夜の淵に咲く

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半年に一度、柱全員が産屋敷邸に集まる日がある。
それが今日の、柱合会議であった。

「私も行ってよろしいのですか?」

朝の日差しが屋敷の中を温め出した早朝のこと。朝餉を終え、下膳をしていた名前が尋ねた。視線を向けられた不死川は柱合会議に向かうべく少し離れたところで支度をしていた。

「継子は大抵連れてく、お前は継子じゃねぇから鍛錬でもさせてようと思ってたんだが…お館様から一度連れてこいって文をいただいたァ」

名前の隊服は既に先日支給されたが日輪刀はまだ届いていない。つまり任務まもだ指令がこない状態なので会議に出席する事は問題はない。むしろお館様の図らいでこうして鬼殺隊士になれたのだ。一度挨拶もした方が良いだろう、と不死川は思っていた。

「そうでしたか。私もお館様とあまね様に改めてお礼をお伝えしたいです。師範、是非ご一緒させてください」
「おう、隊服に着替えてこい」

そう自分が言った後、不死川はふと眼鏡をかけた黒子のような出立ちの男の姿が脳裏によぎった。しかし不死川はその隊服を届けに来たのが、その下衆な眼鏡を着けた男でなかったことを確認済みだった。
ふぅと小さく息を吐き、自らも支度を続けた。

名前は返事をした後自室へ向かい、先日裁縫係の隠が届けてくれた隊服を広げた。
最終選別の際に正確に採寸してくれたので今日まで広げたこともなかった。

広げて確認してみると、上着もシャツも普通だが…下衣は皆こうなのだろうか?と、牡丹は首を傾げた。師である不死川とは違いずいぶんと丈が短かった。これでは大腿は大きく曝け出さらてしまうだろう。代わりにとでも言うように一緒に膝上までの長さの黒い靴下が入っていたのでそれも履いた。階級や性別によって違うのかもしれないと深く考えず、支度を終えて待っているだろう不死川のところへ戻った。

「お待たせいたしました」
「…クソがァ、あのメガネェ…‼︎」
「え?」
「戻ったらその服は焼いてあの眼鏡を殺す」
「え?」

何故か酷く機嫌の悪くなった不死川と、これまた何故か殺されそうになっている“眼鏡”という人物を不思議に思いながら、名前はニ度目の来訪を果たすべく産屋敷邸に向かった。



個人的な挨拶をするため、2人は柱合会議の時間よりいくらか早く産屋敷邸を訪ねた。
不死川と名前はいつも柱合会議が行われる庭園へと向かう前に屋敷の中に招かれた。
そこには当主、産屋敷耀哉が待っていた。

「やぁ。実弥、名前。よくきてくれたね。朝からすまなかったね」
「おはようございます。お館様、お礼のご挨拶に伺いたいと思っておりました。文をくださり、ありがとうございます」

不死川と名前は並んで畳の上に手をついた。

「顔を上げておくれ。まずは名前、最終選別の通過おめでとう。怪我もなさそうで安心したよ。実弥も、名前のことをしっかりと導いてくれてありがとう」
「全てはお館様と師範が私の事を受け入れてくださったおかげです。本当にありがとうございます」

産屋敷はいつもの穏やかな表情と声で2人を労い、名前はお礼の言葉を重ねた。

「これからの任務は2人で就いてもらうことが多いと思う。担当地区の巡回もできれば最初は2人で一緒に行ってね」

この国のことをよくわかっていない名前を気遣ってのことだろう。名前だけでは鴉が付いていても不安だと不死川も思っていた。

「感謝いたします。御館様」

不死川も再び頭を下げた。
そんな少し安堵した様子の2人を確認した産屋敷は話を続けた。

「今日は顔を見たかっただけなんだが、ちょうど良い機会だし他の柱の子達にも名前を紹介しよう。継子の子らも来るだろうから会っておくといいよ」
「では、そのようにさせていただきます」

産屋敷と不死川は柱合会議のために庭園の方へ向かっていった。
名前は継子達が会議の間待機している部屋へとあまねに案内してもらっていた。

「あまね様、こうして鬼殺隊に無事入ることができました。得体の知れない私を受け入れてくださったお館様とあまね様には感謝してもしきれません」

屋敷の中を移動中、名前はあまねにも感謝を伝えた。
あまねは隣を歩く名前を優しい眼差しで見つめ、そして視線を外し俯いてしまった。
名前はあまねのその様子を疑問に思いながらも言葉が返ってくるのを待った。

「いいえ、むしろあなたをこの鬼狩りという道に引き込んでしまいましたね。危険な任務にあなたを送り出さなくてはなりません」

名前はあまねも選抜を通過した事を喜んでくれるだろうと思っていたが、意外な言葉にまた改めてこの人は本当に優しい人なのだと感じた。そして自分にはその純粋な優しさがとてももったいないような気持ちにもなった。

「あまね様、私のような者にどうかそのようなお気持ちにならないでください。忍として沢山の命を奪ってきた私には…それにこれは私が望んだことです」

名前は言い終わるとハッとした。あまねは自分を非難するであろうかと一瞬不安になった。鬼から人を守るための鬼殺隊。人殺しを迎え入れてしまった事を後悔していないないだろうか。
しかしあまねは非難するでも、憐むでもなく、ただ名前の頬にその白魚のような手を添えて言った。

名前…どうか気をつけて」
「はい、ありがとうございます。あまね様」

そしてただ純粋に名前の身を案じた。

「貴女が里に帰れる日を祈っています」

名前は俯いた。
あくまで自分の意思を尊重してくれるあまねや当主に、苦しいほどの感謝を感じた。





継子が控えているという部屋まで案内すると、あまねは屋敷の奥へと消えていった。
名前はあまねに感謝を伝え、そして部屋の中に向かって声を掛けた。

「失礼致します」

継子が控えているであろう部屋に断りを入れてから入室した。中には歳も名前に近そうな少女が2人いた。

「あらー?!どなたかしら?!もしかしてあなたが不死川さんのところの…!」
「まぁ、女性だったんですか。不死川さんのところににいられるなんて相当根性のある厳つい男性なんだと思っていました」

1人は桜色と若草色の鮮やかな髪が印象的な可愛らしい少女。
もう1人は艶のある黒髪に蝶の髪飾りを着けている、落ち着いた雰囲気の美少女であった。



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