夜の淵に咲く
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「なぁ不死川頼むって」
「しつけぇぞ!ダメに決まってんだろォが!帰れ‼︎」
風柱邸にて。
朝早くから門を叩く者がいたので不死川と名前はいったい誰だろうかと思った。
名前が玄関まで出向くと、そこには予想にしていなかった人物が現れた。
「きゃ…!!」
「‼︎」
不死川は弟子の悲鳴を聞いて瞬時に玄関まで駆けつけた。あの常に冷静沈着な名前の悲鳴を聞いたことなんて今までなかった。
一体何が…‼︎
「おい!どうしっ…うぉお?!」
その来訪者をみて思わず不死川も悲鳴を上げた。
そこには目を見開いたまま両手を口に当て、上り框に立ちすくんだ名前と、戸口に立って飄飄とした笑顔を浮かべる大男…音柱である宇髓天元。
宇髄だけでも珍しい来訪者だが、驚いたのはその後ろに引き連れている奇妙な出立をした3人。
「おはようございます!不死川さん!名前さん!朝からすみません!」
「いやぁぁ!?何?!すんげぇきれいなお姉さん出てきたと思ったらここあの怖いおっさんの家なの?!どういう関係?!」
「お前ら…何か強そうな気配すんぜ…俺と勝負しろ‼︎」
そこには何故か顔に奇天烈な化粧を施され、女物の着物を着せられた炭治郎、善逸、伊之助の3人がいた。
最初は不死川も名前もこの3人の風貌が変わり果て過ぎていたため、誰かわからなかった。
「よう!おはようさん!名前はしばらく見ねぇうちにまた綺麗になったな」
そこに片手を上げて呑気に挨拶をしてきた宇髓を不死川は睨みつけた。
「おいぃ…宇髓ィ。朝から何だァこんなふざけた野郎共連れてきやがって」
不死川は後ろの3人を指差した。
あの名前も悲鳴を上げる筈だと、不死川は納得した。
朝からこんな道化が3人も玄関に押しかけてきたのでは仕方がない。
「いや!実はよー、頼みがあって」
「帰れェ」
不死川はこの状況からろくな頼み事ではないと判断した。早々に踵を返して屋敷の奥に引っ込もうとした。
「いいぜ。用があるのは名前だからな」
「何だとォ?」
不死川はその言葉に足を止めて再び宇髓に向き直った。
「…私にですか?」
ポカンとしていた名前がようやく口を開いた。
「そうそう!ちょっと俺の任務に協力して欲しいんだわ。お館様にはお前さえ良ければと許可ももらってる」
「任務のお話でしたか。あ、すみません。中へどうぞ?」
未だに玄関先に上官である柱を立たせていた事に気が付いた名前は、慌てて4人を中へ入るように促した。
勝手にことが進んでいく様子に不死川はモヤモヤとしたが、鬼殺隊当主の許可が出ていると聞いた以上、無碍には追い返せなかった。
「んでェ、どんな任務だ。期間は?」
上等な客間に宇髓は通され、不死川と向かい合って座る。
炭治郎たち3人は宇髓が邪魔だから庭で遊んでろと、ポイっと縁側から追い出してしまった。
確かにあの3人がいては静かに話ができないだろうと、不死川も名前も特に異論はなかった。
そのまま名前は柱2人のために、お茶の支度をしに厨に向かった。
庭から2人がギャーギャー文句を言う声がする。炭治郎がそれを宥める声を背に、不死川は単刀直入に任務の内容を聞いた。
宇髓は真剣な表情になり答えた。
「俺の嫁が3人とも遊郭に潜入して鬼の情報を探っている。だが定期連絡が3人とも途絶えた」
「…」
不死川もそれを聞き真剣な表情になる。
何か問題が起きているのは間違いないだろう。
「そこでだ。遊郭にあの3人を潜入させて、中から情報を探らせる。俺は外から情報を探る」
不死川は頷いた。
確かに天元のような男は老若男女問わず誰からも目立つ存在だろう。外側から人知れず探るより他ないだろう。元忍の彼にとっては得意分野だ。
しかし…
「…あの3人で大丈夫なのかよォ」
不死川は今度は苦いものでも食べているような顔をした。
それを見た宇髓は目尻を吊り上げて叫んだ。
「どう見たって無理だろ!そもそもありゃ野郎だ!蝶屋敷で何人か借りようとしたけど抵抗されたんだよ‼︎」
不死川はそこまで言われてハッとした。
宇髓が何を頼みにきたのかハッキリしたからだ。
「おいィ、まさかうちの弟子を廓に売り飛ばそうってんじゃねェよなア?」
不死川が宇髓を下から睨み上げる。
宇髓がやや後方にたじろぐ。
「んなわけねぇだろ!…その、ちょっと変装して数日間潜入してほしいってだけだ」
「やっぱりそうじゃねェか!」
不死川は声を荒げた。
宇髓は両手を不死川に向けてまぁまぁと宥めるような仕草をする。
「あいつだって元くの一だ!変装、隠密、情報収集は朝飯前だろ?訓練だって受けてる筈だ。誰よりも適任なんだよ!」
不死川も理屈はわかる。
名前なら上手く内部に潜り込めるだろう。
しかしそうなった以上、遊女らしく振る舞い、そして客を取らなくてはならなくなるだろう。
それを思うと無性に許せなかった。
不死川はなおも宇髓を睨みながら言葉を発した。
「許可できねェな、ここは忍び里じゃねぇ。それに任務といえど花街にまだ嫁入り前の自分の弟子を放り込めるわけねェだろ」
名前には…里で待っている男がいる。
その男の元にいつか帰らせるためにも、不死川にはそんなことはさせられなかった。
その言葉を聞いて宇髓は少し間を置いて言った。
「…お前何か、名前の親父かなんかみてぇだな」
「てめぇェ!ぶっ殺すぞ!」
カァッと顔を赤くした不死川が宇髓の胸倉を掴もうと飛びかかった。
それをヒラリと宇髓は避ける。
そして冒頭のやり取りに至る…
「そんな大声を出されてどうしたんですか?」
ここでやっと名前がやってきた。
両手にはお茶とお茶請けの和菓子が載ったお盆を持っていた。
「お!そうだそうだ。別に不死川の許可なんかいらなかったぜ。名前本人さえ良ければいいってお館様には言われてるからな」
「待て宇髓ィ!」
宇髓は不死川を無視して名前に話し出した。
遊郭で嫁が既に潜入したはいいが連絡が途絶えていること。
そして名前にも遊女として廓に潜入して情報収集、必要となれば鬼の討伐に力を貸してほしいと頼んだ。
「そうでしたか…音柱様の奥方様たちが…」
名前は話を聞き終わると少し下を向いて、考えるような仕草をした。
それを見た不死川はすかさず言った。
「悩む必要ねェ。断れ。どうせあの庭で遊んでる馬鹿3人とこの音柱自ら出向くんだ。お前が行かなかったところでどうってことねェ」
そしてすぐにこの言葉では失敗だったと不死川は気づいた。
「炭治郎君達が遊郭に…ですか…」
名前は表情をわずかに険しくした。
年頃の男子であるのにあのように化粧を施され、女のフリをしなくてはならないのが不便だった。
そして3人が遊郭にうまく潜り込めるかも不安であった。
あの風貌を見てからでは当然か。
不死川は慌てた。
「と、とにかくお前ェは…ぐッっ!!!!」
「不死川はいーんだよ!ちょっと黙ってろ!」
叫んだ不死川の口に、宇髓がお茶請けのおはぎを2ついっぺんに詰め込んだ。
咄嗟のことに不覚にもおはぎを飲み込むことも吐き出すこともできずに不死川は狼狽えた。
「花街じゃもう何人も消えてるって話だ。嫁の3人も何かあったのは間違いねぇ。あまり時間がない。お前が頼りなんだ」
元くの一とは言え、どこか名前は人情深いところがある。そんな言い方をされれば頷いてしまうだろう。そう思った不死川は必死におはぎを咀嚼しながら首を振って、断れ!と名前に合図する。
一方、名前は不死川が自分のために断ろうとしてくれているのがわかっていた。
しかし、飄々としてはいるが妻の身を案ずる宇髓の気持ちも痛いほど分かった。
「わかりました。私で良ければ任務に同行させていただきます」
「ふんごほがぁアー!!(こんの馬鹿がァー!!)」
怒れる不死川を手で押し除けて宇髓は名前に詰め寄る。
「そうか!悪りぃな!早速準備して行くぞ!」
「はい。ただ音柱様…その、一つ言っておきたいことが…」
「ん?」
なにやら名前は言いにくそうに両手を擦り合わせたりモジモジとしていた。
下を俯き頬を赤らめる名前。
そんな顔は不死川でも初めて見た。
思わず面食らう柱二人。
「知識としてはあるのですが…実際に色の任務に就いた事も、その…そういう経験もないのです。お役に立てるかどうか…」
心配そうに、言いにくそうに名前はポツポツと話した。恥じらうその姿は年頃の少女らしく、しかしその目を伏せる仕草などはどこか色香を漂わせている気さえした。
「…こいつぁ花魁にまでなれそうだぜ…」
宇髓が名前を凝視したまま真剣な表情で呟く。
見るなと言わんばかりに不死川が宇髓の肩を拳で一発殴った。
「それに私などが、まず遊郭に買っていただけるかどうか…齢も既に17ですし…」
名前は不安そうに2人を見た。
おはぎをゴクリと飲み込んだ不死川は言った。
「何弱気なこと言ってやがる!絶対ェ売れ残るんじゃねェ!」
「お前反対だったんじゃないのかよ?!」
もちろん不死川はこの任務には反対だ。しかしこの自慢の弟子がまさか断られるなんて、そんな屈辱も許せなかった。
そこで宇髓は腕を組んで言い放った。
「派手に安心しろ!名前には俺の嫁が潜入してる3つの遊郭のうちのいずれかに行ってもらうつもりだったが…やめだ。鬼殺隊の息がかかった遊郭がある。そこで新造として置かせてもらえるように取り計らってやる」
鬼殺隊に協力的な遊郭でなければ名前の場合…見目好すぎる。目立ち過ぎる気がした。隠密行動には支障が出ると考えた宇髓は計画を変更した。
何より客なんか取らせた日にはその客も自分も、後ろで唸っている風柱に八つ裂きにされるだろう。
新造ならばに客と床に入る必要もない。
「そのようにしていただけると助かります。精一杯そこで情報を集めますので、音柱様。どうぞよろしくお願い致します」
少し安心した様子の名前を見て不死川も息を吐いた。
「ちっ、そんな場所があるなら最初からそう言いやがれェ」
「仕方ねぇだろ。そこで得られる情報はもう粗方手に入れてる。でも名前ならいざとなった時花街の中にいてくれるだけで助かるからな。…よし!じゃあ準備するぜ!着物はこれに着替えろ。お前は化粧しなくてもそのままでいいだろ」
宇髓は既に用意していた簡素な女物の着物を取り出した。
名前はすかさずこくこくと頷いた。
誰がやったかは知らないが、炭治郎達のような化粧をされては堪らなかった。
「しつけぇぞ!ダメに決まってんだろォが!帰れ‼︎」
風柱邸にて。
朝早くから門を叩く者がいたので不死川と名前はいったい誰だろうかと思った。
名前が玄関まで出向くと、そこには予想にしていなかった人物が現れた。
「きゃ…!!」
「‼︎」
不死川は弟子の悲鳴を聞いて瞬時に玄関まで駆けつけた。あの常に冷静沈着な名前の悲鳴を聞いたことなんて今までなかった。
一体何が…‼︎
「おい!どうしっ…うぉお?!」
その来訪者をみて思わず不死川も悲鳴を上げた。
そこには目を見開いたまま両手を口に当て、上り框に立ちすくんだ名前と、戸口に立って飄飄とした笑顔を浮かべる大男…音柱である宇髓天元。
宇髄だけでも珍しい来訪者だが、驚いたのはその後ろに引き連れている奇妙な出立をした3人。
「おはようございます!不死川さん!名前さん!朝からすみません!」
「いやぁぁ!?何?!すんげぇきれいなお姉さん出てきたと思ったらここあの怖いおっさんの家なの?!どういう関係?!」
「お前ら…何か強そうな気配すんぜ…俺と勝負しろ‼︎」
そこには何故か顔に奇天烈な化粧を施され、女物の着物を着せられた炭治郎、善逸、伊之助の3人がいた。
最初は不死川も名前もこの3人の風貌が変わり果て過ぎていたため、誰かわからなかった。
「よう!おはようさん!名前はしばらく見ねぇうちにまた綺麗になったな」
そこに片手を上げて呑気に挨拶をしてきた宇髓を不死川は睨みつけた。
「おいぃ…宇髓ィ。朝から何だァこんなふざけた野郎共連れてきやがって」
不死川は後ろの3人を指差した。
あの名前も悲鳴を上げる筈だと、不死川は納得した。
朝からこんな道化が3人も玄関に押しかけてきたのでは仕方がない。
「いや!実はよー、頼みがあって」
「帰れェ」
不死川はこの状況からろくな頼み事ではないと判断した。早々に踵を返して屋敷の奥に引っ込もうとした。
「いいぜ。用があるのは名前だからな」
「何だとォ?」
不死川はその言葉に足を止めて再び宇髓に向き直った。
「…私にですか?」
ポカンとしていた名前がようやく口を開いた。
「そうそう!ちょっと俺の任務に協力して欲しいんだわ。お館様にはお前さえ良ければと許可ももらってる」
「任務のお話でしたか。あ、すみません。中へどうぞ?」
未だに玄関先に上官である柱を立たせていた事に気が付いた名前は、慌てて4人を中へ入るように促した。
勝手にことが進んでいく様子に不死川はモヤモヤとしたが、鬼殺隊当主の許可が出ていると聞いた以上、無碍には追い返せなかった。
「んでェ、どんな任務だ。期間は?」
上等な客間に宇髓は通され、不死川と向かい合って座る。
炭治郎たち3人は宇髓が邪魔だから庭で遊んでろと、ポイっと縁側から追い出してしまった。
確かにあの3人がいては静かに話ができないだろうと、不死川も名前も特に異論はなかった。
そのまま名前は柱2人のために、お茶の支度をしに厨に向かった。
庭から2人がギャーギャー文句を言う声がする。炭治郎がそれを宥める声を背に、不死川は単刀直入に任務の内容を聞いた。
宇髓は真剣な表情になり答えた。
「俺の嫁が3人とも遊郭に潜入して鬼の情報を探っている。だが定期連絡が3人とも途絶えた」
「…」
不死川もそれを聞き真剣な表情になる。
何か問題が起きているのは間違いないだろう。
「そこでだ。遊郭にあの3人を潜入させて、中から情報を探らせる。俺は外から情報を探る」
不死川は頷いた。
確かに天元のような男は老若男女問わず誰からも目立つ存在だろう。外側から人知れず探るより他ないだろう。元忍の彼にとっては得意分野だ。
しかし…
「…あの3人で大丈夫なのかよォ」
不死川は今度は苦いものでも食べているような顔をした。
それを見た宇髓は目尻を吊り上げて叫んだ。
「どう見たって無理だろ!そもそもありゃ野郎だ!蝶屋敷で何人か借りようとしたけど抵抗されたんだよ‼︎」
不死川はそこまで言われてハッとした。
宇髓が何を頼みにきたのかハッキリしたからだ。
「おいィ、まさかうちの弟子を廓に売り飛ばそうってんじゃねェよなア?」
不死川が宇髓を下から睨み上げる。
宇髓がやや後方にたじろぐ。
「んなわけねぇだろ!…その、ちょっと変装して数日間潜入してほしいってだけだ」
「やっぱりそうじゃねェか!」
不死川は声を荒げた。
宇髓は両手を不死川に向けてまぁまぁと宥めるような仕草をする。
「あいつだって元くの一だ!変装、隠密、情報収集は朝飯前だろ?訓練だって受けてる筈だ。誰よりも適任なんだよ!」
不死川も理屈はわかる。
名前なら上手く内部に潜り込めるだろう。
しかしそうなった以上、遊女らしく振る舞い、そして客を取らなくてはならなくなるだろう。
それを思うと無性に許せなかった。
不死川はなおも宇髓を睨みながら言葉を発した。
「許可できねェな、ここは忍び里じゃねぇ。それに任務といえど花街にまだ嫁入り前の自分の弟子を放り込めるわけねェだろ」
名前には…里で待っている男がいる。
その男の元にいつか帰らせるためにも、不死川にはそんなことはさせられなかった。
その言葉を聞いて宇髓は少し間を置いて言った。
「…お前何か、名前の親父かなんかみてぇだな」
「てめぇェ!ぶっ殺すぞ!」
カァッと顔を赤くした不死川が宇髓の胸倉を掴もうと飛びかかった。
それをヒラリと宇髓は避ける。
そして冒頭のやり取りに至る…
「そんな大声を出されてどうしたんですか?」
ここでやっと名前がやってきた。
両手にはお茶とお茶請けの和菓子が載ったお盆を持っていた。
「お!そうだそうだ。別に不死川の許可なんかいらなかったぜ。名前本人さえ良ければいいってお館様には言われてるからな」
「待て宇髓ィ!」
宇髓は不死川を無視して名前に話し出した。
遊郭で嫁が既に潜入したはいいが連絡が途絶えていること。
そして名前にも遊女として廓に潜入して情報収集、必要となれば鬼の討伐に力を貸してほしいと頼んだ。
「そうでしたか…音柱様の奥方様たちが…」
名前は話を聞き終わると少し下を向いて、考えるような仕草をした。
それを見た不死川はすかさず言った。
「悩む必要ねェ。断れ。どうせあの庭で遊んでる馬鹿3人とこの音柱自ら出向くんだ。お前が行かなかったところでどうってことねェ」
そしてすぐにこの言葉では失敗だったと不死川は気づいた。
「炭治郎君達が遊郭に…ですか…」
名前は表情をわずかに険しくした。
年頃の男子であるのにあのように化粧を施され、女のフリをしなくてはならないのが不便だった。
そして3人が遊郭にうまく潜り込めるかも不安であった。
あの風貌を見てからでは当然か。
不死川は慌てた。
「と、とにかくお前ェは…ぐッっ!!!!」
「不死川はいーんだよ!ちょっと黙ってろ!」
叫んだ不死川の口に、宇髓がお茶請けのおはぎを2ついっぺんに詰め込んだ。
咄嗟のことに不覚にもおはぎを飲み込むことも吐き出すこともできずに不死川は狼狽えた。
「花街じゃもう何人も消えてるって話だ。嫁の3人も何かあったのは間違いねぇ。あまり時間がない。お前が頼りなんだ」
元くの一とは言え、どこか名前は人情深いところがある。そんな言い方をされれば頷いてしまうだろう。そう思った不死川は必死におはぎを咀嚼しながら首を振って、断れ!と名前に合図する。
一方、名前は不死川が自分のために断ろうとしてくれているのがわかっていた。
しかし、飄々としてはいるが妻の身を案ずる宇髓の気持ちも痛いほど分かった。
「わかりました。私で良ければ任務に同行させていただきます」
「ふんごほがぁアー!!(こんの馬鹿がァー!!)」
怒れる不死川を手で押し除けて宇髓は名前に詰め寄る。
「そうか!悪りぃな!早速準備して行くぞ!」
「はい。ただ音柱様…その、一つ言っておきたいことが…」
「ん?」
なにやら名前は言いにくそうに両手を擦り合わせたりモジモジとしていた。
下を俯き頬を赤らめる名前。
そんな顔は不死川でも初めて見た。
思わず面食らう柱二人。
「知識としてはあるのですが…実際に色の任務に就いた事も、その…そういう経験もないのです。お役に立てるかどうか…」
心配そうに、言いにくそうに名前はポツポツと話した。恥じらうその姿は年頃の少女らしく、しかしその目を伏せる仕草などはどこか色香を漂わせている気さえした。
「…こいつぁ花魁にまでなれそうだぜ…」
宇髓が名前を凝視したまま真剣な表情で呟く。
見るなと言わんばかりに不死川が宇髓の肩を拳で一発殴った。
「それに私などが、まず遊郭に買っていただけるかどうか…齢も既に17ですし…」
名前は不安そうに2人を見た。
おはぎをゴクリと飲み込んだ不死川は言った。
「何弱気なこと言ってやがる!絶対ェ売れ残るんじゃねェ!」
「お前反対だったんじゃないのかよ?!」
もちろん不死川はこの任務には反対だ。しかしこの自慢の弟子がまさか断られるなんて、そんな屈辱も許せなかった。
そこで宇髓は腕を組んで言い放った。
「派手に安心しろ!名前には俺の嫁が潜入してる3つの遊郭のうちのいずれかに行ってもらうつもりだったが…やめだ。鬼殺隊の息がかかった遊郭がある。そこで新造として置かせてもらえるように取り計らってやる」
鬼殺隊に協力的な遊郭でなければ名前の場合…見目好すぎる。目立ち過ぎる気がした。隠密行動には支障が出ると考えた宇髓は計画を変更した。
何より客なんか取らせた日にはその客も自分も、後ろで唸っている風柱に八つ裂きにされるだろう。
新造ならばに客と床に入る必要もない。
「そのようにしていただけると助かります。精一杯そこで情報を集めますので、音柱様。どうぞよろしくお願い致します」
少し安心した様子の名前を見て不死川も息を吐いた。
「ちっ、そんな場所があるなら最初からそう言いやがれェ」
「仕方ねぇだろ。そこで得られる情報はもう粗方手に入れてる。でも名前ならいざとなった時花街の中にいてくれるだけで助かるからな。…よし!じゃあ準備するぜ!着物はこれに着替えろ。お前は化粧しなくてもそのままでいいだろ」
宇髓は既に用意していた簡素な女物の着物を取り出した。
名前はすかさずこくこくと頷いた。
誰がやったかは知らないが、炭治郎達のような化粧をされては堪らなかった。