夜の淵に咲く
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名前の鎹鴉が刀鍛冶の里より、刀が打ち終わったと伝言をもらってきたのは昨夜のことであった。
それから今現在、朝食を片付けつつも名前は落ち着かなかった。
すでに明け方に刀鍛冶が風柱邸を訪ねてきて、刀は届いている。
刀が届けば任務に就いて、鬼を狩る。
戦闘中など、危険を感じる状況下に置かれると集中力が上がり、より多くのチャクラが巻物に流れていくのを感じていた。
それは藤襲山での最終選別の際にも確認済みだ。
「早く鬼を斬らなくては…」
名前は鍛錬の準備のため庭に出るが、今はどうも焦りばかりで集中出来ていなかった。
そうなる名前を見越してなのか、昨晩不死川は任務に発つ前にこう言いつけた。
「刀は俺が帰ってくるまで鞘から抜くことも許さねェ。お前は昼間でも鬼を探しに行きそうだからな」
そう言った師は遠方の任務に発って、まだ帰ってきていなかった。
おそらく帰宅は夕刻になるだろう。
名前は諦めて少し気持ちを落ち着けようと、縁側に腰掛けて巻物を広げて見た。
そこには確かにチャクラを感じるが、それはわずかだった。
「あと、どれだけがんばれば帰れるでしょうか…」
それは考えても仕方がないことはわかっていた。
しかしそうは言っても思考は深い淀みの中に落ちていく。
サソリは無事だろうか?里抜けに手を貸したと誤解されていないだろうか?風影となる道を私のせいで台無しにしたのではないだろうか?
そう考えては堂々巡りをしていた。
そうでなくても危険な任務の多いサソリを近くで守れないのは心配で仕方がなかった。出来るだけ同じ任務につけるようにと副隊長になるまで苦心惨憺、血の滲むような思いをしてきた。
名前はそこでようやく邪念を払うように頭を振った。
そしてもう一つ、深い緑色をした巻物も広げた。
「せめてお前には会えたらよかったのに…」
“風”と書かれた文字を指の先でなぞった。
サソリの作ってくれた一華。少しでもサソリを近くに感じたかった。
「なぁにサボってやがる」
「え!…っ師範!」
名前は慌てて振り返る。後ろからまだしばらく帰ってこないだろうと思っていた人物が立っていた。
「ったく、俺の気配に気づかねぇくらいだから寝てんのかと思ったぜェ」
「ど、どうしたんですか?帰りは夕刻頃かと…」
「お前が指令もきてないのに鬼を探しに行ってんじゃねぇかと思ってよォ」
「流石にそんなことしませんよ。あ、朝食を…」
「まぁ待てよ」
慌てて巻物を片付けようとした名前を不死川は止めた。
そして名前の隣に腰掛け、巻物をみていた。
名前は一体どうしたのだろうとただ不死川の様子を見ていた。
「これ…あとどのくらいでお前は帰れるようになるんだ?」
「え?」
不死川には全てを話したものの、チャクラとか術のことまで信じてくれているとは名前は思っていなかった。だから不死川からこの話題を出されるのは意外だった。
「…わかりません。膨大な量が必要なことは確かですが。沢山戦えばその分早くチャクラを集められると思います。…1年か、5年か、10年か…もしかすると一生を、かけても…」
「……」
最後の方は言うつもりはなかったのに、つい口からこぼれてしまった。
こんな弱気なことを言ったら、この面倒見の良い師も自分を見捨ててしまうだろうか。そう思い、名前は不死川がどんな顔をしているか見れなかった。
「それでも、やるんだろォ」
「…え?」
不死川はその無骨な手で丁寧に巻物を巻き出した。
そして巻き終わるとそれを両手で名前に渡した。
「例えお前の一生がかかろうとも、そこに望みが少しでもあるんなら諦めんじゃねェ」
「…」
名前は顔を上げ、不死川の顔を見た。
そこにはいつもの、本気で手合わせしてくれている時の師の顔があった。
「お前は根性もあるし…俺の、弟子だ。弱音は許さねェ」
その瞳には同情や憐みなどの色はなかった。
名前は彼が自分の話を信じてくれていると確信を持てた。
「…っはい、師範」
名前は、嬉しかった。
自分以外の誰かが本願を果たせと、背中を押してくれるのが。
彼女にとって先の見えない泥中をずっと我武者羅に進むのに、慰めや半端な優しさはいらなかった。もがくのをやめてしまったらもう、沈んでしまう。
弱気になる自分にただ足掻けと、止まるなと、誰かに言って欲しかった。
「ほら、刀届いてんだろ。見せてみろォ」
不死川はフイっと顔を逸らし、頬を掻いた。
刀は言いつけ通り鞘からも抜いていない。担当の刀鍛冶の方は届けてくれた際、名前が刀を抜いて色変わりする瞬間を見たかったようだが、師匠が帰ってくるまでは出来ないと説明した。
穏やかな鍛冶職人であったため、また見にくると言って帰ってくれた。
名前は庭に出て腰の革帯に日輪刀を帯刀した。
たまに刀の色が変わらない隊士も残念ながらいると聞いたことがある。それでも鬼は斬れるが、やはり折れやすく強い鬼には勝てない。
名前は弟子として師である不死川のように、深い緑色を受け継ぎたかった。
名前は柄を掴み、抜刀した。
正眼の構えで刀を見つめる。不死川もその様子をただ黙って見る。
すると刃の色は柄の方から徐々に緑色を帯びていった。
不死川の常盤色の刀よりやや青みがかった色をしていた。
「やっぱり風の呼吸の適性はあったみたいだなァ。そうだな…花緑青色ってところか」
心なしか満足そうな表情をしている不死川をみて、名前は自然と表情が緩んだことが自分でもわかった。
改めてその刀身を眺めた。天に向かって真っ直ぐと切先を伸ばすその刃は美しかった。
「…なァ。名前」
「はい」
名前が再び振り向くと、そこには真剣な表情で、しかし優しい眼差しを向ける不死川がいた。
「その刀に誓え。絶対に諦めねぇと…そいつのところに帰られるまで、鬼を斬り続けると」
冷たい春先の風が2人の間を吹き抜けて行った。
名前は花緑青色に輝く刀を天に向かって掲げる。刀から反射した太陽の光が顔に当たり、目を細めた。
ーー私は諦めない。だから、共に戦ってくれますか?
刀に、問いかけた。
答えるように花緑青の色が一層煌めいた気がした。
「師範、私は誓いを…この刀を絶対に折りはしません」
名前はようやくこの世界にきて初めて息が出来たような気がした。
不死川はただ、その横顔を見ていた。
それから今現在、朝食を片付けつつも名前は落ち着かなかった。
すでに明け方に刀鍛冶が風柱邸を訪ねてきて、刀は届いている。
刀が届けば任務に就いて、鬼を狩る。
戦闘中など、危険を感じる状況下に置かれると集中力が上がり、より多くのチャクラが巻物に流れていくのを感じていた。
それは藤襲山での最終選別の際にも確認済みだ。
「早く鬼を斬らなくては…」
名前は鍛錬の準備のため庭に出るが、今はどうも焦りばかりで集中出来ていなかった。
そうなる名前を見越してなのか、昨晩不死川は任務に発つ前にこう言いつけた。
「刀は俺が帰ってくるまで鞘から抜くことも許さねェ。お前は昼間でも鬼を探しに行きそうだからな」
そう言った師は遠方の任務に発って、まだ帰ってきていなかった。
おそらく帰宅は夕刻になるだろう。
名前は諦めて少し気持ちを落ち着けようと、縁側に腰掛けて巻物を広げて見た。
そこには確かにチャクラを感じるが、それはわずかだった。
「あと、どれだけがんばれば帰れるでしょうか…」
それは考えても仕方がないことはわかっていた。
しかしそうは言っても思考は深い淀みの中に落ちていく。
サソリは無事だろうか?里抜けに手を貸したと誤解されていないだろうか?風影となる道を私のせいで台無しにしたのではないだろうか?
そう考えては堂々巡りをしていた。
そうでなくても危険な任務の多いサソリを近くで守れないのは心配で仕方がなかった。出来るだけ同じ任務につけるようにと副隊長になるまで苦心惨憺、血の滲むような思いをしてきた。
名前はそこでようやく邪念を払うように頭を振った。
そしてもう一つ、深い緑色をした巻物も広げた。
「せめてお前には会えたらよかったのに…」
“風”と書かれた文字を指の先でなぞった。
サソリの作ってくれた一華。少しでもサソリを近くに感じたかった。
「なぁにサボってやがる」
「え!…っ師範!」
名前は慌てて振り返る。後ろからまだしばらく帰ってこないだろうと思っていた人物が立っていた。
「ったく、俺の気配に気づかねぇくらいだから寝てんのかと思ったぜェ」
「ど、どうしたんですか?帰りは夕刻頃かと…」
「お前が指令もきてないのに鬼を探しに行ってんじゃねぇかと思ってよォ」
「流石にそんなことしませんよ。あ、朝食を…」
「まぁ待てよ」
慌てて巻物を片付けようとした名前を不死川は止めた。
そして名前の隣に腰掛け、巻物をみていた。
名前は一体どうしたのだろうとただ不死川の様子を見ていた。
「これ…あとどのくらいでお前は帰れるようになるんだ?」
「え?」
不死川には全てを話したものの、チャクラとか術のことまで信じてくれているとは名前は思っていなかった。だから不死川からこの話題を出されるのは意外だった。
「…わかりません。膨大な量が必要なことは確かですが。沢山戦えばその分早くチャクラを集められると思います。…1年か、5年か、10年か…もしかすると一生を、かけても…」
「……」
最後の方は言うつもりはなかったのに、つい口からこぼれてしまった。
こんな弱気なことを言ったら、この面倒見の良い師も自分を見捨ててしまうだろうか。そう思い、名前は不死川がどんな顔をしているか見れなかった。
「それでも、やるんだろォ」
「…え?」
不死川はその無骨な手で丁寧に巻物を巻き出した。
そして巻き終わるとそれを両手で名前に渡した。
「例えお前の一生がかかろうとも、そこに望みが少しでもあるんなら諦めんじゃねェ」
「…」
名前は顔を上げ、不死川の顔を見た。
そこにはいつもの、本気で手合わせしてくれている時の師の顔があった。
「お前は根性もあるし…俺の、弟子だ。弱音は許さねェ」
その瞳には同情や憐みなどの色はなかった。
名前は彼が自分の話を信じてくれていると確信を持てた。
「…っはい、師範」
名前は、嬉しかった。
自分以外の誰かが本願を果たせと、背中を押してくれるのが。
彼女にとって先の見えない泥中をずっと我武者羅に進むのに、慰めや半端な優しさはいらなかった。もがくのをやめてしまったらもう、沈んでしまう。
弱気になる自分にただ足掻けと、止まるなと、誰かに言って欲しかった。
「ほら、刀届いてんだろ。見せてみろォ」
不死川はフイっと顔を逸らし、頬を掻いた。
刀は言いつけ通り鞘からも抜いていない。担当の刀鍛冶の方は届けてくれた際、名前が刀を抜いて色変わりする瞬間を見たかったようだが、師匠が帰ってくるまでは出来ないと説明した。
穏やかな鍛冶職人であったため、また見にくると言って帰ってくれた。
名前は庭に出て腰の革帯に日輪刀を帯刀した。
たまに刀の色が変わらない隊士も残念ながらいると聞いたことがある。それでも鬼は斬れるが、やはり折れやすく強い鬼には勝てない。
名前は弟子として師である不死川のように、深い緑色を受け継ぎたかった。
名前は柄を掴み、抜刀した。
正眼の構えで刀を見つめる。不死川もその様子をただ黙って見る。
すると刃の色は柄の方から徐々に緑色を帯びていった。
不死川の常盤色の刀よりやや青みがかった色をしていた。
「やっぱり風の呼吸の適性はあったみたいだなァ。そうだな…花緑青色ってところか」
心なしか満足そうな表情をしている不死川をみて、名前は自然と表情が緩んだことが自分でもわかった。
改めてその刀身を眺めた。天に向かって真っ直ぐと切先を伸ばすその刃は美しかった。
「…なァ。名前」
「はい」
名前が再び振り向くと、そこには真剣な表情で、しかし優しい眼差しを向ける不死川がいた。
「その刀に誓え。絶対に諦めねぇと…そいつのところに帰られるまで、鬼を斬り続けると」
冷たい春先の風が2人の間を吹き抜けて行った。
名前は花緑青色に輝く刀を天に向かって掲げる。刀から反射した太陽の光が顔に当たり、目を細めた。
ーー私は諦めない。だから、共に戦ってくれますか?
刀に、問いかけた。
答えるように花緑青の色が一層煌めいた気がした。
「師範、私は誓いを…この刀を絶対に折りはしません」
名前はようやくこの世界にきて初めて息が出来たような気がした。
不死川はただ、その横顔を見ていた。