夜の淵に咲く
名前変換
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蟲柱である胡蝶しのぶの屋敷、蝶屋敷。
怪我人や病人を治療させるため鬼殺隊の病院のような役割を担っているここに、昨夜の十二鬼月との戦闘で傷を負った隊士達が運ばれていた。
激しい戦闘を終え、柱である煉獄は左眼を負傷という重傷を負ったが、死者を1人も出す事なく、全員の治療が落ち着き比較的穏やかな午前を各々が過ごしていた。
と、思われたが。
「おい!どこだ!名前はどこにいやがる?!」
「やめてください風柱様!名前さんは軽症です!落ち着いてください!」
ドタドタと廊下を移動する足音と大声で会話する声が聞こえる。
その声を聞いていた名前は自分の名前が呼ばれたようだったのでベッドに横たえていた気怠い体を起こし、近づいてきた足音を迎え入れる準備をしていた。
数秒もしないうちに病室のドアが勢いよく開かれた。
そこには目を血走らせ、額に青筋を浮かべ、明らかに機嫌の悪い不死川の姿と、後ろで困惑と呆れを顔に浮かべたアオイの姿があった。
不死川はすぐさまドカドカと名前の方へ一目散に歩き出した。アオイが後ろで何か言っているが不死川の耳には届かない。名前はこんな焦りと怒りとごちゃまぜになった様子の師範は初めて見る、と他人事のようにそれをボーッと見ている。
「なんでだ!!」
名前の側にくるなり両手でベッドサイドを勢いよく叩きつけた。その振動でベッドの主である名前の体が揺れる。
「なんで破った!!」
△
明け方。もうすぐ朝日が昇るであろう、明るくなってきた空を見上げながら歩く。日の出とは反対側の空から一羽の鴉が羽ばたいてきている。名前の鴉だ、と任務を終えて帰路についていた俺は気づいた。
名前は俺とは別行動の任務を終えた後は必ずこうやって鴉を飛ばして寄越していた。今回も任務完了の報告ともうすぐ屋敷に戻るとの連絡だろうと思われた。
とまりやすいようにと、差し向けた左腕にそいつは降り立った。
「カァァァー!風柱に報告!名前!炎柱!他癸の隊士数名!下弦の壱!上弦の参と遭遇!」
・・・は?こいつは今なんて言った?
名前たちが十二鬼月のうち二体と一度に遭遇したってのか?
一瞬で全身が冷水をかぶったように硬直し、最悪の事態が脳裏に浮かんだ。
「落ち着かれよ!風柱!カァァァ!全員生還!名前は軽症!炎柱と鬼を連れた隊士は重傷だが命に関わるようなことはない!」
蝶屋敷に今頃運ばれているということだった。煉獄は左眼を負傷したものの、例の小僧も命に別状は無いとのことだった。
ハッと、息を吐いた。とたんに身体の緊張が落ちる。
きっと煉獄が窮地をなんとか切り抜けてくれたのだろう。
とにかく様子を見に蝶屋敷に向かおうとするが、左腕に乗った名前の鴉がいまだにそこから飛び立とうとせずに俺を見ている。
「あ?なんだァ、まだ何かあんのかよ?」
普段は生意気でうるさいこいつにしては珍しい態度だった。
何か迷っている様子だったが、俺は話せと催促した。
そして鴉の言葉に、俺は再び全身に冷水を浴びることになる。
「名前ガ・・巻物を破った・・・」
鴉から話を聞くと俺は蝶屋敷にすぐさま駆け出した。道中走りながら同じことを何度も何度も考えては行き場のない怒りやら焦りが胸の中を渦巻く。
なんで、なんでだ。
絶対に諦めねぇんじゃなかったのかよ。
恋人のもとに必ず帰ると、何があっても帰ると、その刀に誓ったんじゃなかったのか。
ーーー師範、私は誓いを・・・この刀を絶対に折りはしません。
ある日の、花緑青色に輝く日輪刀を天に向かって掲げている名前を思い出した。
太陽の光を刀が反射して、名前の顔に花緑青色の花が咲いた。
その時のお前の横顔は…本当に綺麗だった。
お前がどれほど恋人のそばにいたかったか、そいつの無事を確かめたくても駆け付けれず、いつか帰れる保証もなくて、どんなに叫びたい気持ちだったかわからないわけじゃねぇ。
普段は表情に出さないお前が、そいつのことを想うときには確かな人間らしい感情を持っていると感じた。
唯一の繋がりである巻物を大切そうに、肌身離さず常に持ち歩いてるのも知っていた。
それなのに、
「仕方なかったのです。あのまま炎柱様が上弦の頸を切ることもできたかもしれませんが、もしそれができなかったとき、あの場にいた私と癸の隊士たちだけでは抑えきれませんでした」
お前はいつもの落ち着いた様子で淡々と言葉を紡ぐ。わかってる。お前は冷酷な忍びを装ってるが、目の前で散りそうな仲間の命を放っておけるような人間じゃねぇのも。
それなのに、
「・・・むしろ私が巻物を破るのを躊躇っていたせいで、炎柱様に重傷を負わせてしまいました…」
なんでそんなにいつも通りでいられる。
確かに、名前がとった行動は正しかった。
相手は上弦の参だ。こいつが戦わなければ煉獄は左眼だけでは済まなかったかもしれねぇ。最悪全滅なんてこともあった。
それなのに、
俺はどうしたって叫ばずにはいられなかった。お前が恋人を想って刀を振り、鬼の首を切り続け、そしてその唯一の希望を見つめる姿を見てきたんだ。
------------なんで、破っちまったんだよ。
俺がこうやって怒鳴ったって仕方ねぇのもわかってる。本当はお前が1番叫びたいはずだろ。帰り道を失って・・・
俺はただ名前の顔を見れずに拳を握り込んでいた。
怪我人や病人を治療させるため鬼殺隊の病院のような役割を担っているここに、昨夜の十二鬼月との戦闘で傷を負った隊士達が運ばれていた。
激しい戦闘を終え、柱である煉獄は左眼を負傷という重傷を負ったが、死者を1人も出す事なく、全員の治療が落ち着き比較的穏やかな午前を各々が過ごしていた。
と、思われたが。
「おい!どこだ!名前はどこにいやがる?!」
「やめてください風柱様!名前さんは軽症です!落ち着いてください!」
ドタドタと廊下を移動する足音と大声で会話する声が聞こえる。
その声を聞いていた名前は自分の名前が呼ばれたようだったのでベッドに横たえていた気怠い体を起こし、近づいてきた足音を迎え入れる準備をしていた。
数秒もしないうちに病室のドアが勢いよく開かれた。
そこには目を血走らせ、額に青筋を浮かべ、明らかに機嫌の悪い不死川の姿と、後ろで困惑と呆れを顔に浮かべたアオイの姿があった。
不死川はすぐさまドカドカと名前の方へ一目散に歩き出した。アオイが後ろで何か言っているが不死川の耳には届かない。名前はこんな焦りと怒りとごちゃまぜになった様子の師範は初めて見る、と他人事のようにそれをボーッと見ている。
「なんでだ!!」
名前の側にくるなり両手でベッドサイドを勢いよく叩きつけた。その振動でベッドの主である名前の体が揺れる。
「なんで破った!!」
△
明け方。もうすぐ朝日が昇るであろう、明るくなってきた空を見上げながら歩く。日の出とは反対側の空から一羽の鴉が羽ばたいてきている。名前の鴉だ、と任務を終えて帰路についていた俺は気づいた。
名前は俺とは別行動の任務を終えた後は必ずこうやって鴉を飛ばして寄越していた。今回も任務完了の報告ともうすぐ屋敷に戻るとの連絡だろうと思われた。
とまりやすいようにと、差し向けた左腕にそいつは降り立った。
「カァァァー!風柱に報告!名前!炎柱!他癸の隊士数名!下弦の壱!上弦の参と遭遇!」
・・・は?こいつは今なんて言った?
名前たちが十二鬼月のうち二体と一度に遭遇したってのか?
一瞬で全身が冷水をかぶったように硬直し、最悪の事態が脳裏に浮かんだ。
「落ち着かれよ!風柱!カァァァ!全員生還!名前は軽症!炎柱と鬼を連れた隊士は重傷だが命に関わるようなことはない!」
蝶屋敷に今頃運ばれているということだった。煉獄は左眼を負傷したものの、例の小僧も命に別状は無いとのことだった。
ハッと、息を吐いた。とたんに身体の緊張が落ちる。
きっと煉獄が窮地をなんとか切り抜けてくれたのだろう。
とにかく様子を見に蝶屋敷に向かおうとするが、左腕に乗った名前の鴉がいまだにそこから飛び立とうとせずに俺を見ている。
「あ?なんだァ、まだ何かあんのかよ?」
普段は生意気でうるさいこいつにしては珍しい態度だった。
何か迷っている様子だったが、俺は話せと催促した。
そして鴉の言葉に、俺は再び全身に冷水を浴びることになる。
「名前ガ・・巻物を破った・・・」
鴉から話を聞くと俺は蝶屋敷にすぐさま駆け出した。道中走りながら同じことを何度も何度も考えては行き場のない怒りやら焦りが胸の中を渦巻く。
なんで、なんでだ。
絶対に諦めねぇんじゃなかったのかよ。
恋人のもとに必ず帰ると、何があっても帰ると、その刀に誓ったんじゃなかったのか。
ーーー師範、私は誓いを・・・この刀を絶対に折りはしません。
ある日の、花緑青色に輝く日輪刀を天に向かって掲げている名前を思い出した。
太陽の光を刀が反射して、名前の顔に花緑青色の花が咲いた。
その時のお前の横顔は…本当に綺麗だった。
お前がどれほど恋人のそばにいたかったか、そいつの無事を確かめたくても駆け付けれず、いつか帰れる保証もなくて、どんなに叫びたい気持ちだったかわからないわけじゃねぇ。
普段は表情に出さないお前が、そいつのことを想うときには確かな人間らしい感情を持っていると感じた。
唯一の繋がりである巻物を大切そうに、肌身離さず常に持ち歩いてるのも知っていた。
それなのに、
「仕方なかったのです。あのまま炎柱様が上弦の頸を切ることもできたかもしれませんが、もしそれができなかったとき、あの場にいた私と癸の隊士たちだけでは抑えきれませんでした」
お前はいつもの落ち着いた様子で淡々と言葉を紡ぐ。わかってる。お前は冷酷な忍びを装ってるが、目の前で散りそうな仲間の命を放っておけるような人間じゃねぇのも。
それなのに、
「・・・むしろ私が巻物を破るのを躊躇っていたせいで、炎柱様に重傷を負わせてしまいました…」
なんでそんなにいつも通りでいられる。
確かに、名前がとった行動は正しかった。
相手は上弦の参だ。こいつが戦わなければ煉獄は左眼だけでは済まなかったかもしれねぇ。最悪全滅なんてこともあった。
それなのに、
俺はどうしたって叫ばずにはいられなかった。お前が恋人を想って刀を振り、鬼の首を切り続け、そしてその唯一の希望を見つめる姿を見てきたんだ。
------------なんで、破っちまったんだよ。
俺がこうやって怒鳴ったって仕方ねぇのもわかってる。本当はお前が1番叫びたいはずだろ。帰り道を失って・・・
俺はただ名前の顔を見れずに拳を握り込んでいた。