夜の淵に咲く
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「初めまして、風柱の弟子で名前と申します。先日最終選別を通過して鬼殺隊士になったばかりですので、色々とご教授いただければ幸いです」
名前はすぐに継子である2人に挨拶をした。
「きゃー!すっごく綺麗な子!私、甘露寺蜜璃!炎柱の継子なの!」
「私は花柱胡蝶カナエの継子で、胡蝶しのぶと申します。花柱とは姉妹です。どうぞよろしくお願い致しますね」
2人ともあの気性の荒そうな不死川の弟子だというのでどんな猛者かと思っていたが…
容姿端麗、花がそこに咲いているかのような美しい所作で挨拶する名前に少し驚きつつ挨拶を交わした。
「よろしくお願い致します。甘露寺様、胡蝶様」
「しのぶで結構ですよ。胡蝶だと姉と区別するのがややこしいので」
「私も!蜜璃って呼んでね!年も近そうだし!仲良くしましょう!」
それから柱合会議が終わる頃まで、まだ任務についたことがないと言う名前に2人はいろんな話をした。
名前は同年代の少女からこのように友好的に接してもらった経験が少なかったので、何だかむず痒いような、何とも言えない気持ちになった。
里では常に敵の国の生まれであることで警戒され、サソリの隣に立てば嫉妬や妬みの対象になったこともあった。
しかし鬼を切る理由はそれぞれ違えど、同じ志の人間として迎え入れてもらえたようで名前には今までにない、言葉にはできないが、少しだけ心拍が早くなるような気持ちになったのだ。
△
「不死川!久しいな!息災か?」
「ご機嫌よう。相変わらず蝶屋敷にきてくれませんけど傷を増やしていませんか?」
「うむ…怪我もないようで安心した。南無南無南無…」
不死川が庭園へ向かうとすでに到着していた炎柱、花柱、岩柱に挨拶された。
「おい!不死川!お前ド派手な継子とったみたいじゃねぇか!藤襲山の鬼全滅させたんだって!?」
すぐに大柄で派手に着飾った音柱も現れた。
「宇髄ィ…継子じゃねぇ、弟子だ。あと全滅はさせてねぇ」
その巨体から伸びた太腕ががっしりと肩に回される。不死川はそれを鬱陶しいと引き剥がして答える。
「全く、師弟揃って血の気が多いのか。その勢いで底辺の鬼を捕らえてこい。こっちにまで次回の選別までに鬼を捕らえてこいと指令が来てかなわん。殺す方が容易いのをわざわざ捕らえるなど…全く面倒を増やしてくれる」
「…不死川…弟子をとったのか…」
さっきからいたのだろう、木の上からネチネチと小うるさい蛇柱と、隅で1人佇んでいる水柱がいた。
不死川は2人には無視を決め込んだ。
「お館様の御成です」
その時、白髪を切りそろえた少女に導かれ、産屋敷が現れた。
柱の面々は素早く一列に並びそこに跪き、柱合会議は始まった。
△
「それじゃあ報告は以上だね。みんな本当にお疲れ様。それから先日最終選別を突破して鬼殺隊に入った子が実弥の弟子でね。今日ここに呼んでいるんだ。皆に紹介しておきたいんだけど構わないかな?」
会議も終わりだろうというところで産屋敷は柱の皆に聞いた。
皆も件の弟子が一体どんな人物か気になっていたためすぐさま頷いた。
皆の了解を確認した産屋敷が合図すると、すぐに名前とその後ろに継子であるしのぶ、蜜璃の2人も脇から一緒に庭園にやってきた。
しのぶや蜜璃同様、柱の誰もが予想していなかった美しい容姿の隊士が現れたので皆一瞬呆気にとられた。
「柱の皆様、この場をお借りしてご挨拶させていただきます。風柱の弟子、名前と申します。元忍びで、里抜けをして行く当てがなかったところをお館様と師範に助けていただきました。どうぞお見知り置きを」
その場に跪く所作も無駄がなく美しかった。
一瞬その場が静まったと思ったが、すぐに堰を切ったように各々が話し出した。
「…よもや!不死川の弟子とは思えない!ずいぶんと可憐な女子であるな!!」
「どーゆう意味だァ。煉獄ゥ」
「まー!不死川君のところも女の子のお弟子さんなのね!しのぶとカナヲと蜜璃ちゃんと名前ちゃん…かわいい女の子でいっぱいね!華やかだわー!」
「姉さん!」
「おうおう!お前元忍かよ!俺も元忍だ!この祭りの神が派手に指導してやるぜ!」
「えー!名前ちゃん忍者さんだったの!?道理で不死川さんの修行についていけるわけだわー!」
「おい、貴様もう少し甘露寺から離れろ。近すぎるぞ」
「…不死川…弟子を取ったと言うのは本当だったのだな…」
皆思い思い話し出したので名前は誰の言葉に返事をしてよいかたじろいだ。
産屋敷はそれを微笑ましく見ていた。
しかしその中で1人だけ、表情を険しく押し黙っている者がいるのに気がついた。
「行冥、どうかしたかい?」
「はい」
人並外れたその大柄な体躯をした男、岩柱である悲鳴嶼はそのまま言葉を続けた。
「名前…と言ったな」
皆の喧騒を鎮めるような、静かで、しかし重圧を含んだ声がそこに響いた。その普段と異なった雰囲気の悲鳴嶼を皆が咄嗟に振り返る。
「…はい」
「随分と人を殺めているな」
「「!!」」
悲鳴嶼は盲目である。故に常人には見えぬその人間の業のようなものが見える。
人を殺めている。
その言葉にその場の空気が張り詰めた。
不死川は何か弁論しなくてはと咄嗟に口を開きかけた。しかしその前に宇髄が悲鳴嶼と名前の間に入った。
「悲鳴嶼さんよー、忍びは鬼狩りと違って人間が相手だ」
彼には忍びとして生きることの残酷さ、自分の意思ではその道から逃れることはできないことを身をもって知っていた。
「依頼される任務には暗殺なんてよくある。遂行しなけりゃこいつが殺される。この俺様だってもう綺麗な手じゃねぇ」
「宇髄、この少女はお前の比ではないぞ」
「なんだって?」
こんなまだ10代半ばの少女が?全員の視線が名前に集中した。場を取り持とうとした不死川も悲鳴嶼の言葉にはいささか動揺した。
「…仰る通りです。私は里でも主力の部隊にいました。受けた任務の数も相当です」
「…何故鬼殺隊に入った」
変に間に入る事は返って皆の警戒を煽ると、そう考えた不死川と産屋敷はただ静かに名前に任せることにした。
「私は里にとって邪魔な存在となったので抜忍になりました。しかし里に大切な人を残してきました。鬼殺隊に入ったのは単に行き場所がなかった事と…鬼を多く狩る事でもう一度里に帰ることが出来るからです」
「…よくわからないな。里と鬼とどんな関係がある?」
名前は嘘はついていないが、さらに掘り下げた話までは出来なかった。これ以上は話がややこしくなる。と不死川が思った時だ。
「ごめんね。行冥。名前の事情を全て知った上で鬼殺隊に引き込んだのは私だ。皆の心配事の種にならない事は約束するよ。ただ、名前が里に残してきた人のために多くを語れないのを、どうか許してほしい」
産屋敷の声に空気がわずかに変わったのがわかった。
不死川も名前の横に立った。
「悲鳴嶼さん、俺がこいつを見張る。それにもし、お館様に恩を仇で返すようなことがありゃァ…その前に必ず俺がこいつを斬る」
「!」
「師範…」
皆そんな姿の不死川に驚いた。この中でも特に産屋敷耀哉を敬愛、心酔し、鬼殺の障害になると疑わしきものには容赦のないこの男が、他人の肩を持つなど。
「…そうか、お館様に加え、私同様に懐疑的な不死川がそこまで言うのだ。この少女のことは不死川に任せる」
悲鳴嶼が名前に向き直る。
「そうと決めたのなら私も君を見守るとしよう。岩柱の悲鳴嶼行冥だ」
「ありがとうございます。岩柱様。よろしくお願いします」
それをみて柱の面々もホッと一息つき、各々改めて自己紹介を交わし、今日という日を終えた。
△
「師範…」
「あぁ?」
冬の終わりを告げる暖かさを含んだ風に吹かれながら、不死川と名前は帰路についていた。
「…いえ、さっきはありがとうございました」
「…」
名前は産屋敷の庇い立てにも岩柱が納得しなかったら、どのように説得してよいか判断ができなかった。
全てを話せばそれこそ怪しまれただろう。
「…悲鳴嶼さんはさっきの通り鋭い。だからこそお前に敵意がないのも感じてるはずだァ。…それにお前が言ったんだ」
「え?」
「信用ならなければ、使いもにならなければ自分を斬れと。だからそう言ったまでだァ」
「はい、そうでしたね…」
桜が蕾をつけた花曇りの空の下、2人は帰路を歩いた。
名前はすぐに継子である2人に挨拶をした。
「きゃー!すっごく綺麗な子!私、甘露寺蜜璃!炎柱の継子なの!」
「私は花柱胡蝶カナエの継子で、胡蝶しのぶと申します。花柱とは姉妹です。どうぞよろしくお願い致しますね」
2人ともあの気性の荒そうな不死川の弟子だというのでどんな猛者かと思っていたが…
容姿端麗、花がそこに咲いているかのような美しい所作で挨拶する名前に少し驚きつつ挨拶を交わした。
「よろしくお願い致します。甘露寺様、胡蝶様」
「しのぶで結構ですよ。胡蝶だと姉と区別するのがややこしいので」
「私も!蜜璃って呼んでね!年も近そうだし!仲良くしましょう!」
それから柱合会議が終わる頃まで、まだ任務についたことがないと言う名前に2人はいろんな話をした。
名前は同年代の少女からこのように友好的に接してもらった経験が少なかったので、何だかむず痒いような、何とも言えない気持ちになった。
里では常に敵の国の生まれであることで警戒され、サソリの隣に立てば嫉妬や妬みの対象になったこともあった。
しかし鬼を切る理由はそれぞれ違えど、同じ志の人間として迎え入れてもらえたようで名前には今までにない、言葉にはできないが、少しだけ心拍が早くなるような気持ちになったのだ。
△
「不死川!久しいな!息災か?」
「ご機嫌よう。相変わらず蝶屋敷にきてくれませんけど傷を増やしていませんか?」
「うむ…怪我もないようで安心した。南無南無南無…」
不死川が庭園へ向かうとすでに到着していた炎柱、花柱、岩柱に挨拶された。
「おい!不死川!お前ド派手な継子とったみたいじゃねぇか!藤襲山の鬼全滅させたんだって!?」
すぐに大柄で派手に着飾った音柱も現れた。
「宇髄ィ…継子じゃねぇ、弟子だ。あと全滅はさせてねぇ」
その巨体から伸びた太腕ががっしりと肩に回される。不死川はそれを鬱陶しいと引き剥がして答える。
「全く、師弟揃って血の気が多いのか。その勢いで底辺の鬼を捕らえてこい。こっちにまで次回の選別までに鬼を捕らえてこいと指令が来てかなわん。殺す方が容易いのをわざわざ捕らえるなど…全く面倒を増やしてくれる」
「…不死川…弟子をとったのか…」
さっきからいたのだろう、木の上からネチネチと小うるさい蛇柱と、隅で1人佇んでいる水柱がいた。
不死川は2人には無視を決め込んだ。
「お館様の御成です」
その時、白髪を切りそろえた少女に導かれ、産屋敷が現れた。
柱の面々は素早く一列に並びそこに跪き、柱合会議は始まった。
△
「それじゃあ報告は以上だね。みんな本当にお疲れ様。それから先日最終選別を突破して鬼殺隊に入った子が実弥の弟子でね。今日ここに呼んでいるんだ。皆に紹介しておきたいんだけど構わないかな?」
会議も終わりだろうというところで産屋敷は柱の皆に聞いた。
皆も件の弟子が一体どんな人物か気になっていたためすぐさま頷いた。
皆の了解を確認した産屋敷が合図すると、すぐに名前とその後ろに継子であるしのぶ、蜜璃の2人も脇から一緒に庭園にやってきた。
しのぶや蜜璃同様、柱の誰もが予想していなかった美しい容姿の隊士が現れたので皆一瞬呆気にとられた。
「柱の皆様、この場をお借りしてご挨拶させていただきます。風柱の弟子、名前と申します。元忍びで、里抜けをして行く当てがなかったところをお館様と師範に助けていただきました。どうぞお見知り置きを」
その場に跪く所作も無駄がなく美しかった。
一瞬その場が静まったと思ったが、すぐに堰を切ったように各々が話し出した。
「…よもや!不死川の弟子とは思えない!ずいぶんと可憐な女子であるな!!」
「どーゆう意味だァ。煉獄ゥ」
「まー!不死川君のところも女の子のお弟子さんなのね!しのぶとカナヲと蜜璃ちゃんと名前ちゃん…かわいい女の子でいっぱいね!華やかだわー!」
「姉さん!」
「おうおう!お前元忍かよ!俺も元忍だ!この祭りの神が派手に指導してやるぜ!」
「えー!名前ちゃん忍者さんだったの!?道理で不死川さんの修行についていけるわけだわー!」
「おい、貴様もう少し甘露寺から離れろ。近すぎるぞ」
「…不死川…弟子を取ったと言うのは本当だったのだな…」
皆思い思い話し出したので名前は誰の言葉に返事をしてよいかたじろいだ。
産屋敷はそれを微笑ましく見ていた。
しかしその中で1人だけ、表情を険しく押し黙っている者がいるのに気がついた。
「行冥、どうかしたかい?」
「はい」
人並外れたその大柄な体躯をした男、岩柱である悲鳴嶼はそのまま言葉を続けた。
「名前…と言ったな」
皆の喧騒を鎮めるような、静かで、しかし重圧を含んだ声がそこに響いた。その普段と異なった雰囲気の悲鳴嶼を皆が咄嗟に振り返る。
「…はい」
「随分と人を殺めているな」
「「!!」」
悲鳴嶼は盲目である。故に常人には見えぬその人間の業のようなものが見える。
人を殺めている。
その言葉にその場の空気が張り詰めた。
不死川は何か弁論しなくてはと咄嗟に口を開きかけた。しかしその前に宇髄が悲鳴嶼と名前の間に入った。
「悲鳴嶼さんよー、忍びは鬼狩りと違って人間が相手だ」
彼には忍びとして生きることの残酷さ、自分の意思ではその道から逃れることはできないことを身をもって知っていた。
「依頼される任務には暗殺なんてよくある。遂行しなけりゃこいつが殺される。この俺様だってもう綺麗な手じゃねぇ」
「宇髄、この少女はお前の比ではないぞ」
「なんだって?」
こんなまだ10代半ばの少女が?全員の視線が名前に集中した。場を取り持とうとした不死川も悲鳴嶼の言葉にはいささか動揺した。
「…仰る通りです。私は里でも主力の部隊にいました。受けた任務の数も相当です」
「…何故鬼殺隊に入った」
変に間に入る事は返って皆の警戒を煽ると、そう考えた不死川と産屋敷はただ静かに名前に任せることにした。
「私は里にとって邪魔な存在となったので抜忍になりました。しかし里に大切な人を残してきました。鬼殺隊に入ったのは単に行き場所がなかった事と…鬼を多く狩る事でもう一度里に帰ることが出来るからです」
「…よくわからないな。里と鬼とどんな関係がある?」
名前は嘘はついていないが、さらに掘り下げた話までは出来なかった。これ以上は話がややこしくなる。と不死川が思った時だ。
「ごめんね。行冥。名前の事情を全て知った上で鬼殺隊に引き込んだのは私だ。皆の心配事の種にならない事は約束するよ。ただ、名前が里に残してきた人のために多くを語れないのを、どうか許してほしい」
産屋敷の声に空気がわずかに変わったのがわかった。
不死川も名前の横に立った。
「悲鳴嶼さん、俺がこいつを見張る。それにもし、お館様に恩を仇で返すようなことがありゃァ…その前に必ず俺がこいつを斬る」
「!」
「師範…」
皆そんな姿の不死川に驚いた。この中でも特に産屋敷耀哉を敬愛、心酔し、鬼殺の障害になると疑わしきものには容赦のないこの男が、他人の肩を持つなど。
「…そうか、お館様に加え、私同様に懐疑的な不死川がそこまで言うのだ。この少女のことは不死川に任せる」
悲鳴嶼が名前に向き直る。
「そうと決めたのなら私も君を見守るとしよう。岩柱の悲鳴嶼行冥だ」
「ありがとうございます。岩柱様。よろしくお願いします」
それをみて柱の面々もホッと一息つき、各々改めて自己紹介を交わし、今日という日を終えた。
△
「師範…」
「あぁ?」
冬の終わりを告げる暖かさを含んだ風に吹かれながら、不死川と名前は帰路についていた。
「…いえ、さっきはありがとうございました」
「…」
名前は産屋敷の庇い立てにも岩柱が納得しなかったら、どのように説得してよいか判断ができなかった。
全てを話せばそれこそ怪しまれただろう。
「…悲鳴嶼さんはさっきの通り鋭い。だからこそお前に敵意がないのも感じてるはずだァ。…それにお前が言ったんだ」
「え?」
「信用ならなければ、使いもにならなければ自分を斬れと。だからそう言ったまでだァ」
「はい、そうでしたね…」
桜が蕾をつけた花曇りの空の下、2人は帰路を歩いた。