鬼術はより強大な力となる。もう朔夜一族の禁術も…人形の貴様の血などもう必要ない!」
私の血は…必要ない?
混乱する私を無視して、鬼は1人楽しそうに話していた。
「はは、はははっ、見つけた…見つけたぞ」
鬼は未だに地面に手をついたまま浅い呼吸を繰り返していたが、その表情は興奮と愉悦で歪んでいる。笑いながら意味のわからない独り言を言っていた。
その顔を見て、私はやっとこの鬼を信じようとした愚かさに気付いた。
「あぁ、そうだ。貴様はもう二度と忍としては生きられないぞ」
「は、」
未だに思考がついていかない中、更に予想外な男の言葉に思わず小さな声が出た。
「当然だ。禁術の発動にはそれなりの対価が必要だ。お前がこの世界に来る時、その術の契約者となり術は発動した。別の者に契約を移さぬ限りチャクラは奪われ続ける。しかしお前はその前に契約を破棄した。一生お前はチャクラを使うことはできない」
そんな。
「そ、それでは…」
「そもそも俺がその巻物を修復したとしてもチャクラのない貴様など、どう足掻いても時空間移動は叶わぬ」
頭を誰かに殴られたようだった。
しかしその頭も体も石のように動けなかった。
己に絶望する。
愚かにもこの鬼に縋ろうとした。
そして何よりそうしたところで私は里には帰れない。
二度と…彼の元には帰れない。
月の光が、流れてきた雲に遮られる。
目の前の夜がどんどん濃くなって、自分も飲み込まれそうだった。
「…あ、」
言葉が、出てこない。
…これが絶望というのか。
これが。
私の死なのか?
「てめェ!!!ぶっ殺してやる‼︎」
師範が刀を構えて鬼に向かって行った。
型を繰り出して斬撃が風の刃となり地面を抉る。
鬼は何とか立ち上がると血鬼術を使い、また師範の技を避けた。今度はさらに私達から距離をとった後方にまた姿を現した。
先ほどまで鬼がいた場所には大きな猛獣の爪痕のように、地面を抉った跡だけが残った。
鬼はゆらりと伸びる影のように立ち上がって話を続けた。
「俺が正常じゃいられないほどの稀血…。これ程の稀血に出会えたのは過去に一度だけだ」
その顔には先程のような興奮状態はもう見られなかった。私とは状況が反転して、鬼は表情や動きに理性が戻ってきていた。
しかし、師範はそんな鬼の話には構わず鬼に背を向けると私の方へ突き進んできた。
「?」
背を見せた師範の意外なその行動に、鬼は呆気に取られていた。一方私はそれを他人事のようにみていた。
師範が目の前まできたーーー。
バシッーーー
「っ?」
急に視界が乱暴に揺れて、右頬に熱が集まった。
あ、痛い。
私はようやく師範に頬を平手打ちされたのだと気づいた。
「馬鹿がァ!相手の挑発にまんまと乗るな!呼吸を乱すな!」
「師範…」
私は右頬を押さえる。
「あっさり諦めてんじゃねェ!悩むんならアイツを切り刻んで日光で炙って全部吐かせれるだけ吐かせてからにしやがれェ!」
「…」
私はその声と、頬の痛みに少しずつ呼吸が正常に戻ってきたのを感じた。
「その刀に誓ったことを忘れるな…」
私は師範に打たれたのは初めてだ、など呑気なことを考えていた。
しかしそれが今、絶望の中でも私をこの現実に繋ぎ止めてくれている気がした。
「どんな時も忘れるな。お前がやるべき事はひとつだ」
私は絶望している。
でも、何故。
貴方は何故諦めないのか。
どうして私以上に信じてくださるのか。
私がやるべき事は…。
私は刀の柄を握った。
師範は今度は私の後ろに回り、背中を合わせるようにして立ち、刀を構えた。
「やつの能力…わかる事全部教えろォ」
「…師範は直感でお気づきのようですが、奴は空間を歪めて移動できますーー」
気づくと私は早口で奴の血鬼術について師範に話していた。今までにも何度も一緒に鬼を狩ってきたのだ。その師が今もこうして私の背に立ってくれるのがとてもありがたかった。
「しかし奴が移動できる距離には限りがあります。姿を消せばその後瞬時に姿を現します。こうして死角をなるべく少なくしていれば…油断はできませんが奴も下手には動けません」
私も刀を構える。
「へっ、通りで宇髄のやつらが派手にやってる遊郭から離れたわけだな。複数相手じゃこいつも大したことねぇみたいだな」
師範の言う通りこの鬼は増援が来るのを懸念している節がある。増援がくるそれまでに私達がこの鬼の首を斬るか、持ち堪えるか、その前に奴が逃げ出すか。
目の前の鬼は愉快そうにその口元を歪めていた。
その表情からは余裕が見て取れた。
「おしゃべりはもうよいか?こちらとしても時間制限があるのでな。そろそろ、鬼になってもらうぞ」