夜の淵に咲く
名前変換
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特に怪我もなかった名前は誰にも何も告げずに蝶屋敷を発った。
これには治療に当たっていたしのぶやカナエ、見舞いに来てからその事実を知った不死川も驚いた。あの真面目な弟子が何も告げずに勝手な行動をとったのは初めてだった。何より風柱邸に戻ったわけでもなかったため行き先がわからなかった。
「あのやろォ…!」
嫌でも最悪の想像をしてしまう。
彼女は希望を失ったと絶望し、自らその命を断ってやしまうのではないかと。
目を離すべきではなかったと不死川は後悔した。
しばらくそっとしておいてやろうと思っていたなんて都合の良い言い訳だ。いつも通り気丈に振る舞う名前を見るのが耐えられなかった。弟子の一大事に何もしてやれない自分に嫌気が差して側にいてやれなかった。
「あの…」
「あぁ!?」
名前をひとまず探しに行こうと蝶屋敷を出ようとしていたところ、不死川は後ろから誰かに声をかけられた。
「てめぇは…」
「お久しぶりです。不死川さん。竈門炭治郎です」
不死川が聞いた話ではこの少年はまだ動いていい状態ではないはずだった。
実際体には包帯があちこち巻かれ、顔色も優れない。
「…てめぇと話すことなんかねェ!さっさと失せろォ」
「あの女性の隊士の方…名前さんが不死川さんのお弟子さんだと伺いました」
構わず話し出した炭治郎に小さく舌打ちをしそうになったが、その手の中から現れたものを見て押し黙った。
「これを返したくて」
炭治郎はそう言って風呂敷に包まれたそれを広げて、不死川に見せた。
そこには破られた巻物が入っていた。
不死川にとっては見覚えがありすぎた。
彼女がそれこそ命より大切にしていた物だ。
「あの人…これを破る時、迷いと一緒にとても苦しそうな匂いがしました。こっちまで叫び出したくなるような、息ができなくなりそうな…とても大切なものだったんですよね?」
そして直接返したかったがすでにベッドがもぬけの殻だったと不死川に告げた。
「…あの人に渡してもらえませんか?」
不死川は炭治郎が話している間、彼女が縁側に腰掛けて巻物を見つめる姿をずっと思い出していた。
その手は自然と巻物に伸び、それを受け取った。
「僕もお礼が言いたいんです。どうか連れ帰ってきてくださいね」
何故だか全ての事情を知っているような目で見られて不死川は居心地が悪くなった。もちろん何も知るはずはないのに。
「てめぇには関係ねェんだよ」
そう捨て台詞を吐いて早々に屋敷を後にした。
「不死川さん…彼女を助けてあげて下さい。きっと…このままでは…」
不死川が去ったあと、その場に1人呟く声が小さく響いた。