夜の淵に咲く
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「これを渡しておく」
湯をいただき、軽く胃に食べ物を流し込んだ。そうしているうちに夜が明け、縁側で朝日をただぼーっと眺めていた時だった。
隣に何も言わずに師範が座ったと思ったら徐にそう言われた。
「…っこれ」
師範が手に持っていたのはあの巻物だった。
上弦の参との戦闘後、チャクラが枯渇したことにより意識が途切れた。蝶屋敷で目が覚めると巻物がなく、すぐに探しに行った。何より一華を取り戻したかった。
しかし、そこは既に隠が処理をしたのか、巻物どころか一華も戦闘の痕跡もきれいになくなっていた。
「…あの時、額に傷のある隊士がいたろォ。そいつが持ってた」
そういえば…そんな子がいたなと思い出した。市松模様の変わった羽織を着ていた。
「あれが前言ってた鬼を連れた隊士だ」
「彼が…」
清い心の持ち主。第一印象はそんな感じだった。澄んだ目に宿る強さと悲しみ。炎柱様のために必死だった。
そうか、そんな中わざわざ拾ってくれたのか…。今度会ったらお礼を言わなくては。
そう思いながらゆっくりと、その巻物を受け取った。
やはり、何も感じなかった。
今まで集めたチャクラはおろか、チャクラがここに吸収されていく感覚もない。
「…やっぱり、もう使えねェのか」
師範が私の反応を見て確信したように尋ねた。
「そのようです…。これを直す方法か、また全く別の手立てを考えなくてはいけません」
「それを直す方法に何か心当たりはねぇのかァ」
巻物に施された術を再び使用できるようにする…正確には直すというより全く同じものを作るのが1番早く確かだろう。
しかし生憎、私にそれは未知の領域だ。
「そうですね…。洗濯糊で破った箇所を貼ってみましょう…か?」
「てめェ落ち込んでたんじゃねェのか。そんな冗談言ってる場合かァ」
師範が呆れたようにため息をついた。
「すみません…。しかし私には復元のしようがありません。ひとまず物理的に戻してみたらどうかと思いまして…」
「…」
師範はもう一度ため息をついた後、真剣な顔で続けた。
「俺が考えられる可能性は…鬼の血鬼術だ」
「…その手がありましたか」
つまり壊れたものを直せるかそれに近いような血鬼術を使う者がいれば、それを利用できないだろうかという話だ。
「言うまでもねぇと思うが…そんな都合の良い血鬼術を使える奴がいるかもわからない上に、そもそも言うことを聞いてくれるような相手じゃねェ」
「はい…」
限りなく可能性は低いように思えた。
しかし…
「それでも…やるだろ?」
師範の泣き言は言わせないとばかりの視線がこちらに向けられる。
私はいつもこの目に、迷いのない心に救われてきた。
その目を見て一度頷いた後、私はそばに置いていた自分の日輪刀に手を伸ばした。それを膝の上に置き両手で持つ。
ーーーその刀に誓え
初めてこの刀を手にした時の師範の言葉が蘇った。
そうだ。
師範の言う通り、どんなに無謀で険しい道だろうと立ち止まることは出来ない。
「…この刀に、もう一度誓わせてください」
刀を鞘から抜き、登り始めた朝日にその刃を照らした。
朝日は私の花緑青色の刃を優しく照らし、それを師範と2人見つめた。
この刀を折りはしないと誓ったあの日と同じように。
まだ雨の匂いがする風がその中を吹き抜けた。
「では…早速。まずは巻物を糊で貼り合わせてみます」
「あァ?!それ本当にやんのかい…」
そうと決めればと、すぐさま刀を鞘に納め、私は洗濯場に置いてあった洗濯糊を取りに行くため立ち上がった。
後ろで師範はまた呆れたような溜息をついている。
私もそんな事で巻物が元に戻るとは思っていないが、念のためやっておかないと気が済まないし、持ち歩くのに破れた状態は色々と不便だ。
呆れる師範を見なかったことにして糊を探しに行く。
そして先程と同じ表情のまま縁側に座っている師範のもとに戻った。
持ってきた糊を、納屋に置いてあった刷毛でペタペタと塗りだした。そして師範に下手くそとか張り合わせた巻物が斜めだとか散々言われながら作業をしている最中だった。
「おや、思っていた状況とは違って何やら楽しそうですね」
「!」
初めて聞く声だった。何より気配がしなかったので驚いた。声のした方に視線を向けると庭の桜の木に一羽の鴉がとまっていた。
「あれは…っ」
師範が驚いたような声を上げたかと思ったらすぐにその場に跪いて頭を下げた。慌てて私も同じように跪いた。
師範が小声で「お館様の鎹鴉だ」と呟いた。なるほど。道理で他の鴉たちとは雰囲気が違う。
「どうか私にそのように畏まらないでください。産屋敷耀哉より伝言を伝えに参りました」
そう言うとお館様の鎹鴉は私たちのいる縁側に降りたった。私たちに気を使わせないようにであろうか、その場にゆったりと沈みこむように座られた。
鴉の表情はわからないが…心なしかそこにお館様が微笑んでるように見えてくるので不思議だ。
お言葉に甘えて私たちは立てていた片膝を戻しそこに正座した。
「風柱、不死川実弥。それに名前。これより産屋敷邸に参られよ。大切なお話があります」
「え?」
大切な話、という言葉に些か緊張が走った。
このタイミングで大切な話とは良い話か、悪い話か…。しかもお館様は最近は病の進行から体調が優れず、なかなか柱でもお会いすることができなくなっていると聞いていた。それをわざわざ直接話したいこととは一体なんであろうか…。
思わず師範の顔をチラリと横目で盗み見たが、師範も怪訝そうな顔をしてお館様の鎹鴉の方を見ていた。
「私は先に当主の元へ戻ります。ゆっくり支度をしてから参られよ」
再び視線を戻すと既に縁側から飛び立とうと翼を広げていた。彼は飛び立つ前に、まだ広げたままにした張り合わせたばかりの巻物をチラリと見た気がした。
湯をいただき、軽く胃に食べ物を流し込んだ。そうしているうちに夜が明け、縁側で朝日をただぼーっと眺めていた時だった。
隣に何も言わずに師範が座ったと思ったら徐にそう言われた。
「…っこれ」
師範が手に持っていたのはあの巻物だった。
上弦の参との戦闘後、チャクラが枯渇したことにより意識が途切れた。蝶屋敷で目が覚めると巻物がなく、すぐに探しに行った。何より一華を取り戻したかった。
しかし、そこは既に隠が処理をしたのか、巻物どころか一華も戦闘の痕跡もきれいになくなっていた。
「…あの時、額に傷のある隊士がいたろォ。そいつが持ってた」
そういえば…そんな子がいたなと思い出した。市松模様の変わった羽織を着ていた。
「あれが前言ってた鬼を連れた隊士だ」
「彼が…」
清い心の持ち主。第一印象はそんな感じだった。澄んだ目に宿る強さと悲しみ。炎柱様のために必死だった。
そうか、そんな中わざわざ拾ってくれたのか…。今度会ったらお礼を言わなくては。
そう思いながらゆっくりと、その巻物を受け取った。
やはり、何も感じなかった。
今まで集めたチャクラはおろか、チャクラがここに吸収されていく感覚もない。
「…やっぱり、もう使えねェのか」
師範が私の反応を見て確信したように尋ねた。
「そのようです…。これを直す方法か、また全く別の手立てを考えなくてはいけません」
「それを直す方法に何か心当たりはねぇのかァ」
巻物に施された術を再び使用できるようにする…正確には直すというより全く同じものを作るのが1番早く確かだろう。
しかし生憎、私にそれは未知の領域だ。
「そうですね…。洗濯糊で破った箇所を貼ってみましょう…か?」
「てめェ落ち込んでたんじゃねェのか。そんな冗談言ってる場合かァ」
師範が呆れたようにため息をついた。
「すみません…。しかし私には復元のしようがありません。ひとまず物理的に戻してみたらどうかと思いまして…」
「…」
師範はもう一度ため息をついた後、真剣な顔で続けた。
「俺が考えられる可能性は…鬼の血鬼術だ」
「…その手がありましたか」
つまり壊れたものを直せるかそれに近いような血鬼術を使う者がいれば、それを利用できないだろうかという話だ。
「言うまでもねぇと思うが…そんな都合の良い血鬼術を使える奴がいるかもわからない上に、そもそも言うことを聞いてくれるような相手じゃねェ」
「はい…」
限りなく可能性は低いように思えた。
しかし…
「それでも…やるだろ?」
師範の泣き言は言わせないとばかりの視線がこちらに向けられる。
私はいつもこの目に、迷いのない心に救われてきた。
その目を見て一度頷いた後、私はそばに置いていた自分の日輪刀に手を伸ばした。それを膝の上に置き両手で持つ。
ーーーその刀に誓え
初めてこの刀を手にした時の師範の言葉が蘇った。
そうだ。
師範の言う通り、どんなに無謀で険しい道だろうと立ち止まることは出来ない。
「…この刀に、もう一度誓わせてください」
刀を鞘から抜き、登り始めた朝日にその刃を照らした。
朝日は私の花緑青色の刃を優しく照らし、それを師範と2人見つめた。
この刀を折りはしないと誓ったあの日と同じように。
まだ雨の匂いがする風がその中を吹き抜けた。
「では…早速。まずは巻物を糊で貼り合わせてみます」
「あァ?!それ本当にやんのかい…」
そうと決めればと、すぐさま刀を鞘に納め、私は洗濯場に置いてあった洗濯糊を取りに行くため立ち上がった。
後ろで師範はまた呆れたような溜息をついている。
私もそんな事で巻物が元に戻るとは思っていないが、念のためやっておかないと気が済まないし、持ち歩くのに破れた状態は色々と不便だ。
呆れる師範を見なかったことにして糊を探しに行く。
そして先程と同じ表情のまま縁側に座っている師範のもとに戻った。
持ってきた糊を、納屋に置いてあった刷毛でペタペタと塗りだした。そして師範に下手くそとか張り合わせた巻物が斜めだとか散々言われながら作業をしている最中だった。
「おや、思っていた状況とは違って何やら楽しそうですね」
「!」
初めて聞く声だった。何より気配がしなかったので驚いた。声のした方に視線を向けると庭の桜の木に一羽の鴉がとまっていた。
「あれは…っ」
師範が驚いたような声を上げたかと思ったらすぐにその場に跪いて頭を下げた。慌てて私も同じように跪いた。
師範が小声で「お館様の鎹鴉だ」と呟いた。なるほど。道理で他の鴉たちとは雰囲気が違う。
「どうか私にそのように畏まらないでください。産屋敷耀哉より伝言を伝えに参りました」
そう言うとお館様の鎹鴉は私たちのいる縁側に降りたった。私たちに気を使わせないようにであろうか、その場にゆったりと沈みこむように座られた。
鴉の表情はわからないが…心なしかそこにお館様が微笑んでるように見えてくるので不思議だ。
お言葉に甘えて私たちは立てていた片膝を戻しそこに正座した。
「風柱、不死川実弥。それに名前。これより産屋敷邸に参られよ。大切なお話があります」
「え?」
大切な話、という言葉に些か緊張が走った。
このタイミングで大切な話とは良い話か、悪い話か…。しかもお館様は最近は病の進行から体調が優れず、なかなか柱でもお会いすることができなくなっていると聞いていた。それをわざわざ直接話したいこととは一体なんであろうか…。
思わず師範の顔をチラリと横目で盗み見たが、師範も怪訝そうな顔をしてお館様の鎹鴉の方を見ていた。
「私は先に当主の元へ戻ります。ゆっくり支度をしてから参られよ」
再び視線を戻すと既に縁側から飛び立とうと翼を広げていた。彼は飛び立つ前に、まだ広げたままにした張り合わせたばかりの巻物をチラリと見た気がした。