夜の淵に咲く
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遠い過去の月隠れの里ーーーー
赤い月が、地上に降り続ける雪を見下ろしていた。
「…ッ…民を…楽園へ、みちび、ぃてっ…」
「…」
それが彼女の最後の言葉だった。
五大国が勢力を広げようと力を欲し、己が国境を守ろうと、民を守ろうと、互いが滅ぼし合う時代。
我らは血継限界を有する一族と、少数の民が集まり出来た小さな里に住んでいた。
どんなに姿を隠そうと、我らの能力目当てで他里は土足でこの地に何度も踏み込んできた。
民を守るため戦った忍がまた1人、目の前でその命を終えた。
俺の妻だ。
その瞳は既に光を失って井戸の底のようだった。
口からからは鮮血が泡立って今もなお溢れ、それは凍えた大地に流れ落ちた。鮮やかな赤色が少しずつ白い雪を溶かしていた。両腕はどこかに吹き飛び、手も握ってやれなかった。
「……ぁぁあああ!!!!」
お前の願いは叶えてみせる。
俺にはそれが出来る。
この血継限界さえあれば。
この血さえあれば、
お前ともう一度…。
「くそっ!何故だ‼︎失敗だ…‼︎術もチャクラも失った…‼︎」
先祖が長年研究してきた異空間転移の術。
この血が我ら一族をいつか楽園へと導くと言い伝えられてきた。
ようやく成功に思われたが、またしても失敗。
巻物だけでなくチャクラまで失う羽目に。
しかし、周囲で落胆しているはずの一族の姿は消え、俺の周りには見たこともない景色が広がっていた。周囲は小鳥が囀る静かな森が広がっていた。
もしや、楽園へと導かれたのではと思ったが、彷徨っているうちに鬼と鬼狩りが戦い続ける悲しき世界であることを知った。
鬼は日光に照らされるか、日輪刀で斬らなければ死ぬことはない。
と、鬼に襲われたところを救ってくれた鬼狩りから詳しく話を聞いた。
鬼は人を喰らい、今もなお暗躍している。
しかし。
この鬼は我ら一族を救うやもしれない。
「鬼を自らの手で作り出せば…五大国をも凌げる力を手に入れることができる」
五大国を潰してやりたい。
あの世界の全てが憎い。
彼女のいない世界が許せない。
コワシテシマエバイイ。
人体の複製は既に研究して動き出していた。
きっと鬼も作れる。
俺が鬼となり里に戻り、自ら検体となろう。
後はどうやって戻るか…。
俺は再び術を完成させた一族の者が現れるのを待った。しかし何年も現れることはなかった。
俺は上弦の鬼と接触し、自ら鬼となった。
そして手に入れた鬼の力…血鬼術で元の世界に帰る方法を模索した。
が、残念ながらそううまくはいかなかった。
しかも俺は別の世界の人間だからだろうか。俺は人間を喰うことが出来なかった。
俺が食べる事が出来るのは…鬼だ。
女の鬼がいい。
鬼を喰らう鬼。他の鬼と敵対する事は当然。
そしていつしか鬼舞辻に目をつけられた。
鬼舞辻は想像以上に強力な力を持った鬼であった。鬼殺隊が千年以上という長い歳月をかけても到底倒せなかった理由を俺は目の前で目の当たりにし、死を覚悟した。
しかし異色な鬼となった俺を奴は面白がり、邪魔をしなければ鬼を喰うことを大目に見ると言ったのだ。しかし俺が喰うことが許される鬼は、俺が鬼舞辻の血を与え、鬼にした者のみだ。そうすれば鬼の数は減らない。
俺は鬼となったことで歳を取ることはなくなった。
そして長い年月、いつか一族の者が現れるのを待った。
必ズヤ五大国ニ思イ知ラセテヤル。
コノ憎悪、絶望、孤独ヲ。
全テ、壊レロ。
「来ないで!お願い!!お願い…っ」
目の前で震える女の首を爪で軽く引っ掻く。
薄い皮膚が破れ、そこから俺の血がその女に入り込む。
「やめて…家族が、待って、る…っ」
鬼へと体の細胞が変貌していく経過、もがき苦しむ女を見ていて、ふと違和感を感じた。
…?俺は、何をしているのだろう?
何のためにこんな事をしているのだ…?
「 」
誰かが俺を呼んだような気がした。
辺りを見回す。
周囲には誰もいない。
誰モイナイ。
だが、遠い昔…聞いたことのある声だったように感じた。懐かしい。
誰だったのだろう?
思い出せない。
いや、そんな事はどうでもいい。
五大国ヲ、全テ破壊スル。
忍ノ世界ヲ焼キ尽クス。
だがそれは
誰のためだったのか。