夜の淵に咲く
名前変換
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名前が最終選別を通過してからすでに2週間が経ったが、未だに名前の日輪刀は届いていなかった。
担当の刀鍛冶が納得ができるまでその鉄を打ち続けるため、届くまでの日数は明確でなかった。
名前は不死川から借りている日輪刀を腰に帯刀して、担当地区の巡回に同行したり、これまで通り鍛錬に励むことで刀が届くその日を待った。
まだ朝日が上りきらない早朝。
肌寒い気温の中、名前は布団から抜け出し、任務から帰ってくる不死川を迎える準備をし出した。
湯を沸かし、朝食の支度をする。
多忙な柱のために隠の者がきて用意してくれることも多々あるが、できるときは弟子として名前が率先して行うことにしていた。
最初の頃は、湯の沸かし方も竈門の使い方もわからなかったため途方に暮れたものだ。
今までどう生きてきたんだと不死川には呆れられたが、根の優しい彼は一から教えた。
竈門の火加減が分からず生煮えの煮物なんかよく出してしまっていたが最近はそれもなくなってきて、やっとまともな食事を出せるようになった。
朝食の支度を終えた頃。
玄関で物音がし、この屋敷の主人が帰宅したことを知らせた。
「師範。任務お疲れ様でございます」
「…」
帰ってきた不死川の姿を見て、すぐ異変に名前は気付いたが見て見ぬ振りをした。
また、彼は自分で自分の体を傷つけたようだった。
今日は左の前腕。
以前にも一度怪我をして帰ってきた不死川をみて名前は驚いた。今まで師が出血にまで至る怪我などしているところを見たことがなかった。傷口や不死川の態度を見てそれが自身で故意につけた傷だとすぐに分かった。
その視線を居心地悪そうにしていた不死川に名前は何も言わなかった。
今回もそうだ。
「どうぞ湯に浸かってきてください。朝餉ももうすぐできますよ」
「…」
酷く疲れているようだ。返事もなくそのまま風呂場の方へフラフラと消えていった。
風呂場に傷に当てる布と包帯くらいは置いておいても良いだろうと、名前はそっと用意をして置いておいた。
不死川の分はお膳の上に置いておき、名前は鍛錬のため屋敷を後にした。
名前は全集中の呼吸常中を会得するため、心肺機能を極限まで高める鍛錬を集中して行なっていた。
今日は険しい山の中を何度も走る。
そして何往復かしたころ、ふと、人の気配がした。どうやら2人いるようだ。
そしてこの気配は知った人間のものだと気がついた。
こんなところで何をしているのか気になった名前は気配のする方へと向かった。
少し進むと、木々がなく開けた場所があった。
その真ん中で2人の女性が何やら足元の草や花を熱心に摘んでいた。
「花柱様、しのぶ様。こんなところでどうされたのですか?」
「きゃっ!びっくりした!名前ちゃんじゃないの!」
「姉さん…柱が気配に気付かないってどうなの?名前、柱合会議ぶりね」
しのぶだって気付いてなかったでしょ?と、カナエの花のような笑顔で言われてしのぶは何も言い返せないようだった。
「何を摘んでいるんですか?」
名前は2人が籠の中に集めていた物を覗き込んだ。
「薬草よ!私たちの屋敷は鬼殺隊の病院みたいな役割を兼ねてるから、こういったものが必要なの」
「私は鬼に効く毒なんかも今研究中だから、いろんな物を採取してるところです」
「しのぶ様、毒を作るんですか」
しのぶの“毒”という単語に思わず反応してしまった。
傀儡に仕込むために薬学、特に毒薬に関してはサソリとチヨ婆様には散々頭に叩き込まされた。
この分野なら自分も役に立てるかもしれないと、名前は手伝いを名乗り出たかったが…やめておいた。
調合に関しては恐ろしい程にセンスがなく、一度危うく調合中に服毒死を遂げるところだった。
サソリに恐ろしい剣幕で怒られたのが懐かしい。
「…」
「名前?どうしたの?」
突然黙ってしまった名前をカナエとしのぶは訝しんだ。
悟られないよう名前は何でもないことのように話し出した。
「忍里にいたころにもらった毒があるんです。初めて鬼と戦ったとき使ってはみたのですが、致命傷にはなりませんでした」
そう言って自身の荷物から頬紅入れのような、小さな丸い陶磁器でできた容器を取り出した。
「それは!大変興味深いですね!使ってみたとき鬼はどんな様子でしたか?」
しのぶが名前に顔をずいっと近づけて詰め寄った。
「傷から腐敗は見られましたよ。ですが鬼にとってはどうってことなかったようです。よろしければしのぶ様に差し上げます。お役に立てるかはわかりませんが」
しのぶは礼を言い、目を輝かせてそれを受け取った。
それを見ていたカナエが今度は籠から小さな小瓶を取り出した。
「名前ちゃん、よかったらその毒と交換でこの塗り薬持っていって!」
カナエが言うにはそれは止血後の傷に塗ると良いとのことだった。名前にはすぐに今朝傷を負って帰ってきた我が師の顔が浮かんだ。
カナエがその思考に気付いたかのようなタイミングで不死川の事を話し出した。
「不死川君、たまに怪我してるみたいなんだけど全然蝶屋敷に来てくれないのよね。名前ちゃんからも体を労わるように言ってあげて!」
薬瓶を名前の掌に乗せ、そのままカナエは手を握った。
そう言ったところであの師匠は変わらないだろうとも思ったが、そのカナエの慈愛に満ちた瞳を見たら自然と頷いていた。
「言ってみます。このお薬も、早速使わせていただきます」
「ありがとう。彼無茶ばかりしてそうだから、よく見ていてあげて?」
カナエは微笑んだ。
その顔をみて、まるで春のような人だと、名前は思った。
△
名前が鍛錬から風柱邸に戻ってきたのは空が夕暮れの赤に染まり始めた頃だった。
名前はそのまま夕餉の支度をしようと厨に入った。
そこには不死川の姿があった。
「あ?お前ェ、随分と道草食ってたみてぇだなァ」
「師範。すみません今夕餉の用意を致しますね」
不死川は今夜は任務もないため、帰りがいつもより遅い弟子の代りに何か用意しようかと思案していたところだった。
名前は隊服の上着を脱ごうとして、ポケットに入っている薬瓶の重さを感じた。同時にカナエの優しい、しかし少し悲しそうな笑顔を思い出した。
「その前に…師範」
「あ?」
「腕の怪我、手当てさせてくれませんか?」
「はっ、こんなもん大したことないねェんだよォ」
「私の世界の薬が効くか試したいだけです。生憎私は怪我をなかなかしませんので」
不死川は嫌味とも取れるその言葉に名前を睨みつけたが、それが嘘だとすぐに気付いた。
名前の手にあるのは以前花柱と合同任務だった際に見たことがあるものだったからだ。
弟子に嘘までつかせてしまったことに何だか情けない気持ちになった不死川は大人しく言うことを聞いた。
縁側に2人で腰掛け、止血して布を当てただけだった傷に消毒とカナエからもらった薬を塗った。
そんな慣れた手つきの名前を見ながら不死川は尋ねた。
「胡蝶になんて言われた」
その言葉に、先程の嘘はバレていたのだと名前は悟った。
「手当てにこない師範をとても心配しておられました」
「そうかよォ」
「何故、行かれないのですか?御自身を傷つけるのと何か関係があるのですか?」
「…お前はそうゆう詮索はしない奴だと思ってたがなァ」
「そのつもりでしたが、花柱様と師範を労わるようにと約束いたしましたので」
「…」
名前は今度は包帯を巻いていく。
不死川は理由を隠したいわけではない。
ただ、我が身を売ってでも鬼を殲滅せんとするこの憎悪、それはもう執着心とも言えるものを理解してもらおうとまで思わなかったからだ。
不死川は稀血の中でもさらに稀少な稀血で、時に鬼を誘き出すため、はたまた酩酊させその隙に首を落としたりするため、自身で傷を作っていた。
蝶屋敷で初めてその事情を知った花柱には、怒られるでも呆れられるでもなく、ただ静かに泣かれた。
「もう無茶はしないで…」
優しい奴だと思った。不死川はそれでもやめることはできない。鬼を確実に殺すためなら何だってする。
だから優しい彼女を泣かせないよう蝶屋敷には行かなかった。
「師範にとって、それがどうしても必要なことならば私は止めません」
不死川は名前を見た。
その目に宿る、自分と同じ執着心を。
「私も…もう一度会えるのなら何だっていたします」
ーーあぁ、そうだった。
不死川は気付いた。
こいつはすでに、そのために故郷を1人で敵に回したのだと。
小さく息を吐くと、そのまま口からは素直な言葉が溢れた。
「…俺は稀血だ。この血目当てで鬼が寄ってくる。俺は何としても鬼を殲滅する。たとえ全身の血が無くなろうとな」
「はい。師範」
名前は不死川のこの目をよく知っているた。仲間、家族を殺された者。敵味方関係なく見てきた。
それは逃れようとすればするほど絡みつく呪い。
名前は手当てした不死川の左腕にそっと手を当てた。
「しかし花柱様とのお約束も反故にできません」
「あ?」
「師範の傷はもう増やしませんよ。その分私が鬼を切りますから」
それに鬼の気配も探るのはその辺の隊士よりうまいと思いますよ。そう続けて名前は口角を上げた。
初めて見るその表情は、日の沈んだ薄明の空の下で、より一層儚くも美しかった。
解けぬ呪いならせめて、一緒にこの夜を切り裂いていきたいと願った。
「私たちに訪れる夜はあまりに孤独ですから」
担当の刀鍛冶が納得ができるまでその鉄を打ち続けるため、届くまでの日数は明確でなかった。
名前は不死川から借りている日輪刀を腰に帯刀して、担当地区の巡回に同行したり、これまで通り鍛錬に励むことで刀が届くその日を待った。
まだ朝日が上りきらない早朝。
肌寒い気温の中、名前は布団から抜け出し、任務から帰ってくる不死川を迎える準備をし出した。
湯を沸かし、朝食の支度をする。
多忙な柱のために隠の者がきて用意してくれることも多々あるが、できるときは弟子として名前が率先して行うことにしていた。
最初の頃は、湯の沸かし方も竈門の使い方もわからなかったため途方に暮れたものだ。
今までどう生きてきたんだと不死川には呆れられたが、根の優しい彼は一から教えた。
竈門の火加減が分からず生煮えの煮物なんかよく出してしまっていたが最近はそれもなくなってきて、やっとまともな食事を出せるようになった。
朝食の支度を終えた頃。
玄関で物音がし、この屋敷の主人が帰宅したことを知らせた。
「師範。任務お疲れ様でございます」
「…」
帰ってきた不死川の姿を見て、すぐ異変に名前は気付いたが見て見ぬ振りをした。
また、彼は自分で自分の体を傷つけたようだった。
今日は左の前腕。
以前にも一度怪我をして帰ってきた不死川をみて名前は驚いた。今まで師が出血にまで至る怪我などしているところを見たことがなかった。傷口や不死川の態度を見てそれが自身で故意につけた傷だとすぐに分かった。
その視線を居心地悪そうにしていた不死川に名前は何も言わなかった。
今回もそうだ。
「どうぞ湯に浸かってきてください。朝餉ももうすぐできますよ」
「…」
酷く疲れているようだ。返事もなくそのまま風呂場の方へフラフラと消えていった。
風呂場に傷に当てる布と包帯くらいは置いておいても良いだろうと、名前はそっと用意をして置いておいた。
不死川の分はお膳の上に置いておき、名前は鍛錬のため屋敷を後にした。
名前は全集中の呼吸常中を会得するため、心肺機能を極限まで高める鍛錬を集中して行なっていた。
今日は険しい山の中を何度も走る。
そして何往復かしたころ、ふと、人の気配がした。どうやら2人いるようだ。
そしてこの気配は知った人間のものだと気がついた。
こんなところで何をしているのか気になった名前は気配のする方へと向かった。
少し進むと、木々がなく開けた場所があった。
その真ん中で2人の女性が何やら足元の草や花を熱心に摘んでいた。
「花柱様、しのぶ様。こんなところでどうされたのですか?」
「きゃっ!びっくりした!名前ちゃんじゃないの!」
「姉さん…柱が気配に気付かないってどうなの?名前、柱合会議ぶりね」
しのぶだって気付いてなかったでしょ?と、カナエの花のような笑顔で言われてしのぶは何も言い返せないようだった。
「何を摘んでいるんですか?」
名前は2人が籠の中に集めていた物を覗き込んだ。
「薬草よ!私たちの屋敷は鬼殺隊の病院みたいな役割を兼ねてるから、こういったものが必要なの」
「私は鬼に効く毒なんかも今研究中だから、いろんな物を採取してるところです」
「しのぶ様、毒を作るんですか」
しのぶの“毒”という単語に思わず反応してしまった。
傀儡に仕込むために薬学、特に毒薬に関してはサソリとチヨ婆様には散々頭に叩き込まされた。
この分野なら自分も役に立てるかもしれないと、名前は手伝いを名乗り出たかったが…やめておいた。
調合に関しては恐ろしい程にセンスがなく、一度危うく調合中に服毒死を遂げるところだった。
サソリに恐ろしい剣幕で怒られたのが懐かしい。
「…」
「名前?どうしたの?」
突然黙ってしまった名前をカナエとしのぶは訝しんだ。
悟られないよう名前は何でもないことのように話し出した。
「忍里にいたころにもらった毒があるんです。初めて鬼と戦ったとき使ってはみたのですが、致命傷にはなりませんでした」
そう言って自身の荷物から頬紅入れのような、小さな丸い陶磁器でできた容器を取り出した。
「それは!大変興味深いですね!使ってみたとき鬼はどんな様子でしたか?」
しのぶが名前に顔をずいっと近づけて詰め寄った。
「傷から腐敗は見られましたよ。ですが鬼にとってはどうってことなかったようです。よろしければしのぶ様に差し上げます。お役に立てるかはわかりませんが」
しのぶは礼を言い、目を輝かせてそれを受け取った。
それを見ていたカナエが今度は籠から小さな小瓶を取り出した。
「名前ちゃん、よかったらその毒と交換でこの塗り薬持っていって!」
カナエが言うにはそれは止血後の傷に塗ると良いとのことだった。名前にはすぐに今朝傷を負って帰ってきた我が師の顔が浮かんだ。
カナエがその思考に気付いたかのようなタイミングで不死川の事を話し出した。
「不死川君、たまに怪我してるみたいなんだけど全然蝶屋敷に来てくれないのよね。名前ちゃんからも体を労わるように言ってあげて!」
薬瓶を名前の掌に乗せ、そのままカナエは手を握った。
そう言ったところであの師匠は変わらないだろうとも思ったが、そのカナエの慈愛に満ちた瞳を見たら自然と頷いていた。
「言ってみます。このお薬も、早速使わせていただきます」
「ありがとう。彼無茶ばかりしてそうだから、よく見ていてあげて?」
カナエは微笑んだ。
その顔をみて、まるで春のような人だと、名前は思った。
△
名前が鍛錬から風柱邸に戻ってきたのは空が夕暮れの赤に染まり始めた頃だった。
名前はそのまま夕餉の支度をしようと厨に入った。
そこには不死川の姿があった。
「あ?お前ェ、随分と道草食ってたみてぇだなァ」
「師範。すみません今夕餉の用意を致しますね」
不死川は今夜は任務もないため、帰りがいつもより遅い弟子の代りに何か用意しようかと思案していたところだった。
名前は隊服の上着を脱ごうとして、ポケットに入っている薬瓶の重さを感じた。同時にカナエの優しい、しかし少し悲しそうな笑顔を思い出した。
「その前に…師範」
「あ?」
「腕の怪我、手当てさせてくれませんか?」
「はっ、こんなもん大したことないねェんだよォ」
「私の世界の薬が効くか試したいだけです。生憎私は怪我をなかなかしませんので」
不死川は嫌味とも取れるその言葉に名前を睨みつけたが、それが嘘だとすぐに気付いた。
名前の手にあるのは以前花柱と合同任務だった際に見たことがあるものだったからだ。
弟子に嘘までつかせてしまったことに何だか情けない気持ちになった不死川は大人しく言うことを聞いた。
縁側に2人で腰掛け、止血して布を当てただけだった傷に消毒とカナエからもらった薬を塗った。
そんな慣れた手つきの名前を見ながら不死川は尋ねた。
「胡蝶になんて言われた」
その言葉に、先程の嘘はバレていたのだと名前は悟った。
「手当てにこない師範をとても心配しておられました」
「そうかよォ」
「何故、行かれないのですか?御自身を傷つけるのと何か関係があるのですか?」
「…お前はそうゆう詮索はしない奴だと思ってたがなァ」
「そのつもりでしたが、花柱様と師範を労わるようにと約束いたしましたので」
「…」
名前は今度は包帯を巻いていく。
不死川は理由を隠したいわけではない。
ただ、我が身を売ってでも鬼を殲滅せんとするこの憎悪、それはもう執着心とも言えるものを理解してもらおうとまで思わなかったからだ。
不死川は稀血の中でもさらに稀少な稀血で、時に鬼を誘き出すため、はたまた酩酊させその隙に首を落としたりするため、自身で傷を作っていた。
蝶屋敷で初めてその事情を知った花柱には、怒られるでも呆れられるでもなく、ただ静かに泣かれた。
「もう無茶はしないで…」
優しい奴だと思った。不死川はそれでもやめることはできない。鬼を確実に殺すためなら何だってする。
だから優しい彼女を泣かせないよう蝶屋敷には行かなかった。
「師範にとって、それがどうしても必要なことならば私は止めません」
不死川は名前を見た。
その目に宿る、自分と同じ執着心を。
「私も…もう一度会えるのなら何だっていたします」
ーーあぁ、そうだった。
不死川は気付いた。
こいつはすでに、そのために故郷を1人で敵に回したのだと。
小さく息を吐くと、そのまま口からは素直な言葉が溢れた。
「…俺は稀血だ。この血目当てで鬼が寄ってくる。俺は何としても鬼を殲滅する。たとえ全身の血が無くなろうとな」
「はい。師範」
名前は不死川のこの目をよく知っているた。仲間、家族を殺された者。敵味方関係なく見てきた。
それは逃れようとすればするほど絡みつく呪い。
名前は手当てした不死川の左腕にそっと手を当てた。
「しかし花柱様とのお約束も反故にできません」
「あ?」
「師範の傷はもう増やしませんよ。その分私が鬼を切りますから」
それに鬼の気配も探るのはその辺の隊士よりうまいと思いますよ。そう続けて名前は口角を上げた。
初めて見るその表情は、日の沈んだ薄明の空の下で、より一層儚くも美しかった。
解けぬ呪いならせめて、一緒にこの夜を切り裂いていきたいと願った。
「私たちに訪れる夜はあまりに孤独ですから」